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【複雑に絡み合う、愛についての物語】本好き美女が、立原正秋『残りの雪』を読む。|文芸女子#3

本が大好きな美女をクローズアップ!2回目の登場となる「あずさ」さんに、立原正秋の名作『残りの雪』を読んでもらいました。彼女が感銘を受けたのはどんなところだったのでしょうか?

本が大好きな美女をピックアップする「文芸女子」のコーナー。
第3回目は、以前にも登場していただき、好評を博した「あずさ」さんが再登場!

どんなに忙しい時でも読書の時間は欠かさない

あずささんの読書熱は高まる一方で、
最近読んで面白かったのは、沼田まほかるの『ユリゴコロ』。

「心理描写が豊かで、臨床心理学を学んでいる私には、たまらない展開でした!」とのこと。

「どんなに忙しい時でも、月に3冊くらいは本を読みます。TVや広告、twitterなどで話題になった作品を中心に、10冊くらいまとめ買いすることもあります。本屋さんはまさに私にとってパラダイス!最高で6時間も居たことがあるんですよ。」
笑顔で読書愛を語るあずささんは、大学を3月に卒業後、大学院への進学が決まっており、新生活への期待に胸を膨らませているところです。

読書の新しい扉を、今回開ける

春休みの今、一見敷居が高く感じていたという作品にもチャレンジすることに。
それが、稀代の流行作家・立原正秋による名作『残りの雪(上)』、『残りの雪(下)』です。

あずささん

「読み始めると、一気に引き込まれました。美しい情景が目に浮かび、鎌倉にも行ってみたいなと思いましたね。今まさにタイムリーな“不倫”がテーマですが、体験したことが無いだけに、すべてが新鮮に映って、ぐんぐん読み進めることができました。女性の視点で描かれている部分が多いので、女性の共感を呼ぶ作品なのではないかなと思います」

そう語ってくれたあずささんの、感想文がこちらです。

立原正秋『残りの雪』を読んで

愛の形ほど、人間によって違うものはないのかもしれない。

人を愛すること、恋愛関係とは、人間の本質を表しているものではないだろうか?

互いの全てを見せ合い、お互いの存在を誰よりも必要とし、周りの人のことよりも、お互いのことを考え続ける、そんな美しい面がある一方、独りよがりだったり、他人を傷つけたり、自制が利かなかったり、個人の嫌な欲が出てくるのも、恋愛ならではだとも思う。

今回の作品は、そんな恋愛とは何か、人の本質を教えてくれるものだった。

物語は、夫が女と駆け落ちしてしまった里子が、子供を連れて鎌倉の実家に戻るところから始まる。実家に続く、午後の空に溶けるように映える桜並木の美しさと、夫に逃げられた苦しみを抱える里子の気持ちのちぐはぐ感が、里子の苦しみを余計に際立たせている。

世間は春一色で、暖かくなっても、皆が皆、暖かい気持ちを抱えていけるわけではない。ということを、改めて教えてくれる場面から、立原正秋の「残りの雪」は始まった。

子供を連れて、生家に戻った里子は、しばらく、何故、夫は出て行ったのか、これからどうやって生きていくのか、そんな事を考えながら、色付く季節に灰色の心を抱えながら過ごす。しかし、梅雨の季節になり、里子は友人、綾江に誘われ、綾江が働く骨董店の田園調布店で店番をすることになる。その中で、里子は、「骨董に目が利くが、骨董を見る目で女を見る」、綾江の昔の男である40代の既婚者の坂西と出会う。

里子と坂西の関係は、世間では決して認められない、所謂、W不倫というものである。しかし、お互い、真剣であり、深くて、情熱的で、狂ったような愛情を持っている。

二人でいる時は、二人っきりの世界で互いを求め合う。頭では、この関係は認められないものであると分かっているのに、心と身体が相手を求めて、関係を断つことができない。そうした深い愛は、まるで、おとぎ話の中の、清廉とした純粋な愛の物語であるかのようだった。ただ一心不乱にお互いの存在を求め合い、認め合う愛は、私に憧れまで抱かせた。そのくらい、里子と坂西の関係は純粋な愛の形に見えた。

※DSC_4253

一方、会社の同僚である千枝と、駆け落ちした里子の夫、工藤は新宿の外れでスナック〈岡山〉を始める。里子と違う、「女としての肉」を持った千枝に母を重ねながら、千枝という女の肉におぼれている工藤と、その周りの女たちは、あまりにも人間臭かった。自分では何も決められず、女を求め、女に流されて生きる工藤は女の庇護欲をそそる。そんな工藤を求めた女たちの元に身を寄せて、そこで女たちが工藤にとって都合の悪い現実を見始めると、また別の女に身を寄せる。自分の見たくない現実から目を背け、女の中に夢をみる工藤を、私はなんと人間臭いのだろうかと思った。

工藤は駄目な人間である。しかし、それだけで終わらすことが出来ない存在だった。工藤は誰の心の中にでもいる「弱さ」の現れであると感じた。それは、いつまでも夢を見ようとする男の中にある弱さだけではなく、千枝や愛子など、工藤と関わる女たちからは、男と一緒に現実と戦おうとする、夢見がちだが、現実に向き合おうと奮闘する女の弱さも同時に存在する。

里子と坂西の、おとぎ話のような恋物語と、工藤とその周りの女たちによる、人間臭い恋愛模様の二つが共存する様は、いびつだが、「世の中には、様々な人間がいて、様々な人生というものがあるのか」と、私は妙に納得させられた。

私が経験したことのない、恋愛観を持っているのは里子や工藤だけではない。里子の父である弘資も、私が知らない愛の形をもっていた。

弘資には、里子の母である、明子という出来た妻がいながら、デザイナーである千代子の元に通い続けることで、日常の生活とまったく違う雰囲気に浸り若さを保っていた。弘資は性欲を、人間の動きを深層から規定している原動力としていた。愛する妻を大切にしながらも、他にも女の人を作ることで人生にめりはりをつける。大人の男の人は器用な生き方と狡賢さを感じた。

また、里子の兄、弘一は、妹を捨て、女と駆け落ちした工藤に腹を立てながらも、そんな工藤に自分を重ね、同情し羨ましくも思っていた。かといって、弘一には、工藤のように何もかも捨てて堕ちることもできず、父、弘資のように器用に生きることも出来なかった。

この「残りの雪」に脇役など存在しない。

里子から始まり、夫の工藤、里子を「女」にした坂西、弘資、弘一、千枝、綾江など、

「残りの雪」に出てくる人物、全員が主人公であり、それぞれの愛の形、そして「肉」としての存在があり、人生を感じた。「残りの雪」には、多くの人の人生が切り取られており、まるで、世界というものを縮小したような作品だと、思った。自分が生きているだけの世界が、世界ではなく、多くの人の人生が複雑に絡み合って、世界というものが構築されていることを、この作品を通じて、改めて強く感じた。

※DSC_4324

編集部より

あずささんの読む、立原正秋の「残りの雪」はいかがでしたか?
あずささんが感銘を受けた、複雑に絡み合う「愛」についての物語。興味深く受け止めていただけたでしょうか。

残りの雪(上)残りの雪(下)の持つ、耽美的・刹那的な世界観は、多くの人を魅了し続けています。

Ž残りの雪(上)書影
Ž残りの雪(下)書影

また、3/11~、立原正秋電子全集第4回の配信がスタート。
詳しくはこちらから

第四回 残りの雪 化粧坂の別れ書影

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