本との偶然の出会いをWEB上でも

幻想文学×電子書籍の可能性を探る-東雅夫の幻妖ブックデジタル

アンソロジストで文芸評論家の東雅夫が解説する、幻想文学と電子書籍の可能性についてのコラム。その幅広いジャンルを、様々な視点で紐解きます。

電子書籍をめぐる言説には、本当かしらん……と首をひねりたくなるものが少なくない。

その最たるものが「紙派」と「電子派」は相容れない、という妙な思い込みだ。

私が専門にしている怪談文芸や幻想文学方面には、紙の本や雑誌に強いこだわりと愛着を持っている読者が多い。

たとえば国書刊行会(いまだ電子書籍とは無縁な会社のひとつ)から発行される1冊1万円を超えるような上製函入りの高額本、それもマルセル・シュオッブとかヴァーノン・リーといった知る人ぞ知る文学者の本を、「高い高い」とぶつぶつ云いながらも嬉々として買い支えているような人たちである(かく申す私も、そのひとりなのだが……)。

先日も「猟奇耽異の文藝専門出版社」を旗印に掲げる藍峯舎という小さな版元が企画した江戸川乱歩自選短篇集『幻想と怪奇』の豪華特装本が、25部限定12万円という価格にもかかわらず、ネット予約開始から10分ほどで完売して話題を呼んだことは記憶に新しい。

それでは、こうした「紙の本」最右翼ともいうべき読者たちが、電子書籍を頑として遠ざけているかといえば……決してそんなことはないと(少なくとも私の周辺を見まわす限りでは)断言できる。

むしろ、紙の本をこよなく愛する結果、室内を日々浸食する蔵書の山に物理的危機感を覚えているような読者こそ、物理的な制約から解放される電子書籍の有難味を痛感しているはずなのだ。少なくとも私自身は、そのように実感して久しい。

また、今は亡きオンライン書店「ビーケーワン」の外部エディターとして仕事をしていたときに感じたことだが、怪奇幻想文学やSF、ミステリーなどジャンル小説系の本好きは、情報の取得や共有にも敏感であり、もともとインターネットをはじめとする電子メディアとは親和性が高かったのである。

私自身のことでいえば、重たい辞書や資料本を大量に抱えて移動していた頃に較べて、ノートパソコンや電子本ビューワーさえあれば、いつでもどこでも検索・参照・執筆ができる現在の状況は、零細文筆編纂業者にとっては至便にして至福の環境といってよい。

また急な調べ物で海外の文献に当たらねばならないときなども、瞬時にしてダウンロードが可能となる電子書籍の有難味というか凄味は痛感させられるところだ。

要するに、装幀装画を愛でたり紙面の手触りを愉しみながら味読し架蔵したい本は「紙」で、専門知識や最新の情報を得ることが主目的の本は「電子」で──ヘヴィな本好きほど、きちんと見極めをつけて、「紙」と「電子」をそれぞれ活用しているように思うのである。

こうした意味合いにおいて、「ペーパーバック&デジタル」を前面に打ち出した、小学館の〈P+D BOOKS〉シリーズは、とても好い着眼だなと思ったし、「絶やすな。昭和文学の火を」というスローガンも、大いに共感できるものだった。著作権の没後70年延長問題も絡んで、昭和とりわけ戦後文学の今後の受容には、予断を許さぬものがあると常々感じていたからである。

そしてラインナップに、澁澤龍彦の『サド復活』や『マルジナリア』が加わっていることにも、思わずニヤリとさせられた次第。最新刊となる『玩物草紙』に至っては、積年の愛読書だけに、我が意を得た思いがした。

ハッと気がつけば、私自身の著書や編纂書も、すでに十指に余る数が電子化されている。

出版不況の昨今、またたく間に絶版の憂き目をみがちな評論書やアンソロジーが、いつでも求める読者の手に届けられるメリットは多大である(収益の問題は、さておき)。

この連載では、怪談や幻想文学、おばけ好き読者の視点から、電子書籍をめぐる最新の話題を取りあげていきたいと思っている。御愛読いただけたら幸甚也。

 

東 雅夫(ひがし・まさお)

phot1

1958年、神奈川県横須賀市生まれ。アンソロジスト、文芸評論家、怪談専門誌「幽」編集顧問。ふるさと怪談トークライブ代表。早稲田大学文学部日本文学科卒。

1982年に研究批評誌「幻想文学」を創刊、2003年の終刊まで21年間にわたり編集長を務めた。近年は各種アンソロジーの企画編纂や、幻想文学・ホラーを中心とする批評、怪談研究などの分野で著述・講演活動を展開中。

2011年、著書『遠野物語と怪談の時代』(角川学芸出版)で、第64回日本推理作家協会賞を受賞した。

評論家として「ホラー・ジャパネスク」や「800字小説」「怪談文芸」などを提唱。NHKテレビ番組「妖しき文豪怪談」「日本怪談百物語」シリーズ等の企画監修や、「幽」怪談文学賞、「幽」怪談実話コンテスト、ビーケーワン怪談大賞、みちのく怪談コンテストなど各種文学賞の選考委員も務める。

著書に『文学の極意は怪談である』(筑摩書房)『なぜ怪談は百年ごとに流行るのか』(学研新書)『百物語の怪談史』(角川ソフィア文庫)ほか、編纂書に『文豪怪談傑作選』(ちくま文庫)『伝奇ノ匣』(学研M文庫)『てのひら怪談』(ポプラ文庫)の各シリーズほかがある。

著者公式サイト「幻妖ブックブログ」
http://blog.livedoor.jp/genyoblog-higashi/

ツイッター
http://twitter.com/kwaidan_yoo

記事一覧
△ 幻想文学×電子書籍の可能性を探る-東雅夫の幻妖ブックデジタル | P+D MAGAZINE TOPへ