池上彰・総理の秘密<15>
北朝鮮が日本海に向けてミサイルを発射。安全保障面はもちろんのこと、世界情勢を取り巻く状況は刻々と進化し、いつ不測の事態が起きるかわかりません。例えばもし、国家元首が暗殺されるようなことがあったら、その国の体制はどのように対応するのでしょうか? 憲法にはどのように定められているのか、また、過去の実例は? 池上彰がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。

総理にもしものことがあったら?
アメリカの大統領が暗殺されるような事態が起きると、副大統領が昇格します。そんな場合も想定して、アメリカでは大統領と副大統領がセットで選挙戦に臨み、副大統領は、「もしものときには大統領になることを国民から支持された」という形式をとります。
では、日本はどうなのでしょうか。内閣法第9条に「内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う」と規定されています。これが「内閣総理大臣臨時代理」(通称「首相臨時代理」)です。
1980年(昭和55)6月、選挙中に大平正芳総理が急死すると、伊東正義官房長官が臨時代理に就任しました。
「予め指定」されていた人がいれば問題にはなりませんが、2000年(平成12)4月、小渕恵三総理が脳梗塞で倒れた際には、臨時代理を指名していませんでした。
このときは青木幹雄官房長官が、「入院中の小渕総理から指名された」として、臨時代理に就任します。小渕総理の後任は森喜朗氏が就任しましたが、意識不明になっていたはずの小渕総理が意思表明できたのかが問題になりました。
このため、森内閣からは、組閣の際に内閣総理大臣臨時代理の就任予定者をあらかじめ順番に5人指定しておくのが慣例となりました。
原則として内閣官房長官が1位ですが、特に「副総理」を置いた場合は、この人が1位になります。
2012年(平成24)12月の第2次安倍晋三内閣発足以降、2017年(平成29)3月現在まで、副総理に指名されているのは麻生太郎氏です。副総理は正規の職名ではないので、現在の首相官邸ウェブサイト閣僚等名簿には、「内閣法第九条の第一順位指定大臣(副総理)」と記載されています。
青木幹雄元内閣官房長官
青木官房長官の臨時代理と森喜朗総理の就任については、数々の疑惑が生じた。小渕前総理が死亡した翌日の2000年5月15日の記者会見では、記者団の追及に苛立(いらだ)ちを見せる場面も。写真/毎日新聞社
池上彰 プロフイール
いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。
(『池上彰と学ぶ日本の総理15』小学館より)

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