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武士に代わって商人が台頭した江戸時代。財政が逼迫した武士は商人を取り込もうとして……。

「奥右筆秘帳」シリーズで「この時代小説がすごい!」09年・14年版で文庫シリーズ第一位を獲得するなど、数多くの賞を受賞してきた上田秀人。新刊『勘定侍 柳生真剣勝負〈一〉 召喚』で描かれる江戸時代の基礎を作ったのは、戦いではなく経済で生きるべきだと、武士の手から刀を外させた商人たち。時代に逆行するように、商人として育ち武士への変転を強いられた主人公は、商人としての経験が稔りを結ぶのでしょうか。著者にお話を伺いました。

 

自著を語る
上田秀人
『勘定侍 柳生真剣勝負〈一〉
召喚』

月刊 本の窓 2020年5月号

 

変転の時代

 時代は繰り返す。あるいは歴史は繰り返すとよく言われる。
 平和は次の戦争までの猶予でしかないといううがった見方もできるという。それだけ人は争いを繰り返してきたのだ。
 一六一五年、大坂夏の陣をもって戦国は終わった。徳川家康が前の天下人豊臣秀吉の遺児秀頼を滅ぼして、名実ともに天下を統一、日本から戦は消えた。
 戦争がなくなると次に来るのは、経済の活性化である。当たり前のことながら、明日殺されるかも知れない、明日家屋敷を焼かれ財産を奪われるかも知れないとの不安がある間は、誰もその日を生きるのに必死で、明日の、一年先の、十年先のことなど考えはしない。明日があるとわかればこそ、人は夢を見る。
 百姓は安心して耕作に励み、職人は使い捨てではない後世に残るものを造り、商人は財をなす。灰燼かいじんと帰した大坂の町は、こうやって復興していった。
 だが、この復興に役立たない者もいた。武士である。戦う者である武士は、基本として破壊者でしかなく、平和になった世に破壊者の居場所はない。
 当然だが、復興、発展にかかわれない武士にその恩恵はなく、経済の活性化から一人取り残されてしまう。
 足りなければ奪えが通用しなくなった武士の財政は逼迫ひっぱく、代わって商人が台頭する。
 そのことに気づいた武士は、商人を取りこもうとする。
『召喚』の主人公かずもその一人であった。戦場という特殊な環境で出会った男女の間に生まれた一夜は、祖父淡海おうみしち右衛もんのもとで一人前の商人となるべく学んでいた。
 不幸だったのは、父が柳生宗矩やぎゅうむねのりだったことだ。徳川家のそうつけとして辣腕らつわんを振るった柳生宗矩は、役目のためにおろそかになっていた藩政を建て直すべく、つかの間の交情で生まれたまま放置していた一夜に目を付けた。
 支配者たる大名という権威、そして実父であるとの事情を盾にした柳生宗矩に逆らえず、一夜は商人から武士への変転を強いられる。
 柳生家の内政を預けられた一夜はその雑さにあきれるが、商人の流儀は武家で通じない。
 出るを抑え、入るを興す。やり方は違っても、財政を再建するのはその一手に尽きる。
 いつでも時代の変わり目は、価値観の逆転を伴う。改革には痛みが伴う。わかっていても、それを受けいれられない者は多い。
 利はわからず、理は通じない。逆らうならば力で押さえつければいいという武士の考えを、一夜はどのようにして変えていくのか。
 ちなみに江戸時代は、世界史にも類を見ない二百五十年という泰平を維持する。その基礎を作ったのは、まちがいなく戦いではなく経済で生きるべきだと、武士の手から刀を外させた者たちである。
 一夜はその一人になれるのか。
 物語は始まったばかりで、作者にも結末は見えていない。
 大坂商人として生きてきた一夜の経験がみのりを結ぶのか、徒労に終わるのか。
 是非、最後まで見守っていただきたい。

 

『勘定侍 柳生真剣勝負〈一〉 
召喚』
上田秀人/著
定価:本体650円+税
小学館・刊 文庫判 304ページ
大好評発売中
ISBN 978-4-09-406743-9

プロフィール

上田秀人(うえだ・ひでと)

一九五九年、大阪府生まれ。大阪歯科大学卒。九七年、第二十回小説CLUB新人賞佳作を、二〇一〇年、『孤闘 立花宗茂』で第十六回中山義秀文学賞を受賞。「奥右筆秘帳」シリーズは、「この時代小説がすごい!」〇九年・一四年版で、文庫シリーズ第一位を獲得、さらに第三回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞も受賞。

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