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発売1週間で重版が決まった『京都深掘りさんぽ』で描かれる、京都を離れて気がついた魅力とは……?

京都で生まれ育ち、京都が題材の著書を多く執筆してきた漫画家のグレゴリ青山。東京に引っ越してきて、「九条ねぎが売っていない」「うどんのおつゆが黒い」など、「普通」と思っていたものが京都独自のものだったのだと気づき、無性にそれらが恋しくなったといいます。

 

自著を語る1
グレゴリ青山
『京都深掘りさんぽ』


月刊 本の窓 2020年9・10月合併号

 

みんな京都好きやなあ

 文庫本『京都深掘りさんぽ』が発売されて一週間で重版した。びっくりした。めちゃくちゃびっくりした。私の出す本ではめったにないことだ。しかもこのご時世にだ。なぜだ。多分、みんな京都が好きだからだ。
 私は京都で生まれ育った。故に京都的なものが身近にありすぎて、それをありがたいと思わず生きてきた。例えば一昨年のこと。実家をワケあって売り払うことになったのだけど、ただのボロ家と思っていた家が実は築百年近くの「京町家」だった。そのおかげで売り出してほどなく買い手がついた。今や古い京町家は大人気なのだ。ちなみに、家を見に来た人は半分ぐらいが中国人だった。ゲストハウスとして京町家を買う人が多いそうだ。でも結局買った人は、住宅用として使う他府県の日本人だった。もしゲストハウスとして買われたら、コロナの影響で今頃、開店休業の建物になっていただろう。
 さて、『京都深掘りさんぽ』には、京おんなの大学教授、伝統工芸ライター、日本の工芸や芸術をこよなく愛するベラルーシ人の女性などが登場する。東寺や二条城など、何度となく行った名所でも、こんなところにこんな迫力ある仏像があったとは、とか、何気なく通り過ぎていた門が、京都の工芸が結集した職人技の見本市だったとは、とか、哲学の道や岡崎周辺にある全然知らなかった工芸品のセンスのいいお店に連れて行ってもらったりとか、いやもう、知らんかった、私、京都で生まれ育って何してたんや、というくらい、知らんかった。
 でも、それは多分、私だけではない(と思う)。京都人はあまり地元の観光地には行かない人が多い。そんな“よそさん”向けの「都のはんなりした香り」にはうとい京都人だけど、日常の京都人は、実は、とても「京都くさい」。それに気づいたのは、私が結婚してしばらく東京に住んだ時だった。
 東京で住んだ街には、「餃子の王将」がなかった。九条ネギが売っていなかった。うどんのおつゆが黒かった。お揚げさんが小さかった。六月になってもづき(和菓子)が売っていなかった。「普通」と思っていたものが東京になく、あれは京都独自のものだったのだと気づき、無性にそれらが恋しくなったのだ。この本では、観光地ではないけれど、実に京都くさいエリア「千本中立売せんぼんなかだちうり周辺」のことも紹介している。このあたりは西陣織が盛んで、かつては「千ブラ」という言葉があったぐらいにぎやかだったそうだ。今はにぎやかではないけど、その名残の空気は残っていて、昔ながらの京寿司ずし、うどん、お好み焼き屋さんが残り、その上で最近は、京町家を利用したカフェや古本屋さんが出来てきて、新しい京都くさい文化が生まれつつあるエリア。
 そしてもうひとエリア、文庫化にあたって新しく取材したのが「五条楽園周辺」。かつて花街だったエリアで、風情あるお茶屋や、モダンなカフェ──お茶屋建築の建物をリノベーションしたお店が出来てきているのだ。何十年も何百年も変わらない街のようでいて、変わるところはめまぐるしく変わる京都。何度でも京都に旅行に来るリピーターさんの気持ちが最近わかるようになってきた私だ。──とはいえ、コロナ。
 コロナのせいで旅行がままならない今日この頃。「京都深掘りさんぽ」が重版したのは、京都に行きたいけど、行けない、なのでこの本でも読んで、京都に行った気持ちになるか、と、手に取った人が多いのかもしれない。みんな、京都好きやなあ、と思う。掘っても掘ってもいろいろ出てくる京都。疫病が流行はやったぐらいで魅力が失われることはないのだ。
 そうそう、ちなみに他府県の人に買われたうちの実家は今やきれいにリフォームされて、かつての京町家風情を取り戻して都のはんなりした香りを漂わせている。か、返して、と、ちょっと思ってしまった。

 


『京都深掘りさんぽ』 
グレゴリ青山/著
定価:本体500円+税
小学館・刊
文庫判 160ページ 
大好評発売中
ISBN 978-4-09-406792-7

プロフィール

グレゴリ青山(ぐれごり・あおやま)

漫画家、イラストレーター。一九六六年京都市生まれ。新撰組で有名な壬生で生まれ育つ。現在は京都府亀岡市在住。『ねうちもん京都』『京都「トカイナカ」暮らし』『薄幸日和』等、京都が題材の著書多数。近著は『グレさんぽ 猫とかキモノとか京都とか』。

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