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【期間限定連載小説 第27回】平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』第三章の弐 旅の徒然(前編)

モノが魂を持って動き出す!怒り狂う怪物、奇跡を起こす妖精。時を超え、姿を変えて現れる不思議の数かずを描く小説群「九十九神曼荼羅シリーズ」。そのうち江戸時代を舞台とした怪奇時代小説が、この「百夜・百鬼夜行帖」です。
紙問屋相模屋作兵衛は誰かが廊下を歩く足音で目覚めた。朝もやの中、庭から出ていく旅姿は、二十年前に死んだはずの父だった。百夜は口寄せを依頼され、相模屋へ向かう…第三章の弐「旅の徒然」前編。

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紙問屋・相模屋に早朝かならず現れて、霞のようにきえる旅装束の男。盲目の美少女修法師・百夜が怪異の謎を解く。九十九神曼荼羅シリーズ内時代劇シリーズ「百夜・百鬼夜行帖」第三章の四は「旅の徒然」。

 
 
 
 

第三章の弐 旅の徒然(前編)1

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 みしりと廊下の板が鳴った。
 作兵衛はその音で目覚めた。
 今年、五十。歳のせいか眠りが浅くなっていた。

 みしり。
 みしり。

 足音は廊下を進む。そして、がたりと微かな音を立てて雨戸が開く。
 紙問屋相模屋作兵衛は布団を抜け出して、障子を細く開ける。
 雨戸が一ヶ所開いていて、外の白々としたれいめいの光が暗い廊下に射し込んでいる。
 廊下から外に出る人影の、しょった裾が見えた。
 作兵衛は寝所を出て、雨戸に近づき、外を見た。
 濃い朝霧が漂っている。
 裏木戸に向かって歩く人影。
 白く霞むそれは、旅装束の男であった。
 股引をはき着物の裾を端折って、振り分け荷物を肩に掛け、笠を被っている。
 心持ち猫背気味のその後ろ姿に見覚えがあった。
「お父っつぁん?」
 旅人は二十年も前にせきに入った父によく似ていた。
 四十代の頃の父であろうか、その歩みは力強い。
 作兵衛の言葉に振り返りもせず、旅人は霧の中に消えた。

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