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【期間限定連載小説 第31回】平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』第三章の四 一弦の奏(前編)

モノが魂を持って動き出す!怒り狂う怪物、奇跡を起こす妖精。時を超え、姿を変えて現れる不思議の数かずを描く小説群「九十九神曼荼羅シリーズ」。そのうち江戸時代を舞台とした怪奇時代小説が、この「百夜・百鬼夜行帖」です。
かねは元深川芸者。呉服商池田屋にかこわれ、千駄ヶ谷の新居に引っ越したばかりだ。夜、かねの耳にどこからともなく湿ったような三味線の音が聞こえる…これも付喪神か?第三章の四「一弦の奏」前編。

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プリント

深川芸者かねが旦那にひかれて越してきた家には、夜な夜な亡霊が弾く三味線の音が響く。盲目の美少女修法師・百夜とお馴染の佐吉コンビの活躍する、九十九神曼荼羅シリーズ内の時代劇シリーズ「百夜・百鬼夜行帖」第三章の五は「一弦のかなで」。

 
 
 
 

第三章の四 一弦の奏(前編)1

プリント

 かねは、はっとして布団の上に身を起こした。
 三味線の音が聞こえた気がしたのだ。
 中秋間近の月が、障子にススキの影を映している。
 耳をそばだてても聞こえるのは虫の声ばかり。
 部屋の中には真新しい畳と木の香りが満ちている。
 千駄ヶ谷に新築された家である。かねと、彼女の身の回りの世話をするおんなきよだけが住んでいる。
 かねは、深川で芸者をしていたが、日本橋北、室町の呉服商池田屋藤兵衛にかこわれた。この家には五日前に引っ越してきたばかりである。
 近くに三味線をつまびく者は住んでいない。
 しかし、夜中の三味の音は五日続いている。
 響きのない、湿った音。
 壊れて雨に濡れた三味の音のように、かねには感じられた。
 ぞくっと寒気が背中を走る。
 ぼうこんだろうか。
 三味をひく亡魂──。女の駆け引きが厳しい世界で生きてきたのであるから、心当たりが無いわけではない。
 誰だろう──。

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 頭の中に、早くに逝った“おねぇさん”たちの顔を思い浮かべた時、
 
 べんっ
 
 と、弦の音が響いた。
 かねは震えた。
 布団の中に潜り込んで体を丸くした。
 得体の知れないモノが部屋に入り込んで、自分を見下ろしている気がした。
 近くの農家の庭先で、一番鶏が鳴くまで、かねは眠ることもできずに布団の中で震えていた。

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