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「ハリー・ポッター」第8作目に注目!アメリカのベストセラーランキングと共に紹介!|ブックレビューfromNY【第10回】

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップ。今回は、世界的な文学作品ともいえる名作『ハリー・ポッター』の第8作目を取り上げ、その魅力について解説します。

新作の快進撃

このコラムは基本的にはフィクションのベストセラーについてレポートしているが、今回はどうしても「ハリー・ポッター」の第8作目“Harry Potter and the Cursed Child”についてレビューしたい。子供向けファンタジーではあるが、世界的な文学作品であることに異論はないと思う。

ご存じだろうが、「ハリー・ポッター」シリーズはイギリスの作家J.K. ローリングによる子供向けファンタジー小説シリーズ。1990年代のイギリスが舞台で、孤児で、母の妹夫婦と従兄にいじめられて育ったハリー・ポッターが11歳の誕生日に自分が魔法使いであることを知り、ホグワーツ魔法魔術学校に入学することになったところから物語は始まる。ハリーは2人の親友、ロン・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーとともに学校生活を送るなかで次第に両親の死の真相を知ることとなった。そして両親を殺害した魔法使いヴォルデモートと自分の不思議な因縁を知り、運命の対決をしていく。1997年6月に第1作目“Harry Potter and the Philosopher’s Stone”「ハリー・ポッターと賢者の石」が発行されて以来、シリーズは《社会現象》と言われるほどの世界的大ベストセラーとなった。2007年にシリーズ第7作目 “Harry Potter and the Deathly Hallows” 「ハリー・ポッターと死の秘宝」で、遂にハリーは宿敵ヴォルデモートを倒し、シリーズは完結した、とされていた。

ところが今年2月10日に作者のJ.K. ローリング はハリー・ポッターの誕生日7月31日に合わせてシリーズ第8作目“Harry Potter and the Cursed Child”「ハリー・ポッターと呪いの子」を出版すると発表して以来、ファンの間では、8作目に対する期待感が高まっていた。ただこの8作目は、今までのシリーズ7作品とは違い、小説ではなく、ロンドンで7月30日から上演される舞台の脚本であると発表された。アメリカの書店は7月31日の出版・発売に向けて販売予約の受け付けを始めた。もちろん、本コラム筆者も早速予約をした。

そして7月31日、2部作の舞台の脚本が入っている「特別リハーサル版」の“Harry Potter and the Cursed Child”が出版された。J.K. ローリング、舞台監督のJohn Tiffany、脚本家のJack Thorneの3人共作のオリジナル・ストーリーに基づいた作品とされ、Jack Thorneが脚本の著者となっている(なぜ脚本ではなくオリジナル・ストーリーのほうを出版しないのか? という素朴な疑問は残るが)。

本コラム著者は発売日7月31日の翌日、書店に行った。驚いたことに予約本は取り置きされていたものの、それ以外はすでに売り切れていて、再入荷を待っている状態だった。

ニューヨーク・タイムズは、アメリカでの出版社Scholasticは初版として450万部を印刷し、出版から48時間で200万部を売ったと報道した。))[2]一方、イギリスのガーディアン紙の記事によれば、イギリスでの出版社Little, Brownは売り出してから最初の3日間で68万部を売り、これは、脚本としては最速の売り上げ記録、本としても過去10年間の最速記録を更新したという。))[3]

[2]「ニューヨークタイズ」、2016年8月4日、B4版
[3]「ガーディアン」紙、2016年8月3日

「呪いの子」の真相が明らかに

ハリー・ポッターが闇の帝王と言われていたヴォルデモートを倒してから19年の歳月が流れた。親友ロン・ウィーズリーの妹ジニーと結婚したハリー(37歳)は3人の子持ち、魔法法執行部の部長になっている。もう1人の親友、ハーマイオニー・グレンジャーは魔法大臣になっていて、夫のロン・ウィーズリーとの間に2人の子供がいる。

ロンドンのキングズ・クロス駅には、ポッター家とウィーズリー・グレンジャー家が子供たちをホグワーツ魔法魔術学校へ見送るために家族が勢ぞろいした。ポッター家の次男アルバス・セブルスとウィーズリー・グレンジャー家の長女ローズは今年から1年生だ。自信満々、希望に燃えているローズに比べ、心配事の絶えないアルバスである。アルバスとローズの乗ったホグワーツ特急には、かつてホグワーツでハリー・ポッターのライバルだったドラコ・マルフォイの息子のスコーピアスも新1年生として乗っていた。マルフォイ家は由緒ある魔法使いの血筋ではあるが、ヴォルデモート側に味方したため、今は不遇をかこっている。おまけにスコーピアスの出生に関し、ドラコの本当の息子ではなくヴォルデモートの隠し子ではないかという噂があるため、列車の中では誰もスコーピアスには近づかなかった。偉大な父親の名声が重くのしかかり、すべてに自信の持てないアルバスと、不遇なマルフォイ家の息子で出生に黒い噂が付きまとって孤立しているスコーピアスはお互いに一目で惹かれあい、親友となった。「組分け帽子」によって、ポッター家としては初めて、グリフィンドール寮ではなくスリザリン寮に組み入れられたアルバスは、スコーピアスと同じ寮になり、2人の友情は深まった。

物語は、ハリー・ポッターとアルバス、父と息子の食い違う心理的葛藤と、アルバスとスコーピアスの、親同士の過去の確執を超えた友情を軸に進む。魔法局が押収した違法な《逆転時計》“Time-Turner”によって、過去の出来事が塗り替えられ、闇の帝王ヴォルデモートが復活する危機を目前にして、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人、そして昔のライバル、ドラコ・マルフォイは協力して、アルバスとスコーピアスを助けるために過去に戻っていった。そして、ヴォルデモートの本当の隠し子の存在も明らかになっていく。

この作品はヴォルデモートがハリー・ポッターによって倒されてから19年後以降の物語だが、《逆転時計》によって登場人物が過去と現在を行き来するなかで、今まで知られていなかった過去のエピソードが明らかになっていく。“完結編”までの7作に夢中になったファン・読者にとって、新たな興味が尽きない作りだ。

ただし、本作は脚本なので小説に比べて読みにくい、といったネット上の不評も出ている。しかし、本コラム筆者は、読み初めは少し違和感があったものの、次第にストーリーに引き込まれていった。ハリー・ポッターのファンを魅了する魔法は、脚本であるこの第8作目にも確かに存在していた。

本コラム読者にも、11月出版予定の日本語版を待ち望むファンは多いはず。
物語の結末と詳細なレビューは、今回は遠慮させていただくのがよいだろう。


佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。
1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。
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