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トランプ当選。今アメリカで一番売れている本は?|ブックレビューfromNY【第12回】

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの12回目。今回は、トランプ当選のタイミングで、ベストセラーに躍り出た、人種差別法廷小説に注目します。

現代アメリカの人種格差社会

18~19世紀のアメリカでは、奴隷制度を含め、人種間格差は明らかに制度上、法律上存在していた。しかし、特に1964年の公民権法制定以降、制度上、法律上の人種差別は消滅した。かといって、アメリカ社会では人種格差・差別がなくなったかというと、そうではないことが、この小説を読むとよくわかる。

日常生活のなかでは、人種格差は気付かずに見過ごされていく。ルースにしてもそうである。ルースは白人が多数を占める環境にいたが、白人との間に目立った問題を経験したことがなかった。学校もドルトン・スクールから始まり、大学、大学院といつも白人学生が多数を占めていた。裕福な白人ばかりの地域に住み、病院でも唯一の黒人看護師だが、同僚の白人看護師や看護師長のマリーから差別されたこともなく、仲良くやってきたと思っていた。

しかし病院内で新生児死亡という異常事態が起きると、この件に関わった複数の関係者(医者や看護師)がいたにもかかわらず、逮捕され裁判にかけられたのは、唯一の黒人であるルースだった。ルースは白人病院関係者と問題があったわけでもなく、誰もが認める優秀で仕事熱心な看護師だった。しかし、スケープ・ゴートが必要になった時、病院は責任をルース1人に押し付けて逃げようとした。同僚の白人たちは一斉に口をつぐみ、ルースに助けの手を差しのべることはなかった。

現代アメリカの人種間格差は、黒人は貧しく教育がなく非行や犯罪に走りがちだ、という単純な偏見で語ることはできない。事実この小説でもルースはイェール大学の修士号を持っているエリートだし、息子のエジソンは白人が大部分を占めるエリート高校で成績優秀な学生だ。ルースの弁護人は白人女性のケネディだが、補佐役の新米弁護士は黒人で、彼はコネティカットの高級住宅地ダリエン出身だ。検事もまた黒人女性だ。オバマ大統領や大統領夫人のミシェルのようなエリート黒人は現実にも増えている。それだけ見れば、人種格差など存在しないがごとくだ。

人種差別主義者ではない白人のケネディは、社会のなかに密かに根を張る人種格差に気付いていなかった。「白人で特権階級的な育ち方をした」作者のジョディ・ピコーはケネディと自分を重ね合わせているのだろう。

ケネディはルースの弁護を引き受けることになり、ルースのことをより深く知り、また一緒に行動をするうちに、ルースが日常的に経験していることを、白人の裕福な家庭に育ったケネディはまったく経験していなかったことに気付いた。例えば、一緒に大型量販店などで買い物をした後、出口でルースだけが警備員から買い物のレシートの提示を要求されるとか、スーパーマーケットではルースだけが警備員に見張られていたことなどだ。当初ケネディは、この裁判に人種問題は関係なく、医療ミスがあったのかどうか、責任が誰にあったのか(病院か、担当した特定のスタッフか)に集中しようとした。しかし、そもそも黒人であるルースを担当から外したことが発端だったので、人種問題に目をつぶって裁判を進めることはできない、という事を身に染みて感じるようになってきた。

裁判で人種問題を前面に出すことは常識的には危険すぎる。裁判員制度のアメリカの法廷では、いろいろな人種、社会背景の裁判員がいるので、人種問題を絡めると裁判の焦点がずれていく危険性があるからだ。しかし、ケネディはルースが黒人であるがゆえに受けた様々な不当な扱いを考慮し、リスクを承知のうえで、裁判の最後にルースが自分の意見を述べる機会を持つこと(その結果、人種問題を前面に出すこと)に最終的に同意した。

案の定、ルースの証言は、プラスの意味でもマイナスの意味でも大きなインパクトを与えることになった……。

そして最終判決は!?

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