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『進撃の巨人』アメリカ版・「北欧神話」を題材にした作品がヒット |ブックレビューfromNY【第16回】

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの16回目。今回は、『進撃の巨人』アメリカ版ともいえる作品をピックアップして紹介します。

ラグナロク(世界の終末)

北欧神話では、ラグナロク(Ragnarok)という世界の終末が予言されている。

ロキのいたずらや計略は次第にエスカレートし、ついに奸計でオーディンの愛する息子バㇽドル(Balder)を異母弟のヘズ(Hod)を使って殺してしまった[8]。ラグナロクが始まる前の最後のエピソード[9]では、神々はついにロキを追い詰めて捕え、地中奥深く洞窟の中に連れて行った。オーディンの義兄弟であるロキを殺すわけにはいかないので、正妻シギュンとの間の2人の息子のうち1人を狼に変身させ、狼になった息子は自分の兄弟を食い殺し、そのまま洞窟から立ち去った。そして食い殺された息子の腸でロキは縛られ洞窟に幽閉された。

予言されているラグナロクがもう起ってしまったのか、まだ起こっていないのか諸説があるようだが、作者のゲイマンは、まだ起こっていないという立場でこの小説を書いている。だから最後のエピソードでロキが洞窟に幽閉されたところまでは過去形で書かれている。

そして最終章“Ragnarok: the Final Destiny of the Gods”で作者ゲイマンは最初にこう述べている。
「今まで語ったことは過去、大昔に起こったことだ。さあ、ここで来るべき日のことを語りたい。」

ラグナロクでは巨人族と神族は闘い、そしてロキとその子供の大蛇のヨルムンガンドや大狼のフェンリルは神族側ではなく巨人族側に付き、神々と戦う。そして最後には神々も巨人も皆死んでしまい世界は崩壊する。

ゲイマンの北欧神話では最後に、すべて古いものが消滅した後、そこから新しい世界が誕生し希望が生まれることを予言している。

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日本人にとって、北欧神話はギリシャ神話よりはなじみは薄いので、なぜ北欧神話がベストセラー?と思うかもしれない。しかし、作者のゲイマンが7歳の時にはまってしまったように、トール(ソー)を主人公にしたコミックはイギリス、アメリカでは非常にポピュラーなので、北欧神話は私たち日本人が考えるよりはずっと身近の存在なのだろうと想像できる。またゲイマンは、小説、コミック、脚本で有名なだけでなく、ツイッターで常時250万人のフォロワーがいるので、《ベストセラー作家》×《インフルエンサー》×《アメコミ&スーパーヒーロー・ファン》の相乗効果を考えると、この本がベストセラーになるのも当然なのかもしれない。
日本で人気のコミック『進撃の巨人』のストーリーや世界観も北欧神話と非常に似ている。実は北欧神話は日本にも知られずに浸透しているのか、それとも世界共通の人を引きつける魅力を持っているとも考えられる。

[8]“The Death of Balder”
[9]“Last day of Loki”


佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。
1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。
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