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【ランキング】アメリカのベストセラーを発表!ブックレビューfromNY<第21回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの21回目。全体的にロングセラーの多いランキングとなっている今回。日本でも人気の高い、ハードボイルド派のスリラー作家、マイクル・コナリーの作品に注目します。

マイクル・コナリーの新しい主人公は“初の○○”

今月の1位はマイクル・コナリーの“The Late Show”だ。コナリーは日本でも人気の高いハードボイルド派のスリラー作家だ。1956年、米国フィラデルフィア生まれで、1980年にフロリダ大学卒業後はフロリダで主に犯罪や警察関連記事を書くジャーナリストとして活躍した。1985~86年にかけて、他の2人の記者とともに、1985年のデルタ航空191便の墜落事故の生還者にインタビューを行い、そのレポートでピューリッツァー賞の最終候補者になった。受賞は逃したもののジャーナリストとしての名声は上がり、ロサンゼルス・タイムズの犯罪担当記者になった。

1992年に初めての小説、ロサンゼルス市警察(LAPD)刑事ハリー・ボッシュを主人公とした“The Black Echo” (邦題:ナイトホークス)が出版され、この作品でコナリーはエドガー賞処女長編賞を獲った。その後、1993年から年1作のペースで、ハリー・ボッシュを主人公とするシリーズ小説を1995年まで出版した。1994年当時の米国大統領ビル・クリントンがシリーズ3作目の“The Concrete Blonde” を手にして書店から出てくるところを報道されて以来、作者のコナリーと主人公ハリー・ボッシュの名声はますます高まった。1996年、コナリーは“The Poet” で新しい主人公ジャック・マックエボイを登場させたが、1997年には再びハリー・ボッシュ・シリーズに戻った。1998年にFBI捜査官テリー・マッケイレブが主人公のシリーズ第1作“Blood Work”を出版した。そして、リンカーン弁護士として有名なミッキー・ハラーのシリーズは2005年に始まっている。ハードボイルド派作家として知られるコナリーの小説の主人公は、これまですべて男性だった。

そのコナリーは最新作“The Late Show “では若い女性の主人公、ロサンゼルス市警察の刑事ルネ・バラードを登場させた。

サーファーだったカリフォルニア生まれの父親とハワイ先住民族の母との間の一人娘だったバラードは、ハワイのマウイ島で育った。母親はマウイ島から一歩も出なかったが、サーファーだった父親は波を求めていつもフィジーやオーストラリアを旅行していた。バラードはそんな父親と一緒に行動していたが、ある日、父親はサーフィンに出たまま海から戻ってこなかった。今でもバラードは父親が戻ってこない浜辺で助けを求めてパニックになって走り回っているティーンエイジャ―の自分の姿を夢に見る。父親の死後、マウイ島に住む母親は自分の娘に一切の興味を示さず、家に引きこもったままだった。数か月ホームレスの生活をした後、バラードは父方の祖母に引き取られてカリフォルニアで高校を卒業した。大学はハワイに戻り、ハワイ大学でジャーナリズムを専攻、卒業後ジャーナリストを経て刑事になった。ロス市警で花形部署の強盗殺人課(RHD)に配属されたが、2年前、上役だったロバート・オリバスをセクハラで訴え、その訴えが却下されたことで、ハリウッド署の今の部署に左遷されたのだった。

「上下さかさまの家」とは

バラードはハリウッド署内の夜勤の機動捜査隊に属している。パートナーのジョン・ジェンキンスとともに夜から朝までの間に起こった事件に緊急出動し、初期捜査を行い、翌朝には通常勤務で出勤してくる刑事に事件を引き継ぐ。ハリウッドで深夜働く部署なので、通称《深夜劇場》(The late show)と呼ばれている。ここで働く刑事は、朝までにはその夜起こった事件の引き継ぎ報告書をデータベースに入力し、担当になった刑事に引き継ぐ。遭遇した事件で、初めから終わりまで捜査を担当することはない。

ある夜、バラードとジェンキンスは3件の事件に出動した。⑴自宅に置いてあったハンドバッグの中のクレジットカードをいつの間にか盗まれたという老婦人の事件、⑵暴行を加えられ瀕死の状態で放置されていた女装男性の事件、そして⑶サンセット通りのクラブ「ダンサーズ」での発砲事件。

クレジットカード事件に関しては、バラードはカード会社の「お客様ホットライン」に電話し、盗難カードで購入された商品の送り先を教えてほしいと頼んだが、「プライバシー保護」のポリシーをタテに断られてしまった。

2件目の事件で放置されていた瀕死の被害者は、病院に搬送されたが意識不明が続いていた。被害者はどこか別の場所に監禁されて長期間暴行を加えられ、死亡したと思った犯人によって現場に放置されたものと思われた。救急隊員の話では、救急車に乗せられた当初は意識があり、「上下さかさまの家」(up-side-down-house)という言葉を繰り返していたというので、バラードは被害者が監禁されていた場所を伝えようとしたのだと推測した。被害者にはナックルダスター(brass knuckles)で強く打撃を加えられた痕があった。

3件目の発砲事件は、現場に4人の死体が残され、5人目の被害者は救急車で病院に搬送されたものの、死亡が確認された。2件目の事件の被害者に会うために病院に来ていたバラードは、発砲事件の5人目の被害者が同じ病院に運び込まれた時に、ちょうど居合わせた。死亡が確認された被害者の遺留品を病院から受け取り、事件現場に向かった。合計5人の殺人事件ということで、ロス市警は強盗殺人課(RHD)の特別殺人チームを捜査に送り込んできた。この特別殺人チームを率いていたのが、バラードが2年前にセクハラで訴えた元上司のロバート・オリバスだった。チームには、RHD時代の5年間パートナーだったケン・チャステインもいた。チャステインはバラードがオリバスにセクハラを受けている現場を目撃したにもかかわらず、内部調査ではセクハラを目撃していないと証言していた。バラード、オリバス、チャステインにとって気まずい再会になった。事件現場でオリバスは明らかにバラードを邪魔者扱いしたのだった。一方、チャステインはバラードに謝ろうとしたが、バラードは、2年前の証言を公に間違いだったと認めない限り謝罪は受け付けないと突き放し、2人が和解することはなかった。

3件の事件の起きた翌朝は金曜日だった。夜勤明けのバラードは、愛犬ローラを預け先から引き取りに浜辺に行った。現在の夜勤の仕事になってから、父の死後やめていたサーフィンを再開した。浜辺でローラとしばらくじゃれ合った後、サーフィンを楽しみ、浜辺に張ったテントに潜り込んで眠った。目が覚めると、ローラと浜辺の軽食店で食事をし、ローラをまた預けて、夕方には出勤した。これが彼女の日常だった。祖母が住んでいる家が自宅ということになっているが、そこに帰ることはほとんどなく、ホームレスのような生活をしている。洋服や着替えはすべて警察署のロッカーや車に置いてあり、ハリウッド署のシャワールームや浜辺の公共シャワーを使っている。時々は署内の仮眠室で寝るが、たいていは昼間、浜辺のテントで睡眠を取る。

絡み始める3件の事件

金曜日の夕方、バラードは早めに出勤した。女装男性の殺人未遂事件が気になっていた。金曜日の夕方なので、事件の担当が誰になるにせよ、実際に捜査を始めるのは月曜日からになってしまうという理由で、週末は引き続きこの事件の捜査を続行する許可を得た。手がかりは被害者の体に残されたナックルダスターによる打撃痕と、「上下さかさまの家」という被害者の証言だけだった。カリフォルニア州ではナックルダスターの所有は法律で禁止されている。バラードはまず、ナックルダスターに絡む逮捕事例をコンピューターで検索し、トーマス・トレントという自動車セールスマンの名前にたどり着いた。その住所を訪ねてみると、傾斜地に建てられた家は、入り口が丘の上部にあり、その階に居間やダイニング、キッチンが配置され、階下が寝室になっているという変わった間取りだった。う普通の家とは“上下がさかさま”の構造だった。バラードはトーマス・トレントが犯人であるという確信を深めた。

そんな時、クレジットカード盗難事件で商品送付先の開示を拒否していたクレジットカード会社の責任者から電話があり、捜査協力として住所を知らせてきた。その結果、土曜日の朝6時までには商品の送り先のモーテルに滞在中の犯人を逮捕、室内にあった多くの商品と、8枚の盗難カードを押収した。

カード盗難犯の逮捕後、バラードは元パートナーのケン・チャステインが金曜日の夜遅く自宅ガレージで何者かに射殺されたことを知り、驚愕した。

土曜日、トーマス・トレントを捜査中のバラードは、逆に捕らえられてしまい、「上下さかさまの家」に監禁される。トレントの元妻とともに殺されそうになるが、反撃し、逆にトレントを殺してしまった。その結果、過剰防衛ではなかったかどうかの内部監査を受ける羽目になった。

射殺された元パートナーのチャステインはクラブ「ダンサーズ」での殺人事件の犯人は警察関係者ではないかと疑いを抱き、自分の身に何かあった場合は、その疑いのきっかけとなった証拠品をバラードの手に渡るようにしていた。証拠品を託されたバラードは独自に捜査を開始し、最終的には犯人である警察関係者を割り出したのだった。

はたして、トーマス・トレント事件に関してバラードに対する内部監査の結果はどうなったか? そして「ダンサーズ」殺人事件の犯人である警察関係者とは誰だったのか?

バラードの生き方は“コナリー的”

作者マイクル・コナリーは、初めての女性主人公を、複雑な過去を持つ一匹狼的な刑事として登場させた。過去のシリーズの主人公たちと比較すると、男女の違いはあっても、共通して生活感が希薄なキャラクターとして描かれている。同じ女性刑事であっても、ジェームズ・パターソンのベストセラー・シリーズ《女性殺人倶楽部》[2]の主人公リンゼイ・ボクサーが家庭を持ち、夫と一人娘を大切にし、妻として母親として、忙しい刑事の仕事と家庭の両立に苦悩している姿とは対照的だ。家庭も、恋人も、住む場所も持たず、愛犬のローラだけを慈しみ、事件解決のためには上司や同僚の命令や助言をも時に無視し、突っ走るバラードの姿は、やはりコナリーらしいハードボイルドといえよう。

[2]ブックレビューFrom NY第7回(2016年6月)”15TH AFFAIR” / by James Patterson and Maxine Paetro

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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