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【ランキング】女性を主人公にした心理スリラーに注目! ブックレビューfromNY<第27回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの27回目。大好評を博している、女性を主人公にした本格心理スリラー作品を解説します!

裕福な夫に離婚された元妻、その夫と婚約中の若い女性

ヴァネッサは夫リチャードと離婚、夫と過ごしたウェストチェスター[2] の豪邸を出て、叔母のシャーロットが暮らすマンハッタンのアパートに居候の身だ。叔母は、心身症を患っていた母に代わり、子供の頃からよく面倒を見てくれた。7年間、裕福な夫とすごした専業主婦としての結婚生活は、子供ができないまま、ヴァネッサのアルコール依存で終わりを告げた。働かなくては食べていけない状況になったヴァネッサは、マンハッタンの高級デパート「サックス」の売り場で働くことになった。その初日、客として来た元夫の仕事上のパートナーの妻ヒラリーから、リチャードが婚約して結婚式の日取りも決まっていると聞いて動揺する。絶っていたワインを飲み始め、不眠症もひどくなり、叔母を心配させることになった。

ネリーはフロリダ出身。フロリダの大学を卒業後、ニューヨークに来た。マンハッタンの教会の中にある幼児スクールの教師をしている。給料が安いので、夜はレストランでウェートレスのアルバイトをしている。あるときフロリダに住む母に会いに行った帰りの飛行機で、ネリーは偶然リチャードに会った。そして望まれるまま、リチャードと婚約した。フロリダで行われる結婚式の準備で忙しい日々を送っているが、リチャードの元妻とはどんな人だろうと気になっている。また時々無言電話がかかってくることも気がかりだ。それでもリチャードのことを考えると自分を守ってくれるという安心感で心が和み、「彼は信じられないほど素晴らしい人だ」と毎日思っている。

ついにヴァネッサは決心し、自分の《後継者》(replacement)に会って話をしようと、アパートの前で待ち伏せ、「リチャードについて真実を話さなければならない」と彼女に告げた

ここまで読むと、読者はこの小説は離婚された嫉妬深い元妻が、若く美しい自分の《後継者》にストーカー行為をしているように思う。一人の男をめぐり、元妻と妻になろうとしている若い女性の葛藤のように読める。しかしこの後、ストーリーは思わぬ展開を遂げていく。

ヴァネッサの結婚生活の真実、リチャードの正体

読者はストーリーを読み進むうちに、なぜフロリダ出身でフロリダの大学を卒業したネリーが、逃げるようにしてニューヨークに出てきたのか、そしてリチャードとの結婚を控え、幸せの絶頂にあるはずの彼女が、不眠症と悪夢にうなされるわけを徐々に理解していく。そして、思いやり深く、カリスマ性があり、成功者であるリチャードが、幼い頃に両親を自動車事故で亡くしただけでなく、その自動車に同乗していたこと、両親の死後、経済的に困難ななか苦学して大学を卒業したことを知る。そしてそのリチャードのことを母親のように慈しんだ7歳年上の姉モーリンのリチャードに対する愛情の深さに違和感を持つかもしれない。

ヴァネッサは結婚生活を振り返り、7年間の結婚生活で、自分は別人のように変わってしまったと思う。リチャードは郊外の高級住宅地の大きな家に住み、子供をたくさん持つことを望んだ。しかし彼女は妊娠することなく、医者にかかっても原因が分からなかった。かつての生き生きした、おしゃべりなヴァネッサは、7年間の結婚生活の中で行き場を失いアルコール依存症になっていった。しかし、彼女は独占欲が強く嫉妬深い、心に闇を持つ夫の真実が見えたとき、アルコールを断ち、夫から離れる準備を着々と進めたのだった。逃げようとすればどこまでも追いかけてくるストーカー的な気質を持つリチャードと別れるためには、彼のほうから離婚を持ち出すよう仕向ける必要があった。そのためにはアルコール依存症のふりをし続け、自分より若いはつらつとした女性にリチャードの関心が向くように仕向けた。

そしてやっとリチャードと離婚し、家を出て叔母のアパートに落ち着いた矢先に、リチャードがその女性と婚約したことを知ったのだった。ヴァネッサは、その女性、つまり《後継者》がリチャードと結婚することで、自分と同じような苦しみを味わってはいけないと思い、警告しようとしたのだった。ヴァネッサが《後継者》と会おうとしていることに気付いたリチャードは、それを阻止しようと躍起になった。ヴァネッサに迫りくるリチャードの魔の手。果たしてヴァネッサは《後継者》に、リチャードの本性を伝えることができたのだろうか?

そして最後に読者は、ヴァネッサと《後継者》の思いもかけない過去の因縁に驚かされる。

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実はこの小説は出版される数か月前、昨年秋から評判になっていた。出版社のSt. Martin’sは、激しい入札合戦の末、この作品の出版権を勝ち取った。そして映画『ガール・オン・ザ・トレイン』のプロダクション会社[3] の社長のホリー・バリオは昨年10月、オンラインの独占記事の中で、この小説の映画化の権利を取ることに強い興味を示していた[4]

作者のグリア・ヘンドリックスとサラ・ペッカナンにとって、この作品は初の共著だ。ペッカナンは犯罪調査ジャーナリストを経て小説家になり、過去に小説を7作品出版している。他方、コロンビア大学ジャーナリズム大学院の修士号を持つグリア・ヘンドリックスは有名出版社で20年の経験を持つベテラン編集者、ペッカナンの小説のうち6作品はヘンドリックスによって編集されている。2014年、ヘンドリックスが出版社を退職して独立したとき、ペッカナンは共著で小説を書くことを持ち掛け、ヘンドリックスはその申し出を受けた。こうして、かつての著者と編集者の名コンビは、共同著者としてこのベストセラー作品を生み出したのだった。

[2]ニューヨーク州ウェストチェスター郡。ニューヨーク郊外の高級住宅地域。
[3] スピルバーグの映画プロダクション会社Amblin Partners.
[4]https://www.hollywoodreporter.com/news/girl-train-team-takes-wife-between-us-1051982 (Holly Bario has picked up the January thriller for Steven Spielberg’s Amblin Partners)

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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