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【ランキング】実話を元にしたロングセラー小説に注目! ブックレビューfromNY<第29回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの29回目。実話が元になっているという、孤児院の児童虐待・売買事件について描かれたロングセラーを解説します!

上院議員の娘、連邦検事(現在)

エイブリー・スタフォードはメリーランド州で連邦検事をしている。父親はサウスカロライナ州選出の上院議員のウェルス・スタフォード。父が癌と診断されたため、一時的に休暇を取り、実家のあるサウスカロライナ州エイキンに戻り、父の公務の手伝いをしている。3人姉妹の末っ子で30歳。姉2人はすでに結婚、子供もいて専業主婦をしている。スタフォード家は代々政治家の家系で、男子がいないためエイブリーが父の後継者であると自他ともに認めている。幼馴染のエリオットと婚約をしていて、双方の母親から早く結婚式の日取りを決めろと急かされている毎日だ。

ある日エイブリーは父の公務に同行、老人ホームを訪問して、所長の誕生日パーティに出席した。その時近づいてきた入居者の老女が突然エイブリーの手を握り「ファーンなの?」と聞いた。エイブリーが戸惑っていると、職員が慌てて老女をエイブリーから引き離し、連れて行った。老女の名前はメイ・クランドル、アルツハイマー型認知症を患っている。2週間前に自宅で妹の遺体と12匹の猫と一緒にいるところを発見され、この老人ホームに収容されたということだった。エイブリーは「ファーンとは誰の名前なのだろうか?」と思った。そして次の日、エイブリーは老人ホームの所長からの詫びの電話を受け取ったのだった。メイがエイブリーのブレスレットを持っていたという。エイブリーは、メイが自分の手を握った時にブレスレットが滑り落ちたのだろうと言い、取りに行くと答えた。メイのことが何か気になりもう一度会いたいと思った。

最近のメイ・クランドルは記憶がはっきりすることもあるが、曖昧なことのほうが多い。昨日、若い女性の顔を見た時、メイは昔の何かを思い出した。「ファーンなの?」と聞いた時にはすでに、その女性が「ファーンではない」ということはわかっていた。ではその女性は誰に似ていたのか? そう、メイはその若い女性の中に「クィニー」を見たのだった。

老人ホームの所長からブレスレットを受け取った後、メイの部屋を訪れたエイブリーはベッドわきに飾られたセピア色の写真を見た。妊娠している美しい女性と黒い髪、黒い目の男性と女の子の3人が写った写真だった。この美しい女性が、自分の祖母ジュディの高校時代の写真にそっくりなことにエイブリーはショックを受けた。思わず携帯電話でその写真を写した。メイに話しかけたが要領を得なかった。

家に帰ってから父や母にメイ・クランドルという名前に覚えがないか聞いてみたが、どちらも全然心当たりがないようだった。

エイブリーの祖母のジュディも認知症が進み、しばらく前からメイとは別の高級老人ホームに入っている。エイブリーは祖母を訪問、それとなくメイ・クランドルの名前を出し、携帯電話に写っているセピア色の写真を祖母に見せた。それまではぼんやりとしていた祖母だったが、写真を見るなり、「アルカディアについて、誰にも知られてはいけない!」「リル、気を付けて!」「壁に耳ありよ!」と言った。そしてまた元のぼんやりとしたムードに戻っていった。

ミシシッピ川の貧しい船上生活者の娘(1939年)

12歳のリル・フォスは5人兄弟の長女で、父ブリニーと母クィニーや妹弟と一緒にミシシッピ川に浮かぶ船「アルカディア」で生活していた。ハスラーでピアノ弾きの父、金髪、青い目の美しい母と子供5人(リル12歳、カメリア10歳、ラーク6歳、ファーン4歳、ガビオン2歳)は「アルカディア」で貧しいけれど楽しい暮らしをしていた。5人の子供を難なく生んだ母クィニーだったが、嵐の夜の今回は非常な難産だった。ついに黒人の助産婦は自分の手に負えないと言い、病院に連れて行かなければ命が危ないとブリニーに告げ、嵐がひどくなる前に船を降りてしまった。その後、リルに妹や弟の世話を頼み、ブリニーと友人のズィードは苦しむクィニーを小舟に乗せ、荒れ狂う嵐の中、病院へと向かった。

次の日、船に戻ってきたズィードはリルに、生まれた双子は死産だったと告げ、クィニーがまだ入院中だからといって、子供たちのための食糧を置いて、ブリニーとクィニーのいる病院に戻っていった。そのあと、警官を名乗る男たちが船を訪れ子供たち5人を両親のところに連れて行くといって船から連れ出そうとした。警官たちの言うことを信用できず抵抗した子供たちだったが、大人の力には抗えず、船から降ろされ町に連れていかれた。そこには大きな車が待っていて、ミス・タンと呼ばれる女性が乗っていた。子供たち5人は車に乗せられた。中にはすでにラークと同じくらいの年の女の子と、ガビオンよりは少し年上に見える男の子の姉弟がおびえた表情で座っていた。そして7人の子供たちはメンフィスの孤児院へと送り込まれた。あくまでも、両親が迎えに来ることを信じて、リルは妹や弟に辛抱するように言い聞かせ、孤児院での生活が始まった。

リルは次第にこの孤児院のやっていることが分かるようになってきた。ミス・タンは定期的に養子を欲しがっている金持ちや有名人を集めて、子供の「品評会」を行っている。そして気に入られた子供たちは、1人、2人ともらわれていく。特に金髪、青い目の子供の需要は高かった。初日、一緒に車に乗ってきた姉弟も金髪、青い目で、姉のほうは、すぐには孤児院から姿を消してしまった。多分どこかにもらわれていったのだろう。フォス家の5人の子供のうちリルを含め4人は母親似で、金髪、青い目だった。カメリアだけが父親似、黒い髪の毛、黒い目で、気性も激しかった。リルが、両親が迎えに来るまでの辛抱と口を酸っぱくして言っても、カメリアは言うことを聞かず、誰に対しても反抗的だった。そしてある日、大暴れの末に連れていかれて戻ってこなかった。噂では、死んでしまい沼に捨てられたということだった。金髪で天使のようにかわいかった弟のガビオンは「品評会」の日に即、カリフォルニアの夫婦にもらわれていってしまった。そしてしばらくして、ラークの姿が見えなくなり、誰かにもらわれていったことをリルは後になって知ったのだった。そして、ファーンも「品評会」に来ていたセビア夫妻にもらわれていった。孤児院に1人残ったリルだったが、しばらくして、ファーンと同じセビア家にもらわれた。ファーンはセビア家に来てから不安のあまり、毎晩オネショをするようになり、体の弱いミセス・セビアが育児ノイローゼになったため、ミスター・セビアは、リルが一緒にいればファーンの不安もなくなり、ファーンの世話も手伝ってくれるだろうと思ってリルも引き取ることにした。セビア夫妻は2人の子供をかわいがった。幼いファーンはすっかりセビア夫妻になつき、本当の両親のように思っていた。しかしリルは本当の両親のブリニーとクィニーや「アルカディア」での生活を忘れることができなかった。

ある日、リルはセビア家の別棟の建設をしている大工の娘のアーニー(父親の大工や兄たちからいつもいじめられていた)と一緒にファーンを連れて、小舟に乗って川から逃げ出した。やっとの思いで「アルカディア」にたどり着いてみると、朝から晩まで酒浸りのブリニーがいるだけだった。双子が死産で、病院で治療費を出してもらう代わりにサインした書類のために5人の子供も手放す羽目になったことで、クィニーはずっと嘆き悲しんでいて、3週間前についに死んでしまったという。妻を失ったブリニーは、それからは酒浸りの毎日だと、ズィードは悲しそうにリルに話した。そして大嵐が来た。ズィードの心配をよそに、ブリニーは嵐の中「アルカディア」の航行を始めた。リルとファーンは間一髪のところで船から逃れて岸に泳ぎ着いたが、「アルカディア」は嵐に翻弄されブリニーを乗せたまま沈んでいった。

リル・フォスは、かつては「アルカディア王国のプリンセス」だった。しかし「女王」のクィニーが死に、そして「王」のブリニーもいなくなった今、もはや「王国」は存在しないのだということをリルは思い知った。「リル」は「アルカディア王国」とともに死んだのだと悟った。そして孤児院に入った時に付けられた名前「メイ」として生きる決意をするのだった。養父母を慕っているファーンをセビア家に返した後(逃げ出したのはファーンの意思ではなかったので養父母も許して受け入れてくれるだろうと思った)、自分は許してもらえないだろうからどこかで1人で生きていこうとメイ(リル)は思った。しかし、セビア夫妻は、メイを叱ることもなく姉妹を温かく迎えてくれ、それ以来メイはセビア家の子供として成長していった。

ジュディ・スタフォードの出生の秘密

エイブリーは、祖母のジュディの家や、エディスト島の別荘に行き、祖母のメモや手帳から、祖母は認知症を発症する直前に、エディスト島のトレント・ターナーという人物と会う約束があったことを知った。トレント・ターナーが誰なのか全然見当もつかず、ためしにメモしてある電話番号に電話をすると、「ターナー不動産のトレントです」と相手は応答した。

トレントに「祖母のジュディ・スタフォードがあなたと約束があったけれど、その前に認知症を発症し、施設に入っている」と説明すると、トレントはジュディ・スタフォードが会おうとしていたトレント・ターナーは自分の祖父のトレント・ターナー・シニアのことで、6か月前に亡くなったと告げた。そして祖父から、ジュディ・スタフォードが訪ねてきたら渡すように封筒を預かっていると言った。エイブリーは、祖母は認知症が進み病院から出ることができない状態なので、自分に封筒を渡してほしいと頼むと、祖父から絶対に本人以外に渡してはいけないと言われている、と断られた。

はじめは封筒の中の秘密を脅迫のために使うのではないかと、トレントに対し疑いを持ったエイブリーだったが、トレント・ターナー3世に会ってみると、そんな感じではなく、祖父との約束なので封筒は渡せないがと、代わりに祖父のことを話してくれた。祖父はごく幼い時のメンフィスの警察官の家の養子になったが、本人は何も覚えていなかったので、成人するまでそのことを知らなかった。しかし、真実を知ってから自分の本当の親を探し始めた。そうするうちに、同じ孤児院の関連で親探し、子探しを頼まれるようになり、本業の不動産業のほかに、人探しがライフワークのようになっていった。その過程で、祖父はジュディ・スタフォードやメイ・クランドルを知るようになったということだった。そして、この3人の驚くような遠い過去の因縁が徐々に明らかになっていく。

トレント・ターナー・シニアと知り合い、自分の出生の秘密を知った時、スタフォード家の一人娘として育ったジュディは名門スタフォード家の政治生命と名声を守るために、自分の出生の秘密を封印した。しかし一方で、自分の本当の姉たちの存在を知ってからは、スタフォード家の誰にも知られないように姉たちと定期的に密会していたのだった。認知症になるまで、そのような二重生活を送っていた祖母の心情を推し量ったとき、エイブリーは上院議員の父や家族全員とこの事実を共有することを決心したのだった……。

テネシー児童ホーム協会

テネシー児童ホーム協会(Tennessee Children’s Home Society)は20世紀前半に実存したテネシー州立の孤児院で、貧しい孤児たちのために裕福な家庭を探し、養子にするということを積極的に行っていた。1941年までは、この孤児院と院長のジョージア・タンの活動はメンフィス市では非常に高く評価され、社会的な支持を受けていた。しかし実態は、警察や裁判所の判事をも巻き込み、貧しい親をだましたり、ストリート・チルドレンを誘拐したりして孤児院に不正に集めた子供たちを、アメリカ中の裕福な家庭や有名人に高額の料金を取って斡旋していたのだった。そして子供の孤児院への収容や養子縁組に関連するすべての書類を定期的に廃棄していたため、不正や、子供への虐待の実態解明はいまだに困難を極めている。

“Before We Were Yours”の作者リサ・ウィンゲイトはこのテネシー児童ホーム協会で行われた不正な養子縁組と児童虐待の史実をもとにこの小説を書いた。本書は2017年歴史小説部門でGoodreads Choice賞を受けている。

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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