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【ランキング】浜辺で読みたい“Beach reads”に注目!ブックレビューfromNY<第31回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの31回目。バケーション中に浜辺やビーチサイドで読むのにふさわしい本“Beach reads”のコーナーで、今いちばん売れている作品を解説します!

シングルマザーで仕事が暇な弁護士

ブルック・トラップネルはジョージア州の海沿いの町セイント・アンズ[2]で弁護士を開業している。観光以外にこれといった産業のない小さな田舎町なので、弁護士の仕事はあまりない。大きな仕事は地元出身の男性弁護士に取られ、ブルックにはほかの弁護士が見向きもしないような仕事が回ってくるだけだった。個人営業の事務所には、事務をするパートの高校生ファラがいるだけだった。かつてブルックは自分が生まれ育った町サバンナ[3]の弁護士事務所で働く新進気鋭の若手弁護士だった。しかし4年前、結婚式の直前に突然婚約を解消し、弁護士事務所も辞職、逃げるようにこの田舎町にやってきた。現在34歳、3歳の息子ヘンリーと2人で暮らす、シングルマザーだ。

ある日、ブルックは事務所にかかってきた電話に出た。パートのファラはまだ出勤していなかった。電話の相手は、ジョゼフィーン・ベッテンドルフ・ウォリック、タリサ島[4]に住んでいる資産家の女性だった。仕事の話がしたいので、明日タリサ島の自宅に来るように言われた。全く面識がない相手からの唐突な電話で、どうしようかと躊躇したブルックだったが、忙しいわけでもないし、威圧的な態度に圧倒される形で相手の申し出を承諾した。

それから大急ぎでジョゼフィーン・ベッテンドルフ・ウォリックのことやタリサ島のことをネットで調べた。タリサ島は12,000エーカーの広さの防波島で、ブルックが住んでいるセイント・アンズの町からフェリーで30分のところに位置する。1912年にジョゼフィーンの父、ボストンの資産家のサムエル・ベッテンドルフが従兄2人と一緒にこの島を買い取っている。従兄たちはこの島に住むことはなかったが、サムエル・ベッテンドルフは寒さを嫌う妻のエルシーのために自分が所有する島の南東部に地中海風の邸宅を建て、「シェルヘブン」(“Shellheaven”)と名付けた。現在99歳のジョゼフィーンはサムエルの娘で、父亡き後この島のサムエルの所有分すべてを相続した。1978年に2人の従兄の子孫は自分たちの所有分をジョージア州政府に売り渡した。4年前の雑誌記事によれば、ジョゼフィーンの土地も収用しようとする州政府に対し、彼女は土地を売り渡すことを拒否しただけでなく、従兄の所有だった部分(今は州立公園としてキャンプ場などの設備がある)を州から買い戻そうと20年間州政府を相手に裁判で係争中だということだった。州政府との裁判に関してはすでに一流の弁護士事務所がこの件を取り仕切っている。ブルックは、いったいなぜジョゼフィーンは土地収用法が専門でもない個人弁護士の自分を呼んだのだろうか、と不思議に思うのだった。

次の日、指定された時間にセイント・アンズの町のマリーナに行くと、野球帽をかぶり日に焼けて痩せて小柄な、C.D.と名乗る男がモーターボートで迎えに来ていた。そしてモーターボートが島に着くと、波止場にはシャグという名の体格の良い黒人が車で迎えに来ていた。車の中から見るジョゼフィーンの家(シェルヘブン)は遠目には淡いピンク色のウェディングケーキのように美しい建物だったが、近づくにつれ、ひび割れやペンキの色あせが目立った。シャグによれば、かつては庭の手入れだけでも6人の使用人がいたが、今は自分1人で庭や家の手入れのすべてやっているので、とても手が回らないということだった。そしてシェルヘブンでブルックを迎えたのは、シャグの妻のルエットだった。シャグとルエットは夫婦でジョゼフィーンに仕えている。ルエットが家事全般を、シャグが庭仕事や家の修繕、運転手の仕事をしている。モーターボートで迎えに来たC.D.は本土と島を行き来して、買い物やその他の雑用をしている。

ブルックを迎えたジョゼフィーンはリクライニングチェアに座り、痩せ衰え、毛布に幾重にもくるまれ、酸素吸入器を装着していた。ブルックに、自分は肺がんの末期でいつ死ぬかわからない身だと告げ、死ぬ前にどうしてもやっておかなければならないことがあると言った。ジョゼフィーンは結婚したが未亡人で子供がいないし、兄も第2次世界大戦で亡くなっている。自分が父から受け継いだ財産、特にタリサ島の所有地とこの邸宅を、このまま何もしないと自分が死んだあと州政府に収用されてしまう可能性が大きい。そこでむしろ自分の若い時の親友3人、もしすでに亡くなっていればその子孫に遺したいので、その法律的な手続きをしてほしいとブルックに頼んだ。なぜ見ず知らずの自分に頼むのかと食い下がるブルックに、ジョゼフィーンは渋々、「実はあなたの母方のお祖母さんを私は若い時知っていたのだ」と明かした。

満潮クラブ(The High Tide Club)

1932年4月、春休みのジョゼフィーンは寄宿学校の同級生でルームメイトのルースとミリーと一緒に、家族が来る5日前からタリサ島のシェルヘブンに滞在していた。両親と兄のガーディナーが来る前夜、3人のなかでもボス的存在のルース(ほかの2人より数か月早くすでに13歳になっていた)は「退屈だからドライブに行こう」と言い、躊躇するあとの2人を無理やりジョゼフィーンの父が所有する車に乗せ、自ら運転してマーメイド・ビーチという美しいビーチに到達した。満月の下、ちょうど満潮時の海はキラキラと輝いていた。うっとりと海と月を眺めていた3人だったが、突然ルースは着ていた服をすべて脱ぎ、裸で海に飛び込み泳ぎ始めた。そして他の2人にも、気持ちが良いから裸で海に入るように言った。おっかなびっくり裸になり海に入ったジョゼフィーンとミリーだったが、あまりの気持ちよさに3人とも海の中で大はしゃぎだった。そして3人は自分たちグループを「満潮クラブ」と名付けた。そして「満月の満潮の時に3人が一緒にいれば裸で一緒に泳ぐこと」という掟を作った。

ジョゼフィーンはブルックに、満潮クラブにはそのあと、黒人の使用人ハーレーの娘の8歳年下のヴァリーナが加わったと話した。ハーレーは妻に早く死なれ、男手一つで子供4人を育てたが、ほかの3人の男の子はともかく、末っ子で女の子のヴァリーナにまではなかなか手が回らなかった。そこで、シェルヘブンで女中をしていたハーレーの妹マージ―がヴァリーナの面倒を見るようになり、マージ―といつも一緒にいたヴァリーナをジョゼフィーンは妹のようにかわいがった。そして次第にヴァリーナも満潮クラブに参加するようになったのだという。

ジョゼフィーンは満潮クラブのメンバーの一人ミリーがブルックの祖母なのだと明かした。ブルックの母マリーは、ミリーの一人娘なのだ。ブルックは祖母からも母からもジョゼフィーンの名前を聞いたこともなかった。祖母の葬式にも、ジョゼフィーンは来ていなかったので、祖母とジョゼフィーンの若い時のつながりについて何も知らず、ブルックはただただ驚くのだった。

ジョゼフィーンは満潮クラブのミリー、ルース、ヴァリーナに対しては、償わなければならないことがあり、死期が近づいた最近になってそのことが気になって夜も眠れないと言った。そこで満潮クラブのメンバーがまだ生きているかどうか、そして亡くなっていればその子孫がいるかどうかを調べ、自分の財産すべてを信託にしてその人たちを共同受益者にした信託の設立と管理をブルックに頼みたいと言った。満潮クラブのメンバーの消息に関しては、すでにミリーは亡くなり、娘のマリーと孫のブルックがいることがわかっている。ジョゼフィーンは、ヴァリーナがまだ生存していて甥の娘のフェリシアが面倒を見ていることも知っている。わからないのはルースの消息だけなので、これはブルックが調べることを引き受けた。ただ信託の設立と管理に関しては母のマリーが受益者になるため、その娘であるブルックが信託を作り管理することは利益相反になるのでできない。ブルックはサバンナの法律事務所で働いていた時の上司だったゲイブ・ワイナントに信託の設立と管理を頼むようジョゼフィーンを説得した。

島から戻ってからブルックはさっそく母のマリーに連絡して、祖母がジョゼフィーンと親友だったことを知っていたかを尋ねたが、母もまったく知らず、ジョゼフィーンの名前を聞いたこともなかったと言い、びっくりしていた。親友だった祖母とジョゼフィーンが第2次世界大戦の直後くらいから疎遠になり、祖母はジョゼフィーンのことを自分の娘のマリーにも話さなかったとは、いったい2人の間に何があったのか? 次に会った時、ジョゼフィーンにはっきり聞かなければならないとブルックは思った。

ルースの消息に関しては、2008年10月16日のボストン・グローブ紙に死亡記事が載っていた。その時点で、息子のロバート・ハドソン・クィンランと孫娘のルース・エリザベス・クィンランがいたことがわかった。ネット検索で孫娘のルース・エリザベス(リジー)はフリーのジャーナリストだとわかり、すぐ連絡がついた。そして彼女の口からロバート・ハドソンはすでに亡くなっていることを知らされた。というわけで、満潮クラブのメンバーとメンバーの子孫すべての消息が判明した。ジョゼフィーンは、信託を作ることと管理はゲイブ・ワイナントに頼むことにし、信託の受益者をマリーとブルック、リジー、そしてヴァリーナとフェリシアの5人にすることに決めた。そして数日後、その5人とジョゼフィーン、弁護士のゲイブ・ワイナントはシェルヘブンで一堂に会した。この日のジョゼフィーンはことのほか元気で上機嫌だった。そしてこの5人を受益者にした信託を作ることを関係者全員で確認したのだった。

その日、シェルヘブンでの夕食の後、リジーは祖母ルースの遺品の古いスクラップブックを持ち出した。中には1941年10月の地方新聞の記事の切り抜きが貼ってあった。すべてが、当時タリサ島のシェルヘブンにゲストとして泊まっていたラッセル・スティックランドという人物の失踪に関する記事だった。リジーはジョゼフィーンになぜ、祖母がこんな記事を集めていたか知っているか、と尋ねた。ジョゼフィーンは重い口を開いて、ラッセルはミリーの婚約者だったと言った。ブルックも母のマリーも、祖母のミリーにそんな婚約者がいたなどと聞いたこともなかった。ジョゼフィーンは、父のサムエルがミリーのためにシェルヘブンで豪華な婚約パーティを開き、その翌日ラッセルが行方不明となったと言葉少なに語った。殺されたのではないかといううわさが広まって、新聞記事にもなったが、「死体はついに見つからなかった。」とも言った。リジーやブルックがもっと詳しく話を聞きたがったが、「もう遅いので、寝ます。」とジョゼフィーンはペットの2匹のチャウチャウ犬とともに退出した。

その夜はゲスト全員がシェルヘブンに泊まった。

ジョゼフィーンの死

翌朝、ジョゼフィーンがバスルームの床の上で血を流して死んでいるのが発見された。検視の結果、夜中トイレに起きて間違ってペットの犬に躓いて転んで、頭を打ち死亡した事故死だということになった。

結局、満潮クラブのメンバーがなぜ第2次大戦直後に急に疎遠になったかの理由をジョゼフィーンの口から聞き出すチャンスがないままに彼女は亡くなってしまった。でも少なくともジョゼフィーンの遺志を継いで、受益者5人でタリサ島の土地と家を守っていこうと話しあっていると、弁護士のワイナントが気の毒そうに、実は法的にはまだ信託は設立されていないと言った。昨日の時点ですべての法律文書(遺言状、信託設立のための法律文書)は出来上がっていて、ジョゼフィーンもすべてに目を通して承認していたが、サインをするために必要な証人2人がいなかったので、今日ワイナントが本土から証人2人を連れて来る予定だった。(使用人のシャグ、ルエット、C.D. も遺言により遺産の一部をもらえることになっていた受益者なので証人にはなれなかった。)

ジョゼフィーンの死亡記事が出た後、法的に有効な遺言状が存在しないので遺産は自分たちのものだと主張する遠い親戚の2人の女性が現れた。タリス島をサムエルと一緒に買った従兄2人の子孫で、1978年タリサ島の自分たちの所有地を州政府に売った張本人たちだった。一方、突然C.D.が自分はジョゼフィーンの隠し子であると言い出し、決定的とは言えないまでも、そうかもしれないと思わせるような新聞記事やその他の書類のコピー、子供の時、養護施設を訪問したジョゼフィーンに自分だけがもらったというプレゼントのおもちゃを持っていた。とりあえず誰が遺産を相続するか法律的に確立するまで、弁護士のワイナントがジョゼフィーンの財産の管理人になることを裁判所が許可した。

この後、満潮クラブ・ジュニアともいえる第三世代のブルック、リジー、フェリシアの3人は数々の謎に対する答え探し、探偵さながらの大活躍をする。

● ジョゼフィーンが他の満潮クラブのメンバーに対し償わなくてはならないこととは何だったのか?
● それは満潮クラブのメンバーたちがある時点から急に疎遠になってしまったことと関係があるのか?
● またそれは1941年のミリーの婚約者の失踪事件と関係があるのか?
● ジョゼフィーンの話の端々に登場する兄のガーディナーは満潮クラブの過去の秘密と関係していたのか?
● C.D.は本当にジョゼフィーンの隠し子なのか?
● 最終的にジョゼフィーンの遺産はだれの手に?

そして最後にすべての謎が解き明かされていく……。

過去の失われた友情と現在の新しい絆

物語のプロローグでは1941年10月、地元の迷信深い黒人たちが「インディアンの墓場」だといって近寄らないタリサ島の人里離れた浜辺で男の死体を砂の中に埋めている4人の若い女性、ジョゼフィーンと思しき背の高い女性、ルース、ミリー、ヴァリーナが描かれている。

そして物語はブルックがジョゼフィーンからの電話を受けるところから始まる。ブルックがジョゼフィーンと会い、初めて満潮クラブのことを聞いた時から、物語の進行の過程で、1932年の満潮クラブ結成の時の章、1941年10月のミリーの婚約パーティの様子やその後の一連の出来事の章が所々はめ込まれていく。読者は現在の物語の進行と同時に、関連する過去の出来事をその時代の目線で追ってゆく。そして物語の進行とともに過去の謎や秘密が次第に明らかになっていく。

エピローグでは2018年10月、満月の高潮の夜、タリサ島のマーメイド・ビーチでは、裸になり、91歳のヴァリーナを先頭に今まさに海で泳ごうとするマリー、ブルック、リジー、フェリシアの生き生きとした姿があった。

この小説は1930年代から40年代初めにかけて青春時代をともに過ごした満潮クラブの女性4人の失われた友情を、その子孫である若い世代の女性たちが取り戻していく物語だ。そして満潮クラブの女性たちがその時代ならではのいろいろな問題に直面したように、現代を生きるブルックは満潮クラブの謎の解明に奔走する過程で、私生活のいろいろな問題に直面する。一人息子のヘンリーの父親との3年ぶりの再会で、今までかたくなにヘンリーの父親のことを秘密にしていたことが果たしてヘンリーにとって正しいことだったかと揺れ動くブルックの気持ち、そして一緒に仕事をし始めた元上司の弁護士ゲイブ・ワイナントが仕事上だけでなくプライベートに付き合いたいと申し出て、どうしたものか思い悩むブルック……。親友の兄だった婚約者との婚約を解消してサバンナを捨てたとき、ブルックは同時に親友を失った。そしてこの4年間、親しい友人もなく孤軍奮闘していた。しかし今、満潮クラブの過去の秘密を解き明かす過程で、ブルックは母親との親密な関係を取り戻し、リジーとフェリシアという新しい友人との絆を深めていったのだった。

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作者名のメアリー・ケイ・アンドリューズはペンネームで、本名はキャシー・ホーガン・トロケック(Kathy Hogan Trocheck)、1954年生まれ。ジョージア大学でジャーナリズムの学士号を取った後、14年間、新聞記者をしていた。1991年、サバンナ・モーニングニュース紙を退職して小説を書き始めた。1992年に実名で最初の小説“Every Crooked Nanny”を出版したのをはじめとし合計10作のミステリー小説を実名で出版した。2002年に初めてペンネームのメアリー・ケイ・アンドリューズを使い“Savannah Blues”を出版、以後このペンネームを使っている。2006年出版の“Hissy Fit”が初めてニューヨーク・タイムズのベストセラーになって以来、多くのベストセラー小説を出版している。

[2]小説上の架空の町
[3]サバンナは、アメリカ合衆国ジョージア州南東部に位置する港湾都市。チャタム郡の郡庁所在地である。人口は142,022人。1970年までは、サバンナはジョージア州第2の都市であった。現在、同市の人口規模は州内第4位である。都市圏人口は366,047人を数える。
[4]小説上の架空の防波島。

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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