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【ランキング】『プラダを着た悪魔』の続編に注目!ブックレビューfromNY<第33回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの33回目。今回は、日本でも映画が大ヒットした『プラダを着た悪魔』の続編小説を解説します!

イメージ・コンサルタント

かつて「ランウェイ」誌で編集長ミランダ・プリーストリーの第一アシスタントをしていたエミリー・チャールトンは現在36歳、ハリウッドに住み、映画スターなどハリウッド・セレブをクライアントに持つイメージ・コンサルタントの第一人者となっている。(ところでイメージ・コンサルタントという職業、日本では、あまりなじみがないように思う。イメージ・コンサルタントは単にスタイリストの役割を果たすだけでなく、広報やメディア対応も含めて、クライアントのイメージ・アップを総合的にプロデュースする専門家である。)

エミリーは大晦日の夜遅く、現在一番人気のポップスター、リゾ・ベンツのマネージャーのヘレンから電話をもらった。ヘレンによれば、リゾは大学の友人たちとマンハッタンの1OAK[5]のパーティに出かけたが、パーティに現れた時のリゾはナチの軍服コスチュームを着けていて、それが写真に撮られネット上に拡散し始めて困っていると言う。ユダヤ系の力の強いニューヨークでは、放っておくとリゾは多くのスポンサーやファンを失う羽目に陥ってしまうので何とかしてほしいという緊急の仕事の依頼だった。

翌朝一番の飛行機でエミリーはニューヨークへ向かった。マンハッタンでヘレンとリゾに会ったエミリーだったが、ミーティングは不調に終わった。18歳のリゾは、26歳の美人イメージ・コンサルタントのオリビア・ベルを雇うことをすでに決めていて、ヘレンも、ボスであるリゾに従わざるを得なかった。エミリーは「また、オリビアか」と忌々しく思ったのだった。オリビアは主にソーシャル・ネットワークやインスタグラムを駆使して仕事をする新しいタイプのイメージ・コンサルタントだった。すでに幾人かのクライアントをオリビアにとられていたエミリーだったが、リゾのような超人気ポップスターを失うことのダメージは計り知れなかった。リゾの仕事でしばらくはニューヨークに滞在するつもりで来たエミリーなので、仕事が取れなかったといって、すぐ空港にとんぼがえりする気にはなれなかった。そこでマンハッタンに住んでいた時の友人であるミリアムに電話したところ、ミリアムは「今グリニッジに住んでいて電車でマンハッタンからたった30分のところなので、来て一泊していかないか」と誘ったのだった。エミリーは「一泊だけなら」といって招待を受けた。

ルルレモンは郊外の裕福な主婦のユニフォーム

ミリアム・ケイガンは5カ月前まではマンハッタンに住み、名門弁護士事務所の共同経営者として週80時間働くバリバリの弁護士だった。ハーバード・ロースクール出身、34歳の時にはすでにこの弁護士事務所の共同経営者になっていた。夫のポールとの間に小学校2年生の長男ベンジャミンと今年幼稚園に入った双子の男の子マシューと女の子メイシーの3人の子供がいる。しかし5か月前、双子の9月の幼稚園入園に間に合うように、ミリアムは仕事をきっぱり辞め、専業主婦になる道を選んだ。夫のポールは自分の起業したビジネスを売って財を成したこともあり、一家はコネティカット州の高級住宅地グリニッジに移り住んだ。今やミリアムは子供の送り迎え、ママ友との付き合い、早朝のジョギング以外に家の外に出ることはあまりない。他の専業主婦同様、一日中ルルレモン[6]に代表されるスポーツ・ウェアを着て過ごしている。そう、グリニッジでは、ルルレモンが主婦たちのユニフォームなのだ。

ある朝、ポールとミリアムは朝刊を読んでいて、ニューヨーク州選出の上院議員の妻カロリーナ・ハートウェルが飲酒運転容疑で逮捕された記事を見て、驚愕した。ミリアムはカロリーナとはパリで同じアメリカン・ハイスクールに通っていたころからの友人だった。高校ではカロリーナのほうが少し年長で、すでにプロのモデルだったので、しばらくして彼女は高校を中退したのだった。その後、カロリーナはスーパーモデルとして大活躍したが、10年前、妻に先立たれ、2歳の息子を持つ弁護士のグラハム・ハートウェルと結婚した。4年前、グラハムはニューヨーク州から立候補、上院議員に当選した。そして今や、トランプ後の政権奪回を目指す民主党の最有力大統領候補となっている。上院議員の妻として、メディアにもしばしば登場するカロリーナが飲酒運転とは、ミリアムもポールもとても信じられなかった。早速電話をしたが応答がなく、メッセージを残したものの、今のところカロリーナからの連絡はない。

一方、「一泊だけ」といって来たエミリーだったが、数日たってもハリウッドに戻る気配は全然ない。朝から何をするでもなくミリアムの家でゴロゴロしている。ニューヨークに来る前から、クライアントの女優キム・ケリーと映画祭で着るドレスについてもめていたエミリーだった。キムはどうしてもエミリーが選んだドレスが気に入らず、エミリーがハリウッドを離れている間に彼女を首にして、オリビア・ベルに乗り換えてしまった。「ランウェイ」誌を辞めてイメージ・コンサルタントになって最初の大口クライアントだったキムを失ったことで、そして、それにも増して、またしてもオリビア・ベルにクライアントをとられたことで、エミリーはすっかり気落ちしていた。

そんな時、カロリーナがミリアムに電話をしてきた。息子のハリーとその友だちの男の子たちを乗せて酒気帯び運転をし、上院議員の妻ということを嵩に着て、アルコール吸気検査を拒否して逮捕された、とメディアはカロリーナを徹底的に悪者にして報道している。母親失格というレッテルを貼られ、息子のハリーはグラハムの母親に預けられ、夫のグラハムはカロリーナと直接話すことを拒否、すべての連絡は弁護士を通してしか受け付けないと申し渡してきた。カロリーナは、グラハムが上院議員になってから移り住んだメリーランド州ベセスダの家を出て、もともとカロリーナとグラハムが共同で所有していたグリニッジの家に一人戻っていた。早速ミリアムはカロリーナに会いに行くことにした。それを聞きつけたエミリーは自分も同行すると言った。エミリーは「ランウェイ」誌時代、スーパーモデルだったカロリーナとは何回か会ったことがあるので、まんざら知らない仲でもないと主張、困難な状況にあるカロリーナがエミリーと会うのを嫌がるのではないかと心配したミリアムだったが、カロリーナはすんなりエミリーも一緒に会うことを了承した。

カロリーナは、自分は絶対に酒気帯び運転をしていなかったと言った。運転中突然、警官に呼び止められ、飲酒していないか聞かれ、警官は、車内からシャンパンの空き瓶2本が見つかったと言ったが、カロリーナはシャンパンを飲んでもいなかったし、どうして空き瓶が車内にあったか見当もつかなかった。アルコール吸気検査をしてくれと何度も頼んだが、検査はしてもらえず、それがどうして検査と拒んだと報道されているのか、何が何だかわからなくなっていた。話を聞いて、「カロリーナは、はめられたのではないか?」と言い出したのはエミリーだった。でも、誰に? どうして?――考えるうちに、これはグラハムが仕組んだことではないかという推論になった。実は密かに、グラハムと、元大統領の娘のリーガン・ホィットニーとの仲が噂されている。次期大統領を目指すグラハムにとって、元大統領の娘リーガンは最高の伴侶となる。そして邪魔になるのは妻のカロリーナだ。ただ、単にカロリーナを離婚すればグラハムが悪者になってしまう。でも、息子の命を危険にさらすような飲酒運転をするアル中の妻と離婚することを世間は容認する、とグラハムは計算したのではないのか。

ここにきて、カロリーナの望みはただ2つだけ、飲酒運転の汚名を晴らすことと、そして(自分で産んだ子ではないが)2歳の時から慈しんで育てた息子のハリーの養育権だった。夫のグラハムにはもう未練も何もなく、離婚することは覚悟していた。

メディアですっかり悪者になってしまったカロリーナに対し、まずはイメージ・チェンジが必要だと言ったのはエミリーだった。酒気帯び運転といっても事故を起こしたわけでも、人が死んだわけでもないので、イメージ・チェンジは簡単なことだと、イメージ・コンサルタントのエミリーは断言した。というわけで、カロリーナはエミリーのクライアントになった。そしてエミリーの指示通り、カロリーナはアルコール依存更生施設に入ったように見せかけて、エミリー、ミリアムとともに1週間ユタ州の人里離れた峡谷の中にある隠れ家的超豪華ホテルでリラックスしてきた。そして戻ってみると、カロリーナに対し否定的な報道は影を潜め、アルコール依存症を乗り越えて更生をしたという肯定的な報道が目立ち始めた。さらにエミリーのアドバイスで、髪をショートにし、セクシーさを抑えた服装をしたカロリーナは、恵まれない子供のためのチャリティー・ランチに出席、カロリーナ本来の飾らない真摯な態度は、出席した女性たちの共感を集めたのだった。またしてもエミリーのイメージ作戦は成功した。ただそれ以上、飲酒運転そのものがでっち上げだったことの証明や、ハリーの養育権をどうやって法律的に獲得するかについては、エミリーも決め手を欠いていて、どうしたものかと考えあぐねていた。

一方、ミリアムも正式にカロリーナの弁護士として雇われた。ミリアムは、なぜカロリーナがやってもいない飲酒運転容疑で逮捕される羽目になったかの真実を明らかにするため、カロリーナが逮捕された当日、ベセスダ警察署に出勤していたすべての警察官の名前を割り出し、一人一人から当時の話を聞くという地道な調査を始めた。

「悪魔」の登場

「ランウェイ」誌編集長のミランダ・プリーストリーからはエミリーに「ランウェイ」に戻ってこないかという話がきた。給料も良いし、だれもが憧れる職場ではあるけれど、ミランダの下で働くことの大変さを骨の髄まで知り尽くしているエミリーにとっては、また同じような経験をするのは願い下げ、というのが正直な気持ちだった。ただ、無下に断ってミランダとの関係を壊すのも得策ではないと思い、ある日、ミリアムの娘のメイシーをマンハッタン見物に連れ出したついでにミランダのオフィスを訪問、直接ミランダと話をした。今はカロリーナの件で手一杯であるというのが断る口実だったが、ミランダは、「カロリーナの件は私が助けてあげるから、あなたも私を助けろ」と切り返してきた。そして、カロリーナは何を望んでいて、グラハムにはどんな暗い秘密があるかを箇条書きにして知らせるようにエミリーに指示した。

ほどなくして、カロリーナはグラハムから、ハリーの養育権を獲得することができた。どうやら、ホィットニー元大統領(グラハムが付き合っているリーガン・ホイットニーの父親)と親しいミランダがグラハムに直接電話をし、もしハリーの養育権をカロリーナに渡さなければホイットニー元大統領に秘密をばらすぞと脅したようだった。

一方、ミランダはベセスダ警察署を最近定年退職した警察官から新聞報道とは違う情報を得ることができた。この元警察官は、カロリーナが何度もアルコール吸気検査してほしいと頼んでいたこと、また、署長のカニンガムがミセス・ハートウェルはVIPなので飲酒検査を実施しないと言っていたことを証言した。そして彼の証言内容は、ニューヨーク・タイムズの記事となり、同紙は、なぜ飲酒検査が実施されなかったかについて内務省がベセスダ警察署の内部調査を始めたと報道し、カロリーナは飲酒運転をしていなかったと正式に表明した。

カロリーナの飲酒運転でっち上げ事件とそれに絡むハリーの養育権の問題が解決した後、エミリー、ミランダ、カロリーナの3人は、心機一転、新しい人生を歩み始めることになった。どんな新しい人生かは、本を読んでのお楽しみということで。

ストーリーを追っていく中で、読者は、グリニッジというニューヨーク近郊の裕福な住宅地に住む専業主婦の優雅なライフスタイルを垣間見ることになる。そして、その優雅な主婦生活になじみ切れずにぎくしゃくする3人の姿が浮き彫りにされていく。ハリウッドのセレブをクライアントに持つ子供のいないエミリーが主婦生活になじめないのはわかるとしても、グリニッジ住民のミリアムですら、周りのママ友たちのライフスタイルに溶け込もうと努力するものの、微妙にずれていく。子供のいる専業主婦歴10年のカロリーナにしても、元スーパーモデルのオーラ全開の独立心のある力強い女性の側面がどうしても見え隠れする。では、グリニッジの専業主婦たちはというと、ルルレモンを着て、ジョギングしたり、スタバでママ友たちとコーヒーを飲んだりするだけではない。夫との性生活の充実を図るという名目で、性具やアダルト・グッズの出張販売員が商品の実演販売をする女性だけのホームパーティを開いたりもする。親しくなった主婦から知人のホームパーティに誘われたエミリーが行ってみると、スウィンガーパーティでびっくりしたというエピソードもある。

『プラダを着た悪魔』で、ファッション業界、ファッション雑誌の内幕を描いた作者は、この最新作では、ニューヨーク近郊の高級住宅地に住むルルレモンを着た裕福な主婦たちの表面上は優雅なライフスタイルの奥深くに潜む、部外者には計り知れないリアリティを赤裸々に描いている。

[5]マンハッタンのチェルシー地区にあるトレンディなナイト・クラブ
[6]Lululemon athleticaはカナダに本社を持つアパレル会社。ヨガ用ウェアを中心にしたアスレチック・アパレル・ブランドlululemonを1998年から展開。メンズとウィメンズの高級スポーツ・ウェアを扱っている。

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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