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【ランキング】ロマンスファンも楽しめるサスペンス小説に注目!ブックレビューfromNY<第34回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの34回目。今回は、ロマンス・サスペンス小説作家として日本でも人気の高い、サンドラ・ブラウンの小説を解説します!

サンドラ・ブラウン

サンドラ・ブラウンはロマンス・サスペンス小説作家として日本でも多くの作品が翻訳出版されているのでご存じの方も多いと思う。本名の他、3つのペンネーム(レイチェル・ライアン、ローラ・ジョーダン、エリン・セントクレア)を持ち、1981年からそれぞれの名前で計75作もの小説を出版、34か国語に翻訳され、世界中で8000万部の売り上げをあげている[2]。ペンネームで出版された小説でも、日本で翻訳本が出版、あるいは再版のとき、本名のサンドラ・ブラウンで出版される場合が多く、また2008年には日本を訪問したこともあり、サンドラ・ブラウンの日本での知名度は高い。

1948年3月12日、米国テキサス州生まれ。テキサス・クリスチャン大学中退の後、テレビ・レポーターやキャスター、そしてモデルなどを経験した。妊娠を機にモデルをやめ、小説を書き始めた。現在アメリカ探偵作家クラブの会長を務めている。1990年に出版された“Mirror Image”は、日本では2016年11月に「コピーフェイス~消された私」というタイトル、栗山千明主演でテレビドラマ化されている。

黒い箱

11月、感謝祭の前夜10時少し前、飛行機での配送業を営むダッシュは、オハイオ州コロンバスから濃霧警報の出ているジョージア州アトランタ方面へ飛んでくれるパイロットを必死に探していた。荷物は黒いメタルの箱、受取人はランバート医師。配送は緊急を要していて、受取人は閉鎖したアトランタ空港の代わりに、近郊の小さな町ハワードビルの空港を指定してきた。アトランタへ飛行する予定だった若いパイロットは、設備の整わない小さな空港に向けて悪天候のなか飛行することを拒否、アトランタ空港が開くまでは、飛行機を操縦しないと宣言し、どこかに姿を消してしまった。どうしても今日中に荷物を受け取る必要があると主張する受取人(依頼主)の要求にこたえるため、濃霧のジョージア州北部に飛んでくれるパイロットをダッシュは必死で探した。そして、空港のベンチで寝ているライ・マレットを見かけて、飛行機を飛ばしてくれないかと頼んだ。フリーランスのパイロットのライは、ちょうど一仕事終わり、空港で仮眠をとっているところだったが、ダッシュの依頼を引き受けた。

午前1時39分、ライは濃霧のなか冷静にセスナ182を操縦し、順調にジョージア州ハワードビルの空港に近づき、ブラディ・ホワイトと名乗る空港の管制官と交信を始めた。ところが、空港の滑走路の照明が霧の向こうに見えたとブラディに報告すると、ブラディからの交信がぷっつりと途絶えた。そして突然、地上から飛行機に向けて非常に強いレーザー光線が発射された。その強い光に目が眩んで何も見えなくなったライはブラディを呼び続けたが何の返答もなかった。ライは空港への着陸をあきらめて目がやられたまま旋回を続けた。しばらくして視力は少し回復したものの、濃霧のなか管制官の誘導なしに小さな空港に着陸するのは無理と判断した。突然、ライは車のヘッドライトを見て地上に近いことに気付いたが、間に合わずにセスナは車に接触、そのまま林の中に不時着した。

積み荷の黒い箱とともに飛行機から降りたライは、林の中、飛行機に近づく女性に気付いた。この人物が積み荷の黒い箱の受取人の医師だった。彼女はブリンと名乗った。ライは自分にレーザー光線を向けたのが管制官のブラディ以外に考えられず、なぜそんなことをしたかを確かめるために空港のオフィスに行くと言った。飛行機が接触して破損した車の主のブリンも、車が使えなくなったので、林の中で夜を明かすよりは、ライと一緒に歩いて空港に行くことにした。そして空港のオフィスで2人が目にしたのは、頭に傷を負い瀕死の状態のブラディ・ホワイトと思われる人物だった。ブラディもライと同様、何者かに攻撃されたのだった。

午前3時すぎのハワードビル空港のオフィスで、ライとブリンは、保安官補から事情を訊かれていた。そしてライは、ブリンがランバート医師ではなくランバートの同僚のブリン・オニール医師だということ知った。ライとブリン・オニール医師はローリンズ保安官補とウィルソン保安官補からそれぞれ事情を訊かれた。2人の保安官補は、傷害事件が起きたことと、黒い箱の中身に何らかの関係があるのではないかと疑い、2人に箱の中身を問いただした。ライは積み荷の中身については知らないし、知りたくもないと答えた。一方でブリンは、患者のプライバシーに関わることなので答えられないといった。2人の保安官補は箱の中身を見る必要があると主張した。

午前4時すぎ、ライとブリンを乗せた2台のパトロールカーが保安官事務所に到着した。2人の保安官補は箱を開けるようにブリンに命じたが、ブリンはこの件の責任者であるランバート医師の許可がなければ箱を開けられないと主張して、ランバート医師の電話番号を保安官補に教えた。ウィルソン保安官補がランバート医師に電話すると、医師は、中身は血液癌を治療するためにドナーから提供された血液のサンプルで、早く患者に届けなければ、サンプルがダメになると答えた。そして患者が誰であるかについては著名人なので明かせないとも答えた。そして電話をブリンに代わるように言い、彼女だけに箱の錠の暗証番号を教えた。彼女が箱を開けると内部は気泡緩衝材で内張りされ、シリンダーに入った血液のサンプル4本が収まっていて、それ以外何も入っている様子はなかった。箱の中身に満足した保安官補の2人は、ライとブリンを保安官事務所から解放した。

午前6時半すぎ、ライはブラディ・ホワイトを見舞うために病院にいた。ブラディの妻のマーリーンはライが見舞いに来たことをとても喜んだ。そしてマーリーンから、ブリンの父親のウェス・オニールは犯罪者で何度も逮捕されていて、ブリンは子供のころから保安官事務所に出入りしていて、警察官たちとは顔見知りだと聞いて驚いた。ライに好感を持ったマーリーンはライが固辞したにもかかわらず自分の車をライに貸した。そのころブリンは子供のころから顔見知りのウィルソン保安官補と、町で唯一、感謝祭の朝から開店しているカフェで一緒に朝食を食べていた。飛行機との接触で車が破損してしまったブリンのために、ウィルソンは8時にレンタカーをカフェまで届けてもらうよう手配をした。8時まで間があったので、ウィルソン保安官補は先にカフェを出た。そのあとブリンはトイレの前で彼女を待ち構えていたライに出くわした。ライはブリンに「あんたが犯罪者の娘とは知らなかった」と言った後で、「2人の黒服の男があんたのことを見張っているが、どうしてだ?」と聞いた。

ブリンはレンタカーの到着を待たずに、ライとカフェの裏口から出てライが運転するマーリーンの車に乗った。午前8時半少しすぎに2人は古ぼけた60年代の山小屋風インテリアのモーテルの部屋に入った。ライはブリンに、箱の中の血液入りシリンダーは見せかけで、気泡緩衝材の内張りの中に何を隠してあるのかと聞いた。それに対しブリンは、箱の内張りの中に隠してあるのはGX-42という、まだFDA(アメリカ食品医薬品局)が臨床試験を許可していない新薬だと答えた。ブリンとランバート医師の患者がこの新薬投入以外に命が助かる可能性がないので、薬をすぐに届けなければならないと言った。明日の夜8時までに薬を患者に投与しなければ、薬の効果がなくなるともブリンは言った。

ブリンをカフェで見張っていた2人の黒服の男が、午後1時半少し前にモーテルの部屋のドアをノックした。「オニール医師の患者のことで来た。」というので、ライはブリンのほうを見た。ブリンはだれが来たのか見当もつかなかったが、ドアを開けるようライに言った。背の高い男はゴリアドと名乗り、背の低い狐のような顔の男はティミーと名乗った。ランバート医師のところにオニール医師を黒い箱とともに無事に連れ帰るために来たと言った。ブリンを連れて行こうとする2人の男に、ライは黒い箱の受取人はランバート医師なので、ランバートに手渡して受取書にサインをもらうまでは箱は渡せないからと、自分も同行すると主張した。

一方、保安官補のローリンズとウィルソンは、ブラディ・ホワイトをだれが襲撃したか手掛かりがないまま、ライとブリンに再度話を聞く必要性を感じていた。2人はブラディの妻のマーリーンがライに車を貸したことを知った。そして、ライが30分ほど前に電話をしてきて、借りた車を返しに行く時間がないので、モーテルのパーキングに置いておくと言っていたことを知った。午後2時少しすぎ、保安官補の2人がモーテルに着いたときは、ライとブリンは2人の男と共に去った後だった。ホテルの従業員は、4人が黒のメルセデスに乗って南の方向に行ったと証言した。

メルセデスはアトランタのオフィスビルの駐車場に着いた。そこから4人はエレベーターに乗って5階まで上がった。エレベーターの外にはネイト・ランバート医師が待っていた。ライは黒い箱をランバート医師に渡し、医師は受取書にサインをした。そのあとランバート医師とオニール医師は黒い箱とともにオフィスの中に入っていった。

午後4時57分、ライ、ゴリアド、ティミーの3人は駐車場のある3階までエレベーターで下りた。エレベーターから外に出たところで、ライは突然近くにあった消火器を持ちあげ、2人の黒服の男に向けて消火剤を噴射した。そして、「レーザー光線を飛行機に発射したのはティミーか?」とゴリアドに聞いた。ゴリアドはそうだと答えた。そして「ブラディ・ホワイトを襲撃したのは?」という質問には、「彼の頭を殴ったが、殺すつもりはなかった。ティミーは喉を切り裂きたがっていたが」と言った。そのあとライは、ティミーを散々痛めつけた。ゴリアドは銃をライに向けた。「撃つのか?」と聞いたライに対し、「あなたに対する命令は受けていないので、撃つつもりはない。今のところは」と言って、傷だらけのティミーを連れて去っていった。午後5時22分、ゴリアドとティミーがメルセデスで去ったのを確かめた後、ライはカーサービスを頼んだ。そしてブリンに携帯メッセージを入れた。

2人の患者

一方、ランバート医師とともにオフィスに入ったブリン・オニール医師だったが、ライからのメッセージを受け取り、地下の駐車場にライに会うために下りて行った。ライは、ブリンに「なぜ薬を盗もうとしたのか?」と聞いた。

ランバート医師とオニール医師は、同じ病気(稀な血液癌)を持つ2人の患者を抱えていた。1人はバイオレットという名前の7歳の女の子。化学療法も含め、ありとあらゆる治療を試みたが、どれも効果があがらず、このままでは8歳になる前に死んでしまう。新薬のGX-42が唯一の希望の光だった。もう1人の患者は上院議員のリチャード・ハントで、つい最近この病気を発症したばかりだが、病名を公表せず、こっそりとGX-42を使って完治したいと思っている。2人の医師はGX-42をどちらの患者に投与するかについて、意見を戦わせてきた。オニール医師はバイオレットに、ランバート医師はハント上院議員に投与することを主張した。最終的には、長い目で見てFDAに強い政治的影響力を持つ上院議員に新薬を投与して病気を治すことが新薬開発に有利に働くというランバート医師の主張に、部下であるオニール医師は従わざるを得なかった。しかし、黒い箱を受け取りに行くことを志願したときから、ブリンはチャンスがあれば薬をランバート医師に渡さず、バイオレットに投与しようと思っていた。

話を聞いたライはジャンパーの内ポケットから、気泡緩衝材に包まれた瓶を取り出してブリンに見せた。GX-42だ。モーテルにいた間に、すきを見て箱を開け(錠の暗証番号はブリンが電話でランバート医師から聞いて繰り返していたのを唇の動きから読み取っていた)、内張りの中に隠されていた薬を取り出し、ずっとジャンパーの内ポケットに隠し持っていた。ライはこの薬を持ってバイオレットのところに行こうと言った。

このあとライとブリンは感謝祭の間だけを自宅で過ごしているバイオレットに会うために、テネシー州ノックスビルに向かった。GX-42をブリンとライが持っていることに気付いたゴリアドとティミーも2人を追う。そして、保安官補ローリンとウィルソンも2人の後を……。

果たして薬の有効性の切れる翌日の午後8時までに、薬はどちらの患者に投与されたのだろうか?
ゴリアドとティミーの雇い主は誰、そして2人はどうなったか?
ハント上院議員夫妻の夫婦関係の表と裏、そして2人はどうなったか?
瀕死の重傷を負った管制官のブラディ・ホワイトは回復したか?

命知らずのパイロットと泥棒の娘の医者

ライ・マレットは空軍士官学校を優秀な成績で卒業した空軍のエリートパイロットだった。しかしアフガニスタン勤務の際、寝過ごしたため、自分が操縦すべき飛行機を若いパイロットが代わりに操縦し、操縦ミスで墜落、乗員13人すべて死亡という事故が起きた。そして、後悔のあまり、自分はいつ死んでもよいと思うようになった。以後、危険な任務に率先して志願するようになり、2回目のアフガニスタン勤務が終わったときには勲章を授与されたほどだった。除隊後、フリーランスのパイロットとなったライは、どのような危険な飛行も責任をもって引き受けてきた。しかし、飛行機を飛ばす以外のことには一切執着も関心もない放浪者のような生活をしていた。そんなとき、黒い箱を運ぶことになった。着陸直前にレーザー光線で目がくらみ、墜落の危機にあったとき、いつ死んでもよいと思っていた自分が生きるために必死になったことに内心驚いていた。

ブリン・オニールは母親を幼いときに亡くし、泥棒を職業としていたような父のウェス・オニールに育てられた。周りの大人たちは、泥棒の娘と知っていてもブリンに対しては親切だった。それでも、父親を否定することを糧として勉強し、医者になったのだった。

この小説はそんな2人が、7歳の癌にかかった女の子のために新薬を届け、投与するという共通の目的のために、追手を逃れて一緒に行動した2日間のサスペンスとロマンスのストーリーだ。さすがサンドラ・ブラウン、随所に濃厚なロマンスの描写もあり、ロマンス小説ファンも楽しむことができるサスペンス小説になっている。

[2]http://sandrabrown.net/bio/

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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