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【先取りベストセラーランキング】1985年のディストピア小説『侍女の物語』待望の続編! ブックレビューfromNY<第47回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの47回目。今回は2017年にアメリカでテレビドラマ化され、大きな話題となった1985年出版のディストピア小説『侍女の物語』の続編を紹介します。

ギレアデ共和国の女性差別

“The Testaments”の著者マーガレット・アトウッドは1939年カナダのオタワ生まれの小説家、詩人。1964年発表の詩集“The Circle Game”でカナダ総督文学賞を受賞した。1972年に発表した小説『浮かびあがる』(“Surfacing”)はフェミニズム文学の傑作といわれている。1985年出版のディストピア小説『侍女の物語』(“The Handmaid’s Tale”)は大ベストセラーとなり、彼女は2度目のカナダ総督文学賞を受賞した。2017年に『侍女の物語』は米国でテレビドラマ化され、2019年まで、3シーズン36エピソードが放映され、多部門でエミー賞やゴールデングローブ賞を受賞している[2]

『侍女の物語』の舞台は、小説が発表された1985年時点から見た近未来、20世紀末から21世紀初めのギレアデ共和国。世紀末アメリカでは環境破壊や自然災害の多発で社会不安が高まり、そんな時、合衆国政府は「ヤコブの息子たち」というグループのクーデターによって倒され、ギレアデ共和国が誕生した。ギレアデ共和国は、旧約聖書の影響を深く受けた独自の解釈によるキリスト教を国教とし、女性の独立性や権利を完全に否定、女性は専門職に就くことも財産を所有することもできなかった。結婚して妻になり、子供を産むことが一番重要な責務であった。しかし、環境汚染やエイズなどの病気の影響で、ギレアデでは出生率が極端に低下し、子供を産むことのできない妻の代わりに代理母の役割を担う侍女(handmaid)と呼ばれる女性が存在した。侍女の教育や管理監督は小母(aunt)と呼ばれる未婚の女性達によって国家レベルで行われていた。小母は侍女の管理監督をするだけでなく、ギレアデにおける女性教育すべてに責任を負った。小母たちの組織は階級制で、頂点に立つリディア小母は、女性の権利の認められていないギレアデにおいて、女性でありながら絶大な権力を持っていた。

『侍女の物語』は33歳の侍女オブフレッドの証言の体裁をとっている。彼女の口から、子供のいない司令官夫妻の家での侍女としての生活、彼女のアメリカ合衆国時代の生活、そしてギレアデから夫と5歳の娘とともにカナダに逃亡しようとしたが国境を越える前に捕まり、夫や娘と離れ離れになってしまった過去が語られている。そんな中、なかなか妊娠しないオブフレッドに対し、司令官の妻は、夫には子供を作る能力はないのだからと言って、代わりに夫の運転手のニックと関係を持つよう強要した。そしてニックと関係を持ったオブフレッドは、ギレアデに抵抗する地下組織「メーデー」の助けによって司令官の家から逃亡した。果たしてオブフレッドは無事国外に逃げることができたのだろうか?離れ離れになった夫と娘はどうなったか?など読者に謎を残したままこの物語は終わっている。

15年後、3人の女性の証言

読者にとって、待望の続編“The Testaments”が9月に出版された。この続編はオブフレッドの逃亡から約15年後の3人の女性の証言によって構成されている。ギレアデの小母組織の頂点に立つ年老いたリディア小母の自筆の秘密文書、司令官カイルと妻タビサの娘アグネスの証言、そしてカナダで古着屋を営むニールとメラニーの娘ディジーの証言だ。読者はこの3人の証言を交互に読み進んでいく。

15年後のギレアデは、相変わらず司令官たち(国の創設者である「ヤコブの息子たち」のメンバーやその息子たち)によって支配され、政権内部の権力闘争や腐敗が顕著になりつつあった。そんな中、地下組織「メーデー」もその活動を活発化させていた。ギレアデ国内からカナダへ、迫害されている女性を逃亡させるための「地下道路」(underground road)がいくつも作られていた。15年前にギレアデからカナダにこのルートを使って連れ去られたとされる「赤ん坊のニコール」が、今では両国にとって象徴的存在になっている。ニコールはギレアデにとっては、国の威信にかけて取り戻さなければならない貴重な赤ん坊であり、カナダにとっては自由の象徴ということになる。ではニコールは今どこにいるか、そもそも実在したのかは定かではない。

リディア小母は生存中に銅像が建立され、ギレアデ国内では伝説ともいえる人物になっている。もはやあまり人前に出ることはなく、図書館にこもることが多い。が同時にギレアデ政権の諜報部門を統括している司令官ジャドとはホットラインを持つ盟友関係にあり、政権の中枢でまだまだ隠然たる政治力を持っている。そんなリディア小母は、昨今は図書館の自室で、政権内の隠匿された不正や暗い秘密、そして自分自身の忘れようとしてきた過去についても書き続けていた。アメリカ合衆国時代に家庭裁判所の判事だったリディア小母が、どのような経緯で他の女性判事たちのように殺されず、逆にギレアデ政権の中枢でのし上がってきたかを綴った回顧録のようなものだ。そして書き上がるごとに文書は注意深く図書館の本の中に隠されてきた。もしこの秘密文書がギレアデ政府当局に見つかれば、反逆罪で死刑になることは確実で、どうして自分がこんな危険なことをしているのかと自問しながらも、未来の見知らぬ読者に向けて、リディア小母の独白は続いていく。

アグネスは司令官カイルと妻タビサの一人娘として育てられた。タビサの愛情を一身に受けて育ったアグネスだったが、体が弱いタビサはアグネスが10歳にもならないうちに病気で亡くなった。カイルが別の司令官の未亡人ポーラと再婚すると、ポーラはアグネスを邪険に扱うようになった。ポーラの侍女が男の子を産んでからは、ポーラはアグネスを厄介払いしようと、まだ13歳の彼女を花嫁修業の学校へ転校させ、結婚相手を探し始めた。そのころから、アグネスが本当は逃亡した侍女の娘であるという噂が広まり、本人の耳にも届くようになっていた。家でも居心地が悪く、意に添わない結婚もしたくないアグネスは、リディア小母の助けで小母見習いになることで家を出ることになり、結婚を強要されることもなくなった。そして20歳になる今、ビクトリアという小母名になり、一人前の小母になる一歩手前にまで成長した。

カナダに住むディジーの証言は、両親だと思っていたニールとメラニーの突然の死の直後から始まっている。乗っていた車が爆発して2人が亡くなったというショッキングな知らせで動揺するディジーに追い討ちをかけるように、メラニーの女友達のアダは、ニールとメラニーは本当のディジーの両親ではなく、彼女を守るために両親を装っていた「メーデー」のメンバーだったとディジーに告げた。アダ自身も「メーデー」のメンバーだった。そしてディジーこそが、ギレアデからカナダに連れてこられた「赤ん坊のニコール」であると打ち明けた。ニールとメラニーが殺された今、ニコールにも、いつギレアデの魔の手が及ぶかもしれない。アダとディジーは「メーデー」の他のメンバーの助けで、逃避の旅に出た。

鍵を握るパールガール

そして物語は、次第にスパイ小説の様相を帯びてくる。「メーデー」はギレアデ政権の中枢に情報提供してくれる内通者を持っていた。その内通者からギレアデ政権の内部の腐敗を暴露する重要機密文書を受け取る手はずになっていた時に、情報の受け手であったニールとメラニーが殺害され、内通者との通信手段が破壊された。重要機密文書を受け取るために、罠かもしれないという危険を承知で、内通者の指示通りに、ディジーがギレアデに潜入することになった。

ギレアデの小母組織の階級には、「小母見習い」と「小母」の間に、「パールガール」という制度がある。小母見習いとして、小母になるためのすべての訓練を終えた若い女性は、最後の仕上げとしてパールのネックレスを授けられ、シルバーのドレス[3]を着て、2年間パールガールとして海外に派遣され、街頭でギレアデの広報及びギレアデ国教の布教活動をする。そして2年の任期が終わってギレアデに戻る時に、ギレアデにあこがれる若い女性を連れて帰ることになっていた。パールガールはその役目を終えると、パールのネックレスを返還し、晴れて小母となる。

ホームレスの少女に変装したディジーは、目論見通りパールガールに話しかけられ、その話に心動かされたふりをして、帰国するパールガールと一緒にギレアデに入国した。ギレアデでは、ディジーがニコールであることは、リディア小母とジャド司令官しか知らない最高機密だった。そしてギレアデで一緒になったリディア小母、ビクトリア小母(アグネス)、そしてディジー(ニコール)はお互いに深く関わりを持つことになる。

そして最後に、リディア小母に別れを告げて、パールガールの服を身にまとったアグネスとディジーは、ディジーの腕に埋め込まれた重要機密文書を記録したチップとともにギレアデを出国し、「メーデー」の支援者たちの手でカナダに入国する。

すべてが明かされる第13回シンポジウム

最後の章は2197年に開催されたギレアデ研究の第13回シンポジウムの議事録の写しの一部という設定になっている。2197年にはギレアデ共和国ははるか昔に崩壊し、アメリカ合衆国が復活している。マサチューセッツ州ケンブリッジのオークションに出品されていた古本の中から発見されたギレアデ時代のリディアという名前の小母によるものと思われる自筆の文書、そしてカナダの大学図書館のファイルの中から最近偶然発見された、地下組織「メーデー」の活動に関係していたと思われる2人の若い女性(父親の違う姉妹)の証言がシンポジウムのメインテーマとなっている。

この本を読み終えた時、『侍女の物語』の謎のほとんどは解ける。逃亡した侍女オブフレッドのその後の消息、彼女の生き別れの娘と逃亡後に出産した娘、そして生き別れになった夫の消息など……。そしてリディア小母、アグネス、ディジーの大活躍が、結果的には国の崩壊につながる大きなインパクトをギレアデ共和国に与えることになったことを示唆して物語は終わっている。

読者はこの続編を34年間待った甲斐があったといえよう。

[2]https://en.wikipedia.org/wiki/The_Handmaid%27s_Tale_(TV_series)
[3]ギレアデでは、女性はその役割によって服の色が決まっていた。パールガールはシルバーの服だが、この小説の表紙のイラストでは女性が若草色の服を着ている。若草色はもうすぐ結婚する若い女性が着る服の色で、アグネスは少女時代に春と夏はピンク、秋と冬は赤紫(プラム色)、日曜やお祝いの日には白い服を着ていたが、花嫁学校に転校させられてからは若草色になった。このほか、人妻はブルー、侍女は赤、女中は鈍い緑色、そして小母は茶色と決まっていた。

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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