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【NYのベストセラーランキングを先取り!】人間とVR世界で生き続けるアバターは共存できるか? ブックレビューfromNY<第62回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの62回目。今回は、2018年にスピルバーグ監督によって映画化もされた世界的ベストセラーの続編を紹介します。

仮想空間「オアシス」に残されていた画期的な新アイテム

2011年に出版されたアーネスト・クラインの処女小説Ready Player One(邦題:『ゲームウォーズ』)は100週以上ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストにランクインし[2]、2018年には、スピルバーグ監督によって映画化(映画邦題:『レディ・プレイヤー1』)された。このクラインの小説は、近未来である2040年代を舞台にしている。その時代、現実世界は今以上に環境問題、人口問題が悪化、政治は腐敗し、社会不安が蔓延していた。そして、人々はそのような現実から逃れるように、ジェームズ・ハリデ-が開発したヴァーチャル・リアリティ(VR)の世界「オアシス」に浸っていた。ハリデーが亡くなり、オアシスの所有権は、オアシス内で行われるコンテストで3つの鍵を探し出し、それを使ってイースターエッグを手に入れた人に継承させる、という遺言が発表された。数年にわたり、エッグハンター(ガンター)たちによる壮絶な戦いが繰り広げられた結果、パーシヴァルという名のアバター[3]として参加したウェイド・ワッツがイースターエッグを手に入れ、コンテストを制した。

2020年11月に出版された続編Ready Player Twoは、パーシヴァルがイースターエッグを手に入れた後、オアシスをログアウトしてから9日後に、ウェイドが再びパーシヴァルの姿になり、オアシスに現れたところから始まる。今はパーシヴァルの居城となったアノラック城内の書斎には、コンテストで獲得した銀のイースターエッグが大切に飾られている。9日ぶりにイースターエッグをしげしげと眺めたパーシヴァルは、以前見た時には無かった「GSS-13階-保管庫#42-8675309」という文字が刻まれていることに気付いた。ウェイドは急いでオアシスからログアウトし、現実のGSS(オアシスの運営会社)本社ビルへ行き、13階(書類保管階になっている)の該当の保管庫を開けたところ、アノラック城に置いてあるものと瓜二つの銀のイースターエッグが入っていた。指で触れるとエッグは二つに割れ、中にはヘッドセットのようなものが入っていた。このヘッドセット端末が、ハリデーが生前、秘密裏に開発した新技術だった。

オアシスにログインするためには、専用の装置に乗り、バイザーや手袋を装着する必要がある。それにより、ユーザーの手や身体の微妙な動きにアバターは反応する。ハリデーが開発した新しいヘッドセットでは、ユーザーが実際に手や身体を動かさなくても、頭の中で念じるだけで自由にアバターが動くのである。しかも、知覚、聴覚だけでなく味覚や臭覚も現実と同じように感じられる。それは、この端末がユーザーの《意識》をすべてコピーするからだった。ハリデーはこの技術を《オアシスと神経系のインターフェイス(ONI=OASIS Neural Interface)》と呼んでいた。そして、コピーしたユーザーの意識(知識、感覚、記憶された経験なども含む)は、許可があれば他人と共有することもできる。例えば他人の経験した一流レストランの豪華な食事を自分も同じように味わうこともできるのである。ONIは人類が今まで発明した最も強力なコミュニケーション・ツールであるとハリデーは確信していたが、オアシスのユーザーに広く普及させるべきか結論を出すことができないまま死んだ。そして、自分の後継者に、その決定を委ねたのだった。ウェイドは、今やGSSの共同経営者となった、ハリデーのコンテストを一緒に戦った仲間のサマンサ、エイチ、ショウトウとONI端末の商品化について話し合い、商品化を決定した。

《セイレーン[4]の7つの破片》とアノラックの反乱

案の定、ONI端末は爆発的な売れ行きとなった。そして、そのユーザーが7,777,777人に達した時、ハリデーの後継者宛に、《セイレーンの7つの破片》を探索しろ、というメッセージが現れた。ウェイドはメッセージの意図がわからず、あまりやる気が起きなかった。その間もONI端末は売れに売れて、ついに1日当たりのONIユーザーのログインは50億人に達した。

メッセージにあったセイレーンとは、キラ・アンダーウッド・モローを指していると思われた。キラは、ハリデーと一緒にオアシスとGSS社を立ち上げたオグデン・モローの妻で、数年前に事故で亡くなっている。かつてハリデー、オグデン、キラの3人はオハイオ州ミドルタウンの高校の同級生で、キラはイギリスからの交換留学生だった。キラは、オグデンとハリデーの両方から愛されたが、オグデンと結婚した。オアシスでのキラのアバター名はレウコシアで、これはギリシャ神話でセイレーンの姉妹の一人の名前だった。しかし、セイレーンがキラのことだとしても、そこから先はわからない。懸賞金付きで参加者に情報の提供を呼び掛けたが、めぼしい成果はあがらずお手上げ状態が続いた。

ONIの商品化から3年たったころ、セイレーンの破片の一つを見つけたという情報がウェイドに届いた。ローエングリンという名の賞金稼ぎからだった。パーシヴァル(ウェイド)は彼女に導かれて1989年のオハイオ州ミドルタウンに行き、寄宿舎のキラの部屋に入った。ローエングリンはそこで、空中に浮かぶ涙形のブルーのクリスタルを出現させることに成功したが、それは手でつかむことができず、ハリデーの後継者パーシヴァルだけが触れることができた。ついにセイレーンの破片を手に入れたウェイドは、そこに刻まれていた手がかりから2つ目の破片の探索を始めることにした。

そんな時、ハリデーのアバターであるアノラックが反乱を起こした。アノラックはハリデーの遺言執行人として、イースターエッグ獲得コンテストを取り仕切り、ウェイドがコンテストを制覇したことを承認してアノラック城を明け渡し、魔法の黒いローブもパーシヴァルに引き渡して姿を消していた。その彼が突然現れ、懐かしがって油断しているパーシヴァルから魔法のローブを奪い返した。そして、年を取って体力が弱っているオグデン・モローを誘拐したと言い、《セイレーンの7つの破片》を探し出して自分に渡さない限り、オグデンを解放しないと脅した。しかも、人質はオグデンだけではなかった。アノラックはONIのプログラムを変更し、ウェイドも含めONI端末を使ってオアシスに入っているユーザーを現実世界に戻れなくしたと言い渡した。 ONI端末の明らかな欠点は、12時間以上続けて使用すると、脳障害を起こす恐れがあることだった。すでにオアシスに入っているウェイドや仲間たちに残された時間は12時間もない。その時間内に残り6つのセイレーンの破片を見つけ出さなければならなくなった。

パーシヴァルと仲間たちは残りのセイレーンの破片を求めて、キラが大好きだったセガ・ゲームの世界、80年代の映画監督ジョン・ヒューズやロックスター・プリンスの世界、そしてJ・R・R トールキンの『シルマリルの物語』の世界などで、難しいチャレンジに挑んでいった。

一方GSS社の共同経営者で唯一、ONIの商品化に反対し、相変わらず従来のオアシス専用装具や装備を使っていたサマンサだけは、ONIのプログラム変更に影響されず、オアシスと現実世界を自由に行き来できたので、オグデンを助け出すために現実世界に戻っていった。

⚫︎ ハリデーの分身であるアノラックは、なぜハリデーの意に反する反乱を起こしたのか?
⚫︎ なぜアノラックは《セイレーンの7つの破片》に執着するのか?
⚫︎ パーシヴァルと仲間たちは7つの破片をすべて手に入れることができるのか? 
⚫︎ オグデンは無事に助け出されるのか? ユーザーたちは現実世界に戻れるのか?
⚫︎ 《セイレーンの7つ破片》が揃うと何が起きるのか?

人格と意識を持ち始めるアバター

人間と人工知能(AI)は共存できるか? というのはSF小説のホットなテーマだが、この小説では、さらに一歩進めて、人間とアバターが共存できるかをテーマにしている。ユーザーの意識をコピーして仮想世界のアバターに「人格」を与えるONIシステムは、アバターを単なる分身ではなく、独立した存在にしている。その意識とアバターが、ユーザーである人間から独立してVR世界で生き続ける可能性があるというのが、本作が突きつける命題なのだ。だからこそ、ハリデーは生前、ONIを完成させていながら商品化には踏み切れなかった。ウェイドを含めエイチやショウトウはまだティーンエイジャーで、そうした危険を深く考えずに商品化してしまった。一方、共同経営者のサマンサだけが慎重だったが、多数決でONIの商品化が決まったという経緯がある。

ハリデーのアバターであるアノラックもまた、ハリデーの死後、彼の意識のコピーによって生き続け、後継者探しのコンテストを取り仕切った。ゲームの世界ではプレイヤーの分身であるアバターをプレイヤーキャラクターと呼び、その他の背景となるようなキャラクターをノンプレイヤーキャラクター(NPC)と呼ぶが、ハリデー亡きあとのアノラックはプレイヤーキャラクターではないが、意思を持たないNPCでもない。ハリデーは、後継者が決まって引き継ぎが済めば、アノラックが自分自身を消滅させるようにプログラムしていたが、独自の人格を持ったアノラックはVRの世界で生き続けようとしたのだった。

ONIの普及したオアシスでは、人間の分身としてのアバターとNPC以外に、人間の意識のコピーによって自立して行動するアバター《デジタル化したプレイヤーキャラクター(Digitized player character)》が登場した。その結果、現実世界とVR世界の両方を行き来する人間と、VR世界でのみ自立して生きるアバターが共存していけるか、という難題に直面することになる。 この小説の最後で、ウェイドがこの問題提起に対して下した結論は、果たして……。 

著者について

アーネスト・クラインは1972年、オハイオ州生まれの小説家、映画脚本家[5]。小説Ready Player One (2011)、Armada(2015)を出版している。映画Ready Player Oneの共同脚本家。彼の小説は世界50か国以上で出版されている。クラシック・ビデオゲームのコレクターで、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のタイムマシン・カーとして有名なデロリアンを所有している。自称《オタク》[6]

[2]本書“About the Author”より。
[3]アバターとはネットワーク上の仮想空間でのユーザーの分身のこと。
[4]セイレーン(Siren)は、ギリシャ神話に登場する海の怪物の姉妹。上半身が人間の女性で下半身は鳥の姿とされるが後世には魚の姿をしているとされた。海の航路上の岩礁から美しい歌声で航行中の人を惑わし、船を遭難や難破させた。
[5]Ernest Cline – Wikipedia
[6]本書“About the Author”より。

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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