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【NYのベストセラーランキングを先取り!】ドラマチックなロマンス小説の名手・デビー・マコーマーが描く、日常的な“運命のいたずら” ブックレビューfromNY<第69回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの69回目。それぞれに離婚を経験したあと、巡り合った相手との交際には、致命的な困難があって……? アメリカと日本の、微妙な実情の違いも興味深いロマンス小説を紹介します!

6年前の泥沼の離婚劇

デビ―・マコーマーの最新小説It’s Better This Way の主人公ジュリア・ジョーンズは、6年前、53歳の時に、断腸の思いで31年間の結婚生活に終止符を打つ離婚書類にサインをした。大学時代に知り合った同い年の夫エディはハンサムでカリスマ的なプロゴルファー、すでに第一線は退いていたものの、メンバー制の高級カントリー・クラブ所属のプロであり、自身のゴルフ・ショップも経営していた。インテリア・デザイナーとして全国の住宅開発企業と仕事をしていたジュリアは、2人の大学生の娘にも恵まれ、仕事も順調、幸福な結婚生活を送っていると思っていた。だから、夫エディから付き合っている女性がいるので離婚してほしいと言われたことは、青天の霹靂としか言いようがなかった。

ジュリアは何とかエディに離婚を思いとどまらせようと、6か月の猶予期間を持つことを無理やりエディに承知させた。しかし、その6か月間、夫の気持ちを取り戻そうとするジュリアの努力は空回りし、一方、相手の女性ローラは、だんだん不安感・焦燥感、苛立ちを募らせていった。ついにローラは、ジュリア宛てに、いやがらせの写真やテキスト・メッセージを送るようになった。堪忍袋の緒が切れたジュリアは、ローラ宛てに応酬のメッセージを送った。そして、それぞれの母親宛てに相手から送られてきたメッセージを見て怒り狂ったジュリアの娘2人とローラの息子2人が大喧嘩するという事態に発展し、仲裁に入ったエディは、娘ではなくローラ側の味方をしたため、エディと娘2人は絶交状態になってしまった。この時点でジュリアは、離婚書類にサインする決断をしたのだった。

運命の出会いと運命のいたずら

離婚から6年がたち、ジュリアは落ち着いた生活を取り戻しつつあった。インテリアデザインの仕事は順調だったが、最近この会社を買いたいという好条件の申し出があり、そろそろのんびりしてもよいかと思い、非常勤のコンサルタントとして残るという条件で会社を譲渡した。非常勤になってから、ジュリアは毎朝マンションのフィットネス・ルームでエクササイズをするようになった。そして同じ時間帯に通っているヒースと顔見知りになった。

ジュリアとヒースは次第に話をするようになった。彼も離婚経験者で、1年ほど前にこのマンションに引っ越してきたという。子供は成人し、独立しているので独り住まいだ。離婚の原因は、妻が別の男性を好きになったことで一方的に離婚を言い渡され、同意したという。似た境遇のジュリアとヒースは、互いに共感するようになった。二人とも離婚後、おせっかいな周りの紹介でいろいろな人と会っては苦い経験をし、もう異性と付き合うのは面倒くさくてこりごりと思っているところまで似ていた。エクササイズの後、カフェで一緒にコーヒーを飲んだり、そのうち、一緒に食事をしたりするようになったが、あくまでも「デートではない」という姿勢を互いに崩さなかった。

しかし、ついに二人が次第にただの友達ではいられないと感じるようになった頃、二人の過去が交差していたことがわかった。それは、二人がこのまま付き合い続けることが不可能かもしれないと思われるほど深刻なことだった。ジュリアの元夫エディはヒースの元妻リーの再婚相手だったのである。ヒースはリーの再婚相手がエドワードという名前だと知っていたが、それがジュリアの元夫エディだとは思ってもいなかった。そして、リーの本名はローラだった。ヒースが元妻をリーと呼んでいたのは、ヒースの母の名前もローラで紛らわしかったからだ。

それぞれの母親と父親が付き合っている相手が誰だかわかったことで、ジュリアの娘ヒラリーとマリー、ヒースの息子マイケルとアダムは二人が付き合うことに大反対した。はたしてジュリアとヒースはこの2つの家族にまつわる致命的な困難を乗り切り、付き合い続けることができるだろうか?

日常生活のロマンスに見る日米の差

著者デビ―・マコーマーはこの新作の冒頭、読者へのメッセージの中で、この小説が《特別》である理由として、ここに書かれたことは、自分の友人に実際に起きたことを題材にしているからだと述べている。「私たちは、子供たちが成長し、独立していく時期になった。これからはパートナーとのんびり旅行したり楽しんだりするはずだが、友人の多くは、離婚したり、配偶者と死別したりで独りぼっちになっている。彼らは、そのような年になってから人生をやり直さざるを得なくなっている。そして、彼らが再婚すれば、子供たちにどんな影響を与えるかを私たちは見てきた」。 日本の中高年層の状況も同様で、離婚や死別などで独りになり、子供が成人した後の長い人生をどう生きていくか悩んでいる人も多いと思う。そのような人たちは、この小説のテーマに共感を持つだろう。

マコーマーは、普段は非現実的なロマンス小説の名手として有名だが、同時に、自分の周りで日常的に起きる出来事をベースにした女性が主人公の小説も書き、そのことが読者に支持されて、厚いファン層を形成する要因になっていると思う。

ところで、この小説、読み進めるにしたがって、日常生活の些細な出来事や感覚的なことについて、日本の実情との微妙な違いが見えて興味深かった。例えば、離婚前の6か月間、焦燥感にかられたローラがジュリア宛てに嫌がらせのメールや写真を送ったことは、日本であれば明らかにローラに非があり、法律的には妻であるジュリアが絶対的に優位に立つが、ジュリアは、そのことを法律的に問題にしていない。意外かもしれないが、アメリカでは妻が夫の浮気相手を訴えたといった話はほとんど聞かない。離婚はあくまで夫婦間のプライベートな問題であり、裁判所や公の調停機関に頼らず、弁護士を入れて夫婦間で解決していくという考えが基本にあるからだと思う。

別の例としては、この小説にはジュリアの姪(ジュリアの妹アマンダの娘)キャリーが登場するが、彼女は大学卒業から30歳になろうとするまで、どんな仕事をしても長続きせず、そのため経済的に自立できずに両親の家に同居している。そして、キャリー本人は独立しなければと焦り、両親も娘を早く自立させようと焦り、夫婦げんかの原因にもなっている。まだ30歳前の独身の娘が親と同居していることが、そんなに本人にとっても両親にとっても心配することなのかと、日本人は違和感を持つかもしれない。

極めつきは、これだけ自分の子供たちに付き合いを反対され、双方の子供たちが激しく対立しあうなかで愛を貫こうとするジュリアとヒースの姿勢だ。アメリカ人の個人主義では、「がんばれ!」と応援したくなるシチュエーションだが、日本人の感覚からすると、「いい歳して」と眉をしかめたり、ちょっと嘘っぽく感じたりするかもしれない。

アメリカでポピュラーなマコーマーの小説は日本ではアメリカほどの知名度ではないかもしれないが、それは彼女の小説がアメリカの日常生活に深く根差しているために、アメリカ人の読者を引き付けるようには、カルチャーの違う日本の読者にはなじまないからかもしれない。

著者について

デビー・マコーマーは1948年10月22日生まれのアメリカ人の小説家[2]。ディスレクシア[3](発達性読み書き障害)で、高校までの教育しか受けていない。しかし、ライターになりたいという意思は強く、ティーンエイジャーで結婚した後、4人の子供を育てながら、台所にタイプライターを持ち込んで原稿を書き続けた。ロマンス作家が集まるカンファレンスに発表した原稿が、ハーレクインの編集者から「改善の見込みがないので捨ててしまえ」と批判されたこともあったが、マコーマーはめげることなく、その原稿をハーレクインのライバル出版社であるシルエット社に送り、同社はその作品Heartsongを1984年に出版した。この小説は、ロマンス小説としては初めてPublishers Weekly誌[4]に取り上げられ、レビューされた[5]。以後、ロマンス小説作家としての名声は高まり、シルエット社のロマンス小説部門がハーレクイン社に買収されてからは、彼女の小説はハーレクイン社からも出版された。

次第に、現実離れしたロマンス小説に飽き足らなくなったマコーマーは、2002年にThursdays at Eightを出版して以来、女性の友情などをテーマにした小説を書くようになった。13の小説がニューヨーク・タイムズでベストセラー1位[6]となり、その他多くの小説が、ベストセラー・リスト入りを果たしてきた。クリスマスにちなんだ物語、ノンフィクションの料理本、子供のための本なども含め、世界中で2億部[7]が出版されている。

マコーマーのクリスマスにちなんだ物語やその他の小説はホールマーク・チャンネル[8]によって、テレビ・ドラマ化されている。

[2]Debbie Macomber – Wikipedia
[3]ディスレクシアは、1896年に英国のDr. Morganが最初に報告した文字の読み書きに限定した困難さを持つ疾患。知的能力の低さや勉強不足が原因ではなく、脳機能の発達に問題があるとされている。そのため発達障害の学習障害のひとつに位置づけられており、2013年に改定された米国精神医学会の診断基準(DSM-5)では、限局性学習症(いわゆる学習障害)のなかで読字に限定した症状を示すタイプの代替的な用語としてdyslexia(ディスレクシア)を使用しても良いことになった。読字に困難があると当然ながら書字にも困難がある。そのため日本では発達性読み書き障害と呼ばれることもある。
[4]アメリカの情報誌。購読層は出版社、司書、書店、著作権取引業に設定、1872年の創刊以来「本の出版と書店の国際ニュースマガジン」というキャッチフレーズを掲げ発行を継続してきた。年に51号を重ね、現在は書評に重点を置く。
[5]Barnes & Noble.com – Debbie Macomber – Books: Meet the Writers (archive.org)
[6]本書の “About the Author”ページ。
[7]本書の “About the Author”ページ。
[8]Hallmark ChannelはHallmark Card社の子会社。Hallmark Card社は、ミズーリ州カンザスシティに拠点を置く家族経営のアメリカ企業。ジョイス・ホールによって1910年に設立された米国で最も古く、最大のグリーティングカードメーカー。

佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。 1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。 佐藤則男ブログ、「New Yorkからの緊急リポート」もチェック!

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