本との偶然の出会いをWEB上でも

注目の「イスラム国テロ小説」とは?アメリカのベストセラーランキングと共に紹介!|ブックレビューfromNY【第9回】

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情。元CNNジャーナリストが描く、「イスラム国テロ小説」とは?今注目の一作をピックアップして紹介します。

小説と現実

この小説を読んだ読者は、2015年11月パリ市内と郊外サン・ドニのサッカー・スタジアムで起きた多発テロ事件、そして2016年3月のブリュッセル空港と地下鉄の爆破テロ事件を思い起こすに違いない。作者のダニエル・シルバが小説の構想を考えたのはこの2つのテロ事件が起こるはるか前で、事件が起きた時点でシルバはこの小説を執筆中であった。前書きで彼はこう述べている。「(2件の多発テロ事件後)原稿を据え置くこともしばし考慮したが、元の構想通り原稿を完成させることにした)[5]」また、同じく前書きでシルバは「現実の多発テロ事件と小説上のテロ事件の類似性は偶然としか言いようがない。予知していたなどと得意になるつもりは毛頭ない。」[6]とも述べている。巻末の「作者の覚書」では、はっきりとこの小説は「娯楽本でありそれ以上のものではない。」とも述べている。この小説の中で爆破事件が起こったロジェ通りはパリに実在するが、そこで爆破されたアイザック・ワインバーグ・センターはフィクションである。

本人は偶然だと強調しているが、ジャーナリストでもある作者はこの小説を書くに当たり、時間をかけて綿密なリサーチや現地調査、関係者とのインタビューなどを行っており、何らかのヒントはつかんでいたのだろう。だからこそ、フィクションでありながら読者に実際に起こった事件のような錯覚を抱かせる。ヨーロッパばかりではなく世界中がイスラム国のテロで揺れ動いている昨今、小説家としては絶妙なタイミングでの出版だった。
[5] “After briefly considering setting aside the typescript, I chose to complete it as originally conceived….”
[6]“The similarities between the real and fictitious attacks…are entirely coincidental. I take no pride in my prescience.


佐藤則男のプロフィール

早稲田大学卒。米コロンビア大学経営大学院卒(MBA取得)。1971年、朝日新聞英字紙Asahi Evening News入社。その後、TDK本社およびニューヨーク勤務。1983年、国際連合予算局に勤務し、のちに国連事務総長となるコフィ・アナン氏の下で働く。
1985年、ニューヨーク州法人Strategic Planners International, Inc.を設立し、日米企業の国際ビジネス・コンサルティングを長く手掛ける。この間もジャーナリズム活動を続け、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官らと親交を結ぶ。『文藝春秋』『SAPIO』などに寄稿し、9.11テロ、イラク戦争ほかアメリカ情勢、世界情勢をリポート。著書に『ニューヨークからのメール』『なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか?』など。

佐藤則男ブログ「New Yorkからの緊急リポート

 

記事一覧
△ 注目の「イスラム国テロ小説」とは?アメリカのベストセラーランキングと共に紹介!|ブックレビューfromNY【第9回】 | P+D MAGAZINE TOPへ