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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第1回>

第1回 『同僚が私の真似をします』
某月某日20:30、高座を終えた一之輔師匠と神保町駅で待ち合わせ。『師いわく』最初の打合せのため、予約していた居酒屋へ向かった。

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一之輔師匠(以後、師):(担当編集の髙成さんを見て)これ経費ですか? じゃあまずは「刺身五点盛り」!

次々に注文する一之輔師匠の様子を見て、髙成さんがあはは…と力なく笑っている。
ほどなくしてビールが運ばれて乾杯。一之輔師匠は満足そうだ。

師:まぁ、なんでも聞いてよ。大体のことはわかっているつもりだから、世の中のことは。

キッチンミノル(以後、キ):ありがとうございます!……師匠は先日40歳になられたんですよね。孔子いわく「四〇にして惑わず」なんてことばもありますが、師匠もいよいよ「不惑」に突入ということで。いやー、頼もしいなぁ。ちなみに、どのへんの質問なら得意とかってあるんですか?

師:そりゃもう全方位ですよ。やかんのススのとり方から、電子レンジの中の汚れのとり方まで、なんでも来い!…ですよ。

キ:得意範囲せまっ!…ていうか、おばあちゃんの知恵袋ですか!?

師:まぁ、世の中のカスというカスを取ってきたからね(したり顔)。だけど、オレだけに頼られても困るから。ニッポン放送だったり文春だったり、いろんなところで人生相談ってやっているから、深刻なのはそっちにおまかせして、「こういう意見もあるよ」ってくらいで、こっちは勘弁してもらいたいね。

キ:……急におよび腰ですね。ところでこれまでに誰かの悩み相談にのったりしたことってあるんですか?

師:ないね。

キ:ないんですか!?

師:みんな気をつかって相談なんかしてこないよ。オレ、忙しいからさ。

キ:いやいや、忙しいのは今だけでしょ!!

師:おい! 失敬な。……でも、そういえば昔からあまり相談されないなオレ。真面目な話ができないと思われているんじゃないのかなぁ。

キ:真面目な話、できるんですか?

師:できますよ。ちゃんと私の目を見てほしいね。

キ:(じーっと目を見て)けっこう疲れてますね……瞳に輝きが、ない。

師:だ・か・ら、忙しいんだって!

 

師に問う:
「会社の同僚が私の服装を真似してきます。服装を褒めてきたと思ったら、一週間後には似たような姿で現れます。服装がカブった日には周囲から「双子コーデだね」と言われ、「私のほうが先なんだよ」と腹が立ってきます。かつてよく職場に着ていったお気に入りの服は、いつのまにか休日専用の服となりました。そして今日も、ドヤ顔でファッションについてイイ女ぶって後輩に語る彼女に、静かに腹を立てています。どうして彼女は私の真似をするのでしょうか? 一之輔師匠ならこのストレス、どう乗り切りますか?」(匿名/女性)

 

師:……ああ、そういうの、芸の上でもあるよ。そのネタは、こないだオレが言ったことだろ…と。ちょっとウケたことを、真似して同じようなことを言ってみたりとかするヒトいるよね。オレが言ったことをなぞるなよ…みたいなね。

キ:その場合、師匠はどう思うんですか?

師:そういうときは“優越感”ですよ。ああ、この人はオレが言ったのと同じことを言って、そんなんでウケて喜んでんだな…と。じゃオレはその次、さらにその上を行ってやろうじゃねぇか!…と。

キ:でも、その場で笑っているお客さんは、もともと一之輔さんが言ったネタだということは知らないで笑っているわけですよね。

師:それはしょうがないよ。そのネタは確かにオレが先に言ったんだけど、オレはそのことには固執しない。もう次に行っちゃう。

なぜなら
「この駅はオレの停まるべき駅じゃない」
から。

キ:おお〜ッ!

師:桜台じゃないんだよ。練馬で停まる。

キ:…えっ? ……え?

師:オレは準急に乗ってるからさ…みたいな。

キ:たとえ話が西武池袋線なんですか!?
※西武池袋線…池袋駅(東京都豊島区)と吾野駅(埼玉県飯能市)を結ぶ私鉄。

師:おまえは富士見台で停まるんだろ、オレは石神井公園だから!…みたいなね。

キ:……なぜか都心から遠ざかっている。

師:その人に真似されたことによって、それはその程度のモンだったんだな…と思えばいいんじゃないかな。芸もそうだけど、他人が真似できないくらい飛び抜けてしまえばいいんだよ。

キ:飛び抜けちゃう。ドンドン先に行っちゃう。

師:そうそう。でも時々、元に戻ってみたりしてね。悔しがらないでいいんだと思う。それは本当は私が見つけたんだよ…っていう優越感。

キ:なるほど。

師:そのことをわかってくれる人はいると思うから。どこかに必ずいるよ。
だって開拓者のほうが偉いんだから。追随する人なんか気にしちゃダメ。ぜんぜん眼中にないよ!…って気持ちでガンガン先に行っちゃったほうがいいよ。
「どうせお前は北池袋で停まるんだろう? 俺は成増まで行っちゃうから!」みたいなね。

キ:今度は東武東上線ですか。それにしても、だいぶ先を走ってんなぁ……
※東武東上線…池袋駅(東京都豊島区)と寄居駅(埼玉県寄居町)を結ぶ私鉄。

 

師いわく:

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(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像1−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像1−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。
 
 

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