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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第2回>

第2回 『朝礼のスピーチが苦手です』
某月某日、神保町のとあるいつもの居酒屋で。酒はビールから日本酒に移り、お腹も満たされはじめた一之輔師匠に、これから50歳までの10年間の展望を尋ねてみた。

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キッチンミノル(以後、キ):50歳までにやっておきたいこととかってあるんですか?

一之輔師匠(以後、師):50歳までに?

キ:はい。あと10年です。「不惑」を迎えたのを節目に、40代の人生への展望みたいな……

師:わかんないよ、40歳になったばかりなのに今から言われても。でもまぁ、んー…そうだな。高尾山に登りたいんだよね、今年。
※高尾山…東京都八王子市にある山。都心から約1時間の好アクセスで人気。標高599m。

キ:(今年の目標になっちゃった……)へー、山ですか?

師:山とは無縁だったからねぇ……日本にはこんなに山があるのに。周りを見渡せば山ばかりでしょ。国土の7割は山だというのに、今まで登ったことのある山っていったら筑波山だけだもんね。
※筑波山…茨城県つくば市にある山。女体山は標高877m、男体山は標高871m。どちらも山頂まで行けるロープウェイやケーブルカーが完備されている。

キ:あはは、遠足で?

師:そう遠足で。2回。2回とも筑波山。
だからもうちょっと山登りしたほうがいいと思うんだよ、オレも。……ということで、ひとまず高尾山から。

キ:ひ、低い……しかも筑波山よりも低い!

師:低いけど、いきなり富士山とかは無理でしょ。

編集の高成さん(以後、タ):高尾山には、都心が一望できる絶景ビアガーデンがありますよ。

師:ますます行きたいじゃないの。

キ:山に登りたいと思ったきっかけって、なにかあったんですか?

師:きっかけねぇ……特にないけど、みんな言ってんじゃん! 「山はいいよー」って。よく聞くでしょ? だからさ、オレも山に登ったほうがいいかな…って。

キ:……はぁ。

師:汗かいて、いい景色を見て、弁当を持って行ったりなんかしてさ、子ども達と登ったら楽しいんじゃないかってね。そういう“アクティブなお父さん”像っていうのが、うちの子ども達にはないからね。

キ:確かに一之輔師匠には、野外で活動的な姿のイメージってないですよね。運動もできなさそうだし。……今さら、子ども達に“アクティブなお父さん”って思われたいんですか?

師:さらっと失礼なこと言うな。こう見えても元ラグビー部だぞ!

キ:一年で…

師:辞めたけどね。
まぁ、別にアクティブだって思われたいっていうんじゃなくて、自然に身体の内から湧き出てきたのよ。なんか「山登りしたい!」っていう感情がさ。だから今年は山、登っちゃうよオレ。どんなに止められてもね。
「やめてーッ、登らないで! いちのすけさ〜んッ!!」って言われてもさ。

キ:…つっても高尾山ですよね。別に誰も止めはしないでしょうけど。
それじゃあ、高尾山の先の先の先にある、目標とする山はどこなんですか?

師:まだ登っていないのに、そんな大きなこと訊かれてもねぇ。とりあえず、まずは高尾山を攻めてからだな。

キ:じゃ今度ぜひ、高尾山で人生相談しましょうよ!

師:ヤだ。山は山!! 山に集中したい。でないと高尾山師匠に失礼。ただ、ビール呑むだけ。

キ:……いっそ山の上で痛風になったらいいんだ。
 

師に問う:
「仕事場で朝礼があり、一言二言スピーチしなくてはなりません。ちょっと気の利いたことばを毎日求められるのが苦痛でなりません。この状況を打破するにはどうしたらよいでしょうか?  話のプロである師匠のアドバイスを願います!」(匿名 男性)

 

師:朝礼?

タ:始業時に朝礼をする会社、けっこうあるらしいですよ。「朝礼や社員全体会議を通じて会社のビジョンを共有する」企業は75.8%というデータ(厚生労働省/平成26年)がありました。

師:意味あんのかね。そんなのやって。

キ:それを言ったら経営批判になっちゃいますから! 相談の意味がなくなっちゃうので。何かいい方法はないですか?

師:経営批判ねぇ。相変わらず受け答えが真面目だね、お前さんは。
んー…、いい方法ねェ。

タ:そういえば、学校の校長先生用には「365日これを言え」みたいな朝礼用のネタ集が売っていますよ。それで、転校したら校長先生が前の学校の校長と同じ“体験談”を話している…みたいなことが起きちゃうそうです。

師:ヤだねぇ。
そうそう、高校の時の校長先生は、話が短くて人気があったなぁ。小河原先生ね。

キ:小河原先生!?

師:勢いで言うんだよ。運動会とかで校長先生の話ってあるじゃん?
「今日はいい天気です! みんなの想いが通じたからだ。健闘を祈る。以上!!」
  …てね。

キ:あはは、いいですね!

師:カッコイイでしょ、小河原先生。

キ:カッコイイです、小河原先生!

師:ね、それでいいんだよ。言いたいことをさ、三行くらいにして。俳句みたいなもんだよ。

キ:俳句!?

師:限られたことばを設定して、言いたいことを一つだけ決めてさ、その中で表現する。
あいうえお作文でもいいしね。つまらなかったらつまらなかったで流れて、その日は終わり! …でいいじゃない。

キ:あいうえお作文、いいですね。

師:そういう枠を設定しちゃうんだ、自分で自分に。
つまりさ、
「自由すぎるって、きついんだよ。」
内容だって、天気のことしか言わないとか、昨日テレビで見たNHKの桑子アナのことだけに限るとか。食べたご飯のことだけとか。なんでもいいから縛りを決めちゃう。

キ:なるほど。

師:「私はこれしかできません」ってさ。……笑いはなくていいです。型を設定することによって、周りも「この人はこういう人なんだな」って認識してくれるようになると思うよ。

キ:自分のスタイルを固めてしまうんですね。

師:……だけどさ、どう思う?

キ:何がですか?

師:あいうえお作文を作ってまでさ。

キ:……はい……?

師:朝礼って本当に必要なのかね。

キ:…………

 

師いわく:

師いわく第2回キメ画像

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像1−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像1−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。
 
 

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