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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第3回>

第3回 『自宅なのに居場所がありません』
某月某日、今日も神保町のいつもの居酒屋さんで。席に着くなり、一之輔師匠が「におい」について静かに語り始めた。
本日の質問は担当編集者の高成さんの悩みともリンクして展開していくことに……

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一之輔師匠(以後、師):……自分のウンコのにおいってなぜか耐えられるよね。

キッチンミノル(以後、キ):他人のはキツイですけどね。ちょっと前に誰かがトイレに入っていたなというのは、すぐわかりますからね。

師:そうなんだよ。でも自分のは平気なんだよ不思議と。
……なのにさ、いったんトイレの外に出てから戻ると、「クサッ」ってなるね。あれ不思議だよね。なんだろうね。外に出ると別人格になるのかな? 急に他人みたいな感じでよそよそしくなっちゃって、臭いんだよ。

キ:卒業した学校みたいな感じですか? 毎日通っていた学校なのに、卒業すると行きにくい感じがします。

師:うーん、まぁそんな感じかな。さっきまであんなにフレンドリーだったのに、いったんちょっと外に出ただけで、戻ってみると急にね。「どちらさまですか?」みたいなニオイ出しちゃってね。

キ:それ、どういう状況ですか!?

師:ほら、流し忘れてたりするじゃない。オレさ、毎回なんか寂しくなるんだよねぇ。

キ:……“毎回”って?

師:そう…何度も。よくある。

キ:いやいや、トイレの後はその都度ちゃんと水を流しましょうよ。

師:ほら、お前さんはまた正論を。
 

師に問う:
三年間の単身赴任から帰って来ました。これからは妻や子ども達と過ごす時間を大切にするぞと張り切っていたのですが、なんというか家に居場所がありません。食卓の席も既に決まっていたため、私の席は隅っこの、いわゆる“お誕生日席”になりました。そして妻子は私の知らないテレビドラマを楽しそうに観ています。私はどのように過ごしたらいいのでしょうか? (匿名/男性)

 

キ:ちなみに、一之輔さんは家庭ではどうなんですか? 家にいないことも多いと思うんですが。

師:ウチはまだ子どもが小さいからね。家にいれば「パパ〜」って寄ってくるけどさ。これから中学高校ってなっていったら、どうなるんだろうなぁ……
ただ、家の中では端の方に座ってヘラヘラしてればいいかなって。

キ:たしかに師匠は、御自宅ではあんまり喋らないですもんね。『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』の取材で伺ったときもそんな様子でした。
※『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』…小学館より好評発売中。

師:うーん…そうね。しょうがないよねって思っているからね。
でも、子どもたちには「お父さんがこんだけ稼いでいるから、こんだけ飯食えて、こんだけの家に住めてるんだぞ」ってことを理解させたほうがいいよね。データにしてさ。……そうだ、この方は自分主催で「お父さんお疲れ様会」をやってみたらどうだろう?

キ:自分主催で!?

師:「お父さんが頑張ってるから、おまえらの服が買えてっから。そのおかげで学校に行けてんだから」みたいに。
言わなきゃわかんねぇからね、やっこさんたちは。

キ:なんだか話が壮大になってきましたね。

師:ご飯とか服とか、どっかから勝手に運ばれてきてると思っているんですよ、子どもって。
オレも子どもの頃は同じだったもん。今思うとさ、子どもの頃、おふくろが内職していたんだよなぁ…ずーっと。ということは、ウチは貧乏だったんだなって昨日思ったの。

キ:なんだか普段より話に熱がこもっている気がしたら、昨日思ったばっかりなのか。

師:そういうのって大きくならないとわからないでしょ。

キ:わからないです。僕も一人暮らしして、ようやく親のありがたみがわかりましたから。

師:そうでしょ? だからお父さんが頑張って働いてきて、そのおかげなんだよ!…っていう発表会みたいなプレゼンみたいな。
「お父さんプレゼン!」、ぜひ! やりましょう。

キ:お父さんプレゼン……!?

編集の高成さん(以後、タ):ウザがられませんかねぇ……

師:そんなことないでしょ。……ウザがられるかなぁ?

キ:「お父さんはこんなに頑張っているんだよ」って本人から言われると、子どもからしたら、「いやいや、それは親の義務でしょ」みたいに思いませんか? お母さんはものすごく嫌な顔しそう……

師:(ハッとした顔をして)もちろんお父さんだけじゃなく、お母さんの頑張りも称えないとね。お母さんはもっと頑張っているから。

タ:お父さんがお母さんを称えることで、お父さんは自分のことは言わなくても「やっぱりお父さんってすごいね!」みたいな展開になったりは…

師:ない(きっぱり)。
それはまずないでしょう。

タ:この質問の方と同じように、家族のなかでのポジションに悩んでいるお父さんって結構多いんじゃないのかなぁ。私にはわかるんです。私も似たようなものだから。

キ:…と言いますと?

タ:私も最近、ずっと残業まみれだった生活を改めて、家族と過ごす時間を増やすために早く家に帰るように努めはじめたんですが……家ではすっかり邪魔者なんですよ。

師:切ないっすねぇ〜

タ:私が一人で晩酌していると、妻と子どもが楽しそうに私の知らないドラマを観ているわけです。この方と一緒ですよね。 私も仲間に入りたいから、ここの演出はどうとかこのテレビ局はどうとか言うんですけど、それがウザいみたいで。

師:あー、ウザいウザい。

タ:この前なんかそれ言ったらテレビを途中でバチッと切られて、みんな部屋を出ていってしまって。

キ:なんか目に浮かびます。

師:それはね、

「こねなくていい餅をこねている」

からなんですよ。

キ:な、なんですか?

師:餅つきのときに、つく人と合いの手を入れる人がうまく噛み合っているのに、この人が横から手を出してきて、ちょっかい出してくるから、なんだコイツ?…ってなって、相手はこの人の手をつきたくなるんですよ。

タ:ううっ……かまってほしいんです。

師:ちゃんと仲間に入れてほしいのなら、ちゃんとドラマを理解しないといけないんじゃないかな。それでみんなとおんなじ目線に立って、嘘でもいいから前のめりになって観ないと。業界人のおっさん視点で、この役者はああだろとかこの演出はどうとかって、夢の中にいる人にとっては本当にやめてほしいことなんですよ。

キ:しかも酔っ払ってる人が言うと…

師:「なに言ってんだよ!」ってなるでしょ。
やっぱり仲間に入れてほしいんなら下手に出ないと。子どもだってそういうときは「♪い〜れ〜て」ってやるでしょ? 友だちの名前も覚えてさ。

キ:ああ、確かに。

師:仲間に入れてもらう側には入れてもらう側の仁義があって、被害者ヅラをしていちゃダメということです。
この質問の方もそうですよね。どうしたらいい?…じゃなくて、仲間に入れてもらうためには、こちらからちゃんと仁義を切りましょう!
 

師いわく:

師いわく第3回キメ画像

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像1−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像1−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。
 
 

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