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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第8回>

第8回 『アラフォー世代の独身女性です』
なかなか3人の予定が合わず、今回の打ち合わせは昼時に小学館の会議室で実施することに。会議室へ向かう道すがら。今日も一之輔師匠の小言は止まらない。

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編集の高成さん(以後、タ):先日はご出演のラジオでも、『師いわく』連載のことを宣伝していただいて、ありがとうございました。

一之輔師匠(以後、師):いえいえ。どれだけ効果があるかわからないですけど。

キッチンミノル(以後、キ):そうなんですか? へー、ありがとうございます!
……そういう宣伝とかあると、やっぱりアクセス数ってバーっと上がるものなんですか?

タ:どうなんでしょうか? 今度調べておきます。

師:アクセス数? キッチンはまだそんなこと気にしてんの?

キ:え? ……ええまぁ。気になりませんか?

師:アクセス数なんか気にしながらやってちゃダメなんだよ。そもそも、そういう了見が良くない。

キ:気にするってこと自体がですか……

師:ブッダがさ…

キ:ブッダが!?

師:そう。ブッダがさ、説法するのにアクセス数なんて気にしてたと思う?
【編集部注】ブッダ…「仏陀」。サンスクリット語を語源とする「目覚めた人」、転じて「真理を悟った人」を表す。紀元前5世紀ごろの西インドで、ゴーダマ・シッダールタは悟りを開きゴーダマ・ブッダとなり、仏教をおこした。それが釈迦だ。

キ:…………

師:し・て・な・い・でしょ! 説法をする前に、人がどんなに集まるかなんて気にしてないの。ブッダが説法をしていたら自然と集まってきたの。小鳥や猿とか、鹿とかがさ。
……ちゃんと『ブッダ』読んだの?「口コミで頼むよ」なんてブッダは言ってた? 言ってないでしょ!
【編集部注】『ブッダ』…手塚治虫によるマンガ作品。ふたりの会話はどうやら“漫画の神様”の作品を基準に交わされているようです。

キ:……言ってなかったです。

師:そこですよ。……どうもキッチンは人間が小さいんだよなぁ。

キ:小さいですか…

師:小さすぎだよ。

キ:…………

師:良いことをやっていれば、自然とアクセス数は増えていくんです。
アクセス数なんてものに囚われることなかれ!

キ:おおー! なんか…ものすごく眩しい!
……そして、すごいドヤ顔!

師に問う:
師匠、私のモヤモヤした悩みを聞いてください。私はもうすぐ「アラフォー」と呼ばれる世代の独り身です。周りからすっかり「おばさん」扱いされ、好きなミュージシャンを答えると「若いですね」と言われる始末。だからといって、美魔女のような、とってつけた女性にも憧れません。これで、既婚者で子どもでもいれば、自分の存在を認めてもらえそうな気がしますが、単なるおばさんになった私を、誰が必要とするのでしょうか。こんな私は、これからどういう女性を目指せばいいか、師匠の渋い目線で教えてください。よろしくお願いいたします。(おはな/女性/37歳/大阪府)

 

師:ところで「アラフォー」って、いくつなんですか?

タ:一般には40歳の前後3歳、37~43歳とする場合が多いみたいですね。

キ:おはなさんは37歳なので、ちょうどアラフォーの入り口にさしかかった微妙な年頃ということですね。僕らのちょっと後輩です。

師:う〜ん。こんな心づもりで大丈夫かな?

キ:どういうことですか?

師:だって、まだ人生の半分じゃない。

キ:人生80年って考えると、まぁそうですね。
【編集部注】…現在、日本人女性の平均寿命は87.14歳です。ちなみに男性は80.75歳。(厚生労働省/平成28年簡易生命表より)

師:そう。これから長いよ、この先が。「アラフォー」とか言っている場合じゃないよ。

キ:まぁ、もう半分あると思えば……そりゃあ長い。

師:この方は会社員なの?

キ:おそらく。つまり「会社員」以外に自分の肩書きみたいなものがないってことを言っているようです。

師:肩書きねぇ……

キ:美魔女を目指すつもりはないみたいですね。

師:美魔女なんかに憧れる人なんて、ロクなもんじゃないよ。

キ:コラコラ!

師:あれは職業ですからね。プロですから、美魔女って言われている人たちは。
美魔女の“ビ”は、ビジネスの“ビ”だから。

キ:ビジネス?

師:そうだよ。ビジネス魔女。

キ:それでビ魔女ですか……そうですか。
(笑ったほうがいいのかわからず中途半端な相槌を打ってしまった……いかんいかん)
まぁでも、この方は憧れてないみたいなので、とりあえず大丈夫ですかね?

師:大丈夫!

キ:……(美魔女に対してひとこと言いたかっただけなのか?)

師:この人は「どういう女性を目指せば~」って書いているけどさ、羨ましいよ。……オレ、なりたいなぁ。

キ:え? なににですか? 37歳の女性に…ですか?

師:うん。働いていて、それなりに自由になるお金もある……別に「結婚したい」とは書いてないんでしょ?

キ:そうですね……そうは書いてないですね。

師:いいじゃん! だからもう兼好法師みたいに生きていけばいいんだよ。“徒然なるまま”にさ。

キ:今から山にこもって隠居生活を……?

師:いや、隠居というよりもさ。自由に好きなように生きたらいいんだよ。そんな人、今の世の中いっぱいいるよ。神保町の交差点で石を投げたらぶつかるよ。この小学館の建物の中にも腐るほどいるんでしょ! バカみたいに。

タ:……(困惑した表情)

キ:また口が悪い!

師:つまり、あ・な・たは、特別な人間じゃない!…ですから。

キ:急になんですか!? 「私は特別な人間です」とはこの人、書いてないですけど……??

師:「自分ばっかり損している!」とか、「私は何でこんな目に遭っているんだ!」とかさ、考えないほうがいいんだよ。あなたみたいな人は山ほどいるから。

キ:いきなり昭和の小言オヤジみたいな言い方して、どうしたんですか?

師:……だって「渋い目線で教えてください」って書いてあるから。

キ:それでですか。というか、そもそも師匠って渋い部類に入るのですか?

師:知らないよ! そんなこと。

キ:う〜ん、この人は、ただ誰かに認めてもらいたいだけなのではないでしょうか? 単純に、誰かに認めてもらいたい、必要とされたい、だけど今はそういう人もいない。…という感じなのかなと。

師:この方はわざわざ質問してくるってことは、「誰かに必要とされたい」っていう気持ちは本気だよね?

キ:本気だと思います。切実だと思います。

師:それなら、いっそ 自分の土俵をつくってしまえ ばいいんだよ。

キ:ど、土俵!?

師:そう、土俵。自分ちの庭にさ。

キ:比喩じゃなくて……本当に土俵をつくるんですね?

師:それで「ここに女性が上がれる土俵があります」って看板を掲げるの。

キ:ああ。相撲の土俵は女人禁制だということで、ちょくちょく騒ぎになりますからね。4月にもそんなニュースがありました。

師:だろ?

キ:……え? だから自分で土俵をつくるんですか? 女性が上がれる土俵がないから。

師:そうだよ。大阪には土俵に上りたい一心で、自ら土俵をつくりあげてしまった女性がいる!!…って噂になるでしょ。

キ:噂になりますかね……

師:なります!
ちゃんと土の中に昆布とか埋めて、土俵を浄めて安全を祈る「土俵祭」もやっちゃいましょう。そうすればわんさか人が集まるよ。女性だけでなく、土俵に上がりたい老若男女が!

キ:はぁ……

師:まさか女性のための土俵があるなんて!…って口コミで広がるね。テレビの取材も来ちゃうよ。元大阪府知事の太田房江さんも呼びましょう!
キッチンも写真撮りに行けばいいじゃん。
【編集部注】太田房江…政治家。2000年から大阪府知事を2期8年務めた。その間、府立体育会館で開催される大相撲春場所にて、大阪府知事賞を知事自身が優勝力士に贈ることを望んだが、女人禁制を理由に相撲協会から拒まれ続けた。

キ:…………

師:それか今なら、キャバクラヨガなんてのもいいんじゃないの?

キ:林文科相の?

師:そうそう、「キャバクラヨガ」って単語だけで、日本中があんなに盛り上がったんだよ!
「えっ! なになに、世の中にはキャバクラヨガってものがあるの? いったいどんなことやってるんだ??」…ってさ。いろんな人がいろんな想像して、日本が少し華やいだでしょ?

キ:まぁ確かに、かなり話題になりましたね。

師:だけどすぐに、林さんが行ってた店は、我々が想像したようなものではないんだってわかってさ…

キ:一気にシュンとなっちゃった。

師:てことはだよ。いま本当にキャバクラヨガのお店を出せばさ! すぐに人気店だよ。世の中にまだなくて、だけど人々が待ち望んでいるものなんだから。
「誰が私を必要とするのでしょうか?」じゃなくて、「いま必要とされている人ってどんな人なのか?」を考えないと。ときには時流に乗ることも大事だからね。
どうでしょう? キャバクラヨガ店長をしてみては?

キ:それ、単純に師匠が行きたいだけでしょ!

師:じゃあ土俵をつくるか?

キ:……それもなかなかハードルが高いです。とりあえず、この方が何をやるかはひとまず置いておいて、世の中や周囲など相手に合わせて必要とされる人に変化していくってことが、これから大事になっていく…と。

師:そうです!
いきなり世間一般を相手になんてしなくていい。あくまでもキャバクラヨガは例えですから。やってほしい! …という気持ちがないと言えば嘘になるけどさ。
まずは会社で隣の席の人を観察する。そして、今その人には何が必要かを考え、それを実行する。

キ:うんうん。

師:それから、だんだんその範囲を広げていけばいい。あなた自身が自分の周りを見る目を変えれば、自然と周りのあなたを見る目は変わってきます。

キ:おおーッ! なるほど。うわ〜、師匠! なんかすごく真っ当な人生相談みたいです! うんうん。

師:そして……究極的には「川口浩探検隊」を目指せばいいと思ってる。

キ:……んん? なんですって? 川口浩探検隊?
すごい昔に、テレビでやっていた『水曜スペシャル』の??

師:そう。無きものを探して……そして、つくってしまう。本当はないのにまるでそこにあるかのごとく。観ている側も半信半疑なのにドキドキして。求めてしまっている。

キ:やらせ番組の元祖といわれている番組ですよね? ナレーションの煽り方がすごくて、ジャングルで出会うものは、すべて「我々に」襲いかかってくる、死が待っている、みたいなこと言って。蛇がうじゃうじゃ出たりして。どこまでが仕込みだったのかなぁ。今はなかなかこういう番組はできなさそうですよね〜!

師:キッチン。オレはさ、今とか昔とかそういう話をしてるんじゃないんだよっ!

キ:すみません……

師:ヤラセ? 大歓迎だよ! だってヤラセも含めて世の中に必要とされていたでしょ?

キ:そ、そうですね。

師:確かに再放送はされないけど、今でも川口探検隊が現れるのを待ち望んでいる人はいっぱいいると思うよ。心に冒険の火を静かに灯しながらね。

キ::…………(なんか遠くを見ちゃってるよ)

師:(低音の良い声で)それでいいんだよ……キッチン。

キ:は…はい……

 

師いわく:

師いわく第8回キメ画像

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像1−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像1−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。
 
 

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