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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第12回>

第12回 『中学生になったのですが……』
7月……子どもたちにとっては夏休みが待ち遠しい時期。花火…スイカ割り…ラジオ体操…そして宿題の自由研究。一之輔師匠にも少年時代の夏の思い出を尋ねてみた。そして、本日の質問者はなんと12歳の女の子から。少女のリアルな悩みに、大人として如何なる答えを導き出すか……?

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キッチンミノル(以後、キ):……いよいよ夏らしくなってきましたが。夏休みの宿題って真面目にやるほうでしたか?

一之輔師匠(以後、師):まったく。というか全然覚えてない。

キ:思い出の自由研究とか、一つくらいあるんじゃないですか?

師:う〜ん……そういえば小4くらいのときに、蚊の研究っていうのをやったなぁ。

キ:蚊の?

師:そう。蚊をいっぱい袋に集めてさ、その中に手を突っ込むっていう研究。

キ:……想像するだけで壮絶な研究そうですけど、どんなことがわかったんですか?

師:「すごく痒くなる」ということがわかった。

キ:いやいや、その程度のことなら、わざわざやらなくてもわかるでしょ! 蚊を集めて手を入れている時点で、蚊は血を吸うってことは知っているんだから。
もし小4になるまで「蚊に咬まれると痒くなる」ってことを知らなかったとしたらですよ、なぜその年齢まで知らずに過ごしてこられたのかっていう、そっちを知りたいですよ!

師:相変わらず理屈っぽい。
……ちゃんと時間帯を変えてやったんだよ。朝昼晩って。

キ:なぁんだ、ちゃんと研究しているじゃないですか。それで、それぞれの違いがやっぱりあったんですね。

師:……いや。朝に咬まれすぎて、昼以降はよくわからなかった。

キ:……

師:腕がボッコボコになっただけ。だから1日でやめた。

キ:なんか泣けてきますね。それで、その自由研究を提出したときの周りの反応はどうだったんですか?

師:それは提出していない。

キ:ん?

師:内々で納めたから。

キ:研究したことすら、誰にも言わずに?

師:そう。

キ:…………うーん。

師いわく第12回文中画像1

▲それなら鉄道の自由研究をすべきだったのではと思わせる、小4の頃の師の姿。(写真提供:川上家)

師:……いまなら寄席に一日中、毎日通って研究すればよかったなと思う。

キ:あっ、それは面白そうですね。

師:代演が多いのは誰だ…とかさ。「この人は土日に休みがち」とか、「漫談ばかりだな」とか。

キ:えっ……そういう研究!?

師:だって、演者に関して研究している人は、堀井憲一郎さんとかたくさんいるでしょ。一緒のことをやっても面白くないじゃない。だから、いろんな寄席に行ってさ、お客さんの反応の違いとか、携帯が鳴った回数とかさ。

キ:ちょっと視点を変えて見てみよう…ということですね。言われてみればそういうこと調べたら面白いかも。くだらないかもしれませんけど。

師:くだらなくていいんだよ。寄席ごとのお客のマナーの研究とか。一覧表を作成して、それぞれの違いを比較したり。

キ:落語家さんだけでなく、それを取り巻く環境まで含めて、なにか研究しようと考えたら、いろいろなテーマがありそうですね。

師:子どもだから。時間があるからできる研究だよね。売店でなにを売っていて、なにが売れているのかとかさ。

キ:そしたら毎日ずっと寄席通いかぁ。忙しい夏休みになりそうだけど、思い出に残る夏休みになりそうですね。

師:そうだろうけど、夏休みが終わるころにはさ……

キ:はい。

師:寄席のことが大好きになるか大嫌いになるか、どっちかだろうなぁ……
 

師に問う:
中学生になったのですが、スクール水着はワンピタイプがいいでしょうか? 上下わかれているのがいいでしょうか? 普通のやつがいいでしょうか?
来週、学校で買うので困っています。 (モン様ミッシェル/12歳/女性/静岡県)

 

師:……12歳! 中学生!? 若いね。

キ:そしてこの方、一之輔師匠の独演会に今年だけでもう3回も行ったと書いてありますよ。

師:将来が心配だなぁ。うれしいけど。

キ:ところで、スクール水着ってそんなに種類あります?

編集の髙成さん(以後、タ):それが調べてみたら、本当にいろいろあるんですよ。ネット検索したら、いまはセパレートのスクール水着も普通に売られていることがわかりました。

師:へぇ~! 

キ:ワンピースの水着も、昔のレオタードみたいな形だけではなくて、スカートみたいなフリフリがついているタイプや、短パンぽいのもあるし、逆にバリバリ競泳水着みたいなのもあって、かなりバラエティー豊かです。

師:いろいろあるもんですね。

キ:来週、決めないといけないみたいですが……

師:間に合わないじゃん!

キ:そうですね。

師:しょうがないけど。それでオレに決めてもらいたい…と?

キ:そうみたいです。

師:オレの好みを教えてくれってこと?

キ:そのまま答えたら、ちょっとおかしな空気になるので、師匠の娘さんがもし悩んでいたら…と想像して答えてもらえればいいのかなと。

師:別に、好きなものでいいんじゃないの?

キ:選択肢があるから悩むんですよね。

師:そうなんだよ。学校が決めちゃえばいいんだよ、こんなの。
……水泳の授業って今でも男女一緒なの?

キ:そうじゃないですかね。着替えるのは別だと思いますけど…

師:当たり前だ!

キ:モテそうなのを選ぶってことですか? もし娘さんが悩んでいたとしたら。

師:モテそうなのは選ばないな、絶対に。だってイヤでしょ、周りの男子からそんな目で見られたら。自分の娘がさ。

キ:変な虫がつくのはね。

師:もし自分で決められないのなら、お父さんに選んでもらうのがいちばんいいよ。

キ:そりゃそうですよ。真っ当な答えだと思います。

師:いちばんは自分で決めるべきだけど。

キ:そうですね。

師:間違っても、 オレが決めるのはおかしい! ……百歩譲って、自分の子どもならまだしも。

キ:師匠が決める必要は…

師:ないっ!
……赤の他人のおじさんがだよ、よその子のスクール水着を決めるってさ。

キ:冷静になるとおかしな設定ですもんね。ちょっと物議を醸すかもしれませんね。

師:そういうことはオレに聞かないでくれ! 間違っても「このスクール水着を着なさい」なんて言えないよ。

キ:素直に師匠が選んだ水着を着られても困りますしね。

師:なんかね……
この子に言っておいてよ、していい質問としちゃダメな質問があるんだよ…って。それでなくても今の世の中はピリピリしているんだから。

キ:そういう機微をわかってくれる子だといいですね。

師:大丈夫でしょう。オレの落語を聴いているんだから。

キ:でも師匠なら、たとえ不祥事があっても、謝罪会見でうまいこと言って、逆に評判が上がるタイプなんじゃないんですか?

師:そんな了見で謝罪会見なんてしたら、それこそ目も当てられないぞ。そもそも謝罪会見なんて、一生で一回もしない人のほうが多いんだから。しなくていいならしないで死にたいね。

キ:一度くらいは師匠が謝罪会見しているところ、撮りたいなぁ。

師:オイッ、人の話を聞け!

キ:……会見場に神妙な面持ちで独りで現れる師匠…記者たちが駆け寄って取り囲む…師匠は下を向いて立っている。……10秒ほどの沈黙ののち、ゆっくりと前を見据え、口を開こうとする師匠。……昨夜は寝ていないのだろうか…充血した目が事態の深刻さを物語る。……ついに静寂が破られた。ここぞとばかりにシャッターを切るカメラマンたち…目の眩むようなフラッシュの雨! それを遠目から撮るのもいいですね。……記者からの質問の矢が刺さる。そのとき、師匠の瞳からは……っ!!

師:こらこら… 

キ:うわぁ~~… そのあとの楽屋風景も気になるなぁ。
……広い部屋の片隅にポツリ…弟子たちは遠くから心配そうに師匠を見つめている…コップに注いだ水をそっと差し出すおかみさん…師匠が絞り出すように一言、「ごめん…」。
絵になるなぁ。謝罪会見の一日かぁ。写真集になるかも。どうかなぁ……

師:ちょっとちょっと、キッチンミノルさん。 

キ:はい?

師:……オレは完全に呆れてるぞ。

キ:…………

 

師いわく:

師いわく第12回キメ画像

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像2

(左)春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。

(右)キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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iwakuichinosuke@shogakukan.co.jp
 
 
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