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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第13回>

第13回 『つけまつ毛に、もやもやしています』
夏は薄着の季節。テレビや雑誌ではダイエットの特集が盛り上がる。若いつもりでも新陳代謝の悪くなった不惑の師匠も悩みは一緒。そして今回は大人の入り口に立つ16歳女子からの相談。おじさん二人が、思春期の女の子の気持ちを想像しながら、あーだこーだと考察していく。

師いわくメインタイトル

 
一之輔師匠(以後、師):……おなか減ったなぁ。

キッチンミノル(以後、キ):じゃあ、がっつり行きますか?

師:……だけど最近、太ってきたからなぁ。

キ:またですか?

師:そう、また。

キ:痩せたり太ったりと忙しいですね。今回は太るきっかけって、なにかあったんですか?

師:なにも考えないで呑み食いしてりゃ自然と太りますよ。きっかけもなにもないよ。そういうもんでしょ?

キ:え、ええ……

師:気をつけりゃ痩せるし……その繰り返しだよ。死ぬまで。

キ:死ぬまで……

師:だから今日、NHK『ためしてガッテン』の「計るだけダイエット」っていう表をプリントアウトして冷蔵庫に貼ってきたから。

キ:一之輔さんが折れ線グラフを書いている、あの紙ですか?

師:そう。2年に一回くらいのペースで出現する、あの紙。……まぁ太って痩せてまた太って。グラフを書いてはまたやめて。その繰り返し。

キ:太り続けるわけにもいかないですしね。

師:ほら、「♪ウエンワキ腹あんごーが〜」の人はさ…

キ:エルビス・プレスリーですね。そろそろ名前、覚えてください。

師:ドーナツの食べ過ぎで死んだんだよ。ドーナツ中毒で。

キ:へぇ……ドーナツ中毒っていうのがあるんですね。

師:最後の一言が「モア・ドーナツ!」だったんだから。

キ:すごいドラマティックですね。

師:……知らないけど。

キ:う、うそなの?

師:じゃあ「ノー・ドーナツ、ノー・ライフ」は知ってる?

キ:知らないです。なんだかタワレコのキャッチコピーみたいですけど…

師:違うよ。プレスリーのこの一言を、のちにタワレコがとったんだよ。

キ:はぁ……

編集の高成さん(以後、タ):シングルレコードのことをドーナツ盤って言いますからね。

キ:うまい!

師:…………

キ:(黙っちゃったよ……)
【編集部注】…「プレスリーはドーナツを食べ過ぎて死んだ」は都市伝説。おいしいドーナツは食べたら止まらないとしても「ドーナツ中毒」ではありません。

 

師に問う:
つけまつ毛、それは女を化けさせる必殺技です。「あれ、かわいくなった?」と思うとたいていの人はつけまつ毛をしています。
まつ毛は目に埃が入らないようにするために生えているのではないのですか。
なぜ人間は作られた美しさを求めるのでしょうか? 不思議で不思議でなりません。
もやもやするので師匠なりのお答えをいただけたら嬉しいです。
(アイアイ/16歳/女性/東京都)

 

キ:16歳、女子高生からのお悩み相談です。

師:オレはまつ毛が長いんでね。つけまつ毛をする必要ないんですけどね。

キ:はぁ。

師:子供の頃、マッチが何本乗るかって遊びをよくやったよね。3本くらいは平気で乗ってたよ。

キ:……はぁ、そうですか。

師:……

キ:ああ、すみません。その遊びを一度もやったことないんで、3本乗るのがすごいことかどうか、ちょっとわからなくて。

師:……がっかりだよ。

キ:上のきょうだいにお姉ちゃんがいることが大きいんですかね? ウチは兄貴だったので、まつ毛とかに関しては、二人してまったく興味がなかったと思います。

師:確かに、姉貴に「お前はまつ毛が長いからいっぱい乗るだろう」ってマッチを乗せられた記憶がある。

キ:異性のきょうだいがいるって異文化交流みたいでいいですよね。うらやましいです。

師いわく第13回文中画像1

▲姉が3人。末っ子の長男だった我らが師。(写真提供:川上家)

師:……そもそもつけまつ毛って、いつぐらいからなの? 昭和の頭くらいのムーランルージュでは、もうつけているイメージだよね。

キ:新宿にあったという劇場ですよね。
【編集部注】ムーランルージュ新宿座…戦前、新宿駅そばに存在した大衆劇場。オープンは1931(昭和6)年。

師:そうそう。ああいう派手な舞台に立たれている方は、つけまつ毛してるよね。パチッパチパチって。
……でも昔の吉原の花魁とかは、つけまつ毛してないと思うんだけど。

キ:江戸時代の美人画では、切れ長の一重ですからね。

師:つけまつ毛はかわいく見える人もいるけれども、明らかに長すぎで、いかにもつけていますって人がいっぱいいるでしょ。

キ:時々いらっしゃいます。

師:バサッバサッて、音がしそうな人もいるよね。

キ:まばたきだけで飛べる人いますよね。

師:いるかよッ! まばたきして飛んでる人なんて見たことないよ。バカか?

キ:いやいや比喩じゃないですかぁ。

師:オレは見たことない。

キ:他人には厳しいんだよなぁ……

タ:ネット検索したところ、つけまつ毛は日本発祥だと書いているページがありました。

師:あー、欧米へのコンプレックスの現れかぁ! まさに欧米の美女たちへの憧れがつくらせたものなんだ。
【編集部注】…マックスファクター1世がハリウッド映画のメイクアップ用に生み出したという説もあります。

キ:……さて質問は、「なぜ人間は作られた美しさを求めるのでしょうか?」ということです。

師:化粧も含め…ってことだよね。

キ:そうですね。アイアイさんは16歳だから、周りの友達が化粧をしはじめる時期なのかな? 週末に学校の友だちとばったり会ったときに、「あれ? このコ、ふだんよりかわいい?」と思ってよく見ると、つけまつ毛をしていた…みたいなことが多いのかもしれませんね。

師:なるほど。

キ:アイアイさんは化粧とかによって作られた美に対して懐疑的で、だからこそ、眼にゴミを入れないための器官として存在するまつ毛まで可愛くする必要はないのでは?…と思っているわけです。

師:それなのに、つけまつ毛した友達を思わず可愛いって思っちゃう。確かにそれはモヤモヤすんね。

キ:モヤモヤしますよね。

師:「不思議で不思議でならない」んでしょ?

キ:そうですね。

師:……学生ならそういうときはどうするんだっけ?

キ:……え?

師: 夏休みの自由研究があるじゃないか!

キ:……つけまつ毛の!?

師:そうそう。まずは普通のをつけてみてさ。観察したらいいんだよ。初めて自分につけまつ毛をしてさ、可愛くなるかもしれないし、ものすごい違和感を持つかもしれないし。そのときの気持ちを事細かくメモっておいて。
どちらにしても、それで町に出たらいいよ。

キ:あー、なんかドキドキしますね。

師:つけることによって何かが変わるわけでしょ!
周りの反応とかがさ。友達、親、いるかわからないけどきょうだいとか。そういうのも全部研究対象だから。

キ:すごいモテモテになっちゃったりして。
今はこんなに懐疑的なのに、夏休みが終わる頃にはもう、つけまつ毛なしには生きられなくなっていたりして。

師:だけど、つけまつ毛だけで周りの反応が劇的に変わりすぎて、なんかバカバカしくなってやっぱりいらないよ…ってなるかもしれない。

キ:ほうー、そうですね。

師:その研究結果には、この子の生き方が出てくるだろうから。もしかしたら想像を超える結果になるかもしれない。

キ:すごく深い研究になりそう! ぜひやってほしいです。結果がわかったら教えてほしい。

師:……だけどここで終わらないよ。一之輔的自由研究は。

キ:おお! まだ先があるんですね。

師:もう一歩、研究を進めてさ、つけまつ毛の長さを変えることで周りの反応はどう変わるのかも研究しようよ。

キ:なんですか、それ?

師:短いのから始めてさ、例えば1cmだと全く反応がない。2cmにしたら親がよそよそしくなった。…とかね。

キ:「つける・つけない」の問題から「つけまつ毛の長さによる世間一般の反応」へと、研究テーマが進んだんですね。

師:3cmになったら急にナンパされるようになったとかさ。それ以上に挑戦しようとしたら医者に止められたとか。5cmにしたら警官に職務質問されるようになったとかさ。
……他の人が伸ばしたことのない長さまでいくと、そこには誰も経験したことのない世界が広がっている。

キ:自分だけの問題だったのが、一般の問題に広がっていくわけですね!!

師:まさに。

キ:そこまでいったら「世界ビックリ大賞」レベルですよ!!

師:『木曜スペシャル』ね。
最後は電線と間違えた小鳥が止まりに来たりして、スタジオで披露しなきゃならなくなるかもよ。
【編集部注】世界ビックリ大賞…1980年代に日本テレビ『木曜スペシャル』で放映されていた番組。司会は愛川欽也。

キ:スタジオに放たれた小鳥が、収録のときだけなぜかまつ毛に止まらなくって。

師:なぜか巨乳の美女の胸に止まっちゃって、キンキンがはしゃいでる姿が眼に浮かぶよ。

キ:「オープン・セサミ!」って思わず叫んじゃったりして……いや、ないない。
【編集部注】オープン・セサミ…アラビアの説話『アリババと40人の盗賊』にある、宝物を隠した扉を開ける呪文「ひらけゴマ」。転じて「世界ビックリ大賞」で、美女がガウンを脱いで巨乳を披露するときの愛川欽也氏のかけ声。

師:いやいや、そんなのわからないぞ。まだ誰も見たことのない世界なんだから。

 

師いわく:

師いわく第13回キメ画像

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像2

(左)春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。

(右)キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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