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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第22回>

第22回 『新鮮な気持ちを失わず、仕事に取り組みたい』
今回のお悩みは、仕事への心構えについて。誰もが各々の仕事のプロとして挑み続けるなかで共感するであろう、あの悩みに答える一之輔師匠。日々落語に向き合う師匠の言葉はどう響くのか……

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キッチンミノル(以後、キ):……季節も夏から秋へシフトして来ていますが、「秋になったらこれは必ず食べたい!」っていうものはありますか?

一之輔師匠(以後、師):戻りガツオ! 11月に高知で独演会やるんだよ。食いたいよね〜。

キ:それは美味しいでしょうね〜。高知はカツオが有名ですからね。土佐の一本釣り! また、その時期は高知での戻りガツオの旬ですもんね!!

師:そうそう、あとはなんと言ってもサンマ!!

キ:いいですね〜。脂ののったサンマ。想像するだけでもよだれが出てきそうです。

師:この時期、サンマは週二回は食うよ。かみさんも好きだからね。朝からサンマよ。

キ:朝から! 骨が多いですけど、子ども達も平気なんですか?

師:大丈夫みたい。半分ずつだけど、よく食べるよ。

キ:サンマはどうやって調理するんですか?

師:そりゃ塩焼きだろ。悪いけどオレは、豊島区でサンマの食べ方が一番うまいよ。
【編集部注】…東京都豊島区の人口は約29万人。

キ:別に悪くはないですけど、豊島区で一番とは! 言い切りましたね。そこまで言うなら、上手に食べるコツがあれば教えてください。

師:とりあえず全部食うんだよ。固いところも全部。

キ:全部…え〜と、それって食べ方が上手っていうよりも、胃が強いだけというか…中骨も食べちゃうってことですか?

師:それは残さないと。礼儀として。

キ:……礼儀?

師:そりゃあ食おうと思えば食えるよ。だけどさ、そこは礼儀だから。

キ:う〜ん、誰に対する礼儀?

師:サンマ師匠。
……魚のサンマに敬意を表して。「師匠」は敬称ね。

キ:はぁ、敬意ですかぁ……でも確かに、お皿に残ったまっすぐな中骨はきれいだ
なぁと思います。

師:おうよ。

キ:……そういえば師匠は「目黒のさんま」を演っているイメージがあまりないのですが?

師:そうね。あまり演らないよね。年に一回かけるかどうか。

キ:なにか理由でも?

師:オレのバージョンは、他の人たちがやるのと違うんだよ。単語が多いの。だからめんどくさいの。

キ:へー。そう言われるとなおさら聞いてみたくなります。

師:それに、そんなに面白くないんだよね。

キ:あぁ、そうなんですね……

師:……おい。

キ:はい?

師:「そうなんですね……」っじゃねーよ!

キ:え!? あ…すみません。

師:びっくりしたよ。そこは普通、「いやいや、そんなことないと思いますよ」って答える場面でしょ。それを素直に、なるほどって…

キ:なにしろ聞いたことなかったんで、本人が言っているので単純にそうなのかなと思って…違うんですか?

師:違うでしょ、そこはさ! ここまでくると素直なのも考えものだよね。

キ:……話をそのまま聞いていればいいってものじゃないんですね。

師:そう。「素直が一番」ってあれ嘘だから。

キ:嘘ですか……

師:素直すぎるヤツが横にいてごらん。すげー腹が立つから。

キ:あ〜、確かに。

師:バカ! お前のことだよ!!

キ:へいへい、すみませんでした。……もう、いちいちうるさいなぁ〜…

師:あ゛〜、今度はぜんぜん素直じゃないッ!

 

師に問う:
私は、学校で学生たちの相談を受けて対応する仕事に就いています。
自分で望んで就いた仕事ですが、時折、毎日毎日相手は異なっていても、同じように同じスタンスで対応している自分に、もっと真摯に新鮮な気持ちを失わずに取り組まなきゃと思いつつも、出来ていなくて落ち込みます。
プロなのだから、対応のクオリティを落とさずに、出来る限りのことを提供できるよう心掛けてはいますが、日々の繰り返しの中で、「あ、やっつけで対応してしまったな…」という瞬間が確かにあります。相談の内容がどうであれ、プロとしての仕事をせねばいかんなぁと日々反省し、試行錯誤を繰り返しています。
師匠は、日々落語に取り組む際に、新鮮な気持ちを失わないよう心掛けている事はありますか?
(はにまる/40歳/女性/神奈川県)

 

師:……同じことを思うこともあるよ。

キ:「やっつけ」になっているなぁと…

師:そうだね。

キ:そういうときはお客さんの反応は違うものなんですか?

師:そういうときでもさ、噺は毎回違うものだから、それなりの反応はちゃんと返ってくるけれど。

キ:やっつけになっていると思うかどうかっていうのは、お客さんの反応ではなく自分の中の問題だということですね。

師:そうそう。
……だけどそれがプロなんじゃないのかな。

キ:「やっつけ」でもやり続けるということがですか?

師:同じことの繰り返しを「やっつけ」と言ってしまうのか、「型」と言えるのかの違いだと思う。どんな落語の演目でも導入はいつも同じだったりするわけでしょ。そこから先でしょ、変わっていくのは。カウンセラーだって導入は同じで、そこから先どう転ぶかでしょ。

キ:カウンセラーと落語家は似てるんですね。そうか、「型」かぁ。

師:自分のスタイルと言ってもいいと思うけど。
「同じように同じスタンスで対応している」って書いてあるけど、これこそが自分の型ができているってことなんじゃないのかな。

キ:なるほど。

師:いつも異なる人が相手なのであれば、最初は相手がどういう人なのかわからないといけないんだから「同じように同じスタンス」で相談を始めるのは良いことだと思う。
落語と一緒で、最初は同じやり方で始めて、話をしているうちに今日のお客さんはこういう感じかというのを掴んでから、臨機応変に話に変化をつけていけばいい。

キ:同じやり方で話し始めるからこそ、相手の違いがわかりやすいってことですね。

師:そうそう。そこでの反応を踏まえて、その先はだんだんと型を破っていけばいいんだよ。

キ:そう言われてみると、私も取材で初めて会う人には、はっきり名前を言ってから名刺を渡すようにしています。名前に驚くだけの人もいれば、突っ込んでくれる人もいる。まったくスルーする人も。その反応によって撮影の進め方を、微妙ですが変えています。

師:それもひとつの型だね。きっとどんな仕事でも、その人なりの型があるんじゃないかな。
……だけどこの人の悩みは、最後まで変化をつけずに型どおりでやってしまうってことなのかな?

キ:そうかもしれません。毎日ではないと思いますが、時々そういう日があるって感じなのかもしれませんね。

師いわく第22回文中画像1

キ:それから「日々落語に取り組む際に、新鮮な気持ちを失わないよう心掛けている事はありますか?」という質問ですが……

師:新鮮な気持ち?
ないよ。むしろ高座に上がって落語をやっているうちに新鮮になっていくんだよ。

キ:……なんかサラッとすごいこと言いましたね。

師:だって毎日落語をやっているのに、最初からいきなり新鮮!…っておかしいでしょ。常に新鮮なところから走り始めるヤツは逆にヤバいよ。

キ:……ヤバい?

師:常に新鮮なヤツって、要するに「おぼつかない」ってことだからね。
最初は新鮮じゃなくていいのよ。話が進むにつれて新しい展開があったり発見があったりして、どんどん新鮮に感じるようになるわけ。

キ:なるほど…言われてみれば、そうですね。師匠の落語が進化し続けているとこちらが感じるのは、そういうところにあるんですね。

師:「噺とダンスを踊る」ってよく言うんだけどさ。

キ:……噺と…ダンス?

師:そう。

師:ダンスって、たくさんの女性の中からパートナーを一人選んで踊るわけでしょ。

キ:はい。

師:最初は型どおりに踊る。そうしないと相手もどうしていいかわからないから。それで徐々にノッてきたら、緩急つけて踊ったりする。すると、周りの人がワーッて拍手喝采してくれるわけ。

キ:なるほど。

師:落語だって同じ。たくさんの噺の中から一つ選んで、最初は型どおりに始めて、お客さんの様子だったり天候のことだったりを感じながら、だんだんノッてきらた緩急をつけたり、アドリブ入れたり、噺とダンスをするように相手(噺)を気持ちよくさせるように導く。独りよがりにならないように。

キ:うわぁ〜、なるほどなぁ。最初は型から入ってお客さんの雰囲気を掴んだら、その流れの中で噺を展開していくのか。お客さんの気持ちから離れないように、噺を壊さないようにしながらだんだんに自由になっていく。いつもの噺が、途中から新しい噺になっていく、だから新鮮に感じられるんだ。

師:ええ、そうなんです。じつは高座でクルクル回ってるんです、オレは。

キ:「噺とダンスを踊る」かぁ……すごい名言だ! ちなみに、これは誰がおっしゃった言葉なんですか?

師:なんでだよ、オレだよ!!

キ:あはは、師匠でしたか。心に響く言葉だったので、てっきり代々語り継がれてきた名言なのかなと。

師:おいッ!

キ:「噺とダンスを踊る」かぁ……これってはにまるさんのお仕事にも通じるところがありそうですね。

師:あると思うよ。毎回新しい学生さんとダンスするつもりで。最初は自分の型を守りつつ、次第に相手に寄り添い、導いていく。

キ:そして新鮮な気持ちで学生さんと対峙していく!

師:一度うまくいかなくてもまた次がある。この人は試行錯誤を日々続けているんだから大丈夫。新鮮な気持ちなんて後からついてくるから。
……だから、最初に相談しにくる学生さんと目が合ったら心の中でこうつぶやきましょう。
「Shall we dance?」と。

キ:日々、学生さんをダンスに誘うようにかぁ。はにまるさんも型を大事にして、今よりもっと新鮮な気持ちで踊れるようになるといいですね。

師:そうだね。ファイト〜!

キ:……いや〜、今回は師匠の「噺とダンスを踊る」という名言に震えました。

師:震えた?

キ:はい。そういう気持ちで高座に上がって噺とペアを組んで踊り続けたからこそ、「ザ・一之輔落語」が生き生きと私たちに迫ってくるんだなぁと。震えの余韻がまだ残っています。

師:じゃあ200円ね。

キ:はい? お金をとるんですか?

師:あたりめーだ、空港のマッサージチェアだって震え料を取ってるじゃねーか。

キ:…………

 

師いわく:

師いわく第22回キメ画像

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像2

(左)春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。

(右)キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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