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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第28回>

第28回 『ライブで地蔵化します』
池袋の個室居酒屋で待ち合わせ。「疲れた疲れた」と言いながら、少し遅れて一之輔師匠登場。地方の落語会が終わって駆けつけてくれた。

新ヘッド

一之輔師匠(以後、師):疲れた〜…

キッチンミノル(以後、キ):今日はどんな落語会だったんですか?

師:岐阜県の長良川国際会議場っていう1500人も入るでっかいホールで。

キ:鵜飼いで有名な長良川ですね。一度、取材で撮影したことありますよ。

師:そうそう。鵜が鮎を食ってゲーってするやつ。

キ:ちょっと! 確かにそうだけど、もっと別の表現の仕方があるでしょうが……

師:それで、オレが楽屋に入るやいなや、スタッフの人が「部屋にあゆの香りが残っていてすみません!」って言うんだよ。

キ:えっ、楽屋が鮎の香りなんですか? 長良川の?

師:嗅いだら確かに甘ったるい匂いがするの。

キ:あ〜、鮎には独特の香りがあるっていいますもんね。

師:前日にライブがあって、同じ楽屋を使ったんだってさ。すごくない? あゆと一緒の楽屋。

キ:ライブ!? 鮎の? ゆるキャラか何かですか?

師:ちがうよ! 「鮎」じゃなくて「あゆ」。浜崎あゆみのコンサート!!
……オレも最初は間違えた。

キ:あー! もう、紛らわしい!!

師:……でも奇跡的だよね。長良川であゆのコンサート。

キ:確かに前日に浜崎あゆみがそこにいたと思うと不思議な気持ちになりますね。

師:なんかね。特に香りが残っているから生々しい。

キ:ということは浜崎あゆみのライブでのつかみの第一声は…?

師:(両手前に出して振りながら)「長良川のあゆだよ〜!」でしょ、きっと!

キ:ですよね〜

師:まぁ間違いないだろうね。

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師に問う:
ライブで地蔵化します。
大好きなミュージシャンのライブで曲に合わせて手を振ったり踊ったりするのが苦手です。ライブ自体は楽しんでいるけど、棒立ち(地蔵)です。身体を動かすと意識が舞台上ではなく自分の動きに行ってしまうのがしんどいのです。音楽の楽しみ方は人それぞれだからなんでもいいとは思うのですが、ノリノリで踊りまくっていた人の表情をライブ後に見ると、とってもスッキリ爽快な顔をしています。眩しいです。羨ましいです。地蔵の私はニヤニヤしながら静かに思い出を持ち帰るのが精一杯です。いつか、踊りまくってスッキリ爽快な顔をしてみたいです。どうしたら地蔵状態から抜け出せるでしょうか。
(匿名希望/女性/39歳/東京都)

 

師:あはは。「地蔵化」っていいね。オレもこの人と一緒。オレが答えを聞きたいくらいだよ。

キ:私も同じですね。ライブとかで周りの目を気にせずタガを外せる人になれたらどんなに楽しいかと思っていても、どこか冷静になってしまっている自分がいるんですよね。それとリズム感が決定的にないんです、私は。

師:キッチンはリズム感のカケラもないよな。

キ:他人に言われるとカチンときますが……まぁ事実なんで。だから手拍子とかリズムに合わせて踊るみたいになるとズレないようにズレないように、細心の注意を払うんです。そうなったらもう全然楽しくない。部屋で一人で踊っているのは楽しいんですけどね。

師:部屋で一人で踊ってんの? 気持ち悪い。……キッチンみたいなリズム感のない奴はライブ行っちゃあダメでしょ!

キ:いやいや行くのはいいでしょ! なんスかその偏見は!! 運動神経が悪い人でもサッカー見てもいいでしょ! 自分ができないからこそ感動するってこともあるんですから! 話し下手の人が落語を聞いちゃダメってなったら、寄席になんてほとんど誰も来ないっスよ。

師:オイ、それも偏見だろ! ……まぁ確かにキッチンの言い分も一理あるな。許してやる。

キ:……。落語会でも時々、「落語を今日初めて聞く人?」みたいな質問でノリノリで手を挙げられる人と、たとえそうであっても手を挙げない人とがいますよね。私は挙げない側だけど、きっと何も考えずに手を挙げるほうが楽しいんだろうなぁとは思います。

師:そうだよね、きっと。

キ:匿名希望さんもきっとそう思っている気がします。踊っている人をみて眩しがって羨ましがって見てしまっているわけだから。

師:オレも時々だけどライブに行くことがあるけど、いつもどうしたらいいかわからないなぁ。スタンディングだったりすると、とりあえず体を揺すったりするんだけど。その程度。

キ:なるほど。

師:盛り上がるとさ、拳を突き上げたりするじゃない? ワー!って。

キ:はいはい。

師:それでも完全には突き上げられない自分がいるよね。どこか恥ずかしいから、腕が伸びきらずに曲がっているというか。周りの人はどんな感じかなって気になっちゃって。

キ:わかるわかる!

師:だからさ、これからは一蘭みたいに個室ライブがあるといいと思う。
【編集部注】一蘭…福岡市創業のとんこつラーメンのチェーン。お客さんが味だけに集中できるようにカウンター席が個々に仕切られているのが特徴。

キ:隣の人を気にせずライブに集中できるシステムを作るってことですか?

師:ライブの臨場感がありつつも、隣を気にせずライブにのめり込めるわけ。

キ:なるほど。いいですね……だけど踊ったりするライブでは難しそうですね。このシステムってライブよりも落語のほうがぴったりな気がします。隣に座った人と笑いのツボが違うと気になって気になってしょうがないってことがありますからね。

師:臭かったりね。

キ:イビキかいてたり。

師:弁当食ってたり。

キ:オチを言っちゃう人がいたりね。

師:なんか寄席の客はひどい連中ばっかりみたいじゃねーか。バカにすんなよ!!

キ:いやいや。そういう人がたま〜にいるってだけで、バカになんかしてませんって。師匠も喜んで話にのっかってきてたじゃないっすか…。
それじゃあ手はじめに師匠の落語会で実現したらいかがですか?

師:そうね。主催者の人がやりたいって言ってくれればオレとしては問題ないよ。いきなり一蘭みたいな設えは難しいかもしれないから、ひとりひとりが海女さんみたいなゴーグルをつけたりするのはどう?

キ:すげーバカっぽいですけど、それなら前だけが見えるようになって舞台に集中できるかも。

師:……ライブ中に思いっきり踊れて楽しんでいる人って、他人からどう見られているとかをあまり気にしない人だよね。

キ:そうですね。そういう人が多いかもしれませんね。

師:オレみたいにライブに慣れてない人やキッチンみたいにリズム感のない人は、どうしても他人の目を気にしてタガを外すまでは盛り上がれない。

キ:そうなりますね。

師:でも他人の目を気にしなくていい家の中とかならキッチンは踊れるわけでしょ?
たぶんこの方も体を動かすときに他人の目を気にしすぎて心を解き放すところまでいけてないんだと思うんだ。ということはさ、他人の目を気にしない度胸をつける必要がある。

キ:そうかもしれません。でも、そう簡単に度胸がつくものではないと思いますが。

師:そりゃそうさ。だからちょっと荒療治が必要になってくるんだけど…

キ:荒療治?

師:そう。一之輔的荒療治。

キ:それは?

師:寄席で「待ってました!」の掛け声をかけてみる。

キ:寄席で贔屓の噺家さんが出てきたときに「イヨッ、待ってました!」とか「たっぷり!」とか言うお客さんからの掛け声のことですか? いやいや、それはハードル高すぎでしょ!

師:だから荒治療だって言ってんだろーが!

キ:それなら歌舞伎のほうが、まだシステムができていそうでやりやすそうなイメージがありますが?

師:ダメダメ。歌舞伎で掛け声をかける人たちは半分プロだから。あの人たちは「大向こう」ていうんだけど、歌舞伎が好きでそういう会に入れさせてもらってやってるんだから。急には無理なの。
【編集部注】大向こう…ほぼ日刊イトイ新聞に、「大向こうの堀越さん。」という記事があります。当事者御本人の貴重なインタビュー記事です。

キ:そこをいくと寄席で声出している人は勝手に…

師:言ってるだけ。フリースタイルだから。会とかルールとかは特にないから。逆に新規参入はしやすい。だから、すげぇ間が悪い人とかいるよ、時々。

キ:あはは、いるいる。

師:座って頭を下げてから「待ってました!」って言う人がいるからね。こっちは苦笑いだよ。

キ:どの世界にもタイミングの悪い人っていますよね。人のこと言えないけど。

師:さっきも言ったけど寄席はフリースタイルだから、勝手に声をかけたからって怒られるってことはないわけ。たとえタイミングが悪くても。

キ:なるほど。まぁ誰も気にしてないといえば気にしてないから掛け声をかけるハードルは思いのほか低いのか!

師:だから匿名希望は明日にでも寄席に行ってさ、出てくる噺家全員に「待ってました!」って声をかけてみたらいいよ。

キ:全員に……!?

師:前座からずっと、全員に。

キ:それはやっぱりキッツイなぁ〜

師:キツイけど、いっぺん羞恥心を捨ててやってごらん。かなり度胸がつくよ。寄席で度胸をつけたら、ライブなんてへっちゃらだからね。

キ:まぁそこまでできれば、ライブ会場で体を動かすなんて、確かに恥ずかしいことでもなんでもなくなるのか。匿名希望さんの周りでは他人の目を気にせずに踊っている人がすでにたくさんいるわけだから。そう言われてみれば寄席での掛け声よりは楽でしょうね。

師:そりゃあ、最初は失敗することもあるでしょう。だけど寄席は怒りませんから。匿名希望のホームグラウンドであるライブ会場で失敗するよりは遥かにいいでしょ?

キ:そ、そういうものですかね…

師:浅草にはさ、「たっぷりおじさん」っていう、まさにこれを実践しているおじさんがいるから。

キ:ええっ? 実際にいるんですか。懐が深いなぁ浅草は。

師:「待ってました! た~~っぷり!」って、独特の節回しで言うおっさんが。ほぼ全員に言うんだよ。

キ:ほぼ?

師:なぜか言われない人もいて…

キ:あはは、自分だけ言われなかったとしたら、それはショックだわ〜。

師:知らないおっさんの「たっぷり」に一喜一憂するオレがいて。……冷静に考えたらおかしな話だな、なんで知らないおじさんの「たっぷり」に振り回されなきゃいけねーんだよ! なんか急に腹立ってきた。

キ:あはは、まあまあ。ちなみに師匠はいつ言われるのが好きなんですか?

師:オレは出てすぐだね。扉が開いてすぐのところで言われると、けっこう嬉しい。そのお客さんはすぐに「待ってました!」って言いたくなるほど待っていてくれてたってことだろうから。

キ:なるほど。タイミングがいいと師匠も嬉しいんですね。噺家さんも言われるとテンションがあがるものなのだと知れば、少しは言いやすいかも。

師:なんなら、噺家の住んでる町名も言っていいから。

キ:「黒門町!」とかっていうアレですか?
【編集部注】黒門町…八代目桂文楽の住まいが黒門町(旧町名)だったため、そう呼ばれた。

師:そうそう。事前に調べておいて、全員に。
「青葉台!」とかさ、「綾瀬!」とか、「和光!」とか。

キ:やりすぎ!

師:言われた噺家たちは相当に警戒するだろうけどね。

キ:楽屋と客席を隔てている、あの細い格子窓から噺家さんたちが必死になって匿名希望さんのことを探すでしょうね〜。

師:「イヨッ、たまプラーザ!!」

キ:あはは。「どこだ… どこだ? どっちから聞こえた!?」って、楽屋では前座さんが右往左往だ。

師:でもそんなの気にしちゃダメだから。匿名希望が度胸をつけてライブで踊れるようになるためなんだから。あくまでも自分のためですから。あなたがライブで気持ちよく踊れるようになるのであれば、寄席を踏み台にしてもらってかまわないから。

キ:寄席を使って次のステップに行ってくれていいからと。ヨッ太っ腹!

師:おうよ。私もあなたのために寄席に出ますから。気持ちのいい掛け声を待ってますから! 頼んだよ!

キ:うわー、最後に畳みかけてきましたね。師匠に期待されるとそれはそれでよりプレッシャーだなぁ。でも一之輔的荒治療だからしょうがないのか……。ということで匿名希望さん、そういうことになりましたので、ライブで踊れるようになるまで頑張ってください!

 

師いわく:
師いわく第28回キメ画像

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像3−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
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キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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