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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第29回>

第29回 『「でも」「だけど」「だって」が口癖です』
去る11月23日は勤労感謝の日。ご存じの方も多いと思うが、一之輔師匠は3人の子ども達の父親でもある。師匠の日々の勤労に関して子ども達はどのように感じているのだろうか……?

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キッチンミノル(以後、キ):勤労感謝の日には、お子さん達からなにか感謝の気持ちを伝えられたりされたんですか?

一之輔師匠(以後、師):……ないね。

キ:まったく?

師:まったく。みんなお母さんのほうが好きだしね。

キ:あはは。なんでなんですかね?

師:なんでだろうね?

キ:お母さんだって、優しいだけじゃないでしょ?

師:そうだよ。怖いよ。

キ:お父さんは怖いだけなのかぁ……

師:なんでだよ。お父さんだって優しいときはあるよ。

キ:そりゃそうか。でも勤労感謝の日にも特に感謝されない…と。

師:勤労していると思われてないのかもね。よそ様みたいに毎朝ネクタイして出かけるわけでもないし。……だけど、オレはそんなの求めてないから。

キ:感謝を?

師:うん。

キ:子どもたちに感謝されるために勤労しているわけじゃないぞ…と。 

師:「いつもありがとう」なんて、子どもは本来そんなことは言わねぇーんだよ。

キ:まぁ確かに。だけど勤労感謝の日の前には学校で「働いてくれている親に感謝しましょう!」みたいなことを毎年言われてましたけどね。
【編集部注】…勤労感謝の日は、「勤労をたつとび、生産を祝い、国民がたがいに感謝しあう」ために、1948年に国民の祝日として制定されました。その年の五穀の収穫を祝う天皇の祭祀「新嘗祭」に由来します。なので本来は「働く両親に感謝せよ」みたいな意味合いはありません。

師:無理やり言わせるもんじゃないんだよ、そういうことは。大人になってから気づくんです。お父さん、ありがたかったなって。
……キッチンは思ってた? 親への感謝なんて。

キ:いや、思わなかったですね。ウチは母子家庭だったんですが、親のありがたみが本当にわかるのは大人になってからですかね。女手一つで二人の息子を大学まで出すってことの大変さがわかったから。

師:そうでしょ。「お父さんいつもありがとう。お母さんいつもありがとう」なんて言ってさ、週末ごとに首っ玉にかじりつくような子どもなんて気持ち悪いよ。

キ:あはは。そうですね。

師:恩なんて感じないんだよ、子どもは。

キ:はい。

師:生きているだけで必死なんだから、やつらは。それでいいんじゃないのかな。

キ:なるほどね。無償の愛ですか。

師:おうよ。

キ:でも、ことあるごとに「これはお父さんが働いて稼いだ金で…」って言ってますよね。

師:言ってるね。……昨日も言ったな。

キ:あはは。私も何度か、師匠がお子さんに言っている場面に遭遇してますけど…昨日も!

師:カミさんが遅くなるっていうんで、寿司を取ったんだよ。

キ:寿司! 豪勢ですね。

師:高級なのじゃないよ。「銀のさら」っていう宅配チェーン。とはいえ5人前で9000円くらい。

キ:普通に高い!

師:そうだよ。それでいっぱい食べたいって騒ぐからさ、「お父さんの金で買うんだから静かにしろ!」って。

キ:言っちゃったんですか?

師:言っちゃった。「いっぱい食べたい人は、大きくなって自分の金で買えるようになってからにしてください。申し訳ないですが!」ってね。

キ:あら~~

師:そしたらシュンって静かになって、納得していた。

キ:それは納得っていうか…

師:諦めだな。……そんなことを言うお父さんってどう?

キ:ちょっと尊敬はされないかもですね。もし私が師匠の子どもだったとしたなら、やっぱりお母さんのほうが好きかも。

師:冷静に考えると、オレもそう思う……
 

師に問う:
自分の口癖についてとても悩んでいます。
「でも」「だけど」という言葉を良いときにも悪いときにもよく使ってしまいます。例えば、「かぼちゃのこういうところがあんまり好きじゃない、でも、こういうところは良いなって思う」とか「ナスのこういうところ好きだけど、こういうところあんまり好きじゃないな〜」という感じです。「でも」「だって」は聞いている人があまり良い印象を受けない気がするので一刻も早く直したいのですが、意識していてもこの言葉がすぐに出てくるし、この言葉があまりにも便利で他の良い言葉が見つかりません。
話芸を生業にしている師匠にどうしてもお助けいただきたいです…。よろしくお願いします。
(ゆっちゃんもっちゃん/女性/20歳)

 

師:なんで、例えが野菜なんだろうね?

キ:さぁ?

師:なんかかわいい。
だけどさ、この例えだけに限って言えばこれでいいよ。問題ない。

キ:自分のことですからね。

師:ゆっちゃんもっちゃんは考え過ぎ。……または例を出すのが下手なんだよ。他の例を出したかったんだと思うんだ。だけどこれではちょっと伝わらないなぁ。言い訳的な「でも」「だけど」を相談したいんだと思うんだよ、本当は。

キ:あ〜…、怒られたときとかに思わず口をついてしまって火に油を注いでしまうやつですね。

師:それは失礼だからね。直したほうがいいよ。

キ:そうですね。きっとそういうことが言いたかったんだと思います。

師:ナスとカボチャに関してはオッケーです。問題なし。

キ:あはは、そうですね。そのまま使っていいですよね。

師:ナスの栽培業者は怒るかもしれないけど、問題ないです。

キ:ゆっちゃんもっちゃんさんは、ナスもカボチャもちゃんと食べてますから。栽培業者さんも消費者の率直な感想が聞けて逆に嬉しいかもしれませんよ。

師:怒りはしないか。

キ:たぶん。

師:じゃあ解決! ……はい、次の質問。

キ:いやいやちょっと待って。ここで終わらせたらダメでしょ!

師:なんで?

キ:ゆっちゃんもっちゃんさんが例え下手なところまで読み込んだんですから、その奥にある本当のお悩みを、ぜひ解決してあげてください。

師:めんどくせーなぁ。

キ:そこをなんとか! ……えーと師匠は、言い訳的な「でも」「だけど」の使い方は直したほうがいいよとおっしゃいました。

師:そうね。

キ:例えば、新しく入ってきたお弟子さんでこういうふうに言ってしまう人っているんじゃないですか?

師:いるいる。「でも」とか「だけど」とか「だって」なんて絶対言っちゃダメ!

キ:ですよね。

師:「お前、なんでそんなことしたんだ?」って聞かれて「でも…」って言うってことは口答えするってことだからね。それは厳禁。

キ:それを言った時点で…

師:終わりだね。オレたちの世界では「でも」「だけど」なんて言葉は目上の人に対して使う言葉じゃないからね。……ゆっちゃんもっちゃんはいくつなの?

キ:二十歳ですね。

師:まだ若いじゃん。

キ:そうなんです。まだ若いんです。それで、口癖になってはいるものの、使っちゃいけないなってことには気がついているんです。

師:気づいているのか。じゃもう十分。いけないことに気づいてんだから。世の中には気がついてない連中がいっぱいいるからね。

キ:……優しいですね、なんだか。

師:いや、だってそうでしょ。二十歳で気がついているってすごいことだよ。

キ:そうですね。

師:ゆっちゃんもっちゃんはさ、このまま使っていいよ。気がついているんだから。

キ:「でも」「だけど」を? 本当は良くないことに気づいているから、そのまま使っていい?

師:気がついているってことは、そのうち直るよ。直る一歩手前まで来ているワケ。それでも言ってしまうときはあるでしょう。そのときはそのときで、自分自身で「言っちゃった、しまった」と反省できるから。

キ:だからといって使ってよいわけでもなさそうですが…

師:このコもさ、いずれ社会に出ることになるでしょう。もう出てるのかもしれないけど。そのときに、思わず「でも」「だけど」を言ってしまった場面で、ちゃんと注意してくれる先輩や上司が現れると思うんだ。そしたら、その人は信用できる人なんだなと考えて、大事にすればいい。

キ:なるほどね〜。師匠からのアドバイスは、徐々に直していけばいいよ…と。

師:そうね。

キ:師匠の気持ちもわかります。ただ、それでもゆっちゃんもっちゃんさんの中では一刻も早く直したいという気持ちが強いんです。ゆっちゃんもっちゃんさんは若いですから。えてして若さというのは早さを求めるものですからね。

師:おまえ誰なんだよ! 偉そうに……う〜ん。一刻も早く?

キ:はい。便利な言葉として「でも」「だけど」を使っちゃっているみたいなんです。だから、便利さは変わらずに相手に不快な思いをさせない別の言葉が必要なんです。
そこで話芸を生業にしている一之輔師匠に相談してこられたわけです。

師:バッテ!

キ:な、なんですか?

師:バッテ!

キ:……

師:「but」と「だって」を組み合わせた造語。

キ:造語…?

師:今のキッチンみたいにいきなり「バッテ!」と言われたら、な、なんだ!?…ってなるでしょ。

キ:はい…

師:「え? なに?」ってワンクッション入るから、一拍おいて「それはですね…」って話しはじめればいいじゃない。

キ:相手が戸惑っているあいだに、口から出かかっていた「でも」「だけど」を飲み込むんですね

師:それか「サレドン」!

キ:さ、されどん?

師:なんかかわいい感じがするじゃん、「サレドン」。

キ:かわいいよりも「恥ずかしい」でしょ。そんなこと言ったら。普通に気味悪がられます。

師:いいじゃん。そこから話が膨らむから。

キ:話が膨らむかどうかは相手の度量次第だと思うんですけど……

師:それに、怪獣でこういうの、いそうじゃない?

キ:じゃない?…って言われても。……まぁ確かにいそうですけど。

師:二大怪獣「バッテ」と「サレドン」!!って。
帰ってきたウルトラマンにやっつけられそう。

キ:あはは。

師:「言い訳怪獣〈バッテ〉と〈サレドン〉現る!」みたいな。

キ:いいですね〜。

師:ウルトラマンタロウかどっちかだな。

キ:宇宙の彼方から「バッテ! バッテ! バッテ!」って飛んできて…

師:サレドンのほうは「されどん、もっとくれどん」とか言ってひょうきんな感じでさ。
酔っ払い怪獣「ベロン」みたいな。
【編集部注】ベロン…『ウルトラマンタロウ』第48話「怪獣ひなまつり」に登場。なお第43話「怪獣を塩漬にしろ!」には食いしん坊怪獣モットクレロンが登場します。

キ:怪獣のくせに酔っ払って『恋のダイヤル6700』を踊るやつだ!
【編集部注】…ちなみに第48回ではタロウまで踊ります。

師:山本リンダの『狙いうち』とかもね。最後タロウブレスレッドがバケツに変わって水をかけられて、タロウに連れていかれちゃうんだよね。

キ:それじゃ、ゆっちゃんもっちゃんさんは一刻も早く口癖を直したいならば、今日から「でも」「だけど」を捨てて「バッテ」と「サレドン」を使いなさい…ということで。

師:そういうことになるな。

キ:いや〜、今回も荒療治だなぁ〜。ウルトラマンの話題になって楽しくなってのっかってしまったけど、ゆっちゃんもっちゃんさんが実際にやるとなったらどうなるのかなぁ? 相手に不快感を抱かせることはなくなるかもしれないけど、なにか他に大事なものを失うような気も…

師:あのね。荒療治って言うけどさ、こういうことって医者の処方箋と一緒なの。「一刻も早く治してくれ!」って患者がやって来ても、病気っていうのはそんなすぐには治らない。それでも一刻も早く治したいっていうなら、ステロイドを出すしかないでしょ。すぐによく効く代わりに、使い方を注意しないと副作用もあるわけ。

キ:なるほど。
ときに人に不快感を抱かせてしまう「でも」「だけど」をそのまま使い続けながら徐々に直していくほうがいいのか、言い訳怪獣「バッテ」と「サレドン」を登場させて一気にカタをつけるか。う〜ん…難しい選択ですね。

師:ねえねえ、キッチン。

キ:なんですか?

師:ちなみに「ですがなぁ〜」怪獣ってのもいるから。よろしくね。

キ:…………

 

師いわく:
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(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像3−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
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キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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