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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第30回>

第30回 『子ども達のサンタ問題について』
もうすぐクリスマス。サンタクロースに関する質問に答えつつ、我らが師・一之輔師匠自身のクリスマスエピソードに涙する師走。今年も悲喜こもごものクリスマスが全国で繰り広げられるのであろうか……?
(※今回は、サンタの話題に敏感な方は読むことをお奨めしません)

新ヘッド

キッチンミノル(以後、キ):あ、そうだ。読者からこんなメールも来てました。

「金魚に名前をつけてくださいwww このまえ酉の市で息子が金魚すくいをして1匹もらってきました。名前をつけて飼いたいと息子に言われたのですが、気のきいた名前が思いつきません。ごくふつうの真っ赤な魚です。 (匿名)」

一之輔師匠(以後、師):金魚の名前? 酉の市で買った?

キ:はい。

師:……それじゃ、ケイスケ!

キ:あはは、啓助!

師:メスならウタコ!

キ:唄子!

師:命名の理由が知りたきゃ自分で調べなさい!

キ:こういう一問一答的な質問も、どんと来い!…って感じですね。

師:おうよ!

キ:頼もしいなぁ〜。

 

師に問う:
娘は小4なのですが、サンタクロースが本当にいるかどうか友達と揉めているようです。そろそろ自然に気づく年頃だろうなと思うものの、下に幼稚園年長の弟がいるため心配しています。母親としては、まだ息子にはサンタを信じていてほしいんです。最近は、自分の子供時代とちがってサンタの存在を信じさせようとする親が多いけれど、一之輔さんはお子さん達のサンタ問題にどう対応していますか? アドバイスお願いします!
(匿名/女性/アラフォー前半/茨城県)

 

師:小学4年生なら、オレの次男と一緒だ! 小4の女の子かぁ……キツイなぁ。

キ:何がですか?

師:そろそろ一緒にお風呂に入ってくれなくなるでしょ。

キ:大人になりはじめる…

師:そうね。

キ:だからこそ、サンタが本当に存在するのかどうか本気で考えはじめる時期なんですかね?

師:そうかもね。

キ:最近は親がサンタを信じさせようとするって書いてありますが?

師:多い! 確かに多いね。それにテレビやラジオで「親がサンタなんだよ」って言ったら苦情で大変なことになるから。

キ:へ~~ッ!?

編集の高成さん(以後、タ):あの国民的人気マンガ『ドラえもん』ですら、原作のコミックスではのび太は“知っている”設定だけど、アニメの描写ではデリケートになっているようですよ。
【編集部注】…てんとう虫コミックス『ドラえもん』、第19巻収録「サンタえんとつ」、第21巻収録「サンタメール」など。

キ:師匠のラジオでも、それは言っちゃダメって言われてるんですね。

師:でもオレは言っちゃうけどね。

キ:あ〜…

師:なんとなくね。高座でも、なにも気にせず言っちゃう。……たとえ客席に子どもがいてもね。

キ:あら〜…ちなみに親っていうのは、子どもにサンタを何歳ぐらいまで信じていてほしいものなんですかね? 師匠の長男くんは中学校一年生ですけど、サンタの真偽については…

師:もう信じてはいないでしょ。その歳で信じていたら気持ち悪いよ。こちらから確認もしていないからわからないけど。本人からも「サンタってパパなんでしょ!」って言われたことはないかな。でも、いると思っていたらイヤだなぁ……

キ:へ〜、信じていたらイヤなんですね。

師:だって中学生だよ。信じていたら逆に心配になっちゃうよ。

キ:そりゃそうか。小4の次男くんと小2の娘さんは?

師:たぶん、まだ信じていると思う。次男なんてあんな性格だから、サンタがニセモノだとわかった途端にすぐ言ってくるでしょ。

キ:……言いますね。間違いなく。

キ:ちなみに師匠の家では、クリスマスの日にはサンタからのプレゼントのみですか? それとも親からもプレゼントをする?

師:サンタからのみだね。そこは徹底してます。

キ:お子さんたちが欲しいモノはどうやってわかるんですか?

師:それは、「オレとかみさんにはサンタとのでっかいパイプがあるから」って。

キ:あぁ〜、古典的ですね。手紙を書いてもらうとかではなく?

師:普通に訊くだけ。「おまえら、なにが欲しいんだ?」って。

キ:すぐ教えてくれますか?

師:すぐしゃべるね。だから「あ〜そうかぁ、じゃあ伝えておいてやるかなぁ」って言って。

キ:一応、小芝居をするんですね。

師:おいッ! ……長男にこの前、「お前、サンタからなにが欲しいんだ?」って訊いたらさ、コンタクトレンズが欲しい…って。

キ:実用品!

師:コンタクト!?…って。なんでだよって訊いたら「メガネが似合わないんだよ〜」だって。

キ:じゃあ今年のクリスマスプレゼントはコンタクトレンズを?

師:オレが子どもだったら、靴下の中にワンデーアキュビューが入ってたらショックだけどね。でも本人が欲しいって言うんだから。

キ:それはもう、サンタの正体には気がついてますね。

師:だろ? もう気がついてるよ。

タ:……お子さんたちは、イブの夜にサンタさんに手紙を書いて置いといたりはしてないですか?

キ:手紙? なんですかそれ?

タ:サンタさんへのお礼の手紙を、ツリーの下なんかに置くんですよ。食べてくださいってクッキーも添えたりして。

キ:したことないなぁ。

師:してるしてる! 靴下のところにクッキーと牛乳が置いてあるよ。

キ:へぇーっ! で、それはどうなるんですか?

師:オレがバリバリって喰うんだよ!

キ:あはは、なんですかそれ? 子どもたちがそのとき目をさましたらショックだろうなぁ。サンタさんに食べてもらおうと用意したのに、お父さんが食べているぞって!

師:お父さんの信用は、完全に地に堕ちるね。でもこういう習慣は、最近のことなんじゃないの?

キ:ですよね。

師:……そうそう。オレが小学校一年のときに、野球盤が欲しくてさ。大きい靴下を作れば入れてくれるんじゃないかって思って、大きな靴下を自分で縫って作ったことあったなぁ。

キ:自分で!? けなげ〜。

師:両親も手伝ってくれてさ。バスタオルを2枚使って袋状にして。

キ:いい話ですね。

師:当日それを枕元に置いて寝て、クリスマスの朝に起きたらさ…

キ:うんうん。

師:なにも入ってなかったんだよ………

キ:えーーっ!? 入ってなかった!!

師:うん。

キ:だって親も手伝っていたんですよね!?

師:そう。少年一之輔の心の中でずーっとさ、あれはなんだったんだ?…っていう思いが残っていて。で、かみさんにその話をしたらさ…

キ:はい。

師:「それはもしかしたら、お父さんもお母さんもサンタを信じていたんじゃないの?」って。

キ:あーっ! 家族みんなでサンタさんに願いをこめて…

師:一針一針…

キ:すげぇファンタジーですね!

師:へへへ、そうなんだよ。

キ:……

師:……え〜と、質問はなんだったっけ?

キ:はい。小4のお姉ちゃんはサンタの存在を疑いはじめていると。女の子だから、学校で今こんな話題になっているよって、お母さんに話すのかもしれませんね。だから匿名さん的には、お姉ちゃんには気がつかれても仕方ないと考えているんだけど、幼稚園児の弟さんには、まだサンタを信じていてほしい…ってことでした。

師:「サンタさんはいないんだよ」って、弟に言ってほしくないってことか。

キ:そうみたいですね。

師:でも姉ちゃんが言ってしまうのを止めることはできないからなぁ。

キ:そうですね。親のほうからお姉さんに、「サンタはいないって弟に言っちゃダメだよ」と注意するわけにもいかないですから。もしかしたらお姉ちゃんもまだサンタを信じているかもしれないですし。

師:そうなんだよ。そこでサンタ組合としては…

キ:組合?

師:あるんだよ、そういうのが。

キ:はぁ。

師:組合としては、サンタの秘密を知ってしまった時点で、基本的にはシャットダウン。

キ:シャットダウン?

師:もう姉ちゃんには、クリスマスプレゼントは届かない。

キ:えーッ!?

師:……「劇画・オバQ」っていうマンガがあるんだけどさ。
【編集部注】劇画・オバQ…1973年の作品。藤子・F・不二雄大全集『SF・異色短編〈1〉』に収録。

キ:劇画の…オバQ?

師:大人になった正太のところにQ太郎が訪ねてくるって話なんだけど。

キ:へ〜。たしか『オバケのQ太郎』の最終回って、Qちゃんが旅に出るんじゃなかったでしたっけ? また遊びにくるからねって言って。それで本当に帰ってきたんですか。

師:そう。帰ってきたQちゃんは昔のまんまでご飯は20杯食べるし、次の日のことなんか考えずに遊ぶのが大好きなんだけど…

キ:うんうん。

師:正ちゃんには奥さんがいて、会社員で忙しくてさ。奥さんに陰で「Qちゃんいつ帰るの?」なんて言われて。

キ:そりゃそうでしょうね〜。でも、なんだか胸の奥がキューっとなります。自分が言われているようで……

師:Qちゃんは昔と変わらないけど、正ちゃんはもう大人という別の世界に行ってしまった……そのことに気づいたQちゃんは
「正ちゃんはもう子どもじゃないってことだな……。」
そう言い残して、別れの挨拶もせずに静かに空に消えてしまうんだ。

キ:はぁ〜、すごく切ないっスね。

師:最後のシーンでのQちゃんの背中が、なんともやりきれなくてね。

キ:子ども世界の象徴であるQちゃんが、正ちゃんが大人になったことで離れていってしまったのと同じように、お姉ちゃんがサンタを信じなくなって、大人の入り口に立った瞬間にどこかに消えてしまうということ?

師:そう。「サンタなんていないんだよ」と姉ちゃんが言い出した時点で、プレゼントは二度と来なくなる。

キ:急に、なにも言わずに!? ショックです!

師:ただ、弟が姉ちゃんの言葉を信じてサンタなんかいないって思ってしまう前に「どうかな? お母さんは信じている人のところには、サンタは来ると思うけどなぁ」って一言をどこかのタイミングで投げかけておくといい。

キ:なるほど。弟さんのためには、その一言は大事ですね。

師:サンタがいるかいないかの問題ではなく、サンタを信じるか信じないかの問題なんだよ。

キ:だけどサンタはいないって思っていても口に出さない子は多いと思いますよ。私もそうでしたが。

師:うちの長男もそうだしね。むしろ親に「サンタっていないんだよ」って言ってしまう子のほうが本当は素直かもね。

キ:子ども心に親の思いを踏みにじるのはいけないというか、本音を言えばそれこそプレゼントが欲しいから黙っているってことはあったように思います。

師:キッチンの意地汚い性格は子どもの頃からかぁ……

キ:うるさいなぁ〜。
でも子ども心に申し訳ない気持ちというか親を騙しているもどかしさはありましたよ。

師:あ〜、わかる。やましい感じね。……でも、こっちだってプロですから。

キ:なんの?

師: 子どもに盗聴器を仕込んどいてさ。子ども同士の会話を録音しておいて。

キ:いやいや、それ怖いですから。

師:会話を分析して。お姉ちゃんと弟とが「サンタなんていないんだよ」「いやいるよ!」「バカだね、いないんだって。」みたいな会話をしているのを捉えたら…

キ:……

師:その年からパッタリとお姉ちゃんにはプレゼントが来なくなる。

キ:怖ッ! 子どもにとって一番楽しみなクリスマスの朝に…

師:怖いだろ。(悪い笑みを浮かべる一之輔師匠)
姉ちゃんの枕元は寝る前となにも変わらずそのままの状態で、サンタを信じていた弟にはプレゼントが届いているわけ。

キ:あー、まだサンタを信じている弟さんの枕元にはプレゼントが来るんですね。

師:姉ちゃんは自問自答するよ。どうしてこうなってしまったのか。去年と違うことといえばサンタを信じる心が無くなったこと。そうか、サンタは私の心の中にいたんだ。そして私の心にはもうサンタさんはいないんだなぁ…って。

キ:サンタがいないということを信じた自分に悔やむでしょうね。

師:でもさ、そうやって子どもは大人になるんだよ。それが成長というものです。親としては嬉しいことでもあるんだよ。

キ:なるほど。

師:クリスマスは子どものための行事ではなくて、本当は大人になった自分に気がつくための行事なのかもね。

キ:ほ〜、なるほど。

師:だから匿名さんはプレゼントのない枕元でボーゼンとしているお姉ちゃんに一声かけてあげましょう。

キ:……

師:「姉ちゃんはもう子どもじゃないってことだな……。」って。

キ:泣くな。お姉ちゃん。

師:そしたらこれでも読みなさいって「劇画・オバQ」を渡せばいいのよ。

キ:……え?

師:「これがお姉ちゃんにとって最後のクリスマスプレゼントね。うふふ…」って。

キ:それは怖いですって!!

 

師いわく:
〆のことば

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像3−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像3−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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