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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第31回>

第31回 『子ども達が納得するお年玉のあげ方を……』
四月から始まった新連載も、今回が2018年最後の更新です。毎度ご愛読ありがとうございます。さて本日は、大人になると渡さなくてはならなくなるアレのお悩み。家族構成の違いが悩みの種になるなんて……

新ヘッド

キッチンミノル(以後、キ):落語家さんは12月はお忙しいと思うのですが、師匠の家まで行って大掃除をやったりするんですか?

一之輔師匠(以後、師):うちの一朝一門はやらないけど、やるところのほうが多いんじゃないのかな。

キ:ちなみに一之輔師匠は、ご自身の家ではお弟子さんも含めて大掃除は……?

師:しないね。自分が前座の頃にやってないことを自分の弟子にさせるのもおかしな話でしょ。

キ:それじゃ御自宅の大掃除は師匠が自ら?

師:う〜ん……できるんだったらやるし、できないんだったらやらない。

キ:そ、そりゃまぁそうでしょうけど……

師:なにか?

キ:いえいえ。

師:本当はやりたいんだけどなぁ〜。

キ:とはいえ、お忙しい師匠がいなくても、お弟子さんが手伝わなくても、師匠には頼もしい子どもたちが3人もいるからおかみさんは助かりますね!

師:いや、子どもは戦力にならない。

キ:え? それじゃあ大掃除はおかみさん一人で……?

師:オレだって手伝えたらやるって! どちらかというとやりたいほうなんだから。
……大掃除どころか普段の掃除すらできてなくて、本とか着物とか録音テープとかが、ぐちゃぐちゃに積んであんだよ。

キ:あはは、いいスね〜。

師:なにがいいんだよ!!

キ:いや、あのー…人間っぽいなぁと。でも掃除するのは上手な印象ですけど?

師:いざやるとなったらうまいよ、オレは。

キ:そうとうな自信ですね……

師:時々、酔っ払って帰っていきなり掃除を始めるときある。

キ:いきなり!?

師:そう。酔っ払って帰ってきて「あ゛〜ッ! なんでこんなに汚ねーんだよ!」って言いながら、机を拭いたりするの。……だけど、かみさんはすげー嫌みたい。

キ:まぁ基本的には、隅々まで掃除の行き届いている家ではないですもんね。師匠のお宅は。

師:おい、失礼だな! バカにしてんだろ!?

キ:してませんしてません。むしろそういうほうが私としては落ち着きます。もし師匠の家がチリひとつ落ちていないような家だったら、一年間かけて撮影はしていなかったかも。

師:どういう意味だよ? あれでもキッチンが来る前日にかみさんに小言言われながらオレが掃除してるから!

キ:まあまあまあ。ウチなんか子どもがいなくても散らかり放題ですけど、お子さんがいるともっと大変なんでしょうね。

師:そうなんだよ。大変なんだよ。自分の部屋はどうでもいいんだけど、みんなが過ごす場所はきれいであってほしいと、いつも思ってるよ。……なかなか難しいけど。

キ:それじゃあ、酔っ払って帰ってきて片づけはじめるのは、おかみさんへのあてつけ?

師:いや、そういうんじゃないんだけどさ、帰ってきたときに部屋はスッキリしといてほしいわけ。大概はそうじゃないからさ、つい掃除しはじめたりしちゃうの…。

キ:「あ゛~ッ!」って唸りながら……

師:この前、かみさんが友だちにその話をしたんだって。

キ:そうしたら?

師:「そんな良いご主人なかなかいないわよ!」って反応が返ってきたんだってよ〜。

キ:いやいや、そんなに胸を張られても。

師:「うらやまし〜」って。

キ:……おかみさんは、その“してやったり”的な態度も含めて嫌なんじゃないでしょうか?

師:うむむ……

 

師に問う:
私には小学生の子どもが3人いるのですが、弟夫婦には来年小学校に入学する姪っ子がひとりいます。3対1ではこっちがすごく多くもらうことになってしまうので、ひとりっ子の姪のお年玉袋には多めに入れてます。同額というのもなんなので、うちの3人分合計より少しだけ少ないくらいにしています。ところが今年の正月に子ども同士で中身を見せ合ってしまい、「なんで◯◯ちゃんだけこんなにたくさんなの?」と抗議されてしまいました。子どもたちが納得して弟夫婦にも負担をかけないお年玉のあげ方はないでしょうか? 弟に別に渡すことも考えたのですが、正月早々無粋だと言われて……
(おばちゃんと呼ばないで/36歳/女性/東京都)

 

キ:『~いちのいちのいち』で私がお子さんたちにお年玉を渡す場面がありますが、一之輔家の子どもたちはその場で中身を確認するから、バレないってことはまずないですよね。
【編集部注】…一之輔師匠の「一年間」を、毎月初日「一日」ごとに「一日中」キッチンミノルが追い続けた写真ドキュメンタリー、『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』(小学館)は好評発売中。我らが師の自宅内部の様子がおがめるなど、『師いわく』を楽しむときの参考書にもなります。

師:そうね。目の前で開けて、毎年怒られてるから。

キ:年始の風物詩だ。でも師匠がすぐに取り上げて…

師:あいつらが持っていてもロクなことにはならないからな。

キ:でも、子ども達も黙ってなかったですよね。「このお年玉は僕たちがもらったんだ!」って反論して。私もそうだそうだと思いました。

師:……

キ:だけど、そのときの師匠の一言が私は好きで。

師:なんだっけ?

キ:「このお年玉はおまえ達がもらったわけじゃない。キッチンさんとお父さんが友だちだから、もらえただけなんだ!」って。私も妙に納得しちゃって。お子さん達はシュンとしちゃいました……次男くん以外は。
【編集部注】…平成28年1月1日、午前7時37分のできごと。(『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』P.8より)

師:次男のやつは強いからなぁ……

キ:それとあの日は、一朝師匠のお宅にお邪魔したら玉の輔師匠が私にまでお年玉をくださって、良い思い出になりました。
【編集部注】玉の輔師匠…五明樓玉の輔師。1966年生まれ。師匠は春風亭小朝師。

師:前座に間違えられただけだろ!

キ:えへへ。

師:……もうさ、お年玉なんてやめちまえばいいんだよ。

キ:また過激な…

師:正月早々、お金が順繰りに回ってるだけなんだから。

キ:まあ、そうなのかもしれませんが。

師:とはいえ、オレもお年玉はあげているけどね。
……ウチのきょうだいはみんな子どもが多いんだよ。一番上の姉ちゃんが3人、真ん中も3人、下の姉ちゃんが2人。それで我が家が3人。

キ:おお〜ッ! 子どもたちだけでサッカーチームをつくれますね。

師:だからウチは決め式で、一人2000円まで。いくつになっても。きょうだい間で決めちゃった。キリがないから。

キ:あー、なるほど。最初に決めちゃうと楽なんですね。

師:そうね。だけど決めておいてなんだけど、お年玉なんて気持ちの問題だから、いくらでもいいと思うんだよね。勝手にあげたらいいの。普段から子どもたちに会っているのならそんなにあげなくていいと思うし、一年に一回だけ会っておじさん面したいなら、多めにあげてもいいだろうし。

キ:なるほど、本当なら大人と子ども一対一のやりとりですからね。おじさん面をするなら多めっていうのはいいですね。

師:子どもにもさ、お年玉に期待すんな!…って言いたいよ。どうせ大人になったら自分も子どもにやらなきゃいけなくなるんだから。

キ:まぁ、でも子どもはそんな先のことなんて、まったく考えてないでしょうけどね。

師:オレなんか毎年お年玉を渡すたびに、「お年玉やれよ! いずれオレの孫にも」って思うからね。

キ:ケチくさっ! 2000円程度をそんな思い入れたっぷりで渡されたら、たまったもん じゃないなぁ。

師:やっぱりそう? ……だけどさ、毎年同じ額しかもらえないってのもドキドキ感がないじゃない?

キ:そうですね。

師:だからさ!

キ:はい……

師:いっそのことお年玉をゲーム大会にしてしまえばいいんだよ。

キ:ゲーム大会に?

師:かみさんが子どもの頃の話なんだけど……

キ:はい。

師:お父さんが、それぞれにお年玉を渡す代わりに、お年玉の総額を1円玉から500円玉までに両替して箱に入れて、それを子ども達が自分の手で掴みとるっていうことをやってたんだって。

キ:へ〜、おもしろいですね。盛り上がるでしょうね。

師:絶対に盛り上がるさ。
……だけど一之輔的には、これを大人同士が気を遣わないための隠れ蓑に利用するの。

キ:隠れ蓑に?

師:そう。方法は簡単。当時はお父さんだけでお金を用意していたと思うんだけど、そうじゃなくてそのお金をひとりあたり何円と金額を決めておく。大人ひとりあたりでもいいし、子どもが多くて気まずいなら、子どもひとりあたりにしてもいいし。

キ:なるほど! ひとりいくらって決まっているなら不公平がないし、事前にお金の話もしやすい!

師:おうよ。それでみんなで大会に向けていろいろ準備してさ……お金を両替しておく家族、箱を用意する家族とか。そうすればお年玉をもらうまでも楽しいでしょ。

キ:そうですね! お年玉の方法を変えるだけで親戚間のコミュニケーションも増えそう。……私が箱担当なら透明なものを用意するかな。箱が透明だったりしたら、自分の番が来る前に、他の人のやり方を相当じっくり観察すると思います。

師:前の子が掴むことによってコインの配置も変わったりして、一喜一憂するんだろうね。

キ:一回いっかいドキドキだなぁ。掴んだコインの量が多いからって合計金額が多いかっていうと、そういうことでもないですからね。

師:そこだよ。実力も運のうち。

キ:新しい一年の運試し的な要素も絡む…

師:そうそう。

キ:それに年上の子のほうが手が大きいから、必然的にいっぱいもらえる確率が高まる仕組みになっている!!

師:そういうこと。……ときにペソとか外国のコインも混ぜちゃったりしてさ。

キ:ペソ!? ……掴んだお金がペソでベソかいたりして?

師:……え〜と、あとは消しゴムとか。なんでもいいんだよ、石でも。

キ:すごくたくさん掴めた!…って思ったら消しゴム多めだったら、それはそれで盛り上がるなぁ。その子は辛いかもしれませんが。
……でも、来年こそはもっとたくさんお金を掴みとるぞ!!…って向上心が生まれるかも。

師:つまりは、「夢」はその手で掴みとれ!!…ってこと。

キ:「夢」ですか! 大きく出ましたね。

師:この激動の時代、お年玉を何もしないでもらえる時代は終わったんだよ。子どもだろうと自分で掴みとらないとだめなんだよ。

キ:確かに、自分の手で実際にお年玉を掴み上げて自分のものにするわけだから、夢があるなぁ。

師:余った小銭は来年に回せばいいわけ。……もしかしたらお年玉にかかる費用が、いつもより少なくて済むかもよ。

キ:要は小銭ですからね。お年玉の緊縮財政にもなるのか。

師:親にとってもハッピーだろ。親だって参加してもいいかもよ。

キ:ゲームで大いに盛り上がった後に数えてみたら……。子どもは案外現実主義だから、いつもより金額が少ないことに気がついた途端にすげー文句を言いそうですけど?

師:お前の実力のなさが原因なんだよって言ってやりゃあいいんだよ! 来年ひとまわり大きくなって戻ってこいって。

キ:……納得しますかね?

師:それでも納得しなかったら、子どもの目を見てさ、静かに語りかけたらいいんだよ。「その悔しさを覚えておけ。いずれお前にもわかるさ。成⻑する尊さが……」って。

キ:…………

師:どう?

キ:「はぁ?」の一言で片づけられそう。

師:うぐぐ…

キ:せっかくのドヤ顔、残念でした!

 

師いわく:
夢はその手での縮小

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

プロフィール

師いわくプロフィール画像3−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像3−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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