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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第34回>

第34回 『マンションの行事に参加できずにいます』
先日、誕生日を迎えて不惑も2年目に突入した一之輔師匠。30代の頃と比べて、なにか変わってきたことはあるのだろうか? そして今年2019年の抱負は……?

新ヘッド

キッチンミノル(以後、キ):誕生日、おめでとうございます!

一之輔師匠(以後、師):1月28日で41歳になったよ。今年は本厄。

キ:いよいよ本厄! そして不惑も2年目。試運転も終わってここから勝負ですね〜。

師:言っている意味がまったくわからないけど盛り上げ過ぎ。あのね、オレはそういうのにこだわってないから。

キ:はいはい。なるほど。

師:聞き流すなよ!

キ:え〜と、孔子いわく「四〇にして惑わず」と言うことですが……不惑1年目を終えて、30歳代の自分とは違うなと感じていることはありますか?

師:なんか腑に落ちないけど…なんだって? 30歳代とは違うと感じること? う〜ん…そうそう、最近特に体力の衰えを感じるなぁ。呑んでてもすぐに眠くなっちゃう。いままで絶対になかったんだけど、「捨て呑み会」が時々ある。

キ:捨て呑み会? 盛り上がらない呑み会のことですか?

師:呑んでる途中で、「あっオレ今日ダメだなぁ」って思っちゃうときがあるのよ。

キ:諦めちゃう?

師:気持ちはあるんだけど、ビール2杯にハイボール2杯くらい呑んだら、もう今日は呑まなくていいいかな…って思ってしまうことがあって、そんなことは今までなかったから、自分で自分にビックリしてんのよ。

キ:それって、呑んでいる最中に冷静に気がつくんですか?

師:そう。「あっ、オレもう酔っ払ってる」って……2杯ぐらいでね。信じられないよ。急に弱くなったなぁ。

キ:老いっスね。寂しいですね。

師:寂しいけど、効率的でもあるなと思うようにしてる。

キ:物は考えようかぁ〜。

師:本当に寂しいのは……

キ:…はい。

師:いろんな単語が出てこなくなったってこと。頭の引き出しの中に単語がいっぱい入っているはずなのに出てこないんだよ。これは本当にショック。

キ:へ〜、そうは見えないですけどね。私と比べたら十分出てくるほうですよ。

師:なんでお前と比べてるんだよ! キッチンは、もともと単語が頭の中に入ってないじゃん。

キ:はい。自慢じゃありませんが、もともと覚えてませんから。

師:胸を張られてもなぁ。もともと引き出しの中に単語が入ってない人には、オレの悩みはわからないだろうなぁ。

編集の高成さん:もう少し歳をとると、単語が出てこないほうが当然って思えるようになりますよ。

師:いやいやいやいや〜、まだしばらくはそう思いたくないですね〜。悔しい気持ちが強い。

キ:師匠! それは「老いーっす」!

師:うるさい!! ……だから今年はインプットの年にしようと思って。

キ:おっ! 珍しく明確な目標じゃないですか!!

師:うん。だから今年2019年は、時間をつくって本を読んだり、映画館に行ってみたりする年にしたいなと思ってる。時間が空いたなって思ったら、池袋の新文芸坐に行こうって決めているんだ。

キ:だけど、映画って時間を合わせるのが難しくないですか? いつ行ってもいいってわけじゃないから。

師:そうなの。難しい。なかなか合わないんだよ。……だから多分行けないと思う。

キ:あきらめ早っ!

師:……だけどさ、弟子たちにドリフのメンバーの名前を答えさせたら、全員言えないんだよ!
【編集部注】ドリフ…ザ・ドリフターズ。メンバーは、いかりや長介(故人)・高木ブー・仲本工事・加藤茶・志村けん。「志村の前は荒井注だった」「すわしんじもいた」「もともとバンドで、ビートルズの武道館公演では前座だった」など言いたくなる世代には無用の注釈ですが……お弟子さん世代の若い読者のために念のため。

キ:えーっ!?

師:ビックリだよ。それが、時代が変わっていくってことなのかもしれないけど…

キ:お弟子さん達の年齢なら、オンタイムでは観てないでしょうからね。私たちぐらいが最後のドリフ世代でしょうか。

師:「全員集合」はね。それでも「大爆笑」とか「バカ殿」とかは見てたでしょ。
【編集部注】…『8時だヨ!全員集合』(TBS系)の放映時期は1969年10月~1985年9月。『ドリフ大爆笑』(フジテレビ系)は1977年2月に放映開始、2013年まで総集編のかたちで放映された。

キ:「加トちゃんケンちゃん」とか。
【編集部注】加トちゃんケンちゃん…加藤茶・志村けんのコンビ。ヒゲダンスなどが有名。『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』(TBS系)は1986年1月に放映開始。その後、『加トちゃんケンちゃん◯◯◯◯』というタイトルの番組が’90年代まで放映された。

師:そうそう。それすら知らないんだよ。ショックだよ。オレはそれを基本情報として話をしていることが多いじゃない。それが通じないんだから。

キ:そうなんですね……でもそれってお笑いの基礎知識みたいなものでしょ? そういうときはどうするんですか?

師:もうわからないよね。ドリフから説明しないといけなくなっちゃうから。
……歴史にしてもさ、「貧乏人は麦を食え」って言ったってわからないんだもん。

キ:池田勇人でしたっけ? 師匠だってそのときはまだ産まれてないですよね?

師:当たり前だ!! そうだけど社会科を勉強してればわかるでしょ? そういうのってあるじゃん。知識として知っているべきことっていうのかな。

キ:なるほど……

師:「バカヤロー解散」とかさ。

キ:吉田茂。

師:そうそう。そしたら、そこから『小説吉田学校』の話になってさ、さらに主役の森繁久弥の話題 になっていくっていう…
【編集部注】小説吉田学校…戸川猪佐武による、戦後の政治家を描いた実録型小説。映画は1983年公開。

キ:そこまでいくと、私もギリギリついていくのがやっとですが…

師:でも、なんか知っているじゃない。そういうことって。

キ:師匠は本当によく知っていますよね。よっ! もの知り‼︎

師:うるさいよバカ!

キ:てゆうか、十分引き出しの中から単語を取り出せてるじゃないですか。

師:いやいや。今まさに、池田勇人役は誰だったかなって必死で思い出してるところ。全然思い出せない。昔は全部覚えてたんだよ。

キ:なるほどね〜…すごい記憶力。でもそれは遠い昔のことなんですね。

師:いや……遠い昔じゃなくて、ちょっと前っていうのが辛いのよ。

キ:師匠の引き出しは急にガタがきはじめているのか……ショックでしょうね。お気の毒です。お察しします。

師:だから、今年は頭の中の単語が入っている引き出しを直そうと思って。

キ:ちなみに2019年が1か月ほど経ちましたけど、それではもちろん少しづつ行動に移しはじめて…

師:…………

キ:ああ……

 

師に問う:
お二人より少しだけ年上の不惑世代のサラリーマンです。郊外の分譲マンションに新築で住んで今年の春で6年目を迎えます。マンション内の行事が盛んなのですが、そのノリについていけず、なんとなく疎外感を感じています。住民同士の親睦が目的で、多くの家庭が我が家と同じく小学生のいる子育て世代です。子どもたちは顔見知りだし、妻も子どものつながりで奥さんたちのネットワークになじんでいて、自分だけが取り残されているような。イベントに熱心な人たち主導で、冬は餅つき大会、夏はミニ縁日、10月はハロウィンなどいろいろ行われます。娘が楽しそうにして、妻もお手伝いに参加している様子を、自分はただ遠くで眺めています。自分もお手伝いに参加すればよいのでしょうが、越してきて5年間ずっと見ているだけだったのに、なぜいまさら?と思われないか気になって躊躇してしまいます。また本当は参加したくないのだと自分で思います。この状況をうまくやりすごすにはどうしたら良いでしょうか?
(メタボンパパ/千葉県)

 

キ:師匠はマンション住まいではないですが、地域のイベントに参加してますよね。子どものわんぱく相撲のコーチをしたり…

師:申し訳程度にね。たまたまその時間が空いているから行っているだけで、子どもたちも「あのおじさん誰だろう?」って目で見ているよ。

キ:行ってはいるけど…ってことなんですね。それから絵本の読み聞かせもしてますよね?

師:同じようなものだよ。こっちはよその子どもの名前は一切覚えられないし、近所の人の顔はわからないし。……かみさんはよく知ってるよね。状況はメタボンパパとほぼ一緒だと思うよ。

キ:それでは、本当は参加したくない?

師:そりゃ朝は寝ていたいよ。

キ:寝ていたい…それじゃあ参加するのは、自分のお子さん達のために?

師:“ために”というか…免罪符。

キ:普段なかなかお子さん達の相手ができない償いのため?

師:そうね。誰もやり手がいないからっていうから、それじゃあオレが行こうか…ってなっただけ。

キ:なるほど。
……師匠の場合は、やらざるをえない状況に追いこまれた感がありますが、メタボンパパさんは、そういう状況にはなっていないみたいですね。

師:そうね。

キ:縛りがないからこそ、いろいろ考える余地があって悩んでしまっているのかもしれませんね。「そろそろ参加したほうがいいかな? だけど、急に参加したら周りからどう思われるんだろう? それによくよく考えたら参加したくないんだよなぁ~」と。

師:……口にするマスクってあるじゃん?

キ:ますく!? 唐突ですね。風邪予防の?

師:そう。あれがあるだけですごい安心感を感じない? たった一枚の布で口を覆うだけで。

キ:はい。守られてる感がグッと出てきます。

師:そうなの。マスクをするだけでオドオドしなくなるし、かわいいコをずっと見てられるんだよ。

キ:え……?

師:あれ、なんなんだろうね? 不思議。オレは帽子もかぶってるでしょ。より守られている感じがある。

キ:帽子かぶって、マスクして、かわいい女の子を凝視…って。

師:気が大きくなるのかな。

キ:そういうことですかね……見るだけで留めておいてくださいね。

師:メタボンパパも気が小さいわけだから、目だけ出ているタイガーマスクみたいな覆面をすればさ、なんでもできる気がするよ。

キ:なんでも?

師:タイガーマスクといえば伊達直人だけど、「新宿のタイガーマスク」だっているじゃない。

キ:いますね。新聞配達をされている方。

師:そうそう。あれだって顔全部が隠れているから、あの格好ができるんだと思うよ。マスクがなくちゃできないと思うぞ。

キ:なるほどね。私が仲間と活動しているワークショップに「MASK」っていうのがあるんです。子ども向けのワークショプで、親の服を切り刻んで覆面マスクを作るんです。そして最後に自作のマスクをかぶって撮影するんです。そのマスクになりきって。そうすると、さっきまで気が弱かった子が強いヒーローに変身したりするんですよ。

師:マスクによって、いつもとは違う自分に変身することができるんだ。

キ:そうですね。

師:だから、メタボンパパはマンションのマスクマンになるべきだよ。

キ:マンションのマスクマンに!?

師:マスクマンに変身して、イベントの日の朝に、おもてを掃除したりして。

キ:めちゃくちゃ怪しいですけど……

師:あのマスクマンは誰かしら?…って噂になると思うよ。

キ:噂には間違いなくなりますね……良い噂かどうかはともかく。

師:「あそこのお父さんイベントに出てこないけど、どうしているのかしらね?」なんてマンション仲間連中に言われているんだけど、本当は参加してんのよ。かっこいいよ!

キ:かっこいい!? そ、そうですかね……
でも、メタボンパパさんはイベントに参加するというよりは、なんとかしてやり過ごしたいみたいなんですが……

師:マスクをすることで気持ちも変わるから。大丈夫。

キ:大丈夫?

師:素顔だから素直になれなくて参加できないわけだから。誰からもメタボンパパだってわからないのであれば参加できるでしょ。

キ:はぁ。

師:マスクをかぶったら、やってみたくなるんだよ。

キ:やりたくなるまでいきますか?

師:いきます。

キ:え〜と、そうなると家族には事前に知らせておいたほうがいいですよね?

師:いや、家族にもその正体は明かしてはなりません。

キ:家族にも…

師:家族を送り出してから、マスクマンに変身して、チリンチリンって自転車で会場まで行ってさ、急に金魚すくいを仕切り始めたりして。飴細工なんかもしちゃうよ。

キ:ハサミひとつでなんでも作っちゃって…

師:いい頃合いになったら、「じゃ!」つって店を片づけて、家族が帰ってくる前に着替えて、部屋で新聞読んでるんだよ。

キ:すげー大変!

師:帰って来るなり娘がさ、「パパ、今日すごい面白い人がいてねぇ〜」って話してくるから、メタボンパパも「へ〜そうなんだぁ」って話を合わせてさ。

キ:そしたら「次はパパも一緒に見にいこうよ」って言われますよ。

師:「え〜、いいよ。パパは興味ないから」って。そしたら知らず知らずのうちにお母さんがマスクマンに惚れちゃったりしてね。

キ:フクザツ〜!

師:ホテルに行ってマスクを取ったら…!

キ:興ざめ?

師:バカ! なに言ってんだよ。こっからだよ、テンションが上がるのは!

キ:私はショックですけどね。自分の奥さんがよそのマスクマンに惚れちゃったとしたら。

師:違うぞ、キッチン。マスクマンに惚れるってことは、中身に惚れたってことだから。「まぁ! パパだったのね!!」ってなるよ。

キ:そういう関係になるまでは家の中でゴロゴロしている設定なんですよね。

師:そうそう。「いいとも増刊号!」とか見て。

キ:懐かしい。

師:嵐山光三郎ね!

キ:増刊号編集長!! …っていつの話ですか!?
でも奥さんの表と裏が見えてしまって、嫌な思いをしないかなぁ。

師:しないよ。いいじゃない、裏も表も見られてうれしいよ。こんなチャンスないよ!!

キ:チャンス?

師:マスクマンになってマンションのヒーローになれるんだよ! だって、メタボンパパはいままでほとんどイベントには参加してないんでしょ。

キ:はい…

師:いい機会じゃん。そんな状況、なかなかないよ。マスクつけて登場すると「マスクのおじちゃ〜ん」って、自分の娘が寄ってくるんだよ。

キ:娘さんの思い出の写真には…

師:もちろん、いつもマスクマンが写ってて。素顔のメタボンパパと一緒に写っている写真はナシ!

キ:極端!!

師:いつか娘が結婚するときに写真整理しながら話題になるよ。「子どもの頃にマスクマンいたよね。また会いたいなぁ」って。式の当日に司会者にお願いしておいてさ、「新婦の子どもの頃のヒーローだったマスクマンが会場にいらしております!!」っていうサプライズ。

キ:わーーッ!!!

師:そこで初めてベロ〜ンってマスクをはがして、「……お父さ〜ん」って涙を流す娘。感動のストーリーだよ!

キ:感動するか呆れるかのどっちかでしょうけど、すごい賭けです。それにしてもめちゃくちゃ気の長い話で…私の想像を超えてしまっています。……師匠はもし同じ状況になったとしたらマスクマンやってみたいですか?

師:やれるもんならやってみたい! こんなチャンスは滅多にないから。

キ:いつになく前向きですね〜! それならなんとかして実現しましょうよ!!

師:だけどさ…

キ:だけど?

師:今思ったんだけど、もしかしたら体型でバレるかもなぁ。

キ:体型かぁ。衣装を多めに着こんだら?

師:いちど怪しいと思ったら、娘さんたちも警戒するだろうからなぁ。

キ:子どもは観察力がありますからね。

師:よくよく見たら「あれ……お父さんと靴が…一緒だッ!!」って

キ:すごいところからバレましたね。

師:くれぐれも細心の注意を怠らずということ。
メタボンパパ〜! くれぐれも靴には気をつけろ!!

 

師いわく:
「師いわく」第34回縮小

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

いよいよ書籍化! 『春風亭一之輔 師いわく』2/28発売決定!

 

書籍化記念イベント、公開ナマ『師いわく』3/19開催決定!

 

プロフィール

師いわくプロフィール画像3−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像3−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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