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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第36回>

第36回 『長男が東京で一人暮らしを……』
単行本『春風亭一之輔 師いわく』がいよいよ2月28日に発売されます。発売記念イベントも開催しますので、ぜひいらしてください。今回は、単行本をつくる作業も佳境となるなか、12時に高座に上がるという忙しい師匠をつかまえて、読者からの相談を投げかけてみた……。
※単行本と発売記念イベントの情報は最後にあります。

新ヘッド

キッチンミノル(以後、キ):……冷たい雨の中、朝早くから来ていただいてすみません。

一之輔師匠(以後、師):まぁいいよ。今日は朝から元気だから。

キ:珍しいですね。

師:なんでかっていうと、朝から家の仕事を全部やってきたから気分がいいんだ。

キ:全部!

師:かみさんが朝早く出かけたからさ、掃除に、洗濯に、子どもにご飯を食べさせて……目玉焼き焼いちゃったよ。

キ:へ〜、すごいですね。

師:すごかないよ。あれくらい誰でも焼けるよ!

キ:そうなんですね(ドヤ顔で言ったから合わせただけなのに……)。

師:フライパンが良くなったからね。昔のは焦げついてたじゃない。今はフッ素加工だから目玉焼きくらいチョチョイだよ。火加減なんて気にしなくていいもんね。

キ:そ、そうですか。

師:そうだよ。卵を落として下が固まったら、水を入れて蒸し焼きにすりゃいいんだ。

キ:案外、丁寧に作るんですね。

師:丁寧でもないだろ。入れたほうが早くできるんだから。

キ:そうなんですね。水を…今度やってみます。

編集の高成さん(以後、タ):ところで、いよいよ2月28日に発売となる『師いわく』の単行本なんですが、束見本にカバーの校正紙を切って巻いてきましたよ。
【編集部注】束見本…実際に使用する紙で、実際の体裁どおりに製本したもの。/校正紙…色やデザインや文字など印刷の具合を確認するために試し刷りした紙。

キ:中身はまだ真っ白なんですけど、外観はこんな感じです。……手にとってみてどうですか?

師:ぶ厚いね。

タ:約2cmありました……288ページの本ですからねぇ。

師:表紙がポップ過ぎて胸がドキドキするなぁ。なんか本屋さんのエロ〜い棚に、しみけんさんの本の隣とかに置かれそう。
【編集部注】しみけん…AV男優、AV監督。著書も多数ありマルチに活躍。

タ:ふつうのカラー印刷とまったく違って、特色だけを使ってますからね。イラストの得地直美さん、デザインの菅渉宇さんが頑張ってくれました。

0220追加写真

師:ところで、帯に「~オフビートな問答~」って書いてあるけど、「オフビート」ってなんなの?

タ:普通とはちょっと違うと言いますか…、もともとは音楽用語なんですが、本来あるべき調子からズレたところを面白がるような……

師:問答としては、ダラダラしたってこと?

キ:グダグダ?

タ:そんな感じです。

師:いいことばを見つけましたね。高成さん。
【編集部注】…当連載の立ち上げイベントのとき、お客さまのアンケートに「グダグダ」と書かれてショックを受けた様子は、2/28発売の単行本『春風亭一之輔 師いわく』をぜひご覧ください!

キ:ちなみに文章を読み返して、自分のことばでいいなぁと思ったものありますか?

師:そうね……あっ! 食洗機のボタン押すの忘れた! せっかく食器をきれいに並べて、洗剤も入れてきたのに……

キ:あ〜…

師:なんかもう、どっと疲れたよ……。

 

師に問う:
4月から長男が東京の大学に入学し、一人暮らしを始めます。私は一人暮らしの経験がありませんし、旦那も結婚前の数年間だけ社員寮にいたくらいで、高校を卒業したばかりの男の子が一人で生活する姿がイメージできません。家で目玉焼きひとつ作ったことがない男子が一人暮らしを始めるのに絶対に必要なものや、あると便利なものを教えてください。このままでは絵に描いたようなダンボールいっぱいの仕送りをしてしまいそう。。。
(こんぴらサンド/女性/香川県)

 

キ:一之輔師匠の家庭では、たしか高校を卒業したら家を出ていかないといけないルールなんですよね?

師:かみさんの教育方針はそうだよね。よく子どもたちに言っているよ。「高校を卒業したら家を出ていけ」って……まだ先の話だけど。 

キ:師匠とおかみさんは一人暮らしの経験は?

師:大学に入ってから。だからね、オレの経験上こんぴらサンドの息子は……自炊、しないだろう。おそらく。

キ:目玉焼きも焼いたことないみたいですからね。

師:それとね、過度の仕送りはダメ。

キ:ダメ?

師:突き放したほうがいいと思う。必要最低限……なくてもいいくらいだ。

キ:なるほど。ではお金の仕送りに関しては?

師:毎月の金額を決めておいて、あとは自分でやりくりする。足りなきゃ自分でなんとかしろ…っていうのがいいと思う。

キ:なるほど。最初にルールを決めてしまおうってことですね。

師:おうよ。

キ:こんぴらサンドさんは、旦那さんも同じく一人暮らしの経験がないそうで、息子さんにとって必要なものがわからないので師匠にいろいろと教えてほしいとのことですが…

師:そうね。ガスは引くのかな?

キ:それは引くでしょ!

師:いや。オレの一人暮らしのときは、ガスは必要なかったから最終的には止めてた。

キ:ええーッ! ガスを止めちゃっても生活できるんですか?

師:できるよ。なにか?

キ:だから結婚する前のおかみさんのところにお風呂を借りに行ったりしてたんですか?

師:そうそう。かみさんがいない場合は学校に行ったりしてた。

キ:え? なにをしに?

師:だから、風呂に入りに。前座の頃まで、大学までシャワーを浴びに行ってたなぁ。

キ:卒業してからも? 卒業すると学校って入りにくいでしょう?

師:いや、そんなことなかったよ。後輩に「あっ、川上さん、また風呂入りに来てる〜」って言われてたけど。

キ:あ〜、後輩からは変な人扱いされて…

師:大学って、もともと誰でも入れる自由なところだから。ユニバーシティっていうくらいだから。大学は街なんだよ。

キ:ん?

師:オレからすればね、ユニバー・シティだから。

キ:え〜と…

師:スペルは違うけどね。知ってるよ、そんなことは。だけどオレの中では大学は街なんだよ。

キ:語源が同じuniverseは街どころか宇宙・全人類って意味ですしね。

師:イェーイ!

キ:ユニバース!

師:好きなんだよ、川瀬名人。

キ:そっちの「ゆにばーす」!?
【編集部注】ゆにばーす…川瀬名人とはらによる男女のお笑いコンビ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。

師:まぁ、そういうことでオレは町人だからさ。

キ:町人……

師:町人は出入り自由なの。一応、守衛さんも申し訳程度にいるんだけど仲よくてさ。「ど〜も〜」って挨拶すると、「また来たの〜?」ってなって。

キ:さすが町人。

師:OB訪問。……OBから学校に出向くほうなんだけど。

キ:逆OB訪問。

師:で、風呂に入って、マンガ読んで。

キ:自由だなぁ。

師:おうよ。……家にガスが来てないから、電気ポッドで即席麺を作ってたなぁ。

キ:ええーッ!?

師:電気ポッドの中に、麺を直接ぶちこんで作ってた」。オレが生き延びたのは、まさに萬平さんのおかげだよ。
【編集部注】萬平さん…NHK連続テレビ小説『まんぷく』の登場人物。即席麺を発明した日清食品創業者・安藤百福がモデル。演者は長谷川博己。ということで、また朝ドラ話が始まってしまいました。今回かなり長いのですが……オフビートに免じて御容赦ください。

キ:萬平・福子のまんぷくラーメン。二人がまったく想像してなかっただろう食べられ方だけど…

師:想像を超えていくからね、オレは。でもそのあと、お茶が飲めなくなっちゃうんだよ。油とにおいがすごくてね。

キ:萬平さん、麺を油で揚げてましたもんね。だけど、ラーメンくさいお茶は嫌だなぁ……

師:そういう失敗もしょうがない。したほうがいい。

キ:そうそう、ちょっと前からやっと萬平さんがラーメンを作り始めたじゃないですか。

師:ようやくね。ラーメンを作り始めるまでが長いよ……

キ:せっかくラーメン作りが始まって、大きなドラマがあるのかと思いきや、試行錯誤するところは絵にならないのかあまり取り上げないんで、ガッカリしてしまったうえに忠彦さんとモデルとのやりとりが長くて……変な踊りまで踊って…

師:壇蜜さんね。彼女の使い方が雑なんだよ。もっといい役があったと思うんだけどなぁ……

キ:本当に。
【編集部注】…『まんぷく』の話はここまで。ご覧になっていない皆様、お疲れさまでした。ちなみに「忠彦さん」は本作の主人公・福子(安藤サクラ)の義兄で画家だそうです。演者は要潤。

師:朝ドラの話をしておいてなんだけど、今の大学生はテレビなんて見ないでしょ、どうせ。だからテレビだって買い与える必要ないんだよ。

キ:スマホがあればいらないかもですね。

師:コンビニが近くにあれば冷蔵庫だっていらないし…

キ:私も夜遅くまで開いているスーパーを冷蔵庫代わりに使ってました。

師:冷蔵庫は持っていたけど、ほとんど何も入ってなかったからなぁ。

キ:一緒だ。私の冷蔵庫にはフィルムしか入ってなかったです。冷凍庫はなかったし。

師:一人暮らしの男子には冷蔵庫は必要なし!

キ:断言していいかはわからないですが…まぁ条件が整えば絶対に必要というわけでもなさそうですね。

師:電子レンジだってスーパーに置いてあるしな。

キ:そうですね。買ってその場でチンしてくればいい。

師:それでも必要なら、友達に借りればいいんだよ。

キ:電子レンジだけ借りに!! ……そうとう人間力が養われますね。

師:なけりゃあないでなんとかするよ。最初からあれこれ買い与えないで、だんだん必要なものが自分でわかってくるから「バイトして買え!」って言っておけばいいんだ。

キ:こんぴらサンドさんに言えるかなぁ? だって息子さんに目玉焼きすら焼かせたことがないんですよ。

師:目玉焼きなんて簡単なんだから、いますぐ焼かせたらいいんだよ!

キ:目玉焼きといえば師匠のお得意料理ですね!!

師:まさに!
フッ素加工のフライパンに卵を割って…フッ素加工ってのが大事ね、焦げつかないから。しばらくすると白身の下のほうが少し焼けてきます。カリカリが好きかふっくらが好きかで焼き加減を調整して、自分の好きな焼き加減になったら、水を少しだけ注ぎ入れます。そして蓋をして蒸し焼き。水を入れるときに蓋を反対の手で持って用意しておく。水を入れたら水が蒸発してバチバチってなるけど慌てずに蓋をする。慌てる必要なんてないの。わかるか、キッチン?

目玉焼1

①フッ素加工のフライパンに卵を割り入れる。

目玉焼2

②少量の水を注ぎ、蓋をして蒸し焼きにする。

目玉焼3

③目玉焼きのできあがり。

キ:は、はい(そんなドヤ顔で言われてもなぁ……)。急にスイッチが入ったみたいに話し出したからびっくりしましたが、本当に目玉焼きを焼くのがお得意なんですね。いや〜、すごく丁寧な説明ありがとうございます。これでこんぴらサンドさんの息子さんも目玉焼きを焼けると思います。

師:これで焼けなかったらバカだよ。

キ:コラコラ!

師:そうなると、まずはファンシーケースからか?

キ:きゅ…急ですね。え〜と、ファンシーケースですか? 昔の子ども部屋の片隅にあった?

師:そうそう。ビニールの布に覆われて端にファスナーがあって。オレの部屋にあったのは水森亜土ちゃんの絵が描いてあった。まさにファンシーだったなぁ。

キ:お姉ちゃんから譲り受けたものなんでしょうね。

師:正解。一人暮らしには必要でしょ?

キ:いやいや、必要ですか?

師:必要だよ。殺風景な男の一人暮らしの部屋だもの、ひとつくらいファンシーな要素がないと。

キ:ファンシーケースがファンシーな要素を担う? う~ん…

師:それにさ、こんぴらサンドの息子には香川に残してくる彼女がいるのか知らないけど、息子は東京でも彼女をつくっちゃうでしょ。

キ:でしょって言われても…

師:女の勘は鋭いからなぁ。そのことを察知した香川の女は、突然東京にやってくるぞ。

キ:はぁ…

師:人生最大の危機!
部屋の中にはこんぴらサンドJr.と東京女。外には香川の女。鳴り響く呼び鈴。絶体絶命! ……こんぴらサンドJr.が部屋を見渡すと、なんと片隅に香川を出るときに親が持たせてくれたファンシーケースがッ!

キ:あはは、こんぴらサンドJr.ってなんかいいですね。

師:オレもそう思う。…って、今はそこを突っ込むときじゃないだろ! こんな状況でキッチンならどうするよ!?

キ:……やっぱり東京女にファンシーケースに入ってもらうかなぁ?

師:正解!

キ:あ、ありがとうございます。

師:こんぴらサンドは知らないだろうけど、東京で若者が一人暮らしするようなマンションには、人が隠れられるスペースなんてどこにもないから。

キ:収納が小さくて苦労しますよね。……だけどファンシーケースって、我々が学生だった時代ですら、そうとうイケてないアイテムだったような。いまどきの男子ならもっと嫌がるんじゃ…

師:バカもん! 人生最大の危機を前にして、イケてないとか言ってる場合かッ!?

キ:す…すいませんっ!

師:……つまりファンシーケースは、息子の危機を救うための親心。

キ:お、親心なんですね。Jr.がそのことに気がつく日が、来てほしいような来なくていいような……

 

師いわく:
〆ファンシーケース_縮小

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

いよいよ書籍化! 『春風亭一之輔 師いわく』2/28発売決定!

 

書籍化記念イベント、公開ナマ『師いわく』3/19開催決定!

 

プロフィール

師いわくプロフィール画像3−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像3−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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