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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第38回> 『屈強な男達を見かけると、無性に……』

みなさんのおかげで『師いわく』の売れ行きは順調です。ありがとうございます。全国津々浦々の書店に届いてない場合もあるようで、ごめんなさい。店頭にない場合はぜひご予約くださいませ。単行本ならではの仕掛けもありますので、お楽しみに。
さて、来年に開催される東京オリンピックの話題が盛り上がってきたけれど、その前に、今年は「ラグビーワールドカップ2019」が全国各地で開催されるのを忘れるべからず。そこでラグビー部に在籍していた一之輔師匠にラグビーについて訊いてみた……。

新ヘッド

キッチンミノル(以後、キ):今年は9月にラグビーのワールドカップが日本で開催されますが、たしか師匠は、かつてはラガーマンでしたよね…

一之輔師匠(以後、師):今でもね。

キ:今でも!?

師:気持ちはね。今でもラガーマン。

キ:気持ちは今でも…って言ってますけど、本当にラガーマンだったのは高校最初の1年間だけだったんじゃ…

師:うるさいよ!

キ:それじゃあ今年は試合観戦に行く予定は…? ワクワクしていたり?

師:ない。

キ:な、ないんですか。……そうですか。で、でもラガーマンなんですよね?

師:そうだけど、なにか?

キ:え〜と、それじゃあどんなところが、今でも自分はラガーマンだなぁと感じるところなんでしょうか?

師:『スクール☆ウォーズ』が好き。『スクール☆ウォーズ』が好きな人は、誰もがラガーマンだから。
「One for all, all for one」だろ!
【編集部注】スクール☆ウォーズ…1984年10月~1985年4月までTBS系で放映された、アツい青春学園ドラマ。正式名称は『スクール☆ウォーズ~泣き虫先生の7年戦争~』。……熱血先生が泣きながら不良を殴ります。

キ:『スクールウォーズ』が好きなだけでいいんですか? それなら私も胸を張ってラガーマンです!
ワン・フォー・オ〜ル! オール・フォ〜・ワンッ!!

師:……うるさいよ。あのね、スクールとウォーズの間に☆が入るから。わかる? 今わかってなかったよね。

キ:……

師:はい。キッチンはラガーマンではありません。

キ:ええーッ!? 厳しいなぁ。

師:それじゃ、「馬上から失礼します」って場面は知ってる?

キ:もちろん知ってますよ。富田圭子、光男の彼女!

師:ああそう。

キ:ん? その場面がなにか?

師:圭子を演じた伊藤かずえさんに会ったときは嬉しかったなぁ。綺麗だったなぁ……向こうは覚えてないと思うけどね。

キ:そうでしょうね……

師:お〜い、キッチンさん。こういうときは…

キ:ん? あっ…いやいや、覚えていると思いますよ!

師:そう?

キ:(めんどくさいなぁ…)それじゃそのときには『スクール☆ウォーズ』の話を?

師:したよ、もちろん。白い馬に跨って光男を助けた話を。

キ:あの場面って、たしかすごく急な階段の上にある神社の境内ですよね。階段を駆け上がったところで富田圭子が白馬に跨って…

師:「馬上から失礼します」って名台詞。

キ:だけど、あんな急な階段の上までどうやって馬で行けたんですかね〜?

師:「寛永三馬術」みたいなもんだろうね。駆け上がっていくんだよ。
【編集部注】寛永三馬術…講談。曲垣(まがき)平九郎,向井蔵人,筑紫市兵衛を主人公とした典型的な武芸講談。そのうち平九郎が将軍徳川家光の命で芝愛宕山の男坂を馬で乗り上がり梅花を手折る《出世の春駒》が名高い。(小学館/世界大百科事典より)

キ:男坂を!

師:パカランパカランっつって。

キ:大変な苦労をしてあの場所で待ってたんスね。その思いを光男はわかってないだろうなぁ…

師:……そうそう、送ってもらったんだよ。収録の後、どっかの駅まで。

キ:伊藤かずえさんが運転するマイカーで?
【編集部注】…伊藤かずえさんのマイカーは日産の初代シーマ(1990年製)で、大切に乗り続けていることで有名です。

師:いやタクシーで。ドキドキしたなぁ……

キ:どんな会話をしたんですか?

師:ベロンベロンに酔っ払ってたから覚えてないや。

キ:もしかして、「酒つま」の帰りですか?
【編集部注】酒つま…BSジャパンで放送されていた番組『酒とつまみと男と女』。2015年3月10日放映の回。

師:そうそう。野毛から横浜か東京駅までかな。家まで連れていかれるかと思ったけど、そんなことはなかったね。

キ:そ、そうですか…ちなみに『スクール☆ウォーズ』で好きな場面は他にも?

師:あるね。それを言い出したらキリないよ。内田がズーッと「花」ってノートに書いているシーンとか

キ:高校三年生で漢字の「花」を勉強!?…って場面ですよね。

師:それから、水原が先生と勝負する場面ね。

キ:川の中で殴り合う…

師:その後に先生の家での場面で、先生が水原にブランデーを勧めるんだよ。

キ:水原が寒がってるからでしたっけ?

師:「先生いいのかよ? 教師がこんなことしてよ」「バレたらこれかな」。

写真A

キ:アハハ。よく覚えてますね〜、そんな細かいところまで。

師:「オレもラグビーやっときゃよかったかな。オレ、オレよぉ〜」。「今からでも遅くはないぞ。お前さえその気になれば、ラグビーだってなんだってやれるチャンスはいくらでもあるんだ、水原」つって。

キ:そのあと風呂に入るんですよね。すごい小さな風呂に。

師:二人でね。

キ:それじゃあ師匠がラグビー部に入ろうと思ったきっかけは『スクール☆ウォーズ』に憧れて?

師:憧れてというか……みんなが高校に入ってから始めるスポーツがいいなと思ったんだよ。

キ:中学校にはなかなかラグビー部ってないですからね。

師:だから、みんなゼロからのスタートでしょ。

キ:そうですね。でもやってみたら案外キツかった?

師:案外どころじゃなかった。本当にキツかった…

キ:それで1年で辞めちゃったんですよね。

師:そうね。最初は30人くらい入部して、最後に残ったのが8人か7人だったかな。辞めた人のなかでは、オレがいちばん最後でさ。

キ:それは辞めにくそう…

師:顧問の先生がすごく怖くて。日大の例の監督みたいな感じで、絶対王政的な。昼休みに体育教官室に行ってさ、すげー怖い顔して「おう、どうした?」って言われて、恐る恐る「辞めたいんですけど…」って…

キ:……

師:「勝手にせぇーッ!」って言われて。

キ:怖っ!
……あっ、でも引き留められなかったんですか?

師:引き留められなかったぁ。でもそのほうが良かった。心の中では「ヨシッ!」ってガッツポーズよ。

キ:これで辞められるぞって?

師:そうそう。あーよかった…って。ホッとした。

キ:本当に怖かったんですね。

師:いまでも時々夢に出てくるからね。

キ:監督が?

師:一昨日くらいも夢に出てきた…

キ:完全にトラウマになってるじゃないですか。

師:本当にトラウマだよ。

キ:笑えないっスね。ちなみにどんなふうに出てくるんですか?

師:けっこうフランクに出てくる。「お〜、やっとるかぁ〜!」って。関東出身なのになぜか関西弁なんだよね。いまだに不思議なんだよなぁ。

キ:それじゃあ、あまり嫌な感じではないんだ。

師:やだよ! 気分悪い。なんだよ、急に優しくなりやがってと思うし。

キ:優しくなっても嫌って…本当に嫌だったんですね。

師:嫌だった。だから「勝手にせぇー!」って言われてすぐに辞めた…辞めた日が金曜日だったのかな…次の土曜日か日曜日にさ、同級生みんなが家に来てくれて「辞めるなよ!」って。

キ:青春ですね。泣けてくる〜…

師:わざわざ電車に乗って。学校から30分もかかるのに。それでもオレは「辞めるから。決めたから」って、心を鬼にして「辞める、辞める辞める!」って。

キ:でも、そのとき辞めたことで寄席通いするようになって、現在の姿へと続くわけですから。面白いもんですね。

師:そうね。だけど、そういうことがあったから、体の強いスポーツマンに憧れがあるんだよ。

キ:憧れ?

師:自分ができなかったからね。ラガーマンだけでなく、例えば格闘技の選手とかって体をいじめ抜いていじめ抜いて、それぞれの山の頂点を目指しているわけでしょ。すごいなぁと思うよね。

キ:師匠も一度はラグビーという山を目指そうとしていたわけですからね。

師:まっ、オレは、早々に下山したけどね。

 

師に問う:
私は演芸ファンの45歳主婦です。
私の悩みはここ数年、お相撲さんやラグビーの選手等の大きくて屈強な男達を見かけると、無性にタックルしたくなってしまうことです。先日もたまたまラグビーのサントリーのチームと新幹線の車両が同じで、選手が移動する度にタックルチャンスを窺ってしまっていました。(私の身長は154㎝)
さらに、今年はラグビーワールドカップ。世界中から屈強な男達が東京に集結します。タックルしない為にはどうすればいいでしょうか?
なぜ、お姫さま抱っこでもなく、抱きつくでもなく、本気のタックルなのか、自分でもわかりません。
(なおぷく/東京都)

 

キ:なおぷくさん、無性にタックルしたくなるって……どうかしちゃったんですかね?

師:どうせやんないでしょ。

キ:ん?

師:タックルなんて。したくなるだけで。タックルしないためにはどうしたらいいでしょうかって言われても困るよ。しないんだから。

キ:……

師:人に相談するほど感情を抑えることができないのなら、一回タックルしてみたらいいんだよ。どうなるか経験したらいい。

キ:実際に?

師:すげーでかくて屈強なオールブラックスの選手みたいな人にさ。してみな!

キ:ド〜ン!…って。

師:そしたらギャー!…ってなるから。路上に転がってさ、もう二度とやるまいって思うに決まってるよ。

キ:吹っ飛ばされて…

師:それか、向こうは屈強だからタックルしようとしたなおぷくをヒョイって持ち上げて…

キ:うわーッ! なおぷくさんは何もできずに手足をバタバタさせて…

師:そしたらスッと静かに降ろしてくれるかもしれないじゃない。

キ:えーッ? 思わず相手の顔を見上げてしまいますね、涙目で。

師:それでも、どうしてもタックルしたいというんなら止めない。だけど生命に関わるかもしれないよ。その場で警察のお縄にかかるかもしれないし。……暴行だからね、タックルは!

キ:よく考えたら、知らない人へのタックルは立派な犯罪です。

師:なおぷくは、他人に相談する前にどうなるか結果を想像してみなきゃ。それでも、どうしても感情を抑えられないっていうなら話を聞くよ。

キ:まぁまぁまぁ…せっかく相談してくださっているのに。

師:それじゃ相手にタックルしてもいいか訊いてみればいいじゃん。

キ:それはいいですね。そうしたら、いいよって答えてくれる人がいるかもしれません。それなら心置きなくタックルができる!

師:だけど、そんな簡単なもんじゃないから。タックルは。

キ:えっ?

師:実際にやってみるってなったら、ものすごい大変だから。

キ:はぁ…

師:オレはやっていたからわかるけど、タックルをしたいなら、まずは首を鍛えなきゃダメ!

キ:首ですか……

師:だって首が折れちゃうから。鍛えてないと。

キ:そ、そうなんですか。

師:四つん這いになって、思いっきり頭を押さえつけられてその状態にずっと耐えて耐えて、首を鍛えるんだよ。それから横からの負荷にも耐えられるように二人一組で首相撲みたいな感じになって、頭と頭を合わせるようにして、グゥーググゥー…って鍛える。

キ:へ〜…

師:それから肩の筋肉をつけて、首の周りを筋肉で固めていかなきゃいけないの。ここらへんを。こうやって。それで、こうなっちゃいけなくて。ここがガーン!…ってなっちゃうから。ここをちゃんとして。ここが弱いから……わかる?

写真B

キ:ん〜…

師:ここを固めて、ドーン!…ってまっすぐ相手に入っていかなきゃいけない。相手のここにね。これが相手の膝に入ったら鎖骨が折れるから。簡単に。危ない場面を何回も見てきてるから…

写真C

キ:……す、すみません。すごくヒートアップしてびっくりしました。なんかラグビーをすごくやってきた人みたいな感じで…

師:でしょ。ちゃんとやってたから。……タックルするだけじゃダメだ。腕で相手をひきつけなきゃいけない! ダーン!…ってやって引きつけて、それで倒すんだよ相手を…

写真D

キ:師匠! もう、わ…わかりました。

師:……それからねじ込む。相手を倒すときに。そこにも技があって、こうやって倒すこともあれば、持ち上げてダン!…って落とすこともあるから…

キ:(オイオイ、なげーなぁ……)

写真E

▲タックルの話に飽きてコーヒーゼリーをむさぼるキッチンさん。

師:タックルにも、いろんなタックルがあるからね。

キ:そ、そうなんですね。

師:そうだよ! そんなことも知らねーのか、てめーはっ!!

キ:す、すみません。

師:……とはいえ、タックルする前にやることがいっぱいあるから!
なおぷくは、まず首を鍛えてから!! 話はそれからだっ!!
ハァーハァーハァー……

キ:顔を真っ赤にして、肩で息してるし。……師匠はそれが辛くて退部したわけだ。

師:バカ! 辛かったけど最後まで鍛えてたんだよ。オレは。

キ:……

師:悪いけど、高1の頃は身体ムキムキだったから。

キ:なるほど、高1がピークだったのかぁ……

師:おいッ!

 

師いわく:
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(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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プロフィール

師いわくプロフィール画像3−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像3−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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