本との偶然の出会いをWEB上でも

師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第39回>

第39回 『夫が宝くじを買い続けています』
先日は小学館での出版イベントに多くの方にお越しいただきました。ありがとうございました。その模様は改めてこちらの連載でご報告させていただきますのでお楽しみに。
さて今回は、前回に引き続き師匠のラグビー話がまだまだ止まらなくて……。

師いわく_メイン画像2

一之輔師匠(以後、師):……オレさぁ、タックルが上手いって言われてたんだよね。

キッチンミノル(以後、キ):(ラグビーの話、まだ続くのか……)それじゃあどこを守ってたんですか?

師:守ってた? 「守る」とかそういう言い方は、ラグビーではしないんだよ!

キ:す、すみません。えーと…「ポジション」と言えばいいんでしょうか…

師:おおまかにフォワードとバックスというのに分かれていて、オレはバックスの真ん中でセンターというポジション。展開していくとすぐにタックルに入っていかなきゃいけない役目。

キ:はぁ…

師:まずはそこで敵を止めるんだよ。

キ:なるほど。

師:「展開」というのは、ここにスクラムがあると、バックスはこう並んでいるわけ。

キ:はいはい。

師:ディフェンスラインがこうあって、バックスラインがこうあって、こーやってボールを展開していくわけ。こうやってね…

キ:へー。

師:センターぐらいまではこうやってバーン!…ってぶつかるわけ。このラインより下がると「ゲインされる」っていってダメなの。ラグビーは陣取り合戦だから。

キ:……

師:なるべく向こうの陣地でダン!…って止めないといけないわけ、だからまずはセンターがタックルするわけよ。わかる?

キ:……で、結局は「守る」ってことですか? それで後ろでパスを回すスポーツってことですよね?

師:…………。もういいよ、疲れた。クリームソーダ!

キ:2杯目!?

師:別にいいだろ!

キ:……えーと。3月は卒業シーズンですけど、いい思い出ありますか?

師:う〜ん……中学校の卒業の時に第5ボタンを欲しいって女子がいたな。

キ:第5ボタン?

師:「第5をください!」って言われたんだよな。「第2もあるけど」って言ったんだけど、「5をください!!」って。

キ:「5」になにか意味があるんですかね。

師:謙虚なコだったんじゃないの?

キ:謙虚? それであげたんですか?

師:あげたよ。別にいらないし。……顔も名前も覚えてないけど。

キ:それでも当時は嬉しかったでしょ?

師:嬉しかったと思うなぁ。でもそのあと何の音沙汰もないしね、それっきり。あれはボタン狩りだったんじゃ…って思うときがある。

キ:ボタン狩り!? なんですかそれ? ……ちなみに、師匠から告白するってことはしなかったんですか?

師:したよ。卒業式の前に済ませた。ダメだったけどね。

キ:あー、残念。

師:渡辺くんちでダライアスⅡをやりながら電話する機会をうかがって。魚バンバンぶっ殺しながら。
……で、渡辺くんに「お前、いつになったら電話すんだよ」って言われて。
【編集部注】ダライアスⅡ…1989年にタイトーが発表した、人気シューティングゲーム。後にメガドライブ(セガ)やPCエンジン(NEC)など家庭用ゲーム機で楽しめるようになった。舞台は太陽系の宇宙なのに、敵キャラは海洋生物。

キ:青春だぁ〜。

2018-06-25 11.34.11

師:「う〜ん、次のゲームクリアしたらかな」とかオレも言ってさ。

キ:ゲームをやりたいわけではないんですよね。告白するための気持ちを整える時間というか…

師:そうそう。で、なんで渡辺くんの部屋だったかっていうとさ、部屋に独立した電話があったんだよ。

キ:そういう子いました! 友だちに一人か二人くらい。当時はなかなか自分の部屋にはなかったですよね、電話は。うちでは固定電話のコードを伸ばして部屋に持っていって電話したりしてました。

師:でも渡辺くんちはそうじゃないんだよ。部屋に子機があってさ。外線もちゃんと使えて……

キ:すげーうらやましい! 私の地元では公衆電話から告白してましたよ。

師:だけど子どもってバカだよね。中学生の告白ってさ、電話していきなり「付き合ってください」って言うじゃん。

キ:唐突にね。

師:おかしいよね。いきなり交際を申し込むって。ねるとんじゃないんだから。
【編集部注】ねるとん…フジテレビ系列で1987年10月~1994年12月まで放映された人気番組『ねるとん紅鯨団』。大勢の男女がお互いを狙い合う企画が特に人気が高く、途中から集団お見合い専門番組となった。元々「ねるとん」は司会のとんねるずのことだが、今でいう婚活パーティーのことを「ねるとんパーティー」と呼ぶほどに流行した。

キ:時に、あんまり面識がなかったりしますからね。

師:いままで喋ったこともないような隣のクラスのちょっと可愛い子にいきなり電話して、「付き合ってください」って言っても付き合ってくれるわけないじゃん。「いや〜、それは…」ってなるよ。当然だよ。それで振られたってなるじゃない。……違うんだよ、そこからなんだよ。

キ:そこから…

師:そこから巻き返せばいいのに、振られたと思って何もしないでしょ。それに、まず第一声から間違っているし。

キ:……

師:「今度映画に行ってもらえませんか?」とかさ、「一緒に水族館、行きませんか?」とかさ、そこからでしょ!

キ:たしかに。少年一之輔に、いまの想いを届けたかったですね。
なんなら「渡辺くんちで一緒にダライアスⅡをやりませんか?」でもよかったわけですからね。

師:「二人でバンバン魚ぶっ殺しませんか?」ってね。

キ:…………

 

師に問う:
以前、年末ジャンボの話題が出ていましたが、私の夫も宝くじが大好きで、正直やめてほしいのですが、聞く耳を持ちません。当たるわけないと言っても、「宝くじはロマン」「買わなければ当たらない」等々私には理解できない理屈で一年中買い続けています。そのお金を貯金していれば、それなりの貯蓄になったはずなのに。娘(3歳)の成長のためにも将来に備えたいのに。夫にやめてもらう方法か、または私がいらいらしなくなる考え方を教えてください。
(ママはたらくから/女性/35歳/千葉県)

 
 

師:オレは宝くじをまったく買わないから、ママはたらくからの気持ちはよくわかるよ。

キ:買ったことないんですか?

師:ない。興味ない。それにあの銀座とかで宝くじを買うために大勢が並んでるじゃない? あれ見ていると、時間がもったいないっていつも思っちゃう。
【編集部注】…銀座の数寄屋橋交差点近くにある「西銀座チャンスセンター」は、日本一有名な宝くじ売り場。年末ジャンボ宝くじ販売期間中の大安の日には、4時間以上並ぶ大行列ができる。

キ:年末ジャンボだと、寒いなか長時間並んでいますよね。

師:宝くじっていうのは儲かる仕組みになってないんだから。あれはどこが儲かってんの? 国? みずほ?

キ:国じゃないですか?

師:みずほ銀行も儲かってるでしょ、そうとう。
【編集部注】…宝くじの収益金は、全国各地の公共事業等に使われています。宝くじ公式サイト(https://www.takarakuji-official.jp/)をご覧ください。

編集の高成さん:富くじのテラ銭と比べたら、賞金の配当率がめちゃくちゃ悪いらしいですよ。
【編集部注】テラ銭…ギャンブルで、売上金から当せん金を引いた金額。大雑把に言えば主催者の利益。寺社が富くじを催していたことから「寺銭」となった。現在、宝くじなどの当せん金額の総額は、くじの発売総額の50%以下に収めることが決められています。対して、江戸時代の富くじの配当率はだいたい70%くらいだったと言われています。

師:その割にはみずほってATMで手数料を取るじゃない。本当に腹が立ってしょうがないよ。

キ:いやいやいや、手数料をとるのはみずほだけじゃないし、それはまったく別の話じゃないですか。

師:そうかもしれないけど、あそこにある金はオレの金だぞ!!

キ:まあまあ、その気持ちは私も同じですが……それじゃあ、旦那さんに宝くじを買うのをやめさせるためのいい方法はありませんか?

師:子どもに言わせるのは手だよね。旦那の目の前で、ちびた鉛筆持って字を書かせてさ…

キ:はい。

師:時々、唾で字を消すの…

キ:消しゴムが買えないから?

師:そう。ノートを唾でこすってボロボロにして…

キ:そんな姿を見たらきっとお父さんは黙って見ていられないだろうなぁ……思わず「どうしたの?」って聞いてしまうかも。

師:そうしたらすかさず、「お父さんの宝くじ1枚300円で新しい鉛筆と消しゴムが買えるのに…」って。

キ:泣ける~~

師:これでやめなかったらバカだよ。

キ:ただ、鉛筆だと宝くじ1枚分の効力しかないからなぁ……やめてくれるといいですけど。旦那さんにとって「宝くじはロマン」なんだそうです…ロマンまで出してくるとなかなか手強そうですけど。

師:ロマン? 何がロマンなのか説明してほしいよ。

キ:師匠には宝くじにロマンを感じる人の気持ちは…

師:わからない。全然!

キ:すると『富久』とかはどういう気持ちで演っているんですか? あれはロマンがありますよね。

師:ああいう噺はね、のんべんだらりんと生活している人が宝くじを買って当たるわけじゃないの。そこにはバックグラウンドがあるわけ。

キ:はい。

師:『富久』ならさ、酒の席で旦那をしくじって……どん底にいるところからの噺でしょ。

キ:そうですね。宝くじも、べつに買わなくてもよかったのに、世話になっている人が売っていたから義理で買っちゃって…

師:落語に出てくる富くじの話って、普通に生活している人が、当たったらいいなといって買う話ではない。

キ:なるほど。ママはたらくからさんの旦那さんとは状況が…

師:全然違う。家もあって、奥さんもいて子どももいて。ママはたらくからの旦那はまだロマンを語るような状況じゃないわけ。

キ:ロマンを語ることができるのはもっとどん底に落ちてからだと。

師:そう。だからもっとギャンブルに溺れてさ、ママはたらくからとは離婚して。家も失って住むところもないところからの宝くじ当せんじゃなきゃ、ロマンなんて語る資格はなし!

キ:本当に宝くじでロマンを感じるにはそれくらいまでやらないと…

師:ダメ。いまのままじゃ振れ幅がなさすぎる。だからママはたらくからの旦那は、チャンスセンターの列に布1枚だけ身に着けてさ、ひのきのぼう持って並べばいいんだよ。

キ:布1枚で! ……ヒノキの棒?

師:みんなが厚手のオーバーを着込んでいる真冬の年末ジャンボのときでもさ、その恰好で右手に300円だけ握りしめてさ。

キ:やっと貯めた300円を宝くじにつぎ込む…

師:それこそがロマンじゃん。連番でいくつも買って当たったって、そんなのロマンでもなんでもないよ。
……自分をまずはどん底に落としてさ。レベル1からだよ。

キ:レベル1?

師:王様の話を聞いて「ゆけー勇者よ!」って言われて…

キ:ドラクエ…ですか? あ、それで「ひのきのぼう」!

師:そこら辺の家に入って、引き出しを漁ったり壺を割ったりしてゴールド集めて……って泥棒じゃん。どこが勇者だよ!

キ:あの世界では誰も気にしてないですが、立派な窃盗犯です。……どん底ですね。

師:「それくらいしてみなさいよ!」って旦那に言ってみたらいいんだよ。「あんたなんてちゃんとした家で幸せに暮らして、余った金で宝くじ買って。“当たんない、当たんない。でもこれが男のロマンだ〜!”って叫んでるけど、お前はバカなのか!」…って言ってやったらいいんだ。

キ:そんな程度じゃロマンじゃねーぞ! と。

師:おうよ。まずはどん底まで落ちろ! と言ってみな。「あんたみたいに、のうのうと生きている人の上にはロマンなんて降ってこないわよ」って。

キ:今みたいな状態で当たって嬉しいのか?…ってことですね。

師:それでも当たれば「嬉しい」って言うだろうけど。そう簡単には宝くじは当たりませんから。

キ:言い切りましたね。

師:たしかに旦那の言うように「買わなければ当たらない」けどさ、「買ったってまず当たらない」のが宝くじ。

キ:厳しいなぁ。

師:厳しい。だからこその『富久』と心得よ!

キ:ハハ〜! 恐れ入ります。

 

師いわく:
師いわく 第39回 〆画像

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

いよいよ書籍化! 『春風亭一之輔 師いわく』好評発売中!

 

プロフィール

師いわくプロフィール画像3−1

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
師いわくプロフィール画像3−2

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

●メール大募集●

『師いわく』では、不惑を迎えた春風亭一之輔師匠に相談したいあなたのお悩みや愚痴をお待ちしています。下記のメールアドレスに、①あなたのお名前(匿名・ハンドルネームOK)②お悩み・愚痴など…を書いてお送りください。③性別④年齢⑤お住まい…なども書いていただくと、師匠も相談にのりやすそうです。採用された方には、春風亭一之輔&キッチンミノルのサイン入り特製クリアファイルを差し上げます!

iwakuichinosuke@shogakukan.co.jp

<『師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」』連載記事一覧はこちらから>

記事一覧
△ 師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第39回> | P+D MAGAZINE TOPへ