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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第42回> 『掴む人・我慢する人・むせる人』

今回は、単行本刊行イベント〈公開ナマ『師いわく』〉の報告の最終回です。まとめてご紹介しましょう。
さて、前半のお悩み相談もいよいよ佳境に。最後は、人間誰しもがやってしまうことについてのお悩み。はたして我らが師は、いかにして我々を明るい未来に導いてくださるのか……?

『師いわく』新ヘッダー画像

 
キッチンミノル(以後、キ):……師匠は先ほど「西武池袋線のシッタルダ」って言われてましたけど。

一之輔師匠(以後、師):そうね。

キ:同じような思いを持つ若者がいるみたいで……

師:へぇ~。

キ:そのことについて、周りの方が困っているようなんです。

 

師に問う:
26歳になるフリーターの甥っ子が、今年に入って急に「僕は釈迦の生まれ変わりだった!」と言い出し、インドに証拠を掴みに行くと言っています。今後どう接すればいいでしょうか?

 
 

キ:どうしたらいいでしょうか?

師:これはもう、なにか掴んでくるのを待つしかないんじゃないの? 行くって言ってるんだから。きっと掴んでくるんでしょう。

キ:掴んできますかね〜?

師:……とある師匠の話なんだけど、昔ね。

キ:はい。

師:某演芸評論家が…

キ:……

師:あるとき連載していたスポーツ紙で、その師匠のことをすごい酷評したんだよ。

キ:はぁ…

師:でね、その次の回も同じ師匠のことを書くことが決まっていたそうなんだけど。

キ:その師匠のお気持ちを察すると胃が痛くなりますね……

師:1回目でボロクソにけなされているからね。

キ:ええ。

師:それで、事情を知っているその師匠の師匠がさ、評論家に言ったんだって…

キ:……

師:「もう少し優しく書いてやってくれよぉ〜」って。

キ:師匠の師匠が!

師:さすがにその評論家も悪いと思ったんだろうね。

キ:…はい。

師:次の回で大絶賛!

キ:ええ〜っ!?

師:締めの言葉がふるっててさ。いろいろ褒め称えた最後に…

キ:…………

師:「彼はなにかを掴んだようだ」って。

キ:おお~っ!

師:それを読んだ楽屋連中が「ウンコでも掴んだんじゃねーか?」って言ってたと、また別の、とある師匠が言ってた。

キ:うわ~…

師:だからこの甥っ子も、インドで象のウンコでも掴んでくるんじゃねーか?

キ:インドゾウのウンコって…

師:でもこれは、本気で言ってんのかね?

キ:どうでしょうか。

師:「釈迦の生まれ変わり」って言っているわけでしょ……釈迦の生まれ変わり?

キ:はい…

師:釈迦の生まれ変わりだっていう証拠は、インドにはないんじゃないの?

キ:ん?

師:甥っ子は日本で生まれたんでしょ?

キ:そうでしょうね。

師:なのに、なんで証拠がインドにあるってわかるんだろうね……?

キ:たしかに…

師:まぁ、こういうこと言い出すヤツに正論言ってもしょうがないんだけどね。

キ:こらこら!

師:でもいいと思う。自分の金で行くなら、いいと思うよ。

キ:そうですね。そこは自由ですからね。

師:でも、他人の金で行ってたりしてな! 親に金借りたりして。
「釈迦の証拠を掴みに行くから、金貸してくれよ〜」とか言っちゃって。

キ:あぁ、それはまずいですね。もしかしたら相談主さんにもそうやってお金を借りにきているかも。

師:……はい。降りてきました。

キ:言葉が?

師:はい。

キ:ど、どうぞ!

師:適度な距離感!

キ:付かず離れずで?

師:そう。もしかしたら本気ですごい証拠を持って帰ってくる可能性もあるからね。

キ:それはそれで楽しみです! もし掴んでくることがあれば、ぜひご一報を‼︎

師:まぁ……でも、ないだろうね。

キ:ないですか。

師:だって私が釈迦の生まれ変わりですから。

キ:さっきも言ってましたね……地球に二人も生まれ変わりはいらないと。

師:そう。ほら、世界は美しい!
【編集部注】世界は美しい…釈迦(ブッダ)が最期に言ったとされることば。「この世界は美しい。そして人生は甘美である」。

キ:またすぐその気になって……

師:シラけてるね〜…

キ:あ! そのことばで思い出しましたが、単行本『師いわく』の表紙カバーを取っていただくと「一之輔涅槃の図」になっているんですよ、皆さん。

師:周りに動物たちが集まってきていてね。

キ:「涅槃図」っていうのは、本当はブッダが入滅したときの絵なんですけど…

師:目を開けてんじゃん! よく見ると、家で「ひるおび!」見ているときの顔だな。「あの人また言ってら〜」って思っているときの顔。

キ:誰ですか?

師:いいんだよ、そんなことは! はい、次!!
 

師いわく:
金言1

(師の教えの書き文字/春風亭一之輔 写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

キ:……では次の相談へ行ってみましょう!

 

師に問う:
おならがとまりません…。特に職場でコピーしているときにどーしてもおならがしたくなります。ここでおならしたらどんなに気持ちいいことかと妄想しております。が、29年のキャリアがジャマをします…。どうしたらいいでしょうか?

 
 

キ:これにプラスしてもう一件、おならでお悩みの方がいらっしゃいまして…

師:もう一人いるの? この場所に? どんな集まりなんだよ!?

キ:ただいまの方は、おならを出したくても出せないというお悩みでしたが、もうひと方はこちら。

 

師に問う:
歩きながらおならが出てしまいます。やめられない止まらない。エレベーターの中など、おならのにおいで自分もむせそうです。どうしたらいいですか?

 
 

キ:どうしてもおならが出てしまう方から…

師:なんなんだよ〜?

キ:でも、お二人の悩みを読むとですね、おならを出さなくても苦、出しても苦なんです。

師:行くも地獄、退くも地獄かぁ…

キ:私は質問を読んで、お二人は今後どうしたらいいんだろうかとまったく見当もつかなかったんです。

師:オレなんか男子校だったからさ…

キ:はい。

師:女子がおならをするなんて考えられないよ。

キ:まぁそれは極端ですけど、「アイドルはおならしない」ってみんな信じていましたよね。

師:どんなおならなんだろうね? 「プ~~♪」って感じの高い音なのかね? それとも「ブッッ!!」ってかんじで野太いのかな。

キ:ちなみに師匠は、どういうタイミングでおならをするんですか?

師:タイミング? そんなものにタイミングなんてねーよ! だれも見計らってこういうときにおならしようなんて考えないでしょ! 

キ:お惣菜コーナーの前で平気でおならをするって前に言っていたから…考えがあるのかなって思っただけです、そんなに怒んなくても……落語をやっているときはどうですか?

師:落語の最中に? それはないなぁ。

キ:やっぱり噺に集中しているからですかね。

師:……オレの親戚に、しげちゃんっていう大工のおじさんがいるんだけど。

キ:はい。

師:おならが自由にできる人なんだよ。

キ:へ〜。

師:「とし坊とし坊! ちょっとおいで」って言われてさ。「なぁに〜?」って近づいていくと、「ペッ!」っておならするんだよ。

キ:アハハ。

師:ケラケラケラってオレが笑うと「おもしれーか?」って言って「ペッペッ!」ってまたするんだよ。

キ:聞こえるんですね、ちゃんと。

師:もちろん! しかも高音なんだよ。「ブ〜ッ!」じゃなくて「ペッ!」なんだよ。「プ~~」ってときもあったな。

キ:短いのと長いのを使い分けて…

師:そう。そういうおならを自由自在にできたんだよ、しげちゃんは。

キ:すごくいいじゃないですか!

師:そうなんだよ。だからおならは、ちゃんと有効活用するべきなんだ。

キ:有効活用?

師:人間関係において。そりゃ女性だから恥ずかしいかもしれないですよ。だけど女性とか男性とか言っている時代ではもうないんだから。

キ:女性だから恥ずかしいだとか男性だからどこでしてもいいということではなく、人間関係の潤滑油として、おならの新しい活用方法を創造しろと。

師:おうよ。

キ:だけど、この相談主さんは性別というよりは…29年のキャリアが邪魔するそうなんですが?

師:キャリア~~!?

キ:はい。

師:そんなのはね……屁でもねぇーんだよ!!

キ:わ〜〜〜…!

 

師いわく:
金言2

(師の教えの書き文字/春風亭一之輔 写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

師:…………恥ずかしい。今のは恥ずかしいよ。

キ:本気で恥ずかしがっている!!

師:落としどころとしてはかなり恥ずかしい…これは。

キ:師匠が照れている姿が見られるっていうのも生の醍醐味ですね。一方、勝手におならが出てしまうほうの相談者さんへはなにかありますか?

師:まぁ、オレも歩きながらおならが出ちゃうことはあります。

キ:私もあります。ただ、私は自分のおならのにおいを嗅ぐのは好きです。たとえばお風呂に入っていて、屁が泡になって水面に上がってくるのは必ず嗅ぎますよ。

師:嗅ぐ、嗅ぐ〜。それと手に収めて嗅ぐよね、

キ:やりますね〜! ……あれ? 会場がついてきてないみたいですが…

師:やらないですか!? ……みなさん、人生損してますよ!

キ:まあまあまあ、でも自分のおならを嗅ぐのはいいもんですけどね。昨日食べたものを思い出したり…なのに、相談主さんは自分のおならでむせるってことなんです。相当くさいんですかね。

師:違うんだよ。自分のおならを愛せてないんだよ!

キ:愛っ!

師:自分のおならでむせるなんて、自己否定だよ。

キ:自己否定!?

師:かわいいと思わないと。子どもみたいなもんなんだよ、おならっていうものは!

キ:まぁ、自分の中から出てきますからね。

師:そう。

キ:しかも、自分が食べたものが原料で…

師:自分の体内で漉されて出てきたものでしょ。

キ:漉されて…

師:そうして出てきたおならに対してむせそうなんていったら、おならには立つ瀬がないよ。

キ:はぁ…

師:いいおならだったな…って、思ってやってくれよ!

キ:……

師:そのためには、おならと遊ぶんだよ。おならと乱取り、おならとスパーリングよ。
ちゃんとおならと向き合って、受け止めて、受け身を取って、おならを成仏させてやんなきゃダメなんだよ!

キ:じょ、成仏……

師:だから、今日どれくらいおならが出たとか、どこでおならが出ましたとか、どういうにおいだったとか…

キ:ひとつひとつ、ちゃんと記録していく?

師:そう。今日からでも遅くない。あなたはおなら手帳をつけなさい!

キ:おなら手帳!?

師:そうすれば、いつおならが出るのか楽しくてしょうがなくなるから。

キ:なるほど…

師:それに我慢して我慢して出たおならって、結構くさいじゃない?

キ:くさいです。

師:それもまたいい。

キ:いい?

師:スマホのゲームでゲームの中の主人公をレベルアップさせるくらいなら、お腹の中のおならをレベルアップさせなきゃ。

キ:おならのレベルを…

師:限界まで我慢して、お腹の中で育てたおならを「ブッ」って出してさ、「おっほ〜、くっせ〜、たまんね〜〜」ってメモすりゃいいじゃない。

キ:なるほど。おならの成長を見守ったと思えば、むせるのもまたうれしい!

師:おうよ。わかったか!!

キ:は、はい!

 

師いわく:
金言3

(師の教えの書き文字/春風亭一之輔 写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

いよいよ書籍化! 『春風亭一之輔 師いわく』好評発売中!

 

プロフィール

一之輔プロフィル写真

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
キッチンプロフィル写真

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

●メール大募集●

『師いわく』では、不惑を迎えた春風亭一之輔師匠に相談したいあなたのお悩みや愚痴をお待ちしています。下記のメールアドレスに、①あなたのお名前(匿名・ハンドルネームOK)②お悩み・愚痴など…を書いてお送りください。③性別④年齢⑤お住まい…なども書いていただくと、師匠も相談にのりやすそうです。採用された方には、春風亭一之輔&キッチンミノルのサイン入り特製クリアファイルを差し上げます!

iwakuichinosuke@shogakukan.co.jp

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