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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第46回> 『毎日「うんこヤロー」と言われています』

いよいよ「ドッサリまわるぜ2019」ツアーが始まり、全国各地を飛び回る一之輔師匠。本日も早朝から都内でラジオのパーソナリティー、そして午後には沼津で「ドッサリ」落語会という多忙ぶり。ぐったりして新幹線で戻ってきたところを東京駅で捕まえ、お悩み相談を催したが……。

『師いわく』新ヘッダー画像

 

キッチンミノル(以後、キ):お疲れさまです!

一之輔師匠(以後、師):疲れてるよ。

キ:……そ、そうでしょうけど。そう素直に言われると返答に困ります。

編集の高成さん(以後、タ):昨日は同じ静岡県の浜松で落語会でしたけど、今朝のサンフリのためにわざわざいったん東京に戻ったんですか?
【編集部注】サンフリ…JFN系列のラジオ番組「SUNDAY FLICKERS」で、2010年からパーソナリティーを務めている。皇居に近い半藏門のスタジオから全国各地に生放送されているが、東京では放送されていない……けれど、「JFN PARK」のアプリで聴けますよ!(http://park.gsj.mobi/program/show/27397)

師:そうだよ! もっと言うとさらに前の晩は、落語会のあとでNHKの深夜ラジオに出演して、それで朝の新幹線で浜松に向かって……だから本当に疲れているんだよ。

キ:あはは、たいへんだ〜。

師:おいッ!

キ:まぁまぁ、そんな感じに「ドッサリまわるぜ」が始まったワケですが…
【編集部注】ドッサリまわるぜ…今年で7年目となる夏の全国ツアーの名称。詳細は(http://s-ichinosuke.com/)を御覧ください。……コレと並行して、いつもどおりに全国各地で落語をやっている超多忙な師匠です。

師:始まったよ!! だから、なんだよ?

キ:(疲れが機嫌の悪さに変換されちゃってるよ…)いやいやいや、仕事なんで聞かせてくださいよ〜。

師:仕事?

キ:今日は『師いわく』のお悩み相談会なんで。

師:そうなの?

キ:違います?

師:そうかぁ、仕事じゃあしょうがない。
いきなり喋りだして、なに突然質問を始めてんだよ…って思っちゃって。

キ:はい。だって仕事ですから。

師:……でも、それはそっちの理屈でしょ。

キ:(いやいや理屈って…)

師:こっちの理屈では、もう新幹線で軽く打ち上げちゃってきてるから。

キ:えっ、新幹線で寝てきたんじゃないんですか?

師:寝られないよ! 三島から東京まで50分ちょっとだぞ。早すぎるんだよ。

キ:案外あっという間なんですよね。

師:もっと遠けりゃいいのにって思う。だからビール飲んでた。

キ:だから!? それで、目つきがトロンとしているんだ……参ったなぁ。

タ:博多~東京間くらいあれば、4~5時間寝られるんですけどね。 

キ:いまその話をブッ込まなくても!
博多の落語会の会場に本を送り忘れて、とんぼ返りで本を届けに行ったときですよね。

タ:……

師:びっくりしたよ。いきなり来ていたから。

キ:前日に泣きそうな声で私に電話してきて、「キッチンさんのところに在庫ありませんか…」って。わざわざ編集部まで届けに行ったんですから。

師:孫がいてもおかしくない年齢のおじさんが泣きそうな声で…

キ:声が震えてましたからね。

タ:じつはとっくの昔に発送手配の準備は終わっていて、あとワンクリックすればよかったんですが、念のため会場に確認したいことがあったなって…それで朝になったらTELしようと会社の仮眠室で寝て起きたら、すっかり忘れてしまって…(以下いいわけ省略)

師:本を届けた後に水鏡天満宮の御朱印を手に写真撮ってんの、ツイッターで見たよ。
【編集部注】水鏡天満宮…福岡市中央区天神1丁目にあり、「天神」という地名の由来となった由緒ある神社。

キ:高成さん、確かに御朱印集めが趣味ですけど……わざわざツイッターに載せなくても。

師:会場の目の前に神社があって、シメたって思ったんでしょ。

タ:……はい、まあ。

キ:案外楽しんでんなぁ…と思ってましたよ。

タ:(≧∇≦)♪

師:「キャハッ」じゃないから!

 

師に問う:
保育園で4歳児の担任をしています。
クラスにやんちゃな男の子がいるのですが、ルールを守らず、よく友だちとケンカになってしまいます。「ルールは守ろうね」と話をするのですが、そのたびに「このうんこヤロー」「バカヤロー」「でていけー」「ぶっとばしてヤル~」と言われます。毎日「うんこヤロー」などと言われ続けると、いくら保育士といえど人間。さすがにカチンとくるし、へこみます…。
これらの言葉にどう返せばいいでしょうか?
いつもお子さんたちに素敵な返しをしている師匠に、もう二度とこうした言葉を言えなくなるような、絶妙な返しを伝授していただきたいです。(切実です(´;ω;`))
(匿名/女性)

 
 

師:「クソクソクソ」って汚いよ〜、こっちはメシ食ってんだから。

キ:まあまあまあ。

師:保育園に来ている子ってことは、他人様(ひとさま)の子だからなぁ。

キ:そうですね。一之輔さんの場合は自分の子どもですから、何を言うにも気兼ねせずに言えますが…

師:預かっている子だから、同じようにはいかないんだろうね。オレがこんなこと言われたら、とんでもない目に合わせるけどなぁ。

キ:……私には子どもがいないのでわからないのですが、「うんこヤロー」って言われてもいまの保育士さんや他人の大人は怒っちゃいけないものなんですか?

師:そんなことないんじゃないの。だって叱らないと子どもって育たないよね? 怒っちゃまずいけど叱ることはしないとね。

キ:「叱る」と「怒る」は違うんですか?

師:叱るのは子どものことを思って注意というか指導するって感じだけど、怒るってなると感情的に強く言ってしまう感じがあるじゃん。

キ:なるほど。

師:だから子どもが「ぶっとばしてヤル〜」って言ってきたらさ…

キ:はい。

師:「ぶっ飛ばしてみろよ…オイッ! ぶっ飛ばしてみろよ!!」って詰め寄って…

キ:……睨むの?

師:それで向こうが「ヤー!」って攻撃してきたら、倍返ししてやればいいんだよ。

キ:…………

師:うん。ダメだね、そんなことしちゃ。

キ:で…ですよね~~!
私の感じ方がまた間違っているのかと、一瞬思ってしまいましたよ。倍返しなんてしたら、怒るとか叱るとかとはまったく別の次元でダメですから。

師:そうだな。ダメだな。

キ:そういえば髙成さんの奥さんは、たしか保育士さんでしたよね?

タ:うん。フルタイムではないですけれど。

キ:こういう話って聞いたりしないんですか?

タ:う〜ん、まぁいるみたいだけど、ウチは自分の子育てでも慣れているから、何を言われても気にしないのかも……

キ:男の子4人でしたっけ?

タ:そう。

師:仕込みましたね〜。

キ:師匠も3人ですけどね。

師:男子4人はレベルが違うよ。

キ:じゃあ家に帰って愚痴とかこぼしたりは?

タ:……しないかなぁ。

キ:そうなんですね。

タ:ウチの嫁さんは小さい子の匂いを嗅ぐのが好きで、保育士になったくらいですから。

師:子どもの匂いが好きで保育士に!? フェティシズムで?

キ:どういうことですか?

タ:正確に言えば、小さい子全般というよりも赤ん坊の匂いなんですけど。

師:赤ん坊かどうかは関係ないでしょ! だって、それって女子高生の匂いが好きで女子高の先生になっちゃうのと根本的に一緒じゃない?

キ:ええーッ! そうなんですか⁉︎

師:通報案件だぞ、それは。やばいよ〜。

タ:え〜と。う〜ん…あのーどちらかというと、パンの匂いが好きでパン屋さんになった人のほうがニュアンスは近いかなぁ……

師:本当に?

タ:……

キ:まぁ私の個人的な意見では、犯罪さえ起こさなければどんなフェティシズムがあってもいいとは思いますけど……基本的に保育士さんになる方は子ども好きなんだと思いますが、この方もきっと子どもが好きで就いた仕事だと思うんです。

師:そうだろうね。なのに子どもに「うんこヤロー」って言われてな。そりゃ凹むよ。カチンときていいと思う。

キ:子ども好きだとしても、やっぱり好きな子と嫌いな子って出てきてしまうものですよね。

師:そうだろう。人間なんだから。

キ:毎日「うんこヤロー」なんて言う子を好きにはなれないのは仕方ないですよね。

師:そうだよ、くそガキだよ。

キ:まあまあまあ。この方は絶妙な返しを伝授してほしいと言われていますが、こういうのって言葉だけじゃないような気がしますが…

師:うん。()だね。あと雰囲気とかも。それができれば言葉なんてそんなに重要じゃないかもしれない。
……両目と鼻と口があるだろ。

キ:はぁ。

師:この4点を使って、ガンをつけるんじゃなくて凄みを出してみたらいいんだよ。
顔の全体を使ってこんな感じで……
0607写真1

キ:こわっ!

師:それで「うんこヤロー」って言われた瞬間にこの表情をしてさ、このガキの耳元で静かにそっと…

キ:……

師:「なんでわかったの……?」

キ:

師:「先生がうんこだってこと…」

キ:自分がうんこだって認めちゃうの!?

師:「他の人には内緒よ、絶対に。これはあなたと私の内緒よ。みんなに知られると大変なことになるから」
0607写真2

師:「ね。わかった? この秘密を知っているのはあなただけだからね…」

キ:怖い怖い怖い。ちびっちゃいますよ!

師:必ず二人っきりのときに。すごく顔を近づけてさ。それでも聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、語りかけたらいいよ。

キ:この子がどこにも逃げられない状況のときに…ってことですね。

師:おうよ。

キ:もし他の子たちもいる場面で「このうんこヤロー!」って言われたら?

師:ただ微笑むだけ。

キ:微笑む…だけ!? 逆に怖い。でも子どもにしてみれば「あれ? 先生の反応がいつもと違う…」って印象には残ると思います。

師:そのあとで二人っきりになった瞬間に、「このあいだ言ってた“うんこヤロー”のことだけどね…」って静かに切り出すといい。

キ:あえて二人っきりになった瞬間にかぁ。聞こえるか聞こえないかくらいの囁くようなトーンの声で。

師:そう。

キ: 電気の消えた、午後の薄暗い教室の片隅で…

師:遠くからは、無邪気にはしゃいでいる他の子どもたちの声が聞こえていて。

キ:かすかに乾いた土の匂い。少しひんやりした空気が漂っている…

師:「〇〇君、こないだ先生のこと“うんこヤロー”って言ったよね?」
「うん、言ったよ」
「先生…びっくりしちゃった」
「どうして?」
「なぜ知っているのかなぁと思って」
「……?」
「先生が本当はうんこだってことを」
「うそだー!」
「シーーッ!!」
「……」
「これは先生とあなただけの秘密よ。絶対に誰にも言っちゃダメだからね、お願いよ。」

キ:急に告白するんだ……じつは自分がうんこだってことを。

師:そう。

キ:しかも二人だけの秘密にして…

師:この、二人だけの秘密ってのがミソでさ。かわいそうな先生の秘密を知ったことによって、守ってあげなきゃって思うかもしれないじゃない。

キ:子どもってそういう正義感がありますからね。二人だけの秘密を持つことによって、距離感もグッと縮まるかもしれません。

師:「先生はね、毎日11時になると空を仰いで『うんこ〜』ってつぶやいてるんだよ。小さな声で、誰も気がついていないけど」

キ:なんスかそれ?

師:仕込みだよ。このガキだってバカじゃないから、疑心暗鬼になるでしょ。だからそう言っておいて、次の日に11時になったら、このガキがこっち見てるなってときに空を仰いで…

キ:「うんこ〜」ってつぶやくんですか?

師:どんなくそガキだって、ああ、本当に先生は「うんこヤロー」なんだ…って信じるよ。

キ:一歩間違うとトラウマになりかねないですけどね。

師:一生この先生のことを覚えているだろうね。

キ:それでもやめなかったらどうします?

師:そのときはもうしょうがない。

キ:……

師:ボソッと「いやいやえんに連れてくぞ」って。
【編集部注】いやいやえん…中川李枝子作の童話。保育園が舞台。1962年に福音館書店から刊行。……我らが師オススメの1冊です。

キ:顔の表情は一緒でいいんですね。凄みが半端ないっすけど。

師:それでいい。まさに『いやいやえん』の主人公のしげるちゃん…だっけ?…と、このガキは一緒でしょ。

キ:そうかもしれませんね。やんちゃで、いうことを聞かなくて…

師:読み聞かせの時間にこの本を読んで聞かせておいてさ。

キ:仕込んでおくんですね。

師:おうよ。『いやいやえん』の話にはパワーがある。根底に「大人をなめんなよ」って空気があってさ。挿絵が内館牧子似の「おばあさん」が登場するだろ。

キ:はい。

師:あれこそが「大人をなめんなよ」の象徴なんだと思う。“内館牧子”が。ウチの子どもたちも、『いやいやえん』は怖がるからね。

キ:なるほどなぁ。これだと「うんこヤロー」とか関係ないからいろんな場面で使える一言かもしれませんね。

師:連発はダメだけどね。

キ:はい。本当に最後の手段なんですね。それまでになんども『いやいやえん』を読み聞かせていたら、この子も自分のことを自然と見つめ直すようになるかもしれないですしね。

師:おうよ。それくらいの本だから。

キ:ところで、『いやいやえん』著者の中川李枝子さんと絵の大村百合子さんの代表作とえいえばもう一冊『ぐりとぐら』ですよね。あのカステラを一度は食べてみたかったなぁ。
【編集部注】ぐりとぐら…1967年に刊行され現在も愛され続ける絵本。Wikipediaによると発行部数は472万部! シリーズ累計ではなんと2630万部とか!!

師:なに言ってんだよ。ドブネズミがつくったカステラなんて、汚くて食えやしねーぞ!

キ:お〜いッ! ドブネズミではないでしょ?

師:野ネズミ? 一緒だよ。実写版を想像してみな、森の中に置いてあるフライパンで焼くんだぞ。そんなの雑菌だらけだから。

キ:ひどい! 実写版なんて想像する必要ないでしょ!! 勝手に人の夢をめちゃくちゃにして……

師:夢もなにも、オレは事実を言っただけだから。

キ:う、うう〜……くそ〜、師匠がいちばん、うんこヤローだ!

師:ん? ……キッチンさん、いまなんて言いました?「うんこヤロー」と? 私が?

キ:……

師:そうですか……はい、わかりました。

キ:……?

師:キッチンは「いやいやえん」行き決定です。

キ:やめて~~ッ!!

 

師いわく:
いやいやえん 縮小版

(師の教えの書き文字/春風亭一之輔 写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

いよいよ書籍化! 『春風亭一之輔 師いわく』好評発売中!

 

プロフィール

一之輔プロフィル写真

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
キッチンプロフィル写真

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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