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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第47回> 『年齢相応に見られたいです』

全国ツアー真っ最中で多忙をきわめる一之輔師匠をつかまえての、お悩み相談は続く。今回は見た目に悩む男性からの相談ごとに、坊主頭ふたり(+スキンヘッド1名)が丸い頭を寄せ合って挑むが……

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キッチンミノル(以後、キ):……前回は『ぐりとぐら』の話題が出ましたが、ネズミほど実物とキャラクターとの姿がかけ離れている動物って、他にないですよね。

一之輔師匠(以後、師):わかるわかる。ミッキーマウスとかね。

キ:そうそう。『トムとジェリー』のジェリーとかも。

師:キッチンは、トムとジェリーとでは、どっちが好き?

キ:僕はやっぱりトムのほうが好きですね。バカで憎めなくて。そして見た目が貧相でしょ。ジェリーは、かわいい顔してすごく性格が悪いですからね。

師:キッチンも貧相だからね。

キ:そうなんですよ~…って、こら〜っ!

師:ジェリーは、ほんと〜に性悪だよな。オレはジェリーを好きだってヤツは、信用しないことにしている。

キ:ジェリーはときに、相手が死ぬまでやりますからね。

師:♪ファンファンファン~って頭に輪っかができて、透明なトムが天に昇っていくもんな。最後には生き返るけどさ。

キ:そんなときでもジェリーは笑っているけど、やりすぎですよ。それでいてトムは、お手伝いさんのおばちゃんにまで怒られて。

師:そうそう。

キ:トムはジェリーを殺しませんからね。食べちゃえるときもジェリーが気づくまでちゃんと待っていて。バカなだけかもしれないけれど……

師:食べるっていうよりは遊び相手だからね、トムにとってジェリーは。

キ:そうですね。

師:でも最終回で食べちゃうんだよ。

キ:ええっ!? そうでしたっけ?

師:最終回の最後の5分はなぜか実写になって…

キ:実写?

師:バタバタバタ〜バタバタバタ〜…って猫がネズミを実際に追っかけ回してる映像に変わってさ。

キ:……

師:それで静かになったと思ったら、猫がこちらを振り向いて、口が血だらけ…っていう。

キ:い゛〜!

師:…って思っている間に、エンディングの曲が足早に流れて。♪タータラッタタタタ〜…

キ:「The End」って? ……いやいや、ならないっすよ! それは師匠の妄想でしょ! 怖すぎますよ!

師:わかんないよ。大人ってそういうことできるからね、やろうと思えば。

キ:まぁ、やろうと思えばですけど。

師:やれるけれど、やらないようにしているんだよ大人は。よく考えて。大人はそういうことができる立場にいるってこと、そして、どうするのが正しいのか判断すべき立場にもいるってことよ。わかる?

キ:……はぁ。なんかすごい鼻の穴膨らませてドヤ顔してますけど……その態度がぜんぜん大人げないんですけど。

師:うるさいよ!

 

師に問う:
私の悩みを聞いてください。髪の量が少な目といいますか、要するにハゲと呼ばれても仕方ない現状です。いっそのこと坊主頭にしたいと思うこともありますが、仕事が金融関係のため、たぶん坊主頭禁止です。頭頂部はさびしいですが、側頭部は黒髪で量も多いため、床屋で昔ながらの薄毛サラリーマンカットです。たぶん坊主にするよりも老けて見えますが……。髪形はあきらめても年齢相応に見えるようになりたいです。
(若輩者/男性/37歳/茨城県)

 
 

師:髪型はあきらめて?

キ:坊主頭にするのはおそらく業界的にNGなので、それ以外の方法で解決したいと。

師:せめて一度くらい坊主を試してみたらいいんだよ。

キ:いやいや…

編集の高成さん(以後、タ):実際に就業規則で禁止されているのかは不明ですが、金融業界だとなかなか坊主頭にしづらい雰囲気はあるんじゃないですかね? お客さんに無用な威圧感を与えないように配慮するみたいな……

キ:そんなこと言う高成さんは、坊主頭どころかスキンヘッドですけど。

タ:ウチの会社はどんな髪形でもアリですから。……むしろスキンヘッドは何人もいるので他の社員とキャラがカブるおそれもあります。

キ:他の方とスキンヘッドがかぶるからって理由で、一時期髪の毛を伸ばしていましたよね。

師:ハゲ散らかしてたときね。でも今のほうがいい。ハゲ散らかすよりはハゲていたほうが。

キ:散らかっているのはね…

師:よかったね、髪型自由な会社で。

タ:…………

師:薄毛のサラリーマンカットって、横から頭頂部に髪を流しているってことだろ?

キ:そうかもしれませんね。

師:それは老けて見えるよ。

キ:若輩者さんもそれはわかっているみたいなんです。あくまでも想像ですが、こうやってメールで相談してくるってことは、実年齢よりも10歳以上は老けて見えるのかもですね…
髪型に引っ張られずに、今よりも10歳以上若く見える方法があるといいのですが…

師:おでこに「37歳」って書けばいい。

キ:おでこに? 年齢を!?

師:そう。刺青で。

キ:刺青!? たしかに「あ、この人は37歳なのかな」と思われるでしょうけど。

師:だろ。

キ:いやいや、それは37歳に見えるんじゃなくて、「37歳」と読めるだけですよね!? それに刺青で書き入れちゃったら、翌年はどうすればいいんですか?

師:二重線で消して、横に「38歳」って入れればいいじゃん。

キ:あ、そうすれば問題ないか。二重線のところに訂正印も押して…って、それでいいワケないじゃないですか! でも逆にそのまま残しておけば、永遠に「37歳」アピールを…

師:し続けるわけ。気持ちもどんどん若返っちゃうよ…

キ:自分でも毎日、鏡を見ながら「そうだ、オレは37歳なんだ」って意識しますからね。

師:意識するのは大事だからね。

キ:大事ですか?

師:大事。そのことを意識して心に刻めば、雰囲気も変わってくると思うよ。

キ:なるほど。おでこに年齢を入れることで周りにアピールするだけじゃなく、自分自身へのアピールにもなっているのか!

師:おうよ。

キ:……でもちょっと勇気がいりますね、おでこに刺青を入れるのは。刺青は、おでこじゃなくても勇気がいりますから…

師:痛いしな。

キ:はい。特におでこは皮が薄いから、痛そうで…

タ:あの〜…お二人とも。相談者の若輩者さんは金融関係ですし……もう少々、現実的な方法でお願いできませんか。

師:なに? 刺青ダメなの? ……それじゃ、いつも口の端っこにごはん粒をつけとけば?

キ:わんぱく〜ッ!

師:若く見えるよ。

キ:若く見えるというか、バカにしか見えないんですけど……もし師匠が口元にご飯粒をつけたままにしていたら、相当疲れてんだなこの人は…って思っちゃいます。

師:ダメ?

キ:ですね。

師:それじゃあね。

キ:はい。

師:早弁しましょう。

キ:まるで高校生!

師:午前の勤務中に、隙を盗んで弁当を食べてさ。それなのに、昼休みになったら誰よりも真っ先に会社を飛び出して…

キ:「早弁したのに、もうお腹すいてます」アピール?

師:味噌ラーメンを食べにいきましょう。

キ:それは若いっ!

師:コーンとバターも足しちゃおう! もちろん大盛りで。……そういう若さは大事でしょ。

キ:できるかなぁ…37歳でこれ毎日できるかなぁ。

タ:あのぉ、もうちょっと現実的な解決策をお願いしたいのですが…

師:……それで3時のおやつは購買部で買っておいたコロッケパンか焼きそばパン。

キ:おやつなのに重めの惣菜パン!

師:それで靴のかかとを踏んづけて。

キ:完全なるダメ社員〜! それ金融関係じゃなくても社会人としてダメでしょ!

師:だけどさ、若輩者は37歳でしょ? そのくらいの年齢からはさ、若く見えてもいいことないよ。

キ:そうですか?

師:だって先代の馬生師匠なんて、わざと老けて見えるようにしてたんだから。
【編集部注】先代の馬生師匠…10代目金原亭馬生のこと。父が古今亭志ん生、弟が古今亭志ん朝。じっくり聴かせる人情噺を得意とした。食道ガンで亡くなられたときは、まだ54歳でした。

キ:わざと…

師:女優の坂本スミ子さんなんて、映画『楢山節考』で、実年齢より20歳以上も年をとった老婆を演じるために、前歯を削ったんだぞ。
【編集部注】楢山節考…深沢七郎の短編小説を、1983年に今村昌平監督が映画化。カンヌ国際映画祭にてパルム・ドール(グランプリ)を受賞。当時47歳の坂本スミ子が、69歳の老婆を演じるために前歯を削って挑んだことが話題になった。

キ:歯を削ってまで、老け役を!?

師:4本も。

キ:ヒェ〜。

師:プロは必死に老けようとしているんです。

キ:坂本スミ子さんと比べるのはいくらなんでも。だって、それは役づくりのためでしょ?

師:理屈っぽいなぁキッチンは。

キ:いやいや、普通に考えたらそうでしょ!

師:オレに言わせりゃ、キッチンみたいに40にもなってそんな思慮浅い顔をして、よく生きていられるなって思うけどね。
【編集部注】…聞き役のキッチンミノル氏も、5月にめでたく不惑を迎えました。

キ:はい?

師:その軽薄な笑顔。いつもヘラヘラして…

キ:……

師:心底心配だよ。

キ:私が?

師:地球が。

キ:……地球?

師:こんな軽薄な人間ばかりになってしまったらと思ったら…

キ:思ったら?

師:地球が泣いているよ。

キ:はぁ…

師:……最近、「地球が泣いている」ってフレーズが好きなんだよね。

キ:言いたかっただけなの!?

師:だから、老けてみえることって大事なことなんだよ。

キ:「だから」って言われても……地球が泣かないように?

師:おうよ。とくに若輩者は、金融関係の仕事なんでしょ? なおさらだよ。

キ:たしかに、お金の話をする相手は、若いよりは老けているほうが安心感はありますね。仕事では年相応に見られなくても問題なしと?

師:この年齢くらいからは、老けて見られてこそだよ。若く見られてもいいことなし。薄毛サラリーマンカットも、金融マンの役づくりと心得るべし!

キ:おお〜ッ! 働いているときは老け役を演じているんだと思えば、髪型も必要な要素と納得できますもんね。

師:おうよ。

キ:……でも、それでも休日は、やっぱり若く見られたいものだと思うんですけど。

師:ここまで言ってんのに、それでも若く見られたい?

キ:はい。休日くらいは若く…せめて年相応になったらうれしいです。

タ:坂本スミ子さんも、削った歯のところはインプラント入れているそうですからね。

キ:そりゃあ入れますよね〜。

師:わがままだなぁ。じゃあ、休日のたびにコンビニでICE BOXを買いなさい。
【編集部注】ICE BOX…森永製菓が製造販売する、果実風味などの味がついたかちわり氷風の氷菓。今年で販売30周年のようです。

キ:ICE BOX……!? 氷の? それをガリガリ食べるの?

師:食べ方も一個一個つまんで食べちゃダメ。

キ:ということは大きく口を開けて…

師:まるで飲むように!

キ:冷える〜! キーンってなる~~!!

タ:いえいえいえ、おかしな食べ方は推奨しないでください!

師:だけど、見た目は若いよ。

キ:ですね。それでも若輩者さんは学生じゃないからなぁ……

師:ふふふ、そこは大丈夫。一之輔に抜かりはないから。

キ:ほほ〜。自信がおありのようですね。

師:ICE BOXを一気喰いするのは、まだまだ青さの抜けない若者がすることよ。

キ:なるほど。

師:一気喰いのポーズをご近所さんにアピールしたところで…

キ:ア、アピール…

師:大人はICE BOXに、焼酎と炭酸を入れる余裕をみせましょう。

キ:ああ、そういう呑み方も人気あるみたいですね。……でもICE BOXに焼酎かぁ。若いのかおじさんなのかわからなくなってきました。

師:キッチン!

キ:はい?

師:思い出してごらん。若輩者はいくつだった?

キ:え〜と……37歳です。
あっ! よく考えれば、若輩者さんはりっぱなおっさんなんだぁ〜。

師:年齢相応!! 問題なし。

キ:はいっ!

 

師いわく:
若く見えても 縮小版

(師の教えの書き文字/春風亭一之輔 写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

いよいよ書籍化! 『春風亭一之輔 師いわく』好評発売中!

 

プロフィール

一之輔プロフィル写真

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
キッチンプロフィル写真

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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