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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第48回> 『家庭菜園が豊作です』

全国各地を精力的に飛びまわる一之輔師匠。その間隙を縫って敢行されたお悩み相談は続く。前回の相談を答え終えたのち、相談者さんが金融関係の仕事というのがどうも気になったようで……

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一之輔師匠(以後、師):……金融関係っていえばさ、銀行ってなんなの?

キッチンミノル(以後、キ):といいますと?

師:銀行、許せねーよ。

キ:いきなり鼻息が荒いですが…なにかいやなことでもあったんですか?

師:日曜に預け入れをしたら、ちゃっかり手数料を取ってんだよ。どう思う? だって預け入れだよ、引き出しじゃないんだよ。

キ:あ〜、それは私も思います。引き出しならまだしも、預け入れなのにね。こっちはお宅の銀行にとって大事なお客さまじゃないんですか?…と。

師:そうだろ。こっちは土曜日に出演料を直接もらうこともあって、税金なんかの申告するときにめんどくさいから日曜日でも預けておきたいのよ。それで入金したら、知らない間に手数料を取ってんだよ!

キ:そうそう勝手に。コンビニから預け入れたのならまだわかりますが、その銀行のATMでも手数料取られるときあります。昔は週末には入金できなかったから、できるようにしてやったよ…って感じなんですかね?

師:「してやった」だと!? ……おい、キッチン!

キ:いやいや。私の意見じゃなくて、あのぉ銀行の立場に立って考えてみれば、そうなのかなと。

師:はぁ!? それで預けたら手数料を取るっていうの? 全然わかんない。だってあいつらはそのお金で商売して、儲けていくわけでしょ?

キ:はい。そのお金を元手に、金を貸して利息をとって…

師:仕事をするわけでしょ?

キ:そうなります。

師:だったら、日曜日にATMを使えるようにするかどうかは営業努力の範囲内でしょ! 違う? キッチン!

キ:違わないです! 例えば牛丼の吉野家だってバイトに休日手当は出すけど、牛丼が休日に値上げしたなんて聞いたことないッス。

師:そうだよ。手数料を取るぐらいなら、「土日祝日は一切入金できません」って言ってもらったほうが全然いいよ!
解せないんだよなぁ……一回に手数料を100円取るんだから!

キ:そうですよ!! 利子でその分が戻ってくるのを待ったら、きっと100年くらいかかるんじゃないですか? なんなんだよ!! まったく。

師:……100年はかからないだろ。

キ:え? そ、そうですか?

師:ごめんね。キッチンとは預けている額が違うからなぁ……

キ:はぁ。

師:オレは〜…3兆と……

キ:3兆…?

師:7000億ぐらいかな。

キ:3兆7000億円ッ!?

師:おうよ。

キ:おうよって言われても…そんなヒトが100円の手数料で、そこまで語気を強めますか~~?

師:へへへ……
【編集部注】…我らが師の3兆7000億円(自称)の預金に関して、「ウチの銀行でしたらそれだけ預けていただければ土日どころか24時間いつでも手数料無料で全然OKですよ」というところがありましたら……編集部では特に仲立ちしませんので、自分で連絡ルートを探してみてください。また併せて、「なんで土日とはいえ入金にまで手数料をとるの?」というおふたりの疑問に関して、擁護になるような、納得できるホームページや記事があいにく見つかりませんでしたので、お判りの方は教えていただきたく。

 

師に問う:
同居の義理の父(81)が家庭菜園でキュウリやナスやピーマンやトマトやカボチャなどを作っています。自分で作った野菜を家族でいただくのは楽しいものです。……少しなら。
もう40年は家庭菜園を営んでいるそうですが、収穫してくる野菜は大き過ぎるし、皮は固いし、虫はついてるし、傷んでいるし、味もイマイチで正直つらいんです。食べても食べても次々収穫してきて、収穫してくれば捨てるわけにもいかず困っています。
義理の母(82)は、安全な無農薬野菜を食べられて感謝しなくちゃ、と言いますが、工夫して調理するのは私なんです。
私は一体どのようにこの義父と、義母と、そして野菜たちと折り合いをつけていったらいいのでしょう。
(縁側の猫/女性/51歳/千葉県)

 
 

師:……これはもう、雨が降らないのを祈るしかないでしょ。

キ:それでも雨は降るでしょ!

師:心の底から不作を願うとか?

キ:いやいや、万が一でもその願いが叶ってしまったら、本業の農家さんに多大な迷惑をかけるので、本当にやめてください。

師:そうだな。あぶないあぶない。いま少し願っちゃったよ。

キ:じつは昔、私も家庭菜園をやったことがあるんですが。やってみて思ったのは農家さんってすごいなってことでした。大きさが揃ったきれいな野菜を出荷して……

師:だからプロなんだよね。それで金が稼げるんだよ。

キ:仕事で農家さんの取材も多いんですが、農家さんはいかに長い期間、安定した量の出荷を続けられるかを考えて、同じ野菜でも品種を変えたり作付の時期をずらしたりして調整しているんです。

師:だけど素人はそうはいかないからなぁ。

キ:そうなんです。そうなると、最高の収穫期は一瞬で終わってしまって…

師:あとは皮が固くなったり…

キ:大きくなりすぎたり。しかも悲しいかな、家庭菜園で野菜が採れるときって、その野菜の旬だから、スーパーで良いものが安く出回る時期と重なるんです。

編集の高成さん(以後、タ):肥料代なども考えれば買ったほうがお得でしょうね。……私も子どもが小さい頃にプチトマトを二株買って育ててみたんですが、旬の時期になると日に100個も採れて…

キ:ひゃっこ!?

タ:当然1日では消費できないので、ドライトマトとかトマトソースとかにして保存してました。だけど毎日トマトの実がなるから、当時はウンザリしてましたね。

師:保存食にするっていうのは手だね。

キ:なるほど。

タ:だけど、ピーマン、ナス、トマトって同じナス科の野菜だから、同じ場所でつくり続けると連作障害が起こってしまうんです。それなのに毎年たくさん採れるって……このお義父さん、じつはすごいんですよ。

キ:へぇ~。

タ:はい。私のところは3年目くらいからガクッと収穫量が減って、今では全然採れないですから。

師:この人はそれを40年も続けてきているわけだから…

タ:そりゃあもう、すごい技術の持ち主ですよ!

キ:はぁ…

師:長年、努力を続けてきて…

タ:努力を積み重ねたからこその、今があるんです!!

キ:(なんか急に勢いが増してきたなぁ高成さん。プチトマト、たった2年で採れなくなって、いろいろ調べたんだろうなぁ……)

師:お義父さんは努力の人!

タ:まさにっ!!

キ:え~と……だけどですね…

師:だけど?

キ:それだけ努力を積み重ねて、幾多の連作障害危機をも乗り越えてつくった野菜が……まずいんです!!

師:……40年も続けてきてるのにな。

キ:はい。

師:それはダメだろ!

キ:ですよね!!

タ:……もしかしたらお義父さんは皮の厚いナスが好きなのかも?

師:40年間やってうまいもんができねェっていうのは、野菜づくりに向いてないんだよ。

タ:…………

キ:バッサリですね。

師:噺家にもいるよ。このヒト、噺家には向いてねーんだろうなぁ…って人。

キ:いらっしゃいますか?

師:いる。……でも、向いてないけど味が出てくるってことはあるからね。いい味が出るってことが。

キ:いい味?

師:そう。噺家に向いてないんだろうなぁって思っていた人が、なんか知らないけど面白くなってくるっていうか。理由はわからないけど良い…っていうか。

キ:具体的にこれがいいとは言えないけれど、その人の持つ雰囲気がいい具合に表に出てくるってことですかね。

師:そう。周りの支えがあって、良いプロデューサーがいて見えてくる。どんな世界でも、こういうことはあると思うよ。

キ:家庭菜園でも?

師:そうね。まさにこのお義母さんが、良いプロデューサーでしょ。このお義母さんは、長所を褒めて伸ばそうとするタイプだな。

キ:なるほど。まずい野菜をつくり続けても…

師:すべて受けとめる。良いコンビだよ。

キ:そう思うと、確かに良いコンビです。

師:「でも料理するのは私なんです!」…ってことが、お悩みなんだろ?

キ:そうなんです。あんたら二人はいいコンビかもしれないけどさ…ってことです。

師:縁側の猫が嫁に来る前は、お義母さんはどんな料理をつくってたんだろうね?

キ:引き継がれてないんでしょうかね? 旦那さんにとってのおふくろの味は。

師:まぁでも普通に考えたらさ…

キ:はい。

師:40年も野菜をつくり続けていたら、立派なお百姓さんだけどね。

キ:ですね。でもあえてプロにはならずにここまで過ごしてきたわけです。

師:……いや。ならずにいたというより、なれなかったんじゃない?

タ:プロにはなれなかった?

師:うん。

師とキ:まずいからっ!

タ:いやいやいや…サラリーマンかなんかで、ちゃんとお金は稼いでいて、趣味として楽しく家庭菜園を続けてきましたってことじゃないんですか? 「なれなかった」んじゃなくて「ならなかった」というか。

師:あのね、趣味とプロはやっぱり違うんですよ。趣味で落語をやっている人の噺を毎日聞かされたら、気がヘンになると思うよ。

キ:しかも常に大ネタでしょうからね。

師:「どうだ!!」って顔を毎回されて…

キ:だけど聞いてる側は、素人ががんばってやっているものだから、とりあえず褒めないといけないですしね。

師:楽しんでやっているものにケチつけてもしょうがないし。

キ:まさに『寝床』だ。

師:そう。つまり縁側の猫の家では、毎日『やさい寝床』が繰り広げられているわけ。

キ:そ…それはつらい!

師:たいした野菜でもないのに、家族に持ち上げられて…

キ:お義父さんはドヤ顔で。

師:みんなどうにか食べないように食べないようにしてるんだけど…

キ:お義父さんは調子に乗っているから…

師:どんどん持ってきちゃう。

キ:まずい野菜を。

師:……想像するだけでゾッとするな。

キ:地獄絵図ですね……

師:もう武力行使で、畑に火をつけて燃やしちゃえば?

キ:完全におかしくなっちゃった。

師:……だけど次の年、焼畑効果で収穫量が増えちゃったりしてな。

キ:野菜はまずいまんまで。ますます困る〜。
ところで野菜以外でも、もらって困るものってありますか?

師:あるある。新聞広告で作る、ミカンの皮とか捨てるのに使うゴミ入れね。

キ:最近見なくなったけど、作っている人いました!

師:良かれと思ってたくさん作って。……広告のゴミ入れならまだいいけど、電話にかけるレースのカバーとか、クッションカバーとか。

キ:ありました、そういうの!

師:作りたいんだよね。でも家の中はすでに飽和状態だから…

キ:どんどん周りの人にあげていくんですよね。

師:良かれと思ってね。

キ:もらったほうは捨てられないですしね。

師:あとはヤクルトの容器を利用した人形だとか。

キ:あったあった!

師:だけど「もう作らないで」とは言えないよね。

キ:ですね。

タ:それを作らなくなったせいで、急に老けこんでしまっても困りますから。

キ:そうですね。縁側の猫さんも、家庭菜園をやめさせたいわけではなく折り合いをつけていきたいみたいなんです。

師:折り合いをつけようなんて思っちゃダメだ!

キ:ダメ…ですか?

師:こっちから攻めなきゃ。

キ:攻める?

師:いままではお義父さんがつくった野菜をもらうばっかりだったわけだ。でもそれじゃあダメ! これからは、お義父さんが栽培したことのない野菜をつくってくれって、こっちから提案していかなきゃ。

キ:「お義父さん、こんな野菜はまさかつくれませんよね?」…みたいに?

師:そうそう。
お義父さんは『寝床』の大家みたいなもんだから、嫁から提案されたのに「できません」なんて言えないはず。「おお〜、任しておけ〜!」とか言って応えてくれるよ。

キ:この料理本に載っているメニューをつくるには、こんな野菜が必要なんです…って。

師:そして縁側の猫は、収穫された初挑戦の野菜を使った料理を、どうだ!!…ってお義父さんに食ってもらってさ。互いに(せっ)()(たく)()するんだよ。

キ:なんだか、良い循環になってきました!

師:折り合いなんてつけなくていい。お義父さんとはライバル関係だから。

キ:ライバル?

師:「お義父さん、あなたのつくった野菜で私は最高の料理をつくります。ですけど、まずいものはまずいって言わせてもらいますよ」って。

キ:きゅ、急にスポ根みたいになってきましたけど?

師:だってお義父さんは好敵手だから。

キ:好敵手!? ……お義父さん、この設定についてきてくれるかなぁ。

師:大丈夫!

キ:そ、そうですか……

師:しかも縁側の猫が提案した野菜なら、お義父さんも初めて栽培する野菜になるから「これはまずい!」って堂々と言えるだろ。

キ:あ、確かに。それなら堂々と言えます! お義父さんのほうも、どういう野菜なのか知らないわけだから、ちゃんとした評価が欲しいところですから、試食してまずかったら、ちゃんと言ってほしいでしょうし。

師:それを踏まえて、今度はお義父さんが「次回はもっとこうしよう…あそこはあれを試してみようか」って工夫するわけだから。それこそモノづくりの醍醐味だよ。

キ:ですね! おいしい野菜づくりが目標になり、目標ができれば工夫も自然とできてくる。

師:そこでお義父さんはハッと気がつくんだよ。もしかして今までつくってきた野菜も、おいしくなかったんじゃないか?…って。

キ:そうか! 新しい野菜づくりにチャレンジしたのをきっかけに、お義父さん自身のおいしい野菜を求めるレベルが上がってきてるんだ。だから、これまでつくってきた野菜についても、あらためて振り返るんですね、お義父さんは!

師:このトマトにもやれることがもっとあったんだな…って気がつくようになる。

キ:新しい野菜づくりの世界が見えはじめて、お義父さんの意識が向上する! だから今まで気がつかなかった部分に目がいくようになって……めちゃくちゃいい循環です!!

師:お義父さんの可能性はここからよ!

 

師いわく:
お義父さんは好敵手

(師の教えの書き文字/春風亭一之輔 写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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プロフィール

一之輔プロフィル写真

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
キッチンプロフィル写真

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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