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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第49回> 『ツンデレの中2息子に戸惑っています』

光陰矢の如し。私キッチンミノルが師匠と初めて会ったのは8年前のことだが、そのとき保育園の年長さんだった長男くんもいまでは中学2年生に。今回は同じ中学2年生の息子を持つ母親からの相談が……

『師いわく』新ヘッダー画像

 

一之輔師匠(以後、師):……昨日はね、家族で東久留米のスパに行ってきた。

キッチンミノル(以後、キ):わざわざ福岡まで風呂に入りに家族総出で?

師:ひ・が・し・久留米だって言ってんだろ!! 

キ:……?

師:東京だろうが! 東久留米は。
【編集部注】東久留米…武蔵野台地の真ん中に位置し、東京都多摩地域にある市。……なお久留米市は福岡県南部の筑紫平野にあり、こちらにもすてきな温泉があるようです。

キ:……あぁ、三遊亭天どん師匠の地元のほうか。

師:そう。「スパジアムジャポン」っていう名前の施設。温泉が出てるんだよ。

キ:都内でよく見る黒い温泉?

師:それが黒くないの。東京なのに黒くないっていうのが売りみたい。

編集の高成さん(以後、タ):東京の温泉って黒いんですか?

キ:はい。安っぽい石油みたいな色の温泉で、場所によっては都内の銭湯でも入れるところありますよ。

師:だけどそこは東京には珍しい透明な湯でさ。

キ:へー。でも東久留米だったら家から遠いですよね? そこまで電車で?

師:電車とバス。

キ:バスも!? 風呂に行くだけで?

師:家族がオレ抜きで行ったことがあって。よかったからまた行こうってなったの。30分くらいだから、そんなに遠くはないだろ。

キ:がんばりますね〜。電車とバスで……私なら近場の銭湯で十分ですけど。

師:わかってねーなぁ。そこにはマンガが3万冊もあるんだぞ!

キ:3万!?

師:どうだ!

キ:どうだって言われても……読めないでしょ? 3万冊も。

師:よ、読めないよ! 3万冊は。読めないけど、そこには岩盤浴専用ラウンジにコミック3万冊があってさ。

キ:はぁ。

師:すごく広くて、豪華なリクライニングのマッサージチェアがブワーって50台くらい並んでんの。

キ:ほぉ~。

師:他にもクッションがあって寝転んだりして、どこで読んでもいいんだぞ。そういうすてきなフロアがあるの。

キ:ふ〜ん、それで何冊読んだんですか?

師:……1冊も読めなかった。

キ:寝落ち?

師:まぁ、そうなるな。

キ:3万冊は?

師:……いいんだよ! オレは疲れてるんだから。

 

師に問う:
うちの中2の息子ですが、思春期ということもあり、人前だと私に対して、やたらそっけなくなりました。それはそれで成長だし仕方ないなと思っています。
ただ不思議なことに、二人きりになると、やたらベタベタしてくるようになりました?!洗濯物を干していると後ろからハグしてきたり、ソファでくつろいでれば隣にベッタリひっついて座ってきたり、、(*_*)
ひょっとしてマザコン?!…と危機感を感じ、周りの男の子のママ友達に聞いてみたところ、なんと9割近くみんなそうだと。そしてママ友達はみんなそれが「かわいくてたまらない!」って言うんです?!
でも私はどうしても、そうは思えないんです(ToT)小さい頃はもちろんかわいくてたまらなかったんですが、もう背は超されてるし旦那と同じ臭いがしてきてるし、、。メチャメチャ嫌だって感じでもありませんが、戸惑っちゃうんです💦私は母親としておかしいんでしょうか??
それでママ友たちは「そうやってベタベタしてきたときによしよししてあげないとグレちゃうよ!」って言うんです!それって本当でしょうか??
一之輔さんの息子さんも同じ位ですよね?どうでしょうか??
てか、どう対応するのが正解なんでしょうか??
(まろ/女性/40代/静岡県)

 
 

師:やたら「?」が多いな。完全に迷走しちゃってんなぁ。

キ:いやいや。いいでしょ、迷走。ここはそういう場なんで。

タ:一般的な日本語の表記ルールともかなり異なっているので直そうとしたんですが……直すとフツーになっちゃうので、今回はこのままで。

キ:……

師:それじゃ、ちんちんを「チーン」ってしたら、いいんじゃないの?

キ:島田珠代さんみたいに?
【編集部注】島田珠代…よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いタレント。セクシー(?)なギャグ多数。

師:お母さんがグイグイきたら嫌がると思うよ。自分が行きたいときにだけ行くんだよね、子どもは勝手だから。

キ:師匠の家の長男くんはどうなんですか?

師:いやー、ないと思うなぁ。

キ:高成さんの家では?

タ:ウチは母親には甘えているような気がします。その代わり私には素っ気ないですけどね。

キ:寂しいですね。でも男の子はそんなもんですよね。

師:ウチの長男も素っ気なくなってきたね。オレのほうも、何を喋っていいのかわからなくなってきたなぁ。

キ:そうですか。

師:急に「どうなんだ最近?」って訊いてみたりして。

キ:それはかなりぎこちない会話ですね。昭和の頑固オヤジみたいです。

師:「部活はどうなんだ?」
「あー、まぁまぁやってるよ。」
「友達はできたのか?」
「あ〜、できたよ」
「名前は?」
「う〜ん。ねぇそれ言わなきゃダメ?」
…っていう感じよ。

キ:うわー…その返し、師匠に似てんなぁ。

師:こんなんだから、すぐにオレと長男は喧嘩になる。

キ:そうなんですね。

師:昨日もスパで…

キ:喧嘩した?

師:ネットでコースを予約してから行ったんだけど、長男だけがなぜか体を洗うタオルがついていないコースだったんだよ。

キ:長男くんだけが……それは不穏な空気になりますね。

師:「なんで僕だけタオルないの?」って言うからさ。必要?って聞いたら「あったほうがいいでしょ」って。しょうがねーから150円くらいのペラペラなタオルを買ったんだよ。脱衣場に自販機があってさ。フェイスタオルっていうのか、あれを。

キ:はい。

師:それで帰りがけに「これ、どうしたらいいかな?」って訊くからさ。持って帰ればいいじゃんって言ったんだよ。そしたら「入れる袋がない」って言うから受付のおねーさんにタオルを入れるビニール袋をくださいとお願いしてこいって…

キ:行きました?

師:行かない。「エ〜? 嫌だよ、そんなこと恥ずかしい」って。

キ:思春期ですからね。まぁわからないでもない。

師:それじゃ、どうすんだよ!…って訊いたらさ。「捨てていい?」ってぬかすから、150円も払ってんのに捨てていいわけねーだろッ!!…ってなってさ。

キ:あちゃー…

師:「僕は買ってくれとは頼んでないし」
「あったほうがいいって言ったろーが!」
「あったほうがいいとは言ったけど、買ってくれとは言ってない」

キ:あわわわわわわ…

師:てめェ、150円働いて稼いだことあんのか!?…って。

キ:ヒ~~ッ!

師:施設の出入り口のところで。

キ:迷惑ゥ〜! だけどそういう家族、ときどきいるゥ〜!!

師:それで、「つまんないことで喧嘩すんな!」ってオレがかみさんに怒られた。意固地なところがあんたにそっくりだって…

キ:意地と意地の張り合い…

師:ヤツがオレの目を盗んで捨てようとするから、絶対に捨てるんじゃねぇぞ!…って。

キ:じゃ、そのタオルは?

師:持って帰らせて、家にある。自分で金を稼いだことのないヤツが、150円出してもらったタオルを、まだ使えるのに捨てるなんてオレは許さん!

キ:……面白いですね。

師:なにが?

キ:昨日のやりとりのことを、師匠は「喧嘩」って言ったなぁと思って。今までなら「叱った」って言っていたのにと……

師:そうね。これまでは、親の立場から「それはダメ」と言って終わりだったけど。向こうが屁理屈みたいなのをこねてくるようになったから、なんだお前は…ってなる。

キ:つまり…

師:喧嘩。子どもが成長したってことなんだろうな。

キ:そうなんですね。反抗期に入ったんですかね?

師:そうだと思うよ。

キ:そうなると、まろさんの息子さんはまだ反抗期に入ってないんですかね?

師:う〜ん……反抗期のせいかどうかはわからんなぁ。反抗期がどうのこうのという前に、オレはこの息子みたいなことしたことないし。

キ:でも今は、9割はしているらしいですよ。

師:9割ねぇ……静岡の県民性じゃないの?

キ:時代なのかなとも思ったのですが?

師:ウチではそんなことないと思うぞ。

キ:そうですか……

師:9割のお母さんは見栄をはっているんじゃないの? そうとしか考えられない。オレが中2のころは、おふくろとベタベタしたいなんて思ったことなかったから。

キ:そうですよね。

師:「口をきかなかった」「何を考えているかわからなかった」「怖かった」って、おふくろがいつもかみさんに言っているもんね。

キ:私も同じようなもんでしたよ。でも長男くんはまだそこまでには至ってない?

師:そうね。スパについてくるくらいだから。……それで、この人はどうしたいの?

キ:どうしたらいいの?…って相談されてます。

師:知らねーよ!

キ:ええ~~~ッ!?

師:……

キ:「知らねーよ!」じゃないでしょ!! なんのために我々がここに集まったと思っているんですか!? 目の前の料理と酒はタダじゃないですからね。

師:えっ、そうなの?

キ:そうなの?…って、人生相談ですから。この場は!!
この前提は絶対に忘れちゃダメですからね。師匠が高座のあとでお疲れのところ、もうひと踏ん張りしてがんばって相談にのっていただくための、エネルギー源としての酒と料理ですから。

師:ハイハイ。

キ:ムグググ……

師:……だけどさ。

キ:はい?

師:うらやましいよ! ハグしたいお母さんがいるなんて。

キ:息子の気持ちになるとね。

師:きっと、きれいなんだろうね。黒木瞳みたいなお母さんなのかな?

キ:松嶋菜々子とか。

師:松嶋菜々子だったら良いよなぁ。……だけど、なんであんなに若いんだよ! 毎日太陽の日にさらされている人の顔じゃないだろ!

キ:そうなんですよ。それに優しいし、子どもがすることに理解があるし。
【編集部注】…松嶋菜々子御本人のことでなく、NHKの連続テレビ小説『なつぞら』の話題のようです。私は観てないので置いてけぼりです。(編集の高成)

師:オレらの時代のおふくろといえば、みんなババァだったもんなぁ…

キ:ですね。ちなみに師匠の中2のときにお母さんは?

師:おふくろは…52歳か。そうかぁ、そんな年齢だったのか。

キ:そう考えると完全に…

師:ババァだよ。

タ:今なら、まだまだ現役バリバリの世代ですけど…

師:当時はもうババァです。いなかったからね、きれいなお母さんだなって人は。

キ:いなかったいなかった! そう考えると友達の親もみんな…

師:ババァだった。みんなババァの子どもだった。
だからこの方はきっと松嶋菜々子寄りのママってことでしょ、大方の予想では。

キ:そうですね。我々の経験およびまろさんの息子さんの動向から判断すれば。

師:本当にうらやましい。世が世なら婆ぁだからね。

キ:師匠も自分のお母さんが松嶋菜々子だったら、中学生時代にハグしてましたよね。

師:してた。絶対に。

キ:でも、当時はただの…

師:ババァだったから。…って言わすなよ! さっきから何度も。

キ:へへへ。

タ:そ、そんなに連呼しなくても……あくまで昔のお母さんの話ですよね。それに、お年を召されても魅力的な方は、今も昔も大勢いらっしゃいますから!

キ:あはは、フォローさせてすいません。ちょっとふざけすぎました。

師:ハグされるようなママは自分に魅力があるんだよ。いずれ来るよ、「うちのママはびっくりするほどババァだな」って思われるときが。

キ:来ますかね?

師:来る。だって、まろがこれからどんどん衰えていく一方、息子はまだまだ成長していくわけだから。

キ:なるほど!

タ:今は息子さんのことをくさいと思っているようですが、いずれ年齢を重ねた自分のほうが、息子さんにそう思われるときが来るかもしれませんし……

師:そう考えると、現在は奇跡的なバランスの上で成り立っている「ハグ」ということだ。

キ:おおーっ! 人生の中でほんの一瞬の、奇跡的な黄金期なわけですね。

師:おうよ。……オレたちには、その一瞬の奇跡的な時期っていうのがもともとなかったわけだけど。

キ:だって、それは……当時のおふくろさんが、完全なる…

師:ババァだったから。…って、もういいよ!

キ:ちなみにまろさんのママ友が言っている、「ベタベタしてきたときによしよししてあげないとグレちゃうよ!」っていうのはどう思いますか?

師:そんなの嘘だよ。

キ:嘘?

師:それは、息子をよしよししたいママの言い訳。別にしなくたっていいと思う。

キ:それじゃ、まろさんが息子さんに対して戸惑う気持ちは…

師:わかる。だからよしよしなんてする必要はないと思うね。

キ:そうはいっても、おっさん臭のする息子がベタベタ絡んできて嫌だなと思ってしまったときには、どうしたらよいでしょう?

師:それならいっそ、モスキート音を出したらいいんだよ。「キーーン」ってこの辺から。
【編集部注】モスキート音…蚊(モスキート)の羽音のような高周波数の音。高周波は加齢に従い聞きづらくなるため、若者だけが不快に感じることを利用し、店頭にたむろする連中を追い払うのに利用されることもある。……「私はまだ楽勝で聞こえますよ」と、こんなことで“若い”自慢をする中高年もよくいて、ちょっとイラッとします。
 
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▲モスキート音の解説。

 
キ:モスキート音! 出せます!?

師:練習してみたら?

キ:練習って…

師:こうやってさ。
 
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▲モスキート音の練習。

 
キ:はぁ…

師:キ~~~~ン…って。

キ:思いっきり聞こえてますけど?

師:うるせーな。いきなりは難しいんだよ。だけど、どこかにモスキート音を出せる人はいるんじゃないのかな?

キ:いますかね〜?

師:あっ、小猫さんなら出せるかも。

キ:江戸家小猫さん? 動物ものまね芸の?
【編集部注】江戸家小猫(二代目)…動物の鳴きまねを得意とする演芸人。ウグイスやカエルなどの伝統芸だけでなく、アルパカやテナガザルやヌーなど珍しい動物の鳴きまねも……!

師:訊いてみたら普通に「出せますよ」っていうかもしれない。

キ:もしそうだとしたら、どこで披露するんでしょうね?

師:学校寄席とかで、全然静かにならない生徒たちに向かって…

キ:モスキート音!

師:袖のところから。急に生徒が悶え苦しみだすんだよ。

キ:怖すぎます…

師:どんなに厳しい生活指導の先生よりも効くぞ~。

キ:効くかもしれないですけど……

師:だから、まろも息子が抱きついてきたらモスキート音を出せるように練習すべし!

キ:そんなお母さんはイヤだ──ッ!

 

師いわく:
世が世なら婆ぁ 修正済

(師の教えの書き文字/春風亭一之輔 写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

いよいよ書籍化! 『春風亭一之輔 師いわく』好評発売中!

 

プロフィール

一之輔プロフィル写真

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
キッチンプロフィル写真

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

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