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師いわく 〜不惑・一之輔の「話だけは聴きます」<第50回> 『初孫への愛が溢れすぎて……』

『師いわく』連載を開始して二度目の夏。いきなり猛暑だった昨年とは打って変わって、東京は記録的な日照時間の少なさ。太陽はまだまだ遠いけれど、子ども達は日程どおりに夏休み。「子は宝」と言うけれど、誰にとっての宝なのか……

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編集の高成さん(以後、タ):じつは今回、私からも御相談したいことがありまして……こないだ、三男が通う高校からホームステイ受け入れの依頼があったんですよ。

キッチンミノル(以後、キ):ホームステイの依頼? どこから来るんですか?

タ:フランスだそうです。フランス人の高校生。

一之輔師匠(以後、師):どれくらいの期間?

タ:8泊9日だそうです。おふたりは師匠の欧州公演で、一緒にいろんな国に行かれてますけど、向こうでの交流でこれは良かったなっていうおもてなしはありましたか?

師:オレの印象では、みんな無理してないなぁって感じだったよ。ポーランドの「波」の会とかは、落語会の後で彼らの雑然とした事務所で酒を呑んだし。もてなしをしなければというより、オレらと交流したい、日本語を話したいっていう気持ちが前に出ていて楽しかったなぁ。
【編集部注】「波」…ポーランドの日本親善友好団体の名称。『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』(小社刊)の欧州公演ツアーの記事中に、このときの写真が載っています。……カラー写真!

キ:つまみもチーズとパン程度でしたもんね。

師:それでいいんだよ。

タ:そ、そうですかあぁ……

キ:拍子抜けって顔してますけど…

師:おもてなし、したいの?

タ:う~ん……

師:それならさ、夫婦でお内裏さまとお雛さまみたいな格好してさ。

キ:衣冠束帯!?

師:そうそう。それで刀を持って…

キ:かたな? それは、めちゃくちゃでしょ〜!

師:なにかあるとすぐ斬りつけるっていう。バカ殿みたいなことして迎え入れたら? 「オオー! サムライ!!」ってなるよ。

キ:そうとう間違った日本文化ですが……

タ:だいたいお雛さまは貴族の装束だし……武士なら袴と裃じゃないですか!

師:ハイハイ。……8泊9日もあるんでしょ? どんなにがんばってもボロが出るからなぁ。

キ:出ますね。すぐに「私たち、なんでこんな格好してんだろ?」って思いますよ。

師:だから無理せずさ、普通に街を散歩したりすればいいんじゃないの? 公園に行ったりスーパーに行ったり、マックとかだっていいんじゃない?

キ:自国にもありそうな場所のほうが、違いがわかって面白いかもですね。……そういえば、ドイツで行ったマックはひどかったですね。

師:あー、ひどかったね。

キ:長蛇の列ができているマック。やっと回ってきた我々の番で、師匠が…

師:流暢な英語で「カフィ〜、トゥーゴー!」って頼んだらさ…

キ:「はぁ?」みたいな顔されてね。そしたら店員がLサイズの紙コップを取り出して…

師:オレンジジュースが出る機械の下に置くの。

キ:その瞬間、ふたりで目を合わせましたもんね。「オイオイ、そこじゃねーだろ!」って。

師:ドラマのワンシーンみたいにね。
店員のヤツ、なみなみ入ったオレンジジュースをどうすんのかなって思ったら…

キ:一気に…

師:飲み干した!

タ:ええ~~ッ!?

キ:店員がオレらの「カフィ〜」より先に、自分の喉の渇きを癒した瞬間。

師:振り返ると後ろの列はますます長く伸びて…

キ:やっと出てきたコーヒーを「ドン!」ってカウンターに置くと、こちらを見ずに…

師:「HAVE A NICE DAY!」って!

キ:視線はもう次のお客にいってて。……寂しかったですねぇ、後ろの人たちに押し出されるようにして店を出ましたもんね。

師:だけど、それも今となっては良い思い出だからな。日本のマックでの接客の基準がオレらの中にあるから、面白いんだよ。

キ:そうですね。日本ではマックの店員が自分のためのジュースをお客の前で飲むってことは、まずないでしょうから。

師:特別なことなんてする必要ないんだよ。ファミレスに行ってさ、自分の金で払わせたりさ、カラオケ行ったり。今の高校生が普通にすることを一緒にさせればいいんだよ。

キ:そうですね。

師:それと、満員電車に乗せたらいいよ。三男は電車通学?

タ:電車通学ですけど、下り方面なので満員電車には乗らないです。

師:それなら三男も一緒に、わざと満員電車に乗せたらいいんだ。日本のサラリーマンは毎日こんな電車に乗っているんだぞ…って。

キ:びっくりするでしょうね。

師:二度は乗ったほうがいい。

タ:二度?

師:一度はびっくりするだけで終わってしまうだろうから。二度目は冷静に、サラリーマンたちはどうやってこの満員電車を乗り切っているのか、観察できるでしょ?

タ:なるほど。それいいですね。

師:それからフランス料理を食ってみるとか?

キ:フランスのどこから来るかによりますけどね…

師:こんな料理、フランスで食べたことありません!…なんて驚かれたりして。

タ:……

師:どうする、イヤミみたいなヤツが来たら?
【編集部注】イヤミ…赤塚不二夫作品『おそ松くん』他に登場するキャラクター。

キ:「シェ〜!」って?

師:いい「シェ〜!」のかたち、するね。

キ:ありがとうございます。…って、いやいや。イヤミはフランス人じゃなくてフランスかぶれの日本人ですから!

師:あはは、そっか〜。

タ:…………
【編集部注】…そういえば、私が新入社員で配属された部署にイヤミのモデルと言われる先輩がいらっしゃいました。奇声を発しながら元気よく仕事をされていました。(高成)

 

師に問う:
1月に男の子が産まれた新米ママです。夫(40代)の両親にとっても初孫で、とても喜んでくれて可愛がってくれるのですが、子育てのアドバイスにイラッとすることがたびたび・・・
「ベビーベッドの布団が固くない?」「もっと厚着させないと風邪ひかない?」とか、母乳のためにあれを食べろこれを食べるな等の口出しが多くて、疲れてしまいます。夫を育てた子育て経験者として言いたいのはわかるのですが、昔と今では育児の情報も常識もちがうことが多いですし・・・
気にせずに育児に励むには、または義父母を傷つけずにやんわりとかわすには、どうしたらよいでしょうか?
(テンパリ母ちゃん2号/32歳/東京都)

 
 

師:まずはおめでとう!

キ:おめでとうございます。

師:義父母は一緒に住んでるのかな?

キ:そこまでは書いてないですが……

師:もし遠くに住んでいてそんなに会う機会がないんだったら、「ハイハイ」って聞き流せばいいんだよ。

キ:聞き流す……

師:義父母にとっては、あなたたち家族と関わるきっかけにできる口実が、赤ちゃんの話題しかないの。だから、いちいち否定する必要はないよ。「お義父さんお義母さんの頃の子育てはそうだったかもしれないですけど、今は違うんです」って情報は、向こうにとってはいらない情報だからね。

キ:そうですね。今さら子どもを育てるわけでもないですから。

師:だから「ハイハイ」って聞いて、実際にはやらなくていいんだから。

キ:普段は見に来るわけじゃないですからね。……でももし、同居とか近くに住んでいる状況だとしたら、どうでしょうか?

師:それは面倒くせーなぁ……

キ:ですよね。

師:確かめに来るかな?

キ:来ると思いますよ。そのうえで、義父母を傷つけずにやんわりとかわす方法はありますか? たぶん、テンパり母ちゃん2号さんにも最新の情報に基づいた理想の子育て論みたいのがあるんだと思います。 

師:理想ねぇ〜。それじゃあバカなふりをするしかないかもね。

キ:バカなふり?

師:そう。2号は腹のなかで自分には理想の子育て論があるって思っちゃっているから、お義母さんたちの一言にイラっとくると思うんだ。

キ:はい。

師:だから義父母が来たときだけでも、なーんも考えずにバカになったつもりでさ、
「ベットのこと考えてるの?」
「はいっ!!」
…って返事の声だけ威勢よくしておけばいいのよ。

キ:威勢のいい返事だけで、義父母の話は全然気にしてないんでしょ?

師:そう。
「母乳のために、ちゃんとあれ食べてるの?」
「はいっ!! バンバンです!」
…って。

キ:勢いスゴいなぁ……バンバンってなんスか?

師:「〇〇やったほうがいいわよって言ったでしょ!」
「あ〜…忘れてましたっ!! おっぱい飲まれて大変!」

キ:全然、話が噛み合ってない。

師:「母乳と一緒に記憶も流れてっちゃった。アハハハハ〜」って。

キ:孫よりも母親のほうが心配になっちゃいますけど……

師:バカのふりは大事。
お義母さんの言っていることなんて、真に受ける必要なんてないんだから。自分がいいと思ったことだけ聞き入れて。あとは…

キ:バカのふり!

師:おうよ。……だけど幸せだよ、テンパり母ちゃん2号は。核家族だなんだとかさ、虐待がどうのこうのとか言われている時代にだよ、みんなで赤ちゃんを育てようとしているんだから。誰も手をさしのべてくれない状況の母子もいることを考えれば、幸せです。

キ:そうですよね。

師:いっそのこと本気で、義父母も含めて総動員で育ててみるってのもいいかもよ。

キ:総動員!?

師:どうせ子育ての常識なんか、10年後にはまた変わっている可能性だってあるんだから。

キ:時代も変わりますからね。

師:だったら、あなたの家族みんなの意見を出し合って、あなたの家の子育て論を試してみたらいいんだよ。

キ:みんなで?

師:そう。いろいろ試行錯誤してみたらいいんだよ。ちょっと試してみて、違うなと思ったらやめて、また次の方法を試してみて。

キ:なるほど。

師:時代錯誤かもしれないけど、それが最初の子の特権。エピソードづくりだよ。初孫は大人が寄ってたかってかまうものなんだから。

キ:そういうものなんですかね?

師:しょうがないんだよ。初孫はみんなのものだから。

キ:みんなのもの…?

師:落語の中だったら、義父母どころか町内みんなが意見してくるぞ。

キ:それこそ寄ってたかって…。

師:2号はまだ肉親だけだから、マシなほうだよ。

キ:そうですね。町内みんながあーだこーだって言ってきたら収集がつきませんからね。

師:……だけど義父母なんていい加減なもんで、だんだん飽きてくるしな。

キ:飽きてきますか?

師:飽きてくるよ。一人目と比べると二人目以降では明らかに熱量が下がってくる。自分たち親もそうなのかもだけど。

タ:本当にそうですね。うちの長男のときのお宮参りでは、私の母親が抱っこをしてお参りしたんですが…

キ:はい。

タ:うちの親が抱っこしたのは一人目だけ。二人目以降は来もしませんでしたね。一人目で満足して飽きちゃって。

キ:本当に飽きるんだ……

師:親たちが関わるのは自分が興味あるときだけだから。

キ:……

師:開幕戦とか開会式とかしか来ない客っているでしょ? あれと一緒。

キ:初孫だからこそ高成さんの父母は……

タ:来ただけ。……だけど、ヨメさんは今でも悔しがっていますけどね。

キ:な、何をですか?

タ:最初のお宮参りでも私が抱っこしたかったのにって…

キ:ええ〜…今でも!?

タ:昨日も。

キ:そ、そうですか…昨日も……だいぶ根に持ってますね。たしか高成さんの奥さんは子育てが趣味みたいな方でしたもんね。だからこそ開幕戦にしか来ないような人には抱っこさせたくなかったのかな……

タ:父方の祖母が抱っこするのがお宮参りの正式なしきたりではあるんですが、実際には自分で抱っこしているママが多かったし、「しきたりだと言い張って長男の抱っこを私から奪ったんなら、二男以降もやれよな!」…くらいは思っていそうです。

キ:なるほどね〜。
どうでしょう師匠! そこんところは?

師:ふ〜…高成さん。

タ:はい…

師:それもまたエピソード也!

キ:たしかに第三者が聞くと、奥さんの愛情の深さを窺えるいい話ですもんね。

タ:…………

キ:え〜と。奥様にどうぞよろしくお伝えくださいませ。

 

師いわく:
初孫はみんなのもの_修正済み

(師の教えの書き文字/春風亭一之輔 写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

いよいよ書籍化! 『春風亭一之輔 師いわく』好評発売中!

 

《次回更新のお知らせ》
いつもご愛読いただきありがとうございます。さて次回の更新なのですが……諸般の事情により8/21(水)を第51回公開予定日とさせてください。
それまでのあいだを持て余してしまいそうな方は、単行本『師いわく』を御覧いただいたり、「いちのすけえん」をチェックして一之輔師匠の高座に出かけたり、最新刊『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』を御覧いただければ幸いです。
 

プロフィール

一之輔プロフィル写真

春風亭一之輔:落語家

『師いわく』の師。
1978年、千葉県野田市生まれ。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。前座名は「朝左久」。2004年、二ツ目昇進、「一之輔」に改名。2012年、異例の21人抜きで真打昇進。年間900席を超える高座はもちろん、雑誌連載やラジオのパーソナリティーなどさまざまなジャンルで活躍中。
 
 
キッチンプロフィル写真

キッチンミノル:写真家

『師いわく』の聞き手。
1979年、テキサス州フォートワース生まれ。18歳で噺家を志すも挫折。その後、法政大学に入学しカメラ部に入部。卒業後は就職したものの、写真家・杵島隆に褒められて、すっかりその気になり2005年、プロの写真家になる。現在は、雑誌や広告などで人物や料理の撮影を中心に活躍中。

●メール大募集●

『師いわく』では、不惑を迎えた春風亭一之輔師匠に相談したいあなたのお悩みや愚痴をお待ちしています。下記のメールアドレスに、①あなたのお名前(匿名・ハンドルネームOK)②お悩み・愚痴など…を書いてお送りください。③性別④年齢⑤お住まい…なども書いていただくと、師匠も相談にのりやすそうです。採用された方には、春風亭一之輔&キッチンミノルのサイン入り特製クリアファイルを差し上げます!

iwakuichinosuke@shogakukan.co.jp

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