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出口治明の「死ぬまで勉強」 第12回 ゲスト:吉田直紀(宇宙物理学者)「宇宙の謎解きはやめられない!」(前編)

宇宙はビッグバンでできたのではなく、最初に「ゆらぎ」があった。
進化や変化にとって、ゆらぎは大きな要素だ。
生物も宇宙も、ゆらぎから新しいものが生まれてくる。
変化やゆらぎがある多様性のある宇宙だからこそ魅力的なのだ――。
宇宙物理学者の吉田直紀氏と出口治明学長が、ゆらぎと多様性について語り合った!

■宇宙に「ゆらぎ」がなければ、何も始まらなかった(吉田)
■人間は「ゆらぎ=多様性」のある世界にワクワクする(出口)

出口 一般には「宇宙はビッグバンで生まれた」といわれていますよね。その前の状態は、最新の理論ではどのように考えられているのですか。
吉田 時間も空間も含めた宇宙を器のようなものだとすると、ビッグバンの前は器自体がないので、ひとまず「何もない」といえます。ただ、量子論的にいうとちょっと違います。
いきなり量子という言葉を出してしまいましたが、電子やクォークなどの微視的な世界では、それ以上分割できない物理的な限界の単位があって、それを一般に「量子」と呼んでいます。そしてそのような微視的な現象を扱うのが量子力学や量子論です。
量子論でいうと、「何もない」は本当に何もないわけではなく、エネルギーが微妙に生まれたり消えたりして、平均するとゼロになるような状態が宇宙の初期の姿です。これを「真空のゆらぎ」といいますが、そのゆらぎが、なんらかの弾みでバランスを崩して、ポンと宇宙を生み出したというのが最近の考え方です。
「偶然の弾みでできた」というと、荒唐無稽な話に聞こえるかもしれませんね。でも、私たちが観測できるいちばん昔の宇宙を見ると、まさしくゆらゆらとノイズみたいになっていて、観測的な裏付けがないわけではないのです。
最初の星はどのようにできたのかというシミュレーションをしたことがあるのですが、宇宙に存在していた物質を単に並べるだけでは星はできません。物質が集まっているところとほとんどないところという“ムラムラ”――つまりゆらぎがあり、さらに重力として働くダークマターがないと、ひとつの星もできなかったのです。
出口 コンピューター上でゆらぎを入れるとき、実際にはどうするのですか。
吉田 はじめに平均的なのっぺりとした宇宙を考えます。そこにノイズ(雑音)を入れます。あちこちの場所で密度(物質の量)を少しだけ変化させるのです。
こうして作った宇宙を進化させるシミュレーションを100回実行すると、100個の異なる宇宙が出来上がりますね。宇宙は無限に広がっているので、シミュレーションの結果一つひとつはおそらくどこかの宇宙に対応していると考えられます。私たちが観測している宇宙もそのなかのひとつです。
ですから、最初に加える雑音に何か決まった特徴があるわけではなく、本当にアトランダムになる。何かスッキリするのかモヤモヤするのか、よくわからない説明になりましたが(苦笑)。

KRO_0100吉田「進化や変化にとって、ゆらぎは大きな要素です」
出口「やはり人間は、多様性のある世界にワクワクする生きものなのですね」

出口 脳科学者の池谷裕二先生の本に、「人間の脳はゆらぎから生まれる」という趣旨のことが書いてありました。いまのお話を聞いて、宇宙も人間も同じなんだなと思いました。
吉田 進化や変化にとって、ゆらぎは大きな要素です。生物も宇宙も、何か偶発的なものがあって、そこから新しいものが生まれてくるという仕組みで成り立っているのだと思います。
出口 ゆらぎには、何か根源的なものを感じますね。
吉田 整っているところでは、何も起こりません。私からすると、それは美しくない。変化やゆらぎがある多様性のある宇宙だからこそ魅力的なんです。なぜそうしたものに魅かれるのかと聞かれると困ってしまいますが。
出口 天才的な進化生物学者リチャード・ドーキンスが、ロンドンの王立研究所で行った講演をまとめた本『進化とは何か』のなかで、人間がこの世に生まれるということは、「色彩に満ち生命にあふれかえっている素晴らしい惑星で目を覚ます」ことであり、それは「驚くほどラッキーなこと」だと述べています。
やはり人間は、多様性のある世界にワクワクする生きものなのですね。
吉田 そう思います。宇宙はゆらぎから生まれて、人間は宇宙から生まれました。そう考えると、私たちが根本的にゆらぎのあるもの、多様性のあるものをありがたがるのも当然だという気がします。
出口 それに関してうかがいたいのですが、「僕たちはどこからきて、どこへ行くのか」という根源的な問いがあります。地球は星のかけらから生まれて、消滅したらまた星のかけらに戻る。地球で生まれた僕たちも、星のかけらから生まれて、また星のかけらに戻るという理解でいいのですか。
吉田 はい。宇宙では物質がリサイクルされていて、たまたまいまこの瞬間、私たちを構成する物質が人間の体として存在している。宇宙の歴史からすると、本当に一瞬ですけど。
出口 あと10億年くらいすれば太陽が膨張し、おそらく地球上の水分がなくなって地球上の生物は死滅しますね。その前に人類は宇宙に出て他の惑星に移住する、という話もありますが。
吉田 まだずっと先の話なので、数億年かけて新しい環境に適応していくかもしれないし、最終的には物質として宇宙にお返しすることになるかもしれません。「滅びる」というとドキッとしますが、宇宙のどこかで材料として引き継がれて、新しく作り直してもらうと考えれば、むしろ楽しいですよね。
出口 もうひとつ、ミーハーな質問をしてもいいですか。僕たちが星のかけらから生まれたとすると、星のかけらは宇宙にたくさんあるわけですから、宇宙には人類のような知的生命体が他にもいる可能性があります。吉田先生はどう思われますか?
吉田 間違いなくいると思います。宇宙には、だいたい10の23乗個の星があります。それらの星々のほとんどすべてが惑星を持っている。そうすると、生命体がいる確率を小さめに見積もったとしても、いくつかは残る。もちろん知的レベルがどれくらいなのか、コミュニケーションが可能なのかという問題はありますが、それを別にすると、なんらかの生命体が活動していることはほぼ間違いといっていいんじゃないでしょうか。
出口 地球上の生命体はみんな同じ遺伝子構造を持っていますが、ほかの星の生物は違う遺伝子構造を持っていて、生物としての仕組みが根底から違うかもしれない。水ではなく水銀で生命を維持する生物がいたっておかしくないと思うのですが、「いや、水は必要だ」、「アミノ酸は必須だろう」という専門家が多い印象があります。
吉田 まったくそのとおりで、人間が他の生命体について考えるとき、どうしても人間を基準に条件を考えてしまいます。でも、おっしゃるとおり、水ではなく水銀でできている生物がいたっておかしくない。そう考えると、生命体がいる確率はもっと高まりますね。

プロフィール

死ぬまで勉強プロフィール画像

出口治明 (でぐち・はるあき)
1948年、三重県美杉村(現・津市)生まれ。 京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社に入社。企画部などで経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任したのち、同社を退職。 2008年ライフネット生命保険株式会社を開業、代表取締役社長に就任。2012年に上場。2013年に同社代表取締役会長となったのち退任(2017年)。 この間、東京大学総長室アドバイザー(2005年)、早稲田大学大学院講師(2007年)、慶應義塾大学講師(2010年)を務める。 2018年1月、日本初の国際公慕により立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。 著書に、『生命保険入門(新版)』(岩波書店)、『直球勝負の会社』(ダイヤモンド社)、『仕事に効く 教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎)、『本物の思考力』(小学館)、『働き方の教科書』『全世界史 上・下』(新潮社)、『人類5000年史 Ⅰ、Ⅱ』(筑摩書房)、『世界史の10人』、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇』(文藝春秋)などがある。

吉田直紀(よしだ・なおき)
宇宙物理学者。
1973年、千葉県生まれ。東京大学大学院理学系研究科教授 兼 カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。宇宙論と理論天体物理学の研究に従事し、スーパーコンピュータを駆使してダークマターやダークエネルギーの謎に挑んでいる。著書に『宇宙137億年解読』(東京大学出版会)、『ムラムラする宇宙』(学研)、『地球一やさしい宇宙の話』(小学館)などがある。
 
宇宙オビ付き
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388636
 
 
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