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出口治明の「死ぬまで勉強」 第19回 ゲスト:生田幸士(東京大学名誉教授) 「考えるバカが世界を変える」(後編)

生田先生は「バカになること」の重要性を訴える。
「バカになる」とは常識を疑うこと。
物事を鵜呑みにせず、常に疑う気持ちを持ち続けることだ。
そして、ひとつのことに集中できる「変態」と
ゼロベースで考えることのできる「バカ」が
世の中を変えてゆく力を持つ。

 

■生田「10年後に評価される研究をこそ、きちんと評価してあげたい」
■出口「僕も変態が集まる大学にしたいと思っています」

生田 そういうファクトを、マスコミにももっと取り上げてほしいですね。
出口 メディアの勉強不足については、学者の責任も大きいでしょうね。歴史の分野ですが、呉座勇一さんが『陰謀の日本中世史』のなかで、トンデモ歴史本が売れるのは、学者が「それは間違いや」と指摘せずにスルーしてきたからだという趣旨のことを書いていました。
 これは他の分野にもいえることですが、メディアが勉強不足なことを言ったり、フェイクニュースを流したりした場合は、ファクトをよく知っている学者が声をあげなければならないと思います。
生田 なるほど。歴史書といえば、司馬遼太郎、とりわけ『龍馬がゆく』を愛読書にしている経営者が多いようですが……。
出口 司馬遼太郎の本は、ジャンルとしては歴史書ではなくエンターテインメントです。フィクションより史実からのほうが教訓を得やすいと思います。「事実は小説より奇なり」というではありませんか。
 繰り返しになりますが、大切なのは、数字、ファクト、ロジックです。マスコミやビジネスパーソンを含めて、社会にそれらを発信していくのは、まさに大学や学者の役割のひとつだと思います。
生田 責任重大ですね。僕たち理工学系は正しく情報を伝えやすい分野です。でも、だからといってすべてにクリアに発信しているかというと、そうでもない。典型的な例が、福島の原発事故です。
 アカデミズムの世界だけじゃないですよ。海外では映画賞の授賞式でも、俳優や演出家たちが、当たり前のように政治的主張をしたりするのに、日本で政治がらみの発言をすると、すぐに干されてしまう。
出口 そうですね。政治的発言も含めて、もっと自由にいろいろな議論ができる風土をつくらないと、再び日本に陽が昇ることはないでしょう。
生田 真実を自由に言えるだけでなく、真実を言って実際に頑張っている人を積極的に引き上げるような仕組みがないと、日本はますますガラパゴス化して欧米やアジアと戦えなくなるでしょう。
 じつは2018年にIEEE(世界電気電子学会)で、過去30年間に最ものちの研究に影響を与えたMost infruential賞が新設されたのですが、第1回の受賞作に、僕が30年前に書いたヘビ型ロボットの論文が選ばれました。もちろん僕個人としてもうれしいですが、それ以上に、当時まったく評価されなかった論文を、あとからきちんと評価する環境があることに驚きました。
 日本にもこういう環境があれば、ヘタに空気を読まないで、尖った研究をする研究者がもっと増えてくるはずです。そう思って、いま自分の所属学会にも「日本版Most infruential賞」を提案しているところです。

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出口「もっと自由にいろいろな議論ができる風土をつくらないと、再び日本に陽が昇ることはないでしょう」
生田「そして、頑張っている人を評価する仕組みを作らないと、日本はますますガラパゴス化していきます」

 

出口 それ、いいですね。ぜひ作ってください。
生田 ポイントは、最初はマイナス評価だった研究を再評価すること。たとえばiPS細胞のように最初からプラス評価の研究ではなく、最初はマイナス評価でも、10年、20年後にプラスになる研究を対象とします。微分値、つまり最初と数年後の勾配が大きい研究を評価してあげれば、いまくすぶっている野心的な研究者も希望が持てるでしょう。
 現在は起業家、アーティストとして活躍しているチームラボの猪子寿之さんも微分値が大きな例ですね。彼は東大時代は僕の計数工学科に所属していましたが、学校にはあまり来ていなくて、成績もよくなかった。でも、それは自分の好きなこと以外には興味がなかっただけなんですよね。いまは皆さんご存じのように、ベンチャー経営者やアーティストとして大活躍されています。
出口 おもしろいですね。そうなると、教職員にも視野の広さと懐の深さが求められます。目の前の子が、一見ヘンなことを話していても、「10年後に化けるかもしれないぞ」と思えるかどうか。
生田 教職員個人の懐の深さもそうですが、僕は大学のカリキュラムから変えなあかんと思いますね。僕らの時代はカリキュラムの自由度が高くて、必要単位のうち自分の学科は3分の1程度。残りは他の学科で興味のあることを学んでもよかったのですが、いまはカッチリとコース分けされていて、他の分野のことがなかなか学べません。
出口 僕がよくいっているのは、いっそのこと高校や大学は、「偏差値コース」と「変態コース」の2つに分けたらいい、と。変態コースは、好きなことを徹底的にやるコースで、ゲーム好きだったらゲームだけ、読書が好きなら本を読むことだけをやって、好きなことを徹底的に伸ばすコースです。
生田 すごい名前を付けますね。僕は当然、変態コースです(笑)。
出口 じつはすでに僕は、「偏差値に興味がある子どもは東大に任せます。変態コースはみんなAPUが引き受けます」と宣言しています(笑)。もちろん、実際には東大でも猪子さんのようなマインドを持っている人は少なくないと思いますが。
生田 いいですね。偏差値だけを追い求めたい人は、人材スクールとしての旧帝国大学に行っていただき、イノベーションは尖った人たちで進めていく――。それが実現したら、日本も変わるかもしれません。

※猪子寿之
アーティスト集団チームラボ代表。徳島県徳島市出身。東京大学教養学部時代に1年間通ったあと、アメリカに留学。帰国後、東大工学部応用物理・計数工学科に進学して、計数工学科の同級生と共同でチームラボを立ち上げる。四国大学特任教授、大阪芸術大学アートサイエンス学科客員教授も務める。

 

プロフィール

死ぬまで勉強プロフィール画像
出口治明 (でぐち・はるあき)
1948年、三重県美杉村(現・津市)生まれ。 京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社に入社。企画部などで経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任したのち、同社を退職。 2008年ライフネット生命保険株式会社を開業、代表取締役社長に就任。2012年に上場。2013年に同社代表取締役会長となったのち退任(2017年)。 この間、東京大学総長室アドバイザー(2005年)、早稲田大学大学院講師(2007年)、慶應義塾大学講師(2010年)を務める。 2018年1月、日本初の国際公慕により立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。 著書に、『生命保険入門(新版)』(岩波書店)、『直球勝負の会社』(ダイヤモンド社)、『仕事に効く 教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎)、『本物の思考力』(小学館)、『働き方の教科書』『全世界史 上・下』(新潮社)、『人類5000年史 Ⅰ、Ⅱ』(筑摩書房)、『世界史の10人』、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇』(文藝春秋)などがある。

生田幸士(いくた・こうじ)
1953年生まれ。大阪府立住吉高等学校卒、大阪大学工学部金属材料工学科卒業、同大学基礎工学部生物工学科卒業。同大学院博士前期課程修了後、東京工業大学大学院博士後期課程・制御工学専攻修了(工学博士)。
1987年4月より米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校ロボットシステムセンター主任研究員。帰国後、東京大学専任講師、九州工大助教授、名古屋大学大学院教授等を経験し、2010年より東京大学大学院システム情報学専攻教授、先端科学技術研究センター教授。2019年に定年退職し、東大名誉教授、名古屋大学名誉教授。現在も大阪大学にて栄誉教授として最先端研究を継続中。
新概念、新原理の医療用ロボット、医用マイクロマシンを多数開発。数々の賞を受賞しているほか、2010年には紫綬褒章を受けた。
2018年には大学院時代に開発したロボット内視鏡でIEEE ICRA 2018 Award for the Most Influential Paper from 1988を受賞した。
たまご落とし、馬鹿ゼミ、レゴを用いたロボコンなどユニークな創造性教育にも熱心。趣味は、荒唐無稽な空想とウオルト・ディズニー研究。
著書に『世界初をつくり続ける東大教授の「自分の壁」を越える授業』(ダイヤモンド社)、『世界初は「バカ」がつくる!』(さくら舎)などがある。
 
 
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