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【SM小説】美咲凌介の連載掌編「どことなくSM劇場」第16話 隠された遺産――どえむ探偵秋月涼子の首輪プレイ

人気SM作家・美咲凌介による、書き下ろし掌編小説・第16回目は「隠された遺産」、そして衝撃の「首輪プレイ」! 複雑になっていく関係、エスカレートする絡み合い……。後半には息をのむ展開が待っています!

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それから九日後の夜。真琴さんの部屋でのこと。

ベッドに腰かけた真琴さんの足元で、涼子はもう丸裸にされてひざまずいている。これから二人のSM遊びが始まるところなのだ。

「どう? 涼子。例の遺産は見つかった?」

「それが、まだ見つかりませんの」

「期限は明日までだったね」

「そうなんですの、お姉さま。だから、涼子。今とってもあせっているんです。ああ、もうっ。どうしたらいいんでしょう。これまで数々の事件を解決してきた秋月涼子、初めての敗北を喫してしまうかもしれませんわ」

「数々の事件って……そんなもの、あった?」

「あったじゃありませんか。『隠されたイラスト事件』とか『駐車場の謎事件』とか、それに『倉庫でセックス事件』もありましたわ。それに、ほら……『密室で消えたエクレア事件』に『翻った性的同意事件』も!」

「また勝手に変な名前付けて。どれも事件ってほどのものじゃ……」

笑いかけた真琴さんだが、涼子は真剣な顔で――

「どれも難事件でしたわ。それを次々に解決してきた涼子が、今回ばかりは、手も足も出ないなんて。悲しいですわ」

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「そんな涼子を、今夜はわたしが少し励ましてあげられるかもしれない。実は、涼子にプレゼントを用意したんだ」

「まあ、何ですの?」

「喜んでもらえるかどうかわからないけど。気に入らなかったら、素直にそう言ってもいいんだよ。怒らないから」

実際、真琴さんは涼子が喜んでくれるかどうか、少し不安なのである。

「まさか。涼子、お姉さまのくださるものでしたら、どんなものだって……」

「そんな無責任なことをぺらぺらとしゃべってはダメ。とにかく、ほら。自分で開けて中を確かめてごらん」

真琴さんは、用意していた紙袋を涼子に手渡した。

「ああ、ドキドキしますわ」

涼子が袋を開けると、中から出てきたのは――

「あっ。首輪……二つも。赤と黒ですね」

「赤と黒か。スタンダールみたいだな」

「ありがとうございます、お姉さま」

「本当は首輪じゃないけどね、それ。SMグッズでもないんだよ。チョーカーなの。パンク系ファッションって奴? だから、ちょっと無理すれば、街中を出歩くときに嵌めたっていいんだよ」

「じゃあ、お姉さまとデートのとき、これからは涼子、これ嵌めてまいります」

「いや、それはちょっと考えさせて、ね?」

涼子が今手にしているのは、赤と黒、二本の革製の細い首輪だった。いや、正しくは真琴さんの言った通り、チョーカーというべきなのだろうが、実際には首輪と変わらない。真琴さんがネット販売で購入したものである。

「初めはね、本当の犬の首輪にしようかと思ったの。でも、調べてみたら、犬の首輪には蚤取り用の薬剤が塗ってあるから、人間が嵌めると皮膚が荒れちゃうんだって。だから、これにしたんだ」

「あの……嵌めてみていいんですの?」

「わたしが嵌めてあげる。でも、そのままじゃ、まだダメ」

真琴さんは、涼子の手から首輪を二本とも取り上げた。

「どうして?」

「四つん這いにならなくちゃ。そうしたら、嵌めてあげる」

「こう……ですの?」

涼子は、ためらいがちに四つん這いの姿勢をとった。そのまま上目遣いに真琴さんの顔を見上げる。二つの大きな黒い瞳が、もう潤み始めているようだ。

真琴さんは、指で涼子のあごを支え、顔をさらに仰向かせてやる。

「どう? 涼子。どんな気持ち?」

「屈辱的ですわ」

「でも、嬉しい?」

「嬉しい……です」

「いい子ね。どっちの色から、先に嵌めたい?」

「赤を……」

真琴さんは、赤いほうの首輪を涼子に嵌めてやった。ついでに頬をそっと撫でてやる。涼子は、声を出さずに静かに微笑んだ。

「そのまま、じっとしていなさい」

そう言うと真琴さんは立ち上がって、涼子の背後へと移動した。真後ろから涼子の尻を眺めてやろうと思ったのである。ところが――

真琴さんが移動するのに合わせて、涼子は四つん這いのまま身体の向きを変えていくのだ。

「どうした? じっとしていなさいって言ったはずだけど」

「でも、でも……」

涼子は四つん這いのまま、真琴さんの顔を仰ぎ見て――

「お姉さまにお尻を向けるなんて、そんなお行儀の悪いこと、涼子にはできませんわ」

「ふうん」と、真琴さん。

「涼子は、わたしの命令がきけないんだ」

「わかっていますの。お姉さまの命令は絶対で、涼子に拒否する権利なんかないってこと、頭ではよくわかっていますのよ。でも、身体が言うことをきかないんです」

「また、そんな屁理屈を言って」

「屁理屈じゃありません。本当なんです。それに、それにあの……」

「なあに?」

「後ろからお尻をのぞくなんてこと、高貴なSであるお姉さまにはふさわしくない、お下劣な行為だと思います。だから、涼子の身体が言うことをきかないんですわ。涼子、やっぱりお姉さまには、いつでも上品で優雅でいていただきたいんですの」

「いや、わたしはもともと、かなりお下劣な人間なんだけど」

そう言いながら、真琴さんはじりじりと移動した。まだ諦めきれずに、涼子の背後に回ってやろうという魂胆なのだ。だが、涼子もそれにつけて、四つん這いのまま身体の向きを変え、常に顔が真琴さんのほうを向くようにしている。

「いいえ、いいえ。それは、お姉さまが本当のご自分の姿をご存じないからですわ。でも、涼子はよく知っていますの。お姉さまは、這いつくばっているあさましいMのお尻を、後ろからのぞくなんてこと、決してなさらない方です!」

「またそんな勝手なことを言って」

結局、真琴さんはベッドの位置にまで戻ってきてしまった。ちょうど涼子のまわりを一周したことになる。そして、涼子はその間ずっと、太陽の方角に顔を向けるという向日葵のように、真琴さんのほうに顔を向けていたわけである。

どすんとベッドに腰を下ろすと、真琴さんは――

「まあ、いいや。諦めた。奴隷さまには敵わない」

「ごめんなさい、お姉さま」

「涼子。これを見て」

真琴さんは、残っていた黒い首輪を、床に這っている涼子の顔の前に差し出した。

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「これは、その赤い奴と色違いなだけで、デザインはお揃いなんだ。ほら、ここに小さなハートの金具が付いてるだろう? 次はここに鎖を付けようと思ってるんだ」

「素敵ですわ、お姉さま」

「本当は、もっとごつい感じのものが欲しかったんだけどね。ほら、あのポチが嵌めていたような……ポチの首輪は、すごく丈夫そうにできてたよ。それに、金具が埋めてあってさ……その金具に小さなガラス玉が嵌めてあるの。四つも。……あんなのが欲しい気もしたんだけど、でも、あれだと出歩くときには嵌められないし……」

「えっ。ちょっと!」

突然、涼子が大きな声を出した。

「今、ガラス玉っておっしゃいましたね? ガラス玉が、ポチちゃんの首輪に嵌まっていたって、そうおっしゃいましたね」

「うん」

「まあ!」

「ん? どうした?」

「まあ! まあ! まあ!」

「だから、どうした?」

「それに決まってるじゃありませんかっ。もうっ、どうして早くおっしゃってくださらなかったんです? 本当に、お姉さまって……お姉さまって、間抜けですわ!」

間抜け……だと?

強烈な怒りの発作に襲われ、真琴さんは全身をわなわなと震わせた。どう言って叱りつけてやろうか、無数の罵倒の言葉が脳内を駆け巡る。

だが、真琴さんが口を開く前に、涼子は四つん這いのまま、部屋の隅に置いていた自分のバッグのところまで移動していた。異様な素早さだ。もうバッグからスマホを取り出し、電話をかけている。

話を聞いているうちに、例の遺産探しの朝倉さんのところにかけたのだということが、真琴さんにもわかった。

「ええ、そうです。首輪です、ポチちゃんの首輪……たぶん、それですわ。え? 揃いの首輪が? 全部で十本もあるんですか。……はい、明日うかがいます。ええ……」

涼子の声を聞いているうちに――というよりも、その姿を見ているうちに、不思議なことだが真琴さんの怒りの発作は急激に収まってきた。というのは、ほかでもない。涼子は今、全裸で這いつくばったまま、真琴さんに尻を向けて電話をかけているのである。つまり、さっきまで見ようとしてどうしても見ることのできなかった部分が、すっかり露わになっているのだ。

いけないなあ……。

こんなことで怒りが溶けてしまう自分のことを、真琴さんはそう思っている。しかし、どんどん機嫌がよくなってくるのも事実だ。

つまり――わたしはお下劣なんだな。

そして、そんなお下劣な自分を、真琴さんはきわめて肯定的に受け入れてしまうのであった。

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電話を終えた涼子は、また急いで真琴さんの足元まで這ってきた。

「お姉さま? あの隠された遺産って、きっとポチちゃんの首輪ですわ。お姉さまがガラス玉だと思ったものが、たぶん本物の宝石なんです。十中八九、間違いありませんわ。やっぱりお姉さまって、すばらしい慧眼の持ち主ですわねえ。涼子、ますます尊敬してしまいます」

「尊敬はいいけどね、涼子? 涼子はさっき、わたしになんて言ったか、覚えてる?」

「なにか失礼なこと、申し上げてしまったんでしょうか。もしそうだったら涼子……」

本当に覚えていないのか、それとも覚えていない振りをしているのか――。

「間抜け」

「はい?」

「お前はわたしに、間抜けって言ったの。涼子って、ひどいことを言うなあ」

「あの……あの……」

涼子は、いきなり真琴さんの膝のあたりにしがみついてきた。

「お姉さま、ごめんなさい。ね? 涼子、罰を受けますわ。厳しい罰を。さ、お姉さま……」

そのまま真琴さんの膝の上に腹を乗せて

「存分にスパンキングなさって。いつもより、ずっと強くてもかまいませんことよ」

「そんなふうに、自分の好きな罰ばかりねだって。本当にずるい子だね」

「そのお怒りもこめて、叩いてください。さ、どうぞ」

そう言うと、涼子は小ぶりの白い尻を、小刻みに左右に振った。それがあんまり可愛らしいので、真琴さんは思わず吹き出してしまった。

「よし。じゃあ、いつもより強く叩くからね。数は自分で数えなさい。ただし、あんまり大きな声を出しちゃダメ。はしたないから」

「はい、お姉さま」

真琴さんは、腕を高く振り上げ、てのひらで涼子の尻を打った。皮膚と皮膚とのぶつかる、少し湿った音が響いた。

「あっ。……ひ、ひとつ……」

涼子の声も、湿り始めたようだった。

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涼子の予想通り、犬の首輪に埋め込まれていたのは、宝石だった。まだカットしていないダイヤの原石だったそうである。それが一つの首輪に四つずつ。首輪は計十本あったのだから、ダイヤの数は四十にもなるわけである。(ポチが家にやってきた日を記念日として、その記念日ごとに新しい首輪を嵌めてやることになっていたそうだ。)

蘭子さんの加賀美家に出入りしている宝石屋が、その四十のダイヤの原石を現金化してくれた。しめて一千万円とちょっと。二割が取り分という約束になっていたから、涼子には二百万円以上の金が入ったことになる。

そのうちの半分の百万円と少しを真琴さんに――と涼子が言い出したが、真琴さんは固辞した。最初の一日につきあっただけで、あとは何もしていないのだから、というのが真琴さんの言い分。しかし、本当の理由は、あまりにも多くのエサを涼子から与えられるのが、少しばかり怖くなったということにある。

だが、涼子も譲らない。結局、この件はしばらく保留として、金は涼子が保管しておくということで話がついた。

おそらく、真琴さんが一言いえば、涼子はその百万をすぐに渡してくれるだろう。そう考えるだけで、真琴さんは少し豊かな気分になった。それは、実際に百万円を受け取ってしまうよりも、なんだかずいぶん幸せな境遇であるような気がした。

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◆おまけ 一言後書き◆
今回、またちょっと長くなってしまいました。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。実は、次回はもっと長くなりそうなのです。根気よくおつきあいいただければ幸いです。

2019年1月20日

美咲凌介(みさきりょうすけ)

1961年生まれ。福岡大学人文学部文化学科卒業。在学中、文芸部に所属し、小説や寓話の執筆を始める。1998年に「第四回フランス書院文庫新人賞」受賞。SMを題材とした代表作に『美少女とM奴隷女教師』『Sの放課後・Mの教室』(フランス書院)など。他に別名義で教育関連書、エッセイ集、寓話集など著書多数。

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