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【SM小説】美咲凌介の連載掌編「どことなくSM劇場」第17話 呪いの万年筆事件――どえむ探偵秋月涼子の屈辱

人気SM作家・美咲凌介による、書き下ろし掌編小説・第17回目は「呪いの万年筆事件」。「事件」という響きが、想像力を掻き立てます! そして、「どえむ探偵秋月涼子」が味わう屈辱とは……? 万年筆とSMがどのように繋がるのか、ミステリアスな展開に目が離せません!

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「それにしても、どうしてこんなバカバカしい悪戯をしたんだ?」

真琴さんは、少し声を大きくして言った。

「おかげでわたしは、加賀美先輩から、素っ裸にされるところだったんだぞ」

「え? どういうことです?」

和人くんは心底わからないといった表情をした。ということは、あれは蘭子さんのアドリブだったのか。

「若さま、それはあとで、ゆっくりと説明いたします」と、蘭子さん。

「いや、こんなことをしたのには、ちゃんとした理由があるんです」

和人くんは、真面目な顔つきで説明を始めた。

「今ぼくは、今夜の計画とほとんど同じトリックで、『濃夢』に出す短編を書いているんです。ただし、消えるのは呪いの万年筆じゃなくて、ただの宝石なんですけどね。動機は、宝石の所有者が保険金欲しさに、盗まれたことにしたい、でも、宝石自体は手元に残しておきたいって……まあ、そういう筋立てです。それで、このトリックにどのくらい現実味があるかを、確かめてみたかったわけです。今夜の結果から見ると、まあ、なんとかいけそうな感じがしますね。実際に新宮先輩は、だまされたわけですし」

「なんだか、わたしがすごくバカみたいに聞こえるぞ」

「そんなことはありませんわ、お姉さま」

涼子が、すっと真琴さんに身体をすり寄せてきた。

「蘭子先輩が戸棚の扉を閉めてまわっている様子に気づかせてくださったのは、お姉さまですもの。お姉さまのお力がなかったら、さすがの涼子にだって、謎は解けなかったかもしれませんわ」

自分で自分のことを「さすがの涼子」とは、今夜の涼子は、いつにも増して調子に乗っている――そんなことを思いながらも、ぴたりと身を寄せてくる可愛さに、真琴さんの機嫌もそんなには悪くならない。

「それにもう一つ、探偵がどうやってトリックに気づくか、その辺りをなるべくリアルに知りたかったんです。蘭子さんのミスと、涼子ちゃんの名推理のおかけで、それも解決できたし……いい作品ができるかも、です」

「そうでしょう、そうでしょう」

涼子がうれしそうに、何度もうなずいた。

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その夜遅く――寝入る直前に、真琴さんと涼子は、こんな会話を交わした。

「涼子、今夜はSMなんてしなかったのに、推理がすばらしくよく働いたじゃないか」

「まあ、なにをおっしゃいますの? お姉さま。今夜の体験は、涼子にとってはSMもSM、紛れもない強烈なSM体験でしたわ」

「どうして?」

「だって、Mの涼子にとって、屈辱を感じることは、まさにSMそのものの体験ですもの」

「でも、屈辱を感じさせられそうになったのは、わたしのほうだぞ。裸で土下座なんて、加賀美先輩も激しいよね。今、考えるとすごくバカげてるけど、あのときはうっかり釣られそうになった」

「蘭子先輩って、そういう意味では、とっても危険な人なんですの。人を暗示にかけるのが、すごくお上手なんです」

「うん。危ないところだった。でも、涼子には、なにもなかったじゃないか」

「とんでもない。涼子のご主人様であるお姉さまが辱められるということは、涼子にとっては、直接自分が辱められるよりも、ずっとずっと強い屈辱ですわ。ですから涼子、今夜は本当に気が気じゃありませんでした」

「だから、あんなに引き分け、引き分けって、叫んでたのか」

「ええ。あのとき涼子、本当に強い葛藤を感じましたの。なぜって、Mにとって屈辱感は快感の一種でしょう? ですからこのままお姉さまが裸にされて、ぶざまに這いつくばるところを見てみたいっていう気持ちもありましたの。そして、その惨めなお姉さまのお姿を見つめながら、その奴隷である涼子は、もっともっと惨めな存在なんだって、そんな卑しい快楽に溺れてしまいそうでしたの。でも……でも……高貴なSであるお姉さまに、そんな真似だけはさせてはいけない。それだけは許してはいけない。その気持ちがついに打ち勝って、涼子をあの行動へと駆り立ててくれたんです」

「ということは、ちょっと間違えたら、わたしのぶざまな姿から、涼子は性的な満足を得ることにもなったってわけね」

「ですから、そんな葛藤はありましたけど、最後にはお姉さまのために……」

「うん。今夜のことは、それでいいよ? でも、この先、どう転ぶかわからないってことだよね」

「いいえ、いいえ。涼子、お姉さまのことを裏切るなんて、そんなこと決してありませんことよ」

「でも、念のため、例の書きかけの奴隷契約書に、こう書き加えることにしたら?」

「どんなふうに?」

「そうだなあ。Mは、たとえどんな強い快楽が期待される状況においても、主人であるSに屈辱的な振る舞いをさせるがごとき行為に及んではならない――これで、どう?」

「素晴らしいですわ、お姉さま。さっそくメモをしておきましょう。忘れないように」

涼子は、ベッドから起き上がり、バッグの中をごそごそとあさり始めた。

「あら? あたしの万年筆、どこに行ったのかしら」

「もう万年筆探しには、うんざり」

真琴さんは、くぐもった声で言った。そろそろ眠りの穴の縁に滑り込みそうになっていた。

「明日にしなさい」

「はい、お姉さま」

涼子が、またベッドの中に潜り込んできた。真琴さんは、その身体をそっと抱きしめてやった。

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◆おまけ 一言後書き◆
今回は、加賀美蘭子さんと萩原和人くんに、がんばってもらいました。いかがだったでしょうか。次回は、学園祭直前の騒動を題材にしようかと考えています。(あくまで考えているだけで、まだ決めてはいません。)

2020年2月16日

美咲凌介(みさきりょうすけ)

1961年生まれ。福岡大学人文学部文化学科卒業。在学中、文芸部に所属し、小説や寓話の執筆を始める。1998年に「第四回フランス書院文庫新人賞」受賞。SMを題材とした代表作に『美少女とM奴隷女教師』『Sの放課後・Mの教室』(フランス書院)など。他に別名義で教育関連書、エッセイ集、寓話集など著書多数。

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