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【SM小説】美咲凌介の連載掌編「どことなくSM劇場」第49話 むらさき幻想

人気SM作家・美咲凌介による、書き下ろし掌編小説・第49回目は「むらさき幻想」。秋の終わり、三日つづけて夜に投げ込まれる手紙。その手紙は読み終えると消え、手の中には枯れ葉が一枚残るという不思議なものだった。四日目の夜、庭から誰かの歌声が聞こえ、外へ出てみるとむらさきの服を着た少女が庭の片隅に座っていて……。

秋の終わり。君のところに手紙が届く。三日つづけて、夜に誰かが投げこんでいく。君の住んでいる古い一軒家の、錆びたポストに。手紙。

早くあの子を見つけてください。

あの子はもうすぐいなくなる。

読み終えると、手紙はない。どこにもない。枯葉。君の手の中に枯葉が一枚残っている。それは乾いた音をたてる。手紙はもうどこにもない。

夜。四日目の夜。誰かが歌っている。君の家の庭に誰かがいる。歌っている。細い、やわらかな、高い声。歌っている。誰かが。

恋しき人は、そこにあり、そこにあり。あはれ――

なんでふ恋せで、消ゆるべき、消ゆるべき……

歌っている。君は外をのぞく。少女。庭の片隅に座っている。少女が座っている。むらさき。むらさきの服。やわらかな、細い声。歌っている。誰かが、古い言葉で。

いや、もう歌っていない。笑っている。声をたてずに笑っている、少女。あどけない。君は外へ出る。少女はこちらを見ている。

だれ? 答えない。首をかしげて、手に杯をもっている。召しあがれ。なんて言ったの、君は誰? むらさき。ほほえんでいる。召しあがれ。

君は少女の前に座る。お行儀よくしよう。月が見てるから、お行儀よくしようね。君は杯を受けとる。でも杯はない。手にとったのは、杯ではない。草の葉。一枚のほっそりした草の葉。露のしずくがたたえてある、一枚の草の葉。

風。風が吹く。木々がざわめいて、風が吹いている。ざわめく。むらさきの服がひるがえる。ああ、と少女がつぶやく。つぶやいて、もたれかかる。君の肩にもたれかかっている、むらさきの服の少女。君はしずかに抱きとめる。お行儀よくしよう、月が見てる。そっと抱きとめて――

でも、もういない。もう少女はいない。風。むらさきの風が吹いている。枯葉。庭の年老いた木が枯葉を散らしている。何枚も、何枚も枯葉を散らしている。

次の朝。君はその場所に萎れてしまった、名も知らぬ、小さなむらさきの花を見つける。

◆おまけ 一言後書き◆
今回も、なんだかあまりSMでなくて、すみません。あえて言えば、この話を書いていたときの私の気分が少しSだったって感じでしょうか。

2022年10月16日

美咲凌介(みさきりょうすけ)

1961年生まれ。福岡大学人文学部文化学科卒業。在学中、文芸部に所属し、小説や寓話の執筆を始める。1998年に「第四回フランス書院文庫新人賞」受賞。SMを題材とした代表作に『美少女とM奴隷女教師』『Sの放課後・Mの教室』(フランス書院)など。他に別名義で教育関連書、エッセイ集、寓話集など著書多数。

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