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【SM小説】美咲凌介の連載掌編「どことなくSM劇場」第50話 街の名は旅の終わり

人気SM作家・美咲凌介による、書き下ろし掌編小説・第50回目は「街の名は旅の終わり」。街から出る一本の道を西へ進んでいくと存在するという幸福の街。誰も信じていない伝説だが、幸福ではない孤児の少年だけが信じて西へ向かった。さまざまな街を巡り、最後に行き着いた街で道は途切れていて……。

ずっと昔の、どこか遠い国でのこと。

その街には、一つの伝説があった。街から出るただ一本の道を西へ西へ、さらに西へ行くと、幸福の街があるという、それはどこにでもあるような、つまらない伝説だった。だから、信じている人もいなかった。

しかし、ある一人の少年だけが、それを信じた。少年は孤児だった。そして幸福ではなかった。誰も幸福を運んできてくれないならば、自分で探しに行くほかはない。ある朝、少年は旅立った。老いた一匹の犬だけが、彼を見送った。

西へ、西へと少年は歩いた。豊かな街もあった。平和な街も、そして美しい街も。しかし、どこへ行っても人は悲しみ、人は憎み、ねたみがあり、争いがあった。幸福はここにはない。あるとすれば、ただ遠くに。

ある街では、一人の少女が少年を引き留めた。別の街では親切な老夫婦が、少年を引き留めた。また別の街では――

少年は歩き続けた。葡萄酒をつくる街があり、人形をつくる街があった。船を見送る街、そして兵士を見送る街も。

みすぼらしい街だった。あるのはただ幾らかの畑と、どれもが古びた石の建物と――。街のはずれまで少年は歩いた。その先に、もう道はなかった。果てのない荒れ地が広がっているだけだった。

一人のまだ若い男がいた。その周りに、さまざまな格好をした幾つかの石像が立っていた。石像はみな荒れ地を見つめ、男だけが一人、荒れ地に背を向けて少年を見つめていた。

「この街の名は?」

ある予感に襲われて、少年は早口で尋ねた。

「この街の名は、何というのです」

「幸福の街。そしてもう一つの名は、旅の終わり。君の旅もここで終わる」

「噓だ」と、少年は言った。

「ぼくが探していたのは、こんな街じゃない」

「では、どんな街を探していたのかね」

男は、意地悪な口調で言った。

「伝説の街か。そんなものは、どこにもない。あるのは旅の終わりだけだ。ここまでやってきた君には、そんなことはもうとっくにわかっているはず。そうだろう?」

「ぼくはまだ進む」

少年は言った。

「荒れ地を越える」

「荒れ地を越えても――」

男の声が答えた。

「そこにあるのはここと同じ、旅の終わりという名の街だろう。そこでは西から――君とは反対の方角からやってきた旅人たちが、その旅を終える」

「それでもぼくは行く」

しかし、少年はもう歩けなかった。疲れきった足が、薄い胸が、瞬く間に石へと変わっていく。そして、痩せた肩も。二つの眼だけが、最後まで西の果てを見つめていた。

石になった少年を、男はかなしげに眺めた。それから少年の荷物を手に取ると、荒れ地に背を向け、ゆっくりと東へ向かって歩き始めた。

少年は気づかなかったのだろうか――男の顔は、少年とそっくりだった。

◆おまけ 一言後書き◆
今回は記念すべき50回。仮に100回を一つの目標とすると、中間地点。折り返し。その「折り返し」という言葉から、こんな話にしてみました。ところで、来月あたりから「どえむ探偵シリーズ」を再開しようかな、どうしようかな? と迷っています。まだ決めたわけではありませんが、もし再開するとしたら、「怪奇 巨大蜘蛛の恐怖!」(もちろん正式なタイトルは別のものにしますけども)みたいな話にするつもりです。

2022年11月16日

美咲凌介(みさきりょうすけ)

1961年生まれ。福岡大学人文学部文化学科卒業。在学中、文芸部に所属し、小説や寓話の執筆を始める。1998年に「第四回フランス書院文庫新人賞」受賞。SMを題材とした代表作に『美少女とM奴隷女教師』『Sの放課後・Mの教室』(フランス書院)など。他に別名義で教育関連書、エッセイ集、寓話集など著書多数。

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