本との偶然の出会いをWEB上でも

在留外国人への対応のヒントはラグビー日本代表にある……? 連載対談 中島京子の「扉をあけたら」 ゲスト:望月優大(『ニッポン複雑紀行』編集長)

ボーダーレス化が加速する世界の中で、未だに日本は日本人だけの国であるという幻想に固執しているように思えます。在留外国人三百万人時代を迎えた今、日本はどんな国をめざせばいいのか。見えざる移民問題に取り組む望月優大さんといっしょに考えました。

 


連載対談 中島京子の「扉をあけたら」
第三十九回

移民大国日本は
「ONE TEAM」に
なれるのか?

ゲスト  望月優大
(『ニッポン複雑紀行』編集長)


Photograph:Hisaaki Mihara

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望月優大(左)、中島京子(右)

東大大学院、経産省、現在フリーランス

中島 法務省の出入国在留管理庁(入管)が管理する入国者収容所で、在留資格のない外国人たちによる、長期収容に抗議するハンガーストライキが繰り返されています。二〇一九年六月には、長崎県の大村収容所で餓死者まで出たというニュースに接して、まさか二十一世紀の日本でこんなひどいことが起こっているのかと目を疑いました。そして入管問題に詳しい弁護士の指宿(いぶすき)(しょう)(いち)先生にお話を伺いに行った時に、一番いい参考書はなんですかって聞いたら、望月さんの『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書)を薦めてくださったんです。
望月 それはとても(うれ)しいですね。僕も、その本の取材で指宿先生にインタビューさせていただいたんです。
中島 在留外国人への対応は、人権にかかわるデリケートな問題です。『ふたつの日本』は、多くの資料を読み解きエビデンスに基づいた分析がされているので、とても説得力がありました。平成の三十年間というのは在留外国人が急激に増えた期間でした。つまり日本が移民大国になった節目であったと歴史の教科書に書かれるような時代だったんですね。そして、その間どういうふうに社会自体が変わってきたのかの検証がいま求められています。最後に書かれている「これは『彼ら』の話ではない。これは『私たち』の問題である。」この一文には、胸を打たれました。
望月 ありがとうございます。この本の中で「私たち」という言葉はかなり意識的に使いました。最後の一言も、「彼ら」ではなく「私たち」の側の問題だという意味だけでなく、「彼ら」と「私たち」という単純な対比自体を脱しなければいけない、今の日本における「私たち」とはなんなのかという根源的な問いを読者に投げかけたかったんです。
中島 私は、読んだ人の中に何か変化を起こすのが、書物のあるべき姿だと思っています。私にとって『ふたつの日本』はまごうかたなき名著です。
望月 お褒めいただき光栄です。調べれば調べるほど問いの湧いてくる課題です。とにかく自分自身が理解したい、そういうスタンスで書いたのが良かったのかもしれません。
Img_39013中島 プロフィールを拝見すると、東京大学の大学院を修了後に経産省に入省、その後グーグルやスマートニュースといったIT系企業に在籍されています。現在は日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』の編集長。キラキラ輝く経歴と、骨太のいまのお仕事はどうつながっているのかなあと、お会いするのを楽しみにしていたんです。
望月 キャリアについては、よく人に突っ込まれます(笑)。大学院に進んだ時点では、研究職を目指していたんです。一般の企業に就職するつもりはなかった。でも途中でこのままでいいのかなと、ちょっと迷いが出てしまって……。
中島 社会を知らないまま、研究を続けていてもいいのかと悩まれた?
望月 はい。僕はミシェル・フーコーという、フランスの思想家の研究をしていたんです。研究に没頭すればするほど、どんどん社会と(かい)()してしまうような気がして将来について悩みました。
中島 それで経済産業省に!
望月 経済産業省は長く勤めることなく退職してしまいましたが(笑)。()()(きょく)(せつ)、試行錯誤を重ねて、二年前からNPO法人の難民支援協会が運営している『ニッポン複雑紀行』の編集長を任せていただいています。
中島 現在のお仕事のテーマにもなっている、移民問題に興味を持たれた直接のきっかけは何だったんですか?
望月 大学一年生のときに大学のプログラムに参加してフランスのパリに一か月滞在しました。初めての海外です。サッカーのフランス代表を見て様々な人がいる国だとはわかっていたつもりでしたが、実際のパリの姿を見てその多様性に驚きました。僕が行ったのが二〇〇五年でしたが、すでに移民問題は大きく注目され、二〇〇二年には移民排斥を訴える極右政党の党首が大統領選の決選投票まで進出していました。冷戦が終わって世界がひとつになっていくという単純な物語とは違う現実について考えるきっかけになりました。
中島 偶然とは言えないかもしれないけれど、ひとつの旅が望月さんの人生を揺り動かしたんですね。ところで『ふたつの日本』を読んで、統計の数字は見せ方次第で随分印象が変わることに驚きました。日本で暮らす外国籍の人の数は、人口比で二パーセント。そう言われてもピンとこなかったのですが、広島県の人口くらいだと聞くと、すごく多い。OECDの統計で世界七位です。
望月 在留外国人の数は最新の二〇一九年六月末の統計で二百八十三万人ですから、本に書いたデータよりもさらに増えています。日本は世界的にも人口が多く、人口比で見ると少なく感じてしまう。ただ絶対数で見ると、移民が多いEU圏のベルギーやスウェーデンなどよりよほど多い。また、日本国籍を持っているけれど、海外にもルーツのある人もどんどん増えています。現在の日本の国籍法では、お父さんとお母さんのどちらかが日本人だとその子供は日本国籍を取得します。日本の植民地支配を背景に、朝鮮半島や台湾のルーツを持つ「オールドカマー」の子孫で日本国籍を持っている人も大勢います。また、「ニューカマー」の二世代目も私と近い年齢になっています。

 

留学生という名の労働力が輸入された

中島 在留外国人統計によると、一九九〇年代から急激に増え始めて、二〇〇八年に一度減っていますね。
望月 直接の要因は、二〇〇八年のリーマンショック、それから二〇一一年の震災ですね。その後また元の軌道に戻り、さらに増加スピードを増しています。人口の多い団塊の世代が引退し、現役の労働人口が減少する中、政府が女性活躍や高齢者の活躍など「一億総活躍」と言い始めた時期ともぴったり重なっています。
中島 意図的に在留外国人の数を増やしてきたということですか? 
Img_39040望月 どこまで政府の意思が投影されているか確かなことは言えませんが、安い労働力を求める経済界からのニーズがあったことは間違いありません。技能実習生の年数を延長し、留学生でも週二十八時間までなら働いてよい、そういう制度を作ってきました。受け入れの数にも上限が設定されていません。そこに商機を()(いだ)す人材ブローカーも介在して、人々の流入が加速したんです。
中島 そうすると二〇一二年以降に増えたのは、望月さんがよくおっしゃるサイドドアから入ってくる労働力としての人材。つまり、不法滞在、不法就労ではないけれど、留学生だったり、実習生だったり、言葉は悪いけれど、安く使える、ちょっとずるい使い方ができる非正規雇用カテゴリーの人が増えたということなんですね。
望月 ここ数年は特にその傾向が強いことは確かです。留学生に関しても、二〇一九年三月に東京福祉大学の問題が表面化して話題になりましたね。
中島 多くの留学生が所在不明になった事件ですね。
望月 一部ですが、留学生の在留資格が有名無実化して労働が主目的になっている場合がある。学校もビジネスなので、留学生を多数受け入れればそれだけ学費がはいってくる構造に乗っかり、暗黙の連携のような状態になります。しかし、問題の根源は政府が正面から労働者を受け入れる仕組みを用意してこなかったことにありました。
中島 今治のタオル工場でも劣悪な環境下、低賃金で働くベトナム人技能実習生の問題が報道で取り上げられました。日本って、こんなひどい国だったのかと、悲しくなってしまう。でも、一九九〇年以降にきちんとした移民政策が取られていたら全然違う日本になっていたのかもしれないと考えると、政治の責任は大きいと思います。
望月 その通りです。この本を書いたのも、「知らなかった」で済ませるのではなく、まず事実を知ってもらって、その上でどうすべきかを考えてほしかったからです。日本にいる外国人の八割はアジア圏からの人たちです。その次が南米からの人たち。今の状況の根っこには潜在的に彼らを少し上から見るような差別意識があるのではと思います。貧しい国から稼ぎに来ているんだから別にいいでしょう。日本に来たら本国にいるより稼げるんだから、一定の制限があってもいいじゃないか。今のルールを受け入れて自分の意志で来ているのだから、ウィン・ウィンだよね、そういう上から目線が根底にある。
中島 とんちんかんな優越感ですよね。もう日本はアジアの中でも稼げる国じゃなくなってきているでしょう。賃金も香港のほうが遥かに高い。日本はそこまで魅力的な国ではなくなったことに、政府は気づいていないのかも……。
望月 私を含む日本国籍者は日本ではフルスペックの権利を持っています。でも外国籍の人たちはいろんな権利が引き算されている状態になっている。例えば自由に働けるか働けないか、そもそも日本にいられるのは何年なのか。根源的なところでは、再入国の自由も基本的にはありません。原理的には、永住者ですらそうなんです。両親ともに外国籍者の場合は、その子供は外国籍者になります。日本生まれ日本育ちで、日本語ネイティブでもこの国では選挙権を持つことすらできない。
中島 持っている権利に厳然と差異がある。日本は移民国家としてそういう人権問題を抱えているんですね。
望月 極端な話ですが、日本国籍者なら、例えば人を殺しても日本から追放されることはありません。国籍によって保障されている。しかし外国人には在留資格ごとに様々な権利の制限があるんです。そして、それが最も強烈に現れる例が、冒頭に中島さんがお話しになった入管施設での上限のない長期収容の問題だと思います。
Img_39003中島 拘束されているのは在留資格がなく強制退去命令を受けたけれど、それに従わない人たちです。すごく多くいるのかと思ったら、退去命令を受けた人たちの九割は帰国している。ほとんどの人が帰るのに帰らない人が一割ほどいる。その人たちは刑務所みたいなところに入れられて、人権を最大限に制限されている状態に耐えている。それはなぜなのか。ちょっと想像すれば、よほど帰れない理由があるんだろうってわかります。
望月 そんなところで何年も拘束されることと釣り合うことってなんなんだろうと考えてみてほしい。ひとつは日本に長く暮らしていて家族がいる、子供もいる、そういう生活の現実です。それから難民申請が認定されない人たちもいます。母国に帰ると命が脅かされる危険のある人もいる。だから()(こく)な収容に耐えてでも、帰国するという選択肢を選べません。在留資格のない外国人は減少傾向にあったのですが、最近は技能実習生で運悪くブラックな職場に当たってしまい逃げ出さざるを得ないケースも増えています。来日前に多額の借金を負っているために簡単に帰るわけにいかない場合も多いです。
中島 難民は保護されるべきだし、それ以外の人たちも、多くは、労働力として国が一度迎え入れたんだという事実を忘れてはいけませんよね。
望月 かつてはビザのない労働者も警察が黙認していました。それを今になって、不法滞在しているあなたが悪い、というのはあまりにひどい話だと思います。
中島 残酷の上塗りをするかのように、入管法をまた変えようという動きがあるそうですね。
望月 長期収容が問題視されたことを受け、罰則を科すとか、本国への送還を強化する方向での検討が進められているようです。専門部会も立ち上がっています。在留資格を付与する在留特別許可を強化する方向で解決すべきなのに真逆です。
中島 かつては家族のある人や母国に帰れない理由のある人に、人道的措置としての在留特別許可がもっと多く出されていたのですよね。
望月 なぜ自民党政権、保守政権が外国人の受け入れを促進しているのかという問いと向き合うことが重要です。素朴に考えればリベラル政党が外国人受け入れを積極化して、保守政党が排除するというのが、理にかなっているように感じます。ところが日本では、保守政権下で外国人の受け入れが活発化した。
中島 わかりました。経済界からの要請があるから、労働力を入れなければならない。でも保守のメンタリティーとしては絶対入れたくない。その自己矛盾を、実習生などの低賃金労働や、入管収容者の管理強化というパフォーマンスで埋めようとしているんですね。
望月 だから、移民政策にはホームレス対策などとも通じる側面があります。上野公園などからホームレスを強制排除するように、「私たちは危険な人々を取り締まることができる」という演出をするためにビザのない外国人がターゲットになっています。

 

出生地主義と複数国籍を認めることから始めよう

中島 望月さんが編集長をなさっているウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』を拝読していると、これまで長い期間外国人を受け入れてきた地方自治体のほうがいろんな取り組みをされていて、希望が見えてきます。国の政策には、いまのところ期待できませんが。
望月 いろんな地域で素晴らしい取り組みがされています。ここからさらにブレークスルーしていくためには、排除するのは論外として、マイノリティーや権利が制限された人たちを優しく守ってあげようという姿勢だけでは、絶対うまくいかないと思うんです。
中島 どういうことですか?
Img_39063望月 神戸にKFC(神戸定住外国人支援センター)という団体があり、そこを運営されている(キム)(ソン)(ギル)さんという在日コリアンの方のお話を伺いました。金さんはこうおっしゃった、多文化共生なんとか会議の席になぜ日本人だけしかいないのか、そういうことがほとんどのところで進んでいると。それは女性についての会議を男性ばっかりでやっているのと同じですよね。つまり、支援の対象としてのみ見るのでは限界があるということです。リーダーになっていくこと、それを邪魔する意識や制度を変える必要があります。その上で、いろんなバックグラウンドを持っている人たちが一緒に働いたり、同じ地域に暮らしていれば、衝突も当然起こる。日本人がよく自慢する「あうんの呼吸」で伝わるというのはとても素晴らしいことだ、と皮肉たっぷりにおっしゃった。
中島 金さんの指摘は当を得ています。内向きの日本人が一番苦手としていることかもしれないですね。
望月 様々な人が同じ場所で暮らしていく。そのとき既存の文化に染め上げることを前提とせずに「多文化共生」を考えられるか、そういう本質的な問いだと思います。
中島 日本は、ジェンダー格差のランキングが先進国で最下位。男女差別さえなくならない国に、多文化共生は険しい道かも。これまでたくさんの在留外国人の方々を取材されてきた望月さんにぜひお聞きしたいのですが、現在の移民問題に対して、どんな解決法があるとお考えですか。
望月 根源的には国籍法を変えたほうがいいと思っています。血統主義を出生地主義に転換し、親の国籍にかかわらず日本で生まれたら日本国籍を取れるようにする。それから複数国籍OKへの転換も重要です。プロテニスプレーヤーの大坂なおみさんが二十二歳になるタイミングでも話題になりましたよね。たとえ、片方の親が日本人であっても、今のルールは子供たちに居心地の悪い状況を作り出しています。
中島 日本は二重国籍を認めていないから。 
望月 多くの先進国では複数国籍を認める流れがあり、認めていない日本のほうがマイノリティーだと知るべきです。だってこれだけ人が動いているんだから、もうしょうがない。デメリットも意外と小さいので認めるべきだと思います。
中島 昨年の流行語大賞にも選ばれた「ONE TEAM」は、考えさせられる言葉でした。ラグビーのワールドカップで大活躍した日本代表チームのスローガンですが、日本の選手も外国出身の選手もみんなひとつで日本代表。ラグビーでは、政治家たちも桜のユニフォームを着て大はしゃぎしていたのに、いざ国の制度となると「移民」という言葉ひとつ認めようとしないっていうのは、時代の流れをわかっていないと思います。
望月 国のメンバーシップを考えるときには、三種類の基準しかないと思うんです。「血」か、「生まれた場所」か、「住んでいる場所」か。ラグビーの代表制度のように、居住も含めて判断するという考え方もあり得るわけです。誰から生まれたかという血統だけではなく、どこで生まれたか、どこで暮らしているかも「日本人」の基準になり得ます。メンバーシップの基準自体を考え直すことで、日本のあり方について根本的な見直しができるのではないでしょうか。まあ、すごい議論になるとは思いますが。
中島 じゃあ、まずは第一歩として二重国籍をOKに!

 

構成・片原泰志

プロフィール

中島京子(なかじま・きょうこ)

1964年東京都生まれ。1986年東京女子大学文理学部史学科卒業後、出版社勤務を経て独立。1996年にインターンシッププログラムで渡米、翌年帰国し、フリーライターに。2003年に『FUTON』でデビュー。2010年『小さいおうち』で直木賞受賞。2014年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞受賞。2015年『かたづの!』で河合隼雄物語賞、歴史時代作家クラブ作品賞、柴田錬三郎賞を受賞。『長いお別れ』で中央公論文芸賞、翌年、日本医療小説大賞を受賞。最新刊は『キッドの運命』。

望月優大(もちづき・ひろき)

1985年埼玉県生まれ。日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』編集長(運営・認定NPO法人難民支援協会)。東京大学大学院総合文化研究科修士課程(地域文化研究専攻)修了後、経済産業省、グーグル、スマートニュースなどを経て2017年に独立。日本の移民問題を中心に様々な社会問題について取材・発信するかたわら、代表を務める株式会社コモンセンスでは主に非営利団体の情報発信や事業全般の支援にも携わっている。

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豪華執筆陣による小説、詩、エッセイなどの読み物連載に加え、読書案内、小学館の新刊情報も満載。小さな雑誌で驚くほど充実した内容。あなたの好奇心を存分に刺激すること間違いなし。

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