ヤマ王とドヤ王 東京山谷をつくった男たち 第十二回 犯罪者を送り込まれた宿主の苦悩
大阪のあいりん地区、横浜の寿町と並んで、日本の「三大ドヤ街」と呼ばれる東京・山谷。戦後日本の高度経済成長を支えた日雇い労働者たちが住み着いたかつての街は、「ヤマ王」と「ドヤ王」と呼ばれた伝説の男たちがいた。
そんな山谷は現在、コロナ禍の影響で観光客が減少し、生活保護受給者の受け入れを始めた簡易宿泊所が続出した。しかし、とある宿泊所にチェックインした生活保護受給者の中には、犯罪者が紛れ込んでいた。宿主のAさんは思わぬ対応を迫られることに・・・・・・。

かつての宿泊者がテレビ報道に
インターネットでそのテレビ報道を知った時のことを、ある簡易宿泊所の経営者Aさんはこう振り返った。
「逮捕されるべき人間が捕まってホッとしました。もう同じような犯罪者は二度と受け入れたくないですね」
そのニュースがテレビで報じられたのは、2020年10月下旬。
警察官に取り囲まれるようにして映っている前田彰(仮名、51)は、がっちりした体格で、黒いジャンパーを羽織っていた。芸能プロデューサーを装い、「大手事務所に紹介する」などとモデル志望の女性から現金およそ120万円を騙し取った疑いで、警視庁に逮捕された。
前田が犯行に及んだのは同年7月から8月にかけて。被害者は20代だった。SNSのメッセージでその女性に声を掛け、偽名を名乗った上でホテルや路上で複数回会い、現金を受け取っていたという。
この前田が、犯行期間を含む4カ月、Aさんの宿泊所に泊まっていたというのだ。
スカイツリーをのぞむ山谷地域の街並み
山谷地域には現在、簡易宿泊所が約140軒建ち並ぶ。このうち9割は生活保護受給者が対象だが、残り1割は外国人を含む一般の観光客が宿泊可能だ。ところが後者の一部は、新型コロナウイルスの感染拡大による観光客の減少に伴い、生活保護受給者の受け入れに舵を切った。Aさんの簡易宿泊所もその1つだったが、チェックインした生活保護受給者の中に、前田のような犯罪者、あるいは“犯罪者予備軍”が紛れ込んでいたのだ。しかも、それは1人や2人ではなかったという。

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