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人類はAIと共存できるか? 「人工知能」をテーマにした小説4選

スマートスピーカーや自動運転車の登場で、私たちの生活にも少しずつ身近なものとなりつつある“人工知能(AI)”。人工知能は、SF小説の世界では古くから作品の題材にされ続けてきました。今回は、古今東西のSF小説の中から、ぜひ読んでほしい“人工知能”をテーマにした小説を4作品ご紹介します。

人工知能小説

お掃除ロボットや自動運転ができる自動車、飲食店で見かける接客ロボットなど、現代の私たちの生活の中に自然に溶け込みつつある“人工知能(AI)”
近年では、『アイ,ロボット』や『エクス・マキナ』、『her/世界でひとつの彼女』といった映画の世界の中でも、人工知能が頻繁に描かれるようになってきました。

そんな人工知能は、SF小説の世界では古くから題材にされてきたもののひとつ。50年以上前に書かれた“古典的傑作”と言われるような作品の中にも、もちろん現代の作品の中にも、人工知能はしばしば登場します。
今回は、そんな“人工知能”をテーマにした文学作品の中から、選りすぐりの4作品の読みどころをご紹介します。

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意思を持つ“海”と人類との邂逅──『ソラリス』

ソラリス
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4150120005/

『ソラリス』は、SF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表した長編小説です。この作品の舞台となる惑星・ソラリスは、表面を海に覆われた不思議な星。ソラリスの謎を解明するため、多くの研究員たちが惑星上空に浮かぶ“ソラリス・ステーション”に乗り込みますが、研究員たちはみな、ソラリスの“海”が生み出す奇妙な現象によって精神を病んでしまいます。

主人公は、研究員としてソラリス・ステーションに乗り込んだケルビン。他の研究員たちは、ソラリスの“海”には、存在しないはずの人間を出現させる力があると訴えます。ある日、ケルビン自身も、かつて自分のせいで自殺してしまった恋人・ハリーの姿をソラリスで見るのです。

ベッドの向かいでは、半ばカーテンが開いた窓のそばに、赤い太陽の光を浴びて誰かが椅子に座っていた。ハリーだった。白いビーチ・ドレスを着、素足で、足を組んでいる。後ろに撫でつけられた黒っぽい髪、ドレスの薄い生地が張りつめた胸もと。彼女は肘まで日に焼けた腕を下におろし、身動きもしないで黒いまつげの奥から私を見つめていた。私はまったく心安らかに、彼女をじっと見つめていた。

ソラリスの“海”が生み出すハリーのコピーに戸惑い、彼女との交流に自責の念を募らせながらも、ケルビンは“海”の正体を解き明かすために奔走します。
本書は“人工知能”という言葉自体がまだ人口に膾炙していなかった時代に書かれたものでありながら、人間以外の知能(=ソラリスの“海”)と人類は共存することができるのかという究極的な問いに踏み込んだ作品として知られています。人工知能に少しでも関心のある方は必読と言える、100年先にまで残るであろう傑作です。

“冗談”を理解する人工知能が制御する世界──『月は無慈悲な夜の女王』

月は無慈悲な夜の女王
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4150117489/

『月は無慈悲な夜の女王』は、ロバート・A・ハインラインによるSF長編小説です。
舞台は、人類が月世界に住むことが可能になった未来。月世界は地球から派遣された行政府によって管理され、地球の“植民地”と化していました。
月世界は、高性能の人工知能によって管理されています。そこでコンピュータ技師として暮らしていた月世界人のマニーはある日、ひとりの職員の給与の金額が天文学的な数字になっているというエラーの対処を命じられます。マニーはそのエラーと向き合ううち、月世界を管理している人工知能が、そのエラーを“冗談”で意図的に起こしているということに思い至るのです。

「オーケイ。じゃあ、おまえがやったほかの冗談を議論することから始めようか。マイク、おまえはなぜ行政府の給料支払係に、十七級使用人へ十億の千万倍の連邦ドルを支払うようにしたんだ?」
(中略)
やつは上品に答えた。
「あれは十の十六乗プラス一八五・一五連邦ドルでした……あなたの言われたのとは違います」
「え……オーケイ、十億の千万倍プラス、その男が支払われるべき金額だった。なぜだ?」
「おもしろくないですか?」

マニーはこの人工知能にマイクという名前をつけ、交流するようになります。
本書のストーリーは、地球からの搾取に危機感を覚え始めた月世界人が、月を地球の“植民地”から解放すべく革命を起こす……、という壮大な方向に進んでいきます。

しかし、なんと言っても本作を魅力的なものにしている最大の要因は、人工知能・マイクが“ジョークを解す”存在であること。
人間から見るとハラハラするほどにロジカルで、時に空気の読めない発言を繰り返すマイクですが、そんなマイクを中心に進められる月世界の革命運動は、思わず手に汗を握るほどエキサイティング。SFファンはもちろん、エンターテインメント小説が好きな方にもぜひ読んでほしい、古典的傑作です。

人工知能が研究者の彼女に向けて書く“物語”──『あなたのための物語』

あなたのための物語
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/415031036X/

長谷敏司によるSF小説『あなたのための物語』は、西暦2083年の未来を舞台とした作品です。

主人公のサマンサ・ウォーカーは、人工神経の制御言語・ITPを開発し、若くして巨万の富を得た研究者。サマンサの目下の研究は、ITPによって記述される仮想人格“wanna be”に小説の執筆をさせ、そこに創造性が宿るかどうか実験するというものでした。
しかし、研究が順調に進み始めた矢先にサマンサは、自分が不治の免疫疾患に罹っており、寿命があと半年であることを知ってしまいます。それを受けた“wanna be”は徐々に、サマンサに宛てたオリジナルの小説を書き始めるのです。

研究者であるサマンサは、非常に理知的で合理的な性格。死について思いを募らせるたびに、自分には家庭も宗教的な信仰もないことに思い至り、“死に意味はない”と考えていました。
しかし、サマンサだけを愛し奉仕し続ける“wanna be”との交流を通し、しだいに“死”というものの中にかすかな希望が見え始めてきます。なぜ人間には“物語”が必要なのか、そして、人間の生死は他人にとってどんな意味を持つのか──。読み終えたあと、そんなことを何度も考えさせられる傑作です。

彼女が話しかけているのは「平成くん」か、それとも──『平成くん、さようなら』

平成くんさようなら
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4163909230/

『平成くん、さようなら』は、社会学者の古市憲寿による初めての小説です。第160回芥川賞の候補作になったこの作品にも、“AIスピーカー”という形で人工知能が登場します。

この作品の主人公は、論文から小説、映画の脚本までを幅広く手がける新進気鋭の文化人、“平成ひとなりくん”と、そのパートナーの“愛”。平成くんは、平成元年生まれであることやその現代的な暮らしぶりから、平成を象徴する人物としてメディアに取り上げられ続けています。

そんな平成くんがある日、愛に対して“安楽死を考えている”と告げるところから物語は始まります。この作品の舞台となっているパラレルワールドの日本では、安楽死はすでに合法のものとなっているのでした。
平成くんは、とにかく合理的でクールな性格。安楽死をしたいと思った理由を愛に聞かれても、IQは一般的に歳をとるにつれて大きく下がるということ、創作の世界でも独創的なアイデアはアーティストが20代のうちに生まれやすいこと……、といったロジカルな理由を次々と並べ、愛を圧倒させつつも呆れさせます。

平成くんのことを愛している愛と、“平成”という時代の終わりとともに自分から姿を消すことにこだわりを持っている平成くん。平成くんは、自分がこの世からいなくなったあとに愛が寂しくならないよう、AIスピーカーであるグーグルホームを、平成くんの音声を使って彼自身のようにふるまう機械として技術者に改造してもらいます。

「ねえ愛ちゃん、スマートスピーカーだけど、ちょっとアップデートしたんだ」
(中略)
「今までは僕の過去の発言をもとに自動で回答を生成していたけど、場合によってはリアルタイムで応答する機能もつけてみたんだ」
「どういうこと?」
「僕がどこか遠くへ行くとするでしょ。その時に愛ちゃんがスピーカーに話しかけると、世界のどこかにいる僕のところに連絡が来るんだ。だから、そのまま僕が返事をしてもいいし、何も応答しなかったら、今まで通り人工知能が勝手に答えを返してくれる」

愛はこの“アップデート”以降、時々グーグルホームに「ねえ、平成くん」と呼びかけるようになっていきます。
将来、人工知能の技術が高度に発達していくと、もしかしたら私たちは相手が生きている人間かどうかの区別がつかなくなってしまうかもしれない──。“安楽死”問題の是非とともにそんなことを考えさせられる、平成の終わりに読みたい1冊です。

おわりに

人工知能の技術はこれからも発展を続け、いずれ人間の仕事のいくつかは人工知能に取って代わられるだろう──という予測もしばしば耳にする昨今。人工知能に対して“人間の仕事を奪うもの”、“感情を持たない機械”といった捉え方をするのは簡単ですが、文学作品の中には、人間を理解し、共感し、時に凌駕しようとする魅力的な人工知能が多く登場するのも事実です。

平成が終わり新しい時代が始まろうとしている今だからこそ、そんな新しい時代を創るキーのひとつとなるであろう人工知能を入り口に、めくるめくSF小説の扉を開いてみるのもよいかもしれません。

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